サッチャー元首相の肖像画

英国首相官邸の中の書斎に掛かっていたマーガレット・サッチャー元首相の肖像画をスターマー首相が他の場所に移したことで議論が持ち上がっている

この肖像画は、2007年に当時の英国首相だった労働党のゴードン・ブラウンが、肖像画家に依頼したものである。ブラウンが本当にサッチャーの称賛者であったかどうかには議論がある。しかし、1983年の総選挙で当選したばかりのブラウンが下院で演説した後、1982年のフォークランド紛争で勝利を収め、総選挙で大勝したサッチャー首相(在任期間1979年から1990年)が、下院の自分の部屋に労働党のブラウンを招いてウィスキー(サッチャーの好きだった飲み物)を飲みながらブラウンとブラウンの演説について話をしたとされる。ブラウンに非常に強い印象を与えたことは間違いないだろう。ブラウンが自分もサッチャーのような信念のある政治家になりたいと思ったことは想像に難くない。ブラウンは、自分が2007年に首相となった後、妻のセーラとともにサッチャーを首相官邸にお茶に招き、その際にサッチャーの肖像画の承諾を取り付けたのである。

ただし、サッチャーは、1984年から1985年の鉱山ストなどを始めとした労働組合弾圧で特に労働党関係者には人気がない。サッチャーが2013年に亡くなった後、サッチャーの棺がロンドン市内を運ばれる際、その経路で棺が運ばれてくるのを待ち、それに背を向けて、サッチャーには敬意を払わないと意思表示した人がかなりいた。

スターマー首相は、昨年、「サッチャーは、私たちの自然な起業家精神を解き放つことで、英国を混迷から救い出そうとした」と言ったように、サッチャーの「使命感」を前向きにとらえているようだ。もちろん、サッチャーが実際にしたことにすべて賛成するわけではなく、労働組合との関係に微妙な問題がある中では、サッチャー崇拝者だと言われることは避けたいだろう。 それでも、サッチャーの肖像画の場所を変えたことはそれほど大きな問題だとは思われない。そういうことは在職中の首相の判断で行うことで何も問題はないように思われる。

この問題で、保守党関係者にスターマー首相を批判する声が強いが、保守党関係者には、サッチャー崇拝者が多い。また、総選挙で歴史的な大敗北を喫した保守党やその支持者らには、スターマー首相のすることのあら捜しをしている面が強いように思われる。

英国の喫煙の問題

スターマー首相が、英国の喫煙対策の強化を図ることを改めて強調した。

英国では、既に公共施設やレストランやパブなどで、禁煙室以外での屋内の喫煙は禁じられているが、その近く、例えばパブの庭での喫煙なども禁ずる方向に向かうようだ飲食業界からは、そのような強化策に反対する声が上がっている

英国では、そのような例として東京の受動喫煙対策が取り上げられている。

なお、日本の喫煙率は、2022年に14.8%(20歳以上)だった。英国の喫煙率は、2022年に12.9%(18歳以上:法定年齢)である。そのうち、英国では、電子タバコの割合が増加しており、8.7%で、そのうち最も高い使用年代は、16歳から24歳であり、2021年の11.1%から2022年の15.5%に増加している。特に16歳から24歳の女性で毎日電子タバコを吸っている人は、2021年の1.9%から2022年の6.7%になっており、早期の対策が望まれている。

先のスナク保守党政権では、その対策を立て、今年2月、法案を議会に提出したが、7月4日に総選挙を実施することとし、下院を解散したために、その法案は廃案になった。スナク政権の法案では、2009年1月以降に生まれた人はタバコを買えなくすることとしたもので、たばこを買える年齢を徐々に引き上げていく方針だった。現スターマー労働党政権は、前政権の対策を引き継ぐとともにさらに強化する構えのようだ。

スターマー首相は、喫煙による肺の病気でなくなる人が年に8万人おり、喫煙が原因で肺の病気になる人たちの治療ケアでNHSへの負担が大きいことを指摘しており、NHSへの負担を軽減することがその目的の一つだ。

スターマー首相は、議論のある問題は、5年の任期のうち早めに対応していく方針で、この問題もその一つのように思われる。