EU離脱5年後の英国

英国は、2020年1月31日にEUを離脱した。その影響は、どうなっているのか。

これまでのところ経済的には大きなマイナスだと判断されている。また、EU加盟国として、EU内で自由に移動できたのができなくなり、多くの制約があり、不便になっているといえる。EUと英国の間の旅行にも、2025年から新たな手続きが加わる。

世論調査によると、英国のEU離脱が成功だったという人は、1割しかおらず、2016年の離脱か残留かのEU国民投票で離脱に賛成した有権者でもEU離脱が成功だったという人は2割である。一方、失敗だったという人は、6割にのぼる。

2024年7月の総選挙で地滑り的な大勝利を成し遂げ、政権についた労働党は、EU再加入を否定し、また、EU加盟国らとの関税同盟にも参加しないとしている。一方、EUとモロッコなどEU非加盟国を含めた条約(Pan-Euro-Mediterranean Convention (PEM))に加盟する可能性は否定していない。EU側は、若者が一定期間英国で仕事や生活ができる制度を作ろうとしている。英語環境の英国で若者が生活することで、世界言語や文化を学ぶことが将来的に好ましいと考えているようだ。

英国は、移民問題を含めEUと多くの課題で歩調を整えようとしている。EU離脱の後、世界的な地位の低下を少しでも抑えようと努力しているが、トランプ大統領の出方次第では、かなり厳しい立場に立たざるを得ない可能性がある。

英国財政への疑問高まる

英国のインフレが上昇し、経済成長が停滞する中、英国の国債に対する利子が高まっている。国債の利子が上昇すると、英国の借金に対する支払いが増え、財相の想定した限度を上回る可能性があり、そのために現在の財政政策を変える必要が出てくる。財政支出の大きな削減も必要とされる。リーブス財相の企業に対する国民保険賦課の大幅アップが企業の投資意欲を削いでいるとして批判が高いが、それと併せて、財相への圧力が高まっている。

スターマー首相は、リーブス財相は、今国会中(次の総選挙まで)、在任するとした。しかし、2024年7月に政権に就いて半年のスターマー政権の政情には厳しいものがある。直近のYouGovの世論調査では、政党支持率が、労働党26%、リフォームUK党25%、保守党が22%である。労働党への支持が、他の政党に流れている。

実際のところ、14年間の保守党政権の後、NHSをはじめとして大きな問題が残されており、労働党が政権に就けば、英国の問題がすぐに解決するというわけにはいかない。小さな企業ならともかく、政府は巨大なタンカーのようなもので、方向を変えるのにかなりの時間がかかる。その上、スターマー政権は、総選挙対策上、自ら設けた財政ルールなどで、自らの手を縛っている。ただし、もしその財政ルールを変えようとすれば、それはリーブス財相の更迭に結び付く可能性がある。この状況は、大きなタンカーが運河の中を航行しているようなものである。方向を転換するのは簡単ではない。

国際政治的には、アメリカでトランプ大統領が1週間もたたないうちに就任する。トランプ政権下では、関税のアップ、そして物価の上昇などが予想されており、経済状況がどうなるかを含めて国際的に安定するまでには今しばらく時間がかかるだろう。

リーブス財相を批判する声は強いが、かつてメージャー保守党政権で財相(1993年から1997年)だったケネス・クラーク(Kenneth Clarke)は、リーブスの国民保険アップを批判する。しかし、たった半年で好転させるのは無理だとし、2〜3年先によくなっていればよいとする(BBC Radio4の番組PM 36分ごろから)。クラークは、2019年に下院議員を引退し、現在84歳の上院議員。かつてサッチャー政権やキャメロン政権でも閣僚を務めた人物であり、今リーブス財相を更迭するのは愚かだとする。