EUを離脱するイギリス

6月23日に行われた、イギリスが欧州連合(EU)に留まるかどうかを決める国民投票で、イギリス国民はEUを離脱することを決めた。投票直前、そして投票中も、残留が優勢だという観測が高まったが、実際に票を開けてみると、離脱派の勢いが上回っていた。結果は、離脱52%、残留48%だった。わずかな差だったが、キャメロン首相は、いずれの結果が出てもそれを尊重すると宣言していた。

この結果を受けてキャメロン首相は、首相を辞任すると発表した。この10月に行われる党大会の前までに後継の保守党党首、そして首相を選ぶことになり、キャメロン首相は、3か月後に退くのである。

EUを離脱する交渉を正式に始めるには、リスボン条約50条により、イギリスがEUに離脱を通知することとなるが、それは、新しい首相によって行われる。すなわち、これから3か月ほどの期間、本格的な離脱交渉を始めるまでの準備作業が進められることとなる。

この結果でイギリスの政治は大きく変わる。首相が変わり、そして政府の目的も変わる。しかもイギリスとEUとの関係、それ以外の国との関係も含めて、新政府の課題は多岐にわたり、しかも膨大なものとなる。これまでEUに頼って進めてきた貿易交渉を自らの手で行う必要があり、政治、戦略的にも本格的な見直しに迫られる。

イギリスが離脱を選択した大きな理由は、EUとの関係や移民の問題を含めて、現在のイギリス政治に不満をいだく国民が、このような包括的な見直しを求めたためではないかと思われる。投票率は72%と、昨年総選挙の66%を大きく上回り、非常に関心の高かった国民投票だった。

投票日の6月23日には、豪雨などのため、各地で洪水が起き、交通網に影響が出るなどの影響があった。一方、開票結果の分かった翌日の24日早朝は、打って変わったいい天気だった。現状維持の「残留」ではなく、新しい未来を意味する「離脱」にはそれなりの魅力があり、「離脱」の結果に、肩が楽になったような気がした人は多かったと思われる。

しかし、このような気分は、1997年にトニー・ブレアが労働党を率いて総選挙で地滑り的大勝利を収めた時のものに似ているのではないか。ブレア政権は、投票日翌日の、素晴らしい五月晴れの日に政権についた。非常に大きな期待を受けて政権についたブレア労働党政権が、それほど振るわなかったような事態が「離脱派」に待ち受けているかもしれない。

新政権の手腕が問われることとなる。新首相の最右翼と目されている前ロンドン市長ボリス・ジョンソン下院議員にどれだけの能力があるか見ものだ。

あと2週間足らずとなったEU国民投票

6月23日にイギリスが欧州連合(EU)を離脱するか残留するかを決める国民投票が行われる。移民(離脱派)か経済(残留派)かの戦いとするメディアが多いが、現在の政治への見方、不満も重なり、有権者の考え方は、そう単純ではない。

この段階では、離脱派に勢いがあるように思える。筆者の知人にも、当初、残留に投票するとしていた人たちが、今では迷っている、もしくは離脱に投票することを考えているという人が何人もいる。

筆者は日本人であり、投票する権利がないが、ある知人に、もし投票できればどちらに投票するかと聞かれ、当初は残留だったが、今では決めかねていると答えた。

確かに、イギリスがEUを離脱すれば、その経済に与える影響は少なくないだろう。残留派のキャメロン首相が、イギリスはEUから離脱しても存続していけるが、経済成長は低下すると発言した。少なくとも短期的なショックはかなり大きいと思われる。しかし、現在のEUにはかなり行き過ぎている面がある。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行の前総裁マービィン・キングが指摘するように統一通貨ユーロが破たんする可能性があり、もしそうなれば、EU自体の存続が問題となるだろう。移民問題などで苦しむEUを無理にまとめようとする努力は不毛かもしれず、将来イギリスが迫られてEUから離れるよりも、この機会にEUの重荷を離れて、独自の立場を確立することにはそれなりの意味があるように思われる。

ただし、イギリスがEUを離脱することとなれば、EU諸国の中に同様の国民投票実施を迫られる国があると見られており、その影響はかなり大きい。また、欧州の経済だけではなく、世界経済に与える影響もあるだろう。

最も新しい世論調査では、残留と離脱が均衡しているが、まだ決めていない人が一つでは11%、もう一つでは13%となっている。しかし、まだ決めていない、もしくは決められない人はもっと多いのではないか。2015年総選挙では、世論調査会社が保守党の過半数の議席獲得を事前に読めなかった。その理由の一つは、どの政党に投票するかを投票所で決めた人がかなりいたためではないかという見方がある。

今回の国民投票では、総選挙のように指標となる前回の選挙がないため、その予測と結果の誤差はかなり大きいと見られている。つまり、世論調査の結果による予測がはずれる可能性が高い。

イギリスの賭け屋は、最近の世論調査などの結果、大きく賭け率を変えている。以前、残留が圧倒的に優勢だったが、離脱に賭ける人が増えており、離脱の賭け率が減っている。今でも残留が強いが、キャメロン首相らは、この展開を心配していると伝えられる。

保守党の内乱のもたらすもの

欧州連合(EU)にイギリスが残留するか離脱するかを決める、6月23日のEU国民投票まで4週間足らず。保守党は、残留派、離脱派で分裂しており、キャンペーンが過熱している。いずれの側も誤解を与えるような主張や誇張が多いと批判され、一種の泥仕合の様相を呈している。

これを見たギリシャの前財相(極左のエコノミスト)が、このEU国民投票は、EU初めてのもので非常に大切なものだが、それが一政党の党内対立で埋没していると批判した。この批判は当たっているように思われる。

ただし、この保守党の党内対立で漁夫の利を得ているのが、テリーザ・メイ内相と労働党のコービン党首のように思われる。まず、ここでは、メイ内相を見てみたい。

女性のメイ内相は、キャメロン首相の後の保守党党首・首相の座を狙っているが、このEU国民投票をめぐる保守党の分裂で、メイ内相の株が大きく上がる可能性がある。

2015年総選挙の前、キャメロン首相が、その次の総選挙では保守党を率いないと発言した。そのため2020年に予定される次期総選挙前の2019年ごろに党首選が行われると見られている。

しかし、国民投票の結果、もしEU離脱ということになれば、残留派のキャメロン首相が退陣するのは確実で、もし残留という結果でも、この国民投票のキャンペーンで大きく分裂した保守党をまとめていくのは容易ではなく、また、キャメロン首相の早期退陣を求める声が強まり、次期党首選が早期に行われる可能性がある。

キャメロン首相は、次期党首に盟友のオズボーン財相を推すが、キャメロン首相が早期退陣に追い込まれると、オズボーン財相の可能性が乏しくなる。一方、離脱派の旗頭の1人となったボリス・ジョンソン下院議員は、もしEU離脱ということになれば、次期党首の座が近づいてくるだろう。もし残留となっても、その差が少なければ、離脱派の多い保守党党員の支持を受けて党首となる可能性があろう。

また、残留が離脱に大差をつけた場合、オズボーンが有利となるが、オズボーン党首ではこのキャンペーンでできたしこりで保守党がまとまりづらい状況が生まれる可能性がある。

キャメロン首相は、自分の跡をつげるのは、オズボーン、ジョンソン、メイだと言ったと伝えられる。メイ内相は、難しい問題が多く、大臣の墓場と言われる内務省の大臣を記録的な6年間務めてきている。その手堅さは有名だ。キャメロン首相やオズボーン財相の推す残留派の立場を取りながらも、この問題であまり目立った活動をしていない。一方、内務省の管轄である警察などに関しては、警官の会に出席して、予想以上に警察の問題を鋭く批判するなど自分の存在を印象づける機会を慎重に選んでいる。

メイ内相は、2014年に保守党員らのインターネットサイト、コンサーバティブホームの大会で、自分の省管轄以外の問題にも触れた演説をし、党首選出馬準備だと批判されたことがある。そのため、かなり慎重に振る舞っている点はあるだろう。

いずれにしても、オズボーンとジョンソンの死闘の中、いずれもが党首となることができず、メイ内相が妥協的候補者として保守党の次期党首・首相となる可能性が高まっているのではないかと思われる。

EU国民投票の予測

6月23日投票の欧州連合(EU)国民投票は、イギリスがEUに残留するか離脱するかを決めるものだ。キャメロン首相らの推す残留派と、同じく保守党の前ロンドン市長ボリス・ジョンソン下院議員らの離脱派が熾烈なキャンペーンを転換している。

結果の予測には、世論調査がカギとなる。世論調査は、2015年総選挙で保守党の過半数を予測できなかったことから、かなり信用を失った。そのため、世論調査の業界団体(British Polling Council⦅BPC⦆)やイギリス選挙研究会(British Election Study⦅BES⦆)らが、なぜ予測できなかったのかを探ってきた。その大きな原因は、サンプルに問題があったと見られている。労働党支持者は世論調査会社が比較的コンタクトを取りやすいのに対し、保守党支持者にはコンタクトが取りにくかったことと、保守党支持者の投票率が高いのに対し、労働党支持者は投票率が低く、労働党支持が過大に評価されたことが大きな原因ではなかったかと見られている。それまででも世論調査会社はそれなりの分析をしてこれらのバイアスを除く努力をしてきたが、それが十分ではなかったようだ。

この調査結果は、現在のEU国民投票の世論調査にも反映されている。ただし、このバイアスの問題が完全に解決されているわけではない。その典型は、オンライン世論調査と電話世論調査の結果が大きく異なっていることだ。オンライン世論調査とは、登録世論調査受託者の中から抽出した人たちに質問票を送って答えを求めるもので、電話世論調査とは、これを電話で行うものである。

なお、EU国民投票に関しては、これまでの傾向としてオンライン調査では残留派と離脱派が拮抗しているが、電話調査では、残留派がかなりリードしている。

5月16日に発表された世論調査会社ICMの結果を見てみよう。ICMは、EU国民投票の支持動向と次期総選挙への政党支持とをオンラインと電話の両方で同時に行った。その結果は以下のようである。

EU国民投票の動向(残留支持か離脱支持か)

  残留 離脱 未定
オンライン 43 47 10
電話 47 39 14

この結果は、極めて興味深い。オンラインでは、離脱派が4ポイントリードしているのに対し、電話調査では残留派が8ポイントリードしている。電話調査では、直接聞かれるので、態度未定者の割合が少ないと言われるが、これでは電話調査の方がオンラインより多くなっている。なお、この調査は、世論調査で時にある異常値であるという疑いがあるかもしれないが、次期総選挙の政党支持から見るとそうでもないようだ。

次期総選挙の政党支持(もし総選挙が明日あればどの政党に投票するか)

  保守党 労働党 自民党 UKIP 緑の党
オンライン 34 32 7 17 4
電話 36 34 7 13 4

これでは、保守党と労働党の支持率の差はいずれも2ポイントである。一般にオンラインではイギリス独立党(UKIP)支持が高いと言われ、その傾向が出ている。UKIPは、イギリスをEUから離脱させることを目的とした政党であり、その支持が高ければ、離脱派が多くなるだろう。

EU国民投票では、労働党支持者の3分の2が残留支持だと言われる。電話調査で、残留支持が離脱派を大きくリードしているのは、応答者の多くがコンタクトの比較的容易な労働党支持者であることが過大に出てきている可能性も否定できない。労働党支持者の投票率は一般に低いが、キャメロン首相は、労働党支持者の投票率を上げようと、労働党支持のタブロイド紙デイリーミラー紙にも寄稿して、残留支持を訴えた。

電話調査の方が、多くの費用がかかり、より正確だと一般に信じられているが、結局のところ、オンライン調査と電話調査の間に落ち着くという見方がある。このオンラインと電話調査の結果の差は、6月23日の国民投票の結果がわかった時点で改めて検討されることになろう。なお、イギリスの大手賭け屋ウィリアムヒルの賭け率は、残留1-4、離脱11-4で、残留が優勢である。

低迷するイギリス政治

現在のイギリス政治は低迷している。キャメロン首相は、2013年1月、欧州連合(EU)残留か離脱かの国民投票を実施する約束をした。そして、2015年の総選挙でキャメロン首相率いる保守党が過半数を獲得した後、その約束に従って、国民投票を6月23日に実施することとした。EU国民投票への離脱派、残留派の対立は深刻化しており、国民投票の結果がどのようになっても、保守党の中に大きな亀裂が入ったことは間違いなく、政権運営に大きな影響をもたらすだろう。

今起きている状況は、まさしく「混乱」とでもいえるものである。国民投票の結果を見るまで投資を控える状況が出てきており、雇用も臨時が中心、国内経済は減速し、製造業では、二期連続でマイナス成長となり、「景気後退」の状態。建設業も減速している。

5月5日の分権議会・地方選挙とも重なり、保守党は労働党よりも多くの議席を失った。この選挙で特に注目されたロンドン市長(日本の東京都知事にあたる)選挙では、当選した労働党候補者がイスラム教徒であったことから、キャメロン首相が、この労働党候補者のイスラム教過激派との関係を示唆し、「『イスラム国』を支援している」イスラム教僧侶との関係を攻撃した。それに怒った当の僧侶にキャメロン首相らが謝罪する事件も起きた。

また、キャメロン首相は、イギリスで行われる腐敗問題対応会議に参加するナイジェリア、アフガニスタンを「素晴らしく腐敗している」と軽率な発言をしたことが明らかになった。首相の存在が益々軽くなっており、EU国民投票に関してキャメロン首相に信を置く有権者が少ない

さらに、十分検討することなく、次々に打ち出した政策のUターンが続いている。子供の難民受け入れ、イングランドの初中等教育の公立学校を地方自治体から文部省管轄に変え、裁量権を増やすアカデミー化、国民保健サービス(NHS)の若手医師契約問題など、絶対に引かないと言っていた問題で立場を変えている

下院で過半数をわずかに上回るだけで、党内からの反対に弱い立場であるだけではなく、上院では過半数を大きく下回っており、上院対策にも苦しんでいる。これが政府の多くのUターンの背後にある。この調子では、キャメロンのUターンに味をしめた保守党下院議員たちが、選挙区を650から600に減らし、選挙区のサイズを均等化する案に反対し、実施できなくさせる可能性があるだろう。これは保守党の党利党略に深く関係し、これが実施されると、保守党の政権維持には有利となるが、下院議員の中には、自分の選挙区が消える、合併させられるなどで選挙区替えを迫られる議員が少なからず出るからである。

キャメロン首相やオズボーン財相は、国の将来を考えて、財政の健全化を含めた政策を進めているとしてきたが、実際には、キャメロン首相らの政府首脳に、政治を通じて実現したい方針、つまりビジョンが明確ではなく、党利党略によるところが大きいことが露呈していると言える。それには、労働党への労働組合からの献金が減る仕組みを作ろうとしたことにも表れている。

さらに2015年の総選挙で、重点選挙区に多くの青年をバスで投入し、その際の宿泊費用などをきちんと選挙委員会に届けていなかった疑いがあり、選挙委員会の度重なる書類要請にも応じず、その結果、選挙委員会が裁判所の提出命令を求める動きもあった。選挙費用の制限には、全国のものと選挙区のものがあり、これらの費用は選挙区の選挙費用として届ける必要があったと見られているが、もしそうならば、選挙区の費用制限が低いために、選挙区費用制限違反の可能性がある。その結果、幾つもの選挙結果が無効となり、補欠選挙が実施されることとなる。これらの選挙区で当選した者には出馬制限が課され、保守党が再び勝つことは容易ではない。過半数をわずかに超えるだけの保守党には、そのイメージへの痛手があるだけではなく、さらに議席が減る可能性が高いため、政権運営に苦しい状況となる。2015年総選挙の選挙費用に関わる問題は、それだけではなく、選挙区に配ったチラシの問題もある。

5月5日のスコットランド分権議会議員選挙で、保守党が大きく議席を伸ばし、労働党を上回る大躍進を遂げたが、これには、スコットランド保守党リーダーの功績が大きい。次期総選挙で保守党にプラスとなるが、キャメロン首相らの功績とは言えないだろう。

このままでは、弱い弱いと言われているコービン労働党に足元をすくわれかねない状況が生まれる可能性も否定できないだろう。残念な政治状況である。政治は、モグラたたきのように、次々に問題が出てくるものだと言えるかもしれないが、迂闊で浅薄なミスが続くのは、その政治的リーダーシップに問題があるからではないか。

5月5日分権議会、地方選挙結果

5月5日、下院の補欠選挙、分権議会選挙(スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)、ロンドン市長選と議会選を含むイングランドでの市長選、地方議会選挙、イングランドとウェールズの警察犯罪コミッショナーの選挙が行われた。まだ開票中のものもあるが、現時点では、2つ指摘できることがあるだろう。コービン労働党の健闘と、スコットランドでコットランド国民党(SNP)がダメージを負ったということである。

まず、これらの選挙で最も注目されていたのは、コービン労働党がどの程度の結果を収めるかであった。コービンは、昨年9月に労働党の党首となって以来、8か月ほどだ。これまで党勢の大きな改善はなかったが、今回の選挙前に、労働党内の反ユダヤ主義の問題がメディアで大きく取り上げられ、コービンの取り組みが遅いと強く批判された。このニュースが連日大きく報道され、労働党は苦しい立場で、かなり深刻なダメージを受け、議席を大きく失う可能性が指摘されていた。しかし、コービンは、それぞれの地元は異なり、大丈夫だと主張した。このコービンの主張は、おおむね裏付けられた形である。

全体的に労働党は得票を減らしており、若干議席を失っているものの、それは大きなものではなく、100から200減の予想は当たらなかった。大幅な議席減の場合、党首コービンの責任を問い、追い落とそうとしていた労働党内のグループは、その理由を失ったと言える。

本来、6月23日に行われる欧州連合(EU)残留/離脱の国民投票で保守党が割れ、キャメロン保守党政権が財政緊縮策を含めた政権運営で批判されており、キャメロン首相自身オフショア資金問題で苦しい立場となった直後であり、労働党は今回の地方選挙で大きな躍進を遂げるべきで、それができないのはおかしいという見方がある。ただし、2010年の総選挙で大きく議席を減らし、さらに2015年に惨敗した労働党の状況を勘案する必要があるだろう。今回焦点の当たったイングランドの地方選挙では、前回の2012年時、キャメロン政権の失政(3月のオムニシャンブルズ予算など)で、労働党が大きく躍進したため、今回は、その揺り戻しがあると見られていた。

また、2010年に労働党は、イングランドで大きく議席を失ったが、2015年に若干回復した。つまり、労働党は回復途上にあると言える。コービンは、自分でも予想外に党首に当選したが、これまでの党首タイプとは異なる。スロースターターで、やっと党首の座に慣れてきたという状況だ。これまで下院議員として自分の選挙区で選挙運動をしてきたが、労働党の最も左派で、党のリーダーたちから無視されており、選挙戦を統括するような立場にはなかった。その状況で、今回の選挙が前回並みの成果となったのは、恐らく、コービンにとっては幸運だったと言えるだろう。

今回の選挙で最も意外だったのは、スコットランドである。2015年5月の総選挙で、スコットランドに割り当てられた59の下院議席のうち、スコットランド国民党(SNP)が56議席を獲得し、しかも今回の分権議会選挙前の世論調査では、SNPがコンスタントに50%以上の支持を集め、議会の129議席で、前回の2011年の69議席からさらに議席を伸ばすと見られていた。ところが、SNPは、過半数の65議席に届かず、63議席に留まった。政権の維持については、友党の緑の党が4議席伸ばして6議席獲得したため、合計69議席となり、特に問題はないと思われるが、SNPの破竹の勢いはストップされた。第2の独立住民投票の動きに大きなダメージとなったといえるだろう。

今回、SNPは、昨年の総選挙の勢いを受け、小選挙区で6議席伸ばし、59議席とした。ところが、比例区で得票を減らし、前回より12議席減の4議席に留まった。なお、スコットランド議会議員選挙は、小選挙区の結果に比例区の結果が連動する形の小選挙区比例代表併用制である。今回のSNPの結果には、緑の党が得票を大きく伸ばしたことと、予想外の躍進を遂げた保守党の影響がある。

保守党の躍進の背後には、スコットランドのリーダーがはっきりと独立住民投票実施反対を唱えたのに対し、労働党のリーダーは煮え切らない態度だったことがある。そのため、反SNP票が保守党に集まった模様だ。スコットランドの労働党は、スコットランドで第3位の勢力となり、党勢がさらに弱まった。

5月5日の選挙

2016年5月5日(木)には、下院の補欠選挙、分権議会選挙、ロンドン市長選と議会選を含むイングランドでの市長選、地方議会選挙、イングランドとウェールズの警察犯罪コミッショナーの選挙が行われる。

下院の補欠選挙は2選挙区で行われるが、いずれも労働党の強い選挙区で、労働党が勝利を収めるのは確実。シェフィールドの選挙区では、2015年5月の総選挙で当選したばかりの議員が亡くなったために行われる。後継者は、亡くなった議員の妻で、地域の議会議員として経験豊富な人物である。また、ウェールズの選挙区では、中央政府の役職も経験した現職の下院議員がウェールズ議会議員に立候補するために辞職し、行われるものである。ちなみにウェールズ議会議員は下院議員と比べると格下で、議員報酬も少ないが、この人物は次期ウェールズ首席大臣のポストを狙っていると憶測されている。これらの補欠選挙は労働党の勝利が確実視されていることから、メディアでは余り注目されていない。管区ごとの警察を監視する40の警察・犯罪コミッショナーの選挙も低調である。

この中で最も注目されているのが、イングランドの地方議会議員選挙で労働党がどの程度の結果を収めるかである。2015年9月に労働党の党首に選ばれたジェレミー・コービンの評価がこれで決まるとの見方もあるが、前回の2012年には、労働党の支持率が保守党よりはるかに高かったため、前回と比較するのは酷だとの見方もある。124の地方議会で、2743議席が争われるが、保守党が30から50程度の議席増を予想されているのに対し、労働党は、100から200議席程度失うと見られている。しかし、コービンは議席が減らないと強気だ。それでも、労働組合最大手のユナイトのトップは、反コービン派の労働党下院議員たちがコービンの立場を弱くしようと画策しているとして名指しで批判するなど反撃に出ている。

労働党下院議員の多くは、キャメロン保守党政権が苦しみ、批判されている時に、労働党がその党勢を改善できないのはおかしいと見ている。保守党は、欧州連合(EU)に残留するか離脱するかの国民投票で分裂しており、キャメロン政権は、タタ製鉄の撤退問題、国民保健サービス(NHS)の財政や若手医師の契約問題、さらには初中等教育の改革などで大きな批判を浴びている。しかし、ユダヤ人差別の問題への対応で、コービンは労働党内外から、特にユダヤ人関係の影響力の強いメディアから強く批判されており、連日のメディア報道からの防戦に躍起になっている状態だ。それでも、選挙結果予測は、主に全国的な世論調査に頼っており、それがどの程度地方議会選挙の結果に反映するかには疑問がある。

スコットランドでは、政権を担当するスコットランド国民党がさらに議席を増やす勢いである。注目は、第2位の座を労働党が守ることができるかどうかだ。ウェールズでは、60議席中30議席を持ち、これまで政権を担当してきた労働党が数議席失う状態だ。ただし、保守党は、タタ製鉄ウェールズ製鉄所の問題で、初期対応を誤り、雇用不安を招いていることからウェールズで批判を浴びており、保守党も議席を減らす見通しである。これらの影で健闘しているのが、地域政党のプライド・カムリとイギリス独立党(UKIP)である。プライド・カムリは、保守党を追い越し、第2位の議席を獲得する構えだ。また、この分権議会の選挙は、小選挙区と比例区のある小選挙区比例代表併用制であり、これまで分権議会で議席を獲得したことのないUKIP(北アイルランドで当選後UKIPに入党した議員はいる)は、比例区で6もしくは7議席を獲得すると見られている。

さらに注目されるロンドン市長選(日本の東京都知事選にあたる)では、労働党のサディキ・カーン下院議員が当選確実な状態だ。カーン議員は、パキスタン移民の子で、イスラム教徒である。

反ユダヤ主義問題とコービン労働党党首

労働党の党首にコービンが2015年9月に就任して以来、8か月近くたつ。コービンは、労働党で最も左と目され、それまで党のリーダーシップから無視されていた。そのコービンが党首選に立候補するのに必要な労働党下院議員35人の推薦(必ずしも支持、投票する必要はない)を受けられたこと自体、驚きであったが、コービンの立候補で、党員や登録サポーターの数が急増し、コービンは地滑り的大勝利を収める。

この結果は、圧倒的多数の労働党所属下院議員の意思に反してだった。つまり、労働党下院議員と党員やサポーターたちとの考え方が全く異なる結果となったのである。これが現在の労働党の問題の底流となっている。

ある新人労働党下院議員が、議員となる前の2014年にイスラエルはアメリカに場所を移すべきだという意見に賛成していたことがわかり、大きな議論となった。この女性議員は、党員資格停止され、取り調べられることとなった。反ユダヤ人の動きが大学生労働党支部や党関係者にあると批判されており、一部の者は労働党を既に除名されている。このような中で、労働党内の反コービン派や保守党の関係者、またメディアらが、地方議員らも含め、労働党関係者のソーシャルメディアなどでの発言を徹底的に調べているようだ。

上記の女性下院議員の問題をきかれた、前ロンドン市長で元労働党下院議員のケン・リビングストンが、これまで労働党内で反ユダヤ主義者は知らないとし、この女性下院議員がやりすぎたと批判しながらも、この女性は反ユダヤ主義者(Anti-Semitist)ではないと主張した。そしてヒトラーが当初シオニズム(Zionism:ユダヤ人国家の建設運動)を支持したが、後に頭がおかしくなり、600万人のユダヤ人を殺害したと発言したのである。

この発言の中で、特にヒトラーがシオニズムを支持したという点が大きな問題となり、反コービン・反リビングストンの労働党下院議員が、リビングストンに面と向かい、ナチス擁護者などと攻撃した。メディアが殺到し、大きな騒動となり、コービンはリビングストンを党員資格停止とし、リビングストンも取り調べられることとなった。

この問題にはいくつかの面がある。

まず、コービンのもともとの考え方である。まず、コービンは、イスラエル政権がパレスチナ人を迫害していると考えている。そしてイスラエル政権を批判し、パレスチナ人の権利を守ろうとしていることである。これは、労働党を含めた多くの左派の人たちの見方だ。これは、反ユダヤ主義ではない。

さらに、コービンはかつての労働党であったような、すぐにメンバーを取り調べ、除名するような体制は好ましくないと考えている。つまり、よほどのことがない限り、このような手段は使いたくないと考えていることだ。そのため、何か問題が出てくると、自分の得心が行くまで決定を待つ傾向がある。

これは、これまでの政党リーダーたちの対処法とはかなり異なる。これまで問題を芽の段階で摘み取ってしまう、もしくは摘み取ろうとする傾向が強かった。既存のリーダーシップの在り方とは異なるため、多くは、コービンはリーダーとしての資格がないと見る。ただし、コービンは、このような批判を無視している。しかし、5月5日の地方分権政府や地方自治体の選挙が控えている中では、放っておけず、行動に出た。特にウェールズでは、メディアの批判の強いコービンに、選挙前にウェールズに来ないでほしいとの依頼があったほどである。

さて、コービンは繰り返し、反ユダヤ主義やいかなる人種差別にも反対すると主張している。しかしながら、反コービン派の人たちは、コービンの対応は遅すぎると批判している。ただし、この批判の背後には幾つかの思惑があるように思われる。

まずは、保守党だ。欧州連合(EU)国民投票で保守党が残留派と離脱派で割れている。そのため、両派のつばぜりあいが続いており、いずれの結果となってもキャメロン首相降板への圧力がかかる状態だ。さらにタタ製鉄の撤退問題対応の不手際、若手医師のストライキなど、政府の統治能力を問う問題が続いている。これらが5月5日の選挙に与える影響を心配し、有権者の視点をコービン労働党の無能ぶりに向けようとしているという要素があるだろう。

また、労働党内の反コービン派は、コービンを党首の座から引き下ろそうとしており、コービンにダメージを与える機会をうかがっている。ただし、実際にコービンを引きずり下ろせるかどうかは否定的な見方が強い。もし党首選が実施されたとしても、コービンが出馬すれば、党員やサポーターの支持は、党首選の際と同じレベルであり、コービンが再び他の候補に圧倒的な差をつけて勝利する可能性が高い。当初、反コービン派は、コービンは自分がリーダーとして不適任であることをすぐに悟って、自ら身を引くと見ていたが、コービンは今でもやる気満々で自分のペースで対応している。

さらにイギリスのメディアへのユダヤ系関係者の影響力が非常に大きい点がある。リビングストンは、反ユダヤ主義を否定するが、一般の人たちにとっては、イスラエル政府の行動への批判と反ユダヤ主義を切り離すことは容易ではない。また、イスラエル政府は、国連らの圧力にもかかわらず、パレスチナ人の国家を認めることに反対している。イスラエル政府の政策や行動への批判は、一般のイギリス在住のユダヤ人にも少なからず影響があるだろう。そのため、ユダヤ系の人たちは強く反応する傾向がある。そしてメディアのコービン労働党への批判は、極めて強いものがある。

リビングストンは、自分の発言は、歴史的な事実に基づくものであり、何ら謝罪する必要がないと主張する。実際、ヒトラーがシオニズムを支持したかどうかについては、少なくとも1933年にヒトラー政権とユダヤ人団体がパレスチナにユダヤ人を移動することで合意した事実がある。リビングストンの発言は一貫しており、かつては大ロンドン議会のリーダー(当時の市長役)を務め、さらに国際都市のロンドン市長を2期8年務めたリビングストンがユダヤ人を含めた人種差別を容認する、もしくは容認したことがあるとは考えにくい。リビングストンは党員資格停止となったが、労働党を除名される可能性は少ないように思われる。

リビングストンとコービンは古くからの友人であり、考え方が近い。リビングストンはコービンから国防関係の諮問委員会の共同委員長にも任じられており、リビングストン攻撃は、実際上、コービン攻撃の要素が強い。

コービンは、この5月5日の選挙で評価される、もしくは評価されるべきで、もし労働党が大きく地方議会で議席を失えば、それは有権者がコービンを不適格だと判断したことだと主張する向きがある。ただし、コービンはそれらの憶測に無関心を装っている。

スコットランドのスタージョン政権の「重荷」

2014年9月に行われたスコットランド独立住民投票で、スコットランドの住民は、55%対45%の割合で独立に反対した。それから1年半たった。当時のスコットランド政府首席大臣のアレックス・サモンドの予定では、独立賛成が多数の場合、スコットランドは2016年3月に独立国となるはずだった。

時間のたつ速さに驚く。6月23日の国民投票でイギリスがもし欧州連合(EU)を離脱することとなれば、2年の移行期間はすぐにたつ。恐らく2年では必要な交渉をまとめるのは極めて難しいだろう。

さて、スコットランドは、この1年半で、経済環境が大きく変わった。住民投票前にサモンド首席大臣は、北海油田からの歳入に財政のかなりを依存できると強調していた。2015年度には75億ポンド(1兆2千億円:£1=160円)の歳入があると見ていた。ところが、世界的な石油のだぶつきで価格が大きく低下し、2015年11月の財政責任局(OBR)の推定では、1億3千万ポンド(200億円)と激減し、実際には3500万ポンド(56億円)であった。

独立国スコットランドの財政状況は極めて厳しいものとなっていただろうという。IFSの分析では、イギリス全体の財政赤字が2.9%と推定されていたのに対し、スコットランドでは、9.4%であっただろうとする。

スコットランドは、少なくとも現在の時点では、独立しなくて幸運であったといえる。

スコットランドの主な政党の第2回目のスコットランド独立投票に対する立場が5月5日に行われるスコットランド議会選挙への選挙マニフェストで明示されているが、労働党、保守党、自民党が反対の立場であるのに対し、政権を担当するスコットランド国民党(SNP)は、大多数のスコットランド住民が独立を求める、もしくは、状況が大きく変化したような場合、例えば、スコットランドの住民がEU残留を求めるのに、イギリスがEU離脱としたような場合に実施するとする。

世論調査によると、2015年5月の総選挙でスコットランドに割り当てられた59議席のうち56議席を獲得したSNPは依然断トツでリードしており、5月5日の選挙で過半数を占め、2007年以来担当している政権をさらに継続するのは間違いない状況だ。

ただし、スコットランドの住民が独立賛成に傾いているかというとそうではなようだ。独立すべきだという割合は、スコットランドの社会動態調査によると、2015年には39%とこれまでで最も高い。しかし、2014年の独立住民投票からの住民の意識の変化を調査した報告によると、イギリス人(British)と感じず、絶対にスコットランド人(Scottish)と感じる人が23%から26%へと微増したものの、スコットランド人・イギリス人と同じように感じる人が32%から36%へと増加、スコットランド人よりもイギリス人と感じる人が5%から6%へ、そしてスコットランド人ではなく、イギリス人と感じる人が6%から8%へと増えている。

この報告では、SNPに支持が集まっている理由は、SNPの経済財政をはじめとする政権運営や、トップ政治家のアピールなどが、スコットランド人としてのアイデンティティの意識より大きいとする。

二コラ・スタージョン首席大臣は、これらの状況の中で、まず、SNP内部の独立熱が行き過ぎないようにしていく必要があろう。既に、今年の夏から独立へのさらなるキャンペーンを実施するとしているが、SNP活動家の時期尚早な独立住民投票を求める声を抑えていく必要があるように思われる。スタージョンは、2回目の住民投票は、スコットランド住民の独立する意思が明確な場合に行うとの態度を明らかにしているが、そのカギとなる政権運営能力を継続して示すことはそう簡単ではないように思われる。スコットランドを取り巻く経済環境は、厳しい。

スコットランドの2015年末までの経済成長率は、その前年と比べて0.9%とイギリス全体の2.1%を大きく下回った。2015年第4四半期の経済成長は、0.2%だった。イギリス全体の0.6%を大きく下回る。

2014年の独立住民投票の際、キャメロン首相や主要政党党首が、スコットランドにさらなる分権を約束した。その結果、スコットランドは、所得税などに対する権限が委譲された。2016年スコットランド法が2016年3月制定されたが、その交渉で最ももめたのが、大きな財政自主権を持つこととなるスコットランドの歳入をいかに守るかという点であった。結局、財政フレームワーク合意で、人口増加率の低いスコットランドへの地方交付金を人口一人当たりの額で保証することとなり、少なくとも5年間は歳入がイギリス全体と比べて大きくマイナスとなるということはなくなった。

それでも、SNPが有権者の信頼を継続して得ていくには、スタージョンが、SNPの独立熱を抑えながら、政権運営で優れた手腕を発揮しているという印象を継続して与えていく必要がある。スタージョンへのプレッシャーは大きい。

90歳を迎えた女王

エリザベス2世は、2016年4月21日に90歳の誕生日を迎えた。その公式な行事は徐々に減らされているが、今もお健やかで、最長の君臨期間(1952年から)を記録している。父親ジョージ6世は次男で、王位継承するとは考えられていなかったが、父親の兄の国王エドワード8世が離婚を2度したアメリカ人女性シンプソン夫人と結婚したいと言い出したために、当時のエスタブリッシュメントらの強い反対を受け退位した。その後を受けて、父が1936年に国王となり、国王の死去で女王となったのである。父が国王となった経緯を通じて、国民の支持を受けなければ、王位、王室の存続は難しいことはよくわかっていると思われる。

ダイアナ妃がパリの交通事故で亡くなった際、国民の中に王室への反感が高まった。ダイアナ妃は女王の長男チャールズ皇太子がカミラ夫人(現在のコーンウォル公爵夫人)と不倫していたために結婚生活が立ち行かなくなった。またダイアナ妃の不倫もあり、二人は離婚する。そのような状況の中で、ヒステリー現象とも言われるほど国民のダイアナ妃への同情が強くなり、反王室感情が高まった。この中、女王は、当時のブレア首相とも相談し、テレビを通じてスピーチし、ダイアナ妃を称え、祖母としてウィリアム王子とハリー王子への気持ちを語り、国民からの花束やメッセージなどに感謝した。その結果、反王室感情は沈静化した。

開かれた王室のイメージを作るために努力し、女王は、自らの日常を公共放送BBCのテレビ番組で公開もした。この番組で印象に残っているのは、国賓をディナーに迎える前に、女王がその部屋と食器の並べ具合、花の飾り方、食事の内容などを自ら出向いて確認し、アドバイスする姿であった。また、タッパーウェアに入ったコーンフレークなどの質素な朝食をとる姿であった。

また、別の機会には、あるクラシックカーのグループが、宮殿を訪れた際のことである。宮殿前の台の上に上がった女王の前をクラシックカーが一台ずつゆっくりと通り過ぎていく。すべての車が走り終えるまでに1時間ほどかかった。それは寒い、雨の中だったが、女王は傘を自らさして台の上で微動だにせず、立っていた姿である。

女王の人気は高く、ある世論調査によると、王室への支持はこれまでになく高い。そして7割の人が、90歳になっても引退すべきではないとする。

この女王には、日本の象徴天皇制と異なり、大権がある。その大権は、首相と内閣のアドバイスを受けて行使されており、特に政治的な論争には介入しないよう留意している。もちろん週に1回首相との面談があり、そこで話されたことは口外されないことになっている。

2010年の総選挙の前、単独過半数を獲得する政党がない可能性が高まり、もしかすると当時のブラウン首相が、女王の大権を使って、再び解散するかもしれないという憶測が高まった。そこで女王が政治闘争に巻き込まれるのを恐れた当時の国家公務員のトップ、ガス・オードンネル卿が、内閣マニュアルを作成し、そのような事態に備えたという逸話がある。

国会開会では、時の政権の政策を読み上げ、また、イギリスの議会政治の中では大きな役割を果たしながら、政治と距離を置くよう留意している。同時に国民の支持を維持するよう努めるなど、女王の仕事はそう簡単ではない。それをうまく務めている女王の働きぶりは、称賛すべきものであるように思われる。