離脱後のEUとの貿易システム案のコスト

イギリスの離脱後のEUとの経済関係について、政府には現在二つの案がある。その一つはメイ首相の好む関税パートナーシップ案であり、もう一つは、Max-fac案と呼ばれるテクノロジーを活用した新たな通関システムで、強硬離脱派が支持している。なお、いずれの案にもEU側は消極的である。

これらの案のコスト見通しが明らかになった。歳入関税庁のトップが下院の財務委員会で発言し、関税パートナーシップ案は1年で最大34億ポンドだが、Max-fac案では、税関申告に平均32.5ポンド(約5千円)かかり、それを始めとする様々なコストで、イギリスとEUそれぞれのビジネスに恐らく170から200億ポンド(3兆円)程度かかると見られることがわかった。さらにどのような方式をとっても、新しい制度が完全に運用できるようになるまでにはイギリスの離脱後3年から5年かかるとした。

なお、2016年のイギリスのEUの実質負担金は86億ポンド(1兆2900億円)だった。Max-fac案はこれを大きく超える。イギリスのEU負担金は公費からであり、Max-fac案のコスト見積もりはビジネスのコストであるという違いはあるが、イギリスにとって大きな負担となる。その上、そのテクノロジーがまだ完成しておらず、もしそれが10か月後にせまったEU離脱後の移行期間の終える予定の2020年末までに完成していたとしても、それを導入し、完全に運用できるまでにはかなり時間がかかる。

Max-fac案では、北アイルランドとアイルランド共和国との陸上国境にチェックポイントを設ける必要があるとされており、EUらの求める、自由通行の国境の現状を変えないという要求に合致しないという問題もある。

歳入関税庁の発言でMax-fac案への熱意は大きく減退するのは間違いないと思われるが、それでは関税パートナーシップ案にとは必ずしもならない。この案では、イギリスがイギリス・EU向けのモノの関税を徴収し、EUに送られたものに関しては、EUにその関税を渡す仕組みであり、その運用が難しく、しかもイギリスがEU外の国と自由に貿易関係を結ぶことが難しくなるためだ。これでは、国民投票でEU離脱の意思表示をした国民の期待に応えられないと強硬離脱派は見ている。

このような状況を受け、強硬離脱派がどのような対応をするか注目される。