日本の民進党に何が必要か?

森友学園、加計学園問題などで苦しむ安倍政権は支持率を下げているが、野党第一党の民進党は、支持率が上がるどころか逆に下がり、一桁台中ほどで停滞している。東京都議選でも小池都知事率いる東京ファーストが大きく支持を集め、民進党は議席を減らし、党首が辞任する結果となった。

東京ファーストの躍進は、フランスのマクロン新大統領が当選し、その率いる新政党が地滑り的大勝利を収めたことと重なる。すなわち、既成の主要政党に飽き足らない有権者がフレッシュな政治勢力に望みを託したいという思いを反映しているといえる。このような例に刺激されたのか、民進党の主要メンバーが離党して新党を模索する動きに出たが、マクロン大統領の支持率は既に大きく低下しており、このような新政治勢力が支持を持続していくのはそう簡単ではないことを示しているように思われる。

一方、イギリスの総選挙で見られたように、メイ首相の保守党は、地滑り的大勝利を予測されていたにもかかわらず、過半数を割る結果となった。その一方、野党第一党の労働党は、大敗北を予想されていたにもかかわらず、議席を増やし、もし総選挙が近々あれば、さらに議席を増やし、労働党政権が生まれる可能性が高いと見られている。

保守党と労働党はいずれも前回総選挙より大きく票を伸ばし、2党で、前回2015年の総選挙の得票率60%台から80%台に達する状況となった。その一方、地域政党を除いて第3党だった自民党はEUに関する2回目の国民投票を約束して選挙戦を戦ったが、予想に反し、前回総選挙で大きく失った得票をさらに減らした。前回総選挙で13%近い得票のあったイギリス独立党(UKIP)は2%を下回った。UKIPはもともとEU離脱を謳って設立された政党で、有権者の既成の政治に対する不満も吸収してかなり高い得票率を得たが、EU離脱が決まり、さらにUKIPの不満票を惹きつける力が無くなった結果と言える。

イギリスの主要2政党が高い得票率を達成したのは、有権者にはっきりと違う選択肢を提示したことが大きな要因と思われる。両党とも、EU離脱では、2016年国民投票の結果を尊重して離脱するという立場だったが、これからの国の在り方の点では大きく異なった。

前回2015年の総選挙では、キャメロン首相率いる保守党とミリバンド党首率いる労働党の間の政策の差が少なかった。労働党は、一定期間光熱費を凍結するという政策など、保守党から強い批判を浴びた政策を打ち出したが、いずれも緊縮財政の立場では同じような立場をとった。

一方、2017年総選挙では、保守党が緊縮財政の立場を維持し、税政策をあいまいにし(すなわち増税の可能性)、また、既存の便益を減らす立場を取ったのに対し、労働党は基本的に反緊縮財政の立場を取り、通常の公共支出ではない公共投資を大幅に増やし、保守党政権下で、実質ならびに事実上削減された福祉、教育、健康医療などの財源を確保するため、保守党政権下で大幅に下げた法人税を引き上げ、所得税ではトップ5%に増税するなどとした。その政策には大学授業料の無料化も含まれ、大学卒業後5万ポンド(約700万円)以上の借金を抱えると見られる多くの若者の負担を大幅に引き下げるとし、労働党は、「少数ではなく多数のため」に働き、「希望」を提供すると訴えた。つまり、保守党と労働党がはっきりと異なる立場を取ったことが、2党に票が集まった大きな原因と言える。

もちろんこれには、政治的な状況がある。メイ首相への有権者の評価が終盤まで高かったこと、コービン党首への特に若い世代の支持が急伸したこと、さらに労働党の政策への支持が高まったことである。労働党の政策は、強硬左派と目されたコービン党首が長年持ってきた基本的な考え方に基づくもので、それらが、2010年以来の保守党政権下の緊縮財政への不満が顕在化してきた時流に合ったことが背景にある。

さて、日本の民進党の最大の問題は、なぜ自民党ではなく、民進党でなければならないのかという基本的な問いに答えられていないことである。そしてその答えに必要なのは、イギリスの労働党のような将来への具体的なイメージであろう。

イギリスでもそうだが、政治コメンテーターのほとんどは、これまでの政治の動きの延長で将来を予測し、その枠内で行動しようとする。その将来の予測が共有されてくると、一定の範囲から離れられない(英語ではよくHerdingと言うが)という状態に陥る。それが、思考の足かせとなる。これが、ほとんどの世論調査会社がイギリスの2017年総選挙の予測を誤った原因でもある。

政情やタイミングにもよるが、政権政党の過ちを攻撃するだけでは、より多くの有権者の支持を得るのは難しい。さらに、もし民進党が党内で誰もが合意できる政策を打ち出そうとすれば、新しい、魅力のあるものが何も生まれないことになりかねない。むしろ、はっきりしたイメージをもとに、強い方向性を訴えて、その方向に党を引っ張っていくことが必要だろう。つまり、他の人を説得していく過程で、党内に強い求心力を作っていくということである。かつて小泉元首相が自民党の党首に選出された際には「自民党をぶっ壊す」と主張したが、そのような強いものが必要とされるだろう。

なお、今年初めに日本に帰国した際、民主党の蓮舫党首の街頭演説を見る機会があった。その際の印象は、すべてがたるんでいるというものであった。党首のスピーチは地元の状況にマッチしておらず、話が浮ついていた。しかもその前の地元の人のスピーチも準備不足だった。街頭演説の準備作業自体もおぼつかないものだった。

話を聞く人の心をどのようにつかむのか、どのような言葉を頭に入れてほしいのか、また、党や党首に関してどのような印象を与えたいのかというはっきりとした考えなしに、単に「流している」という印象を持った。緊張感のないこの状況では有権者の支持の流れを自分たちの方へ向けることは難しいと感じた。基本的な方向性の見えない状況で、自らに有利な政治状況を作ることのできない五里霧中状態の反映なのだろうと思われた。民進党がこのような閉塞状態を打ち破り、有権者に希望の持てる将来像を示すことが再生への第一歩のように思われる。

現状のままで、小手先だけの政策提示に留まると、支持を失いかけている自民党とともに、有権者の不満に直接さらされ、都民ファーストに見られたように新しい政治勢力に有権者の関心を奪われてしまう可能性があるだろう。

Brexit交渉の本質

通常、外国との関係、特に貿易交渉は、お互いの利益を図り、関税等を低くすることに重点が置かれる。しかし、Brexitの交渉は必ずしもそうではない。イギリスとEUとの交渉では、お互いの関係をより疎遠にし、関税、非関税障壁を上げる方向で動いている。この背景にはイギリス側、EU側双方の思惑がある。

多くのイギリス人には、欧州との関係が行き過ぎているという感覚がある。他のEU加盟国の国民が自由にイギリスに来て生活することができ、それが公共サービスに重荷になっているだけではなく、イギリス国民よりも優先されているという印象がある。また、欧州司法裁判所がイギリスの裁判所の上位にあり、イギリスの主権が失われてきている、EUに多額の負担金を支払っているという不満がある。それらの感覚が昨年のEU国民投票で離脱派が多数となるという結果を招いた。経済的なものだけではなく、政治的、感情的なものを含め、様々な要素が複雑に絡み合っている。それを単に、経済的な面だけで割り切ろうとするのには無理がある。

一方、EUという組織への疑いもある。巨大な官僚組織であり、民主的な吟味の過程を必ずしも経ることなく、EUの判断がそれぞれの加盟国の国民に大きな影響を与えている。確かにEU法令には、労働、環境、消費者の保護など、多くのプラス面があるが、その政策決定に不透明な点がある。秘密裏に進められていたEUとアメリカとの環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉が漏えいされ、ネオリベラル的な規制緩和で、大企業に有利な制度となる可能性があったことが明らかになったが、そのすべてが前向きであるわけではない。

また、産業の国有化や、国からの援助には、一定の制限があり、現在のままでは、例えば、労働党が2017年総選挙マニフェストで謳った、鉄道などの再国有化などの政策が実施できない可能性がある。

フランスのマクロン新大統領の主張しているように、EU改革の話があるが、それが、これからどの程度前進するか、どのような形でまとまるかなど、その行く手がはっきりしていない。EU改革の議論はこれまでにもあったが、その方向性は「さらなる緊密化」であり、イギリス国民にある不満を解決する方向ではなかった。

イギリスはEU離脱の決断をした。国民投票そのものは、諮問的なものであったが、イギリス人の二者択一の政治感覚では、その差が小さくとも、どちらかが勝てば、それに従うのが当然である。それがイギリスの政権交代の本質でもある。議会でも、イギリスのEU離脱作業を開始するリスボン条約50条による通知に保守党、労働党が賛成し、承認された。

先述したように、EU離脱に投票した人たちには、様々な思いがある。これを経済的な、単一市場に残る、もしくは関税同盟に残るかどうかの議論に集約してしまうのには無理があるといえる。むしろ、国民の様々な思いを反映した、イギリス独自のEUとの関係を求めていく方向にはそれなりのメリットがある。この点で、最終的な考え方に差はあるものの、保守党のメイ首相や労働党のコービン党首が求めている方向性は正しいように思われる。

というのは、多くのコメンテーターたちの議論する、単一市場や関税同盟の「選択肢」には多くの問題があり、複雑な国民の気持ちを反映したものとはかなり離れた結果となる可能性が高いためである。

単一市場に残るかどうか?

EUを離脱しながら、EUの単一市場に残る、すなわち、欧州経済地域(EEA)に残るという案がある。この案の問題は、人の移動の自由を含む、いわゆる4つの自由を守る必要があり、しかも、EUの規制下に残る必要があることだ。すなわち、国境のコントロールと主権の回復ができないという問題である。欧州司法裁判所の判断に従う必要があり、しかも巨額の支払い義務が継続する。

例えば、ノルウェーはEU加盟国ではなく、EEAのメンバーとして単一市場にアクセスが許されているが、その人口一人当たりの負担金は、他のEU加盟国の6割余りである。一方、EUの執行機関である欧州委員会の委員の任命権はなく、欧州理事会で意見を述べ、投票する権利はない。欧州司法裁判所への判事の任命権もない。ノルウェーなどのEEA加盟国の人口は少なく、その国民性もイギリスとは大きく異なる。多くのお金を支払いながら、イギリスがEU主要国の座からほとんど影響力のない「属国」となれば、国民は納得しないだろう。

関税同盟はどうか?

関税同盟は、物の関税に関するもので、関税同盟以外の国との関税を統一するものである。ただし、このメンバーはEUの加盟国のみで、これらの国のみが他の国との交渉権を持つ。関税同盟の話で、よくトルコの話が出てくるが、トルコは、EUとの合意に基づく、別の関税同盟のメンバーであり、広い意味で関税同盟のメンバーではあるが、基本的にEU加盟国の関税同盟の決定に対する影響力は乏しく、関税同盟以外の国との交渉権はない。すなわち、それ以外の国との2国間貿易合意はできないこととなる。

さらにイギリスはEUの判断に従わざるを得ず、一方、欧州司法裁判所の判例に従う必要があるが、この裁判所に訴えることはできない。また、EUとアメリカの貿易合意ができれば、それをイギリスも受け入れる必要があるが、それが必ずしもイギリスの利益となるとは限らない。

結局、単一市場も関税同盟の方向も、現在のままでは、イギリス国民がとても受け入れられるものではないと思われる。

経済的な面で、イギリス経済に大きな影響を与えないよう、単一市場や関税同盟のような効果を求めながらも、特定のモデルに拠った方向ではなく、イギリスとEUの双方が受け入れられる、最善の道を求めるという立場にならざるを得ないこととなる。この立場をメイ首相も労働党も取っている。

メイ首相と国の運

トップ政治家にとって最も必要なのは「政治センス」である。これは、政治の状況を読んで、大きく、どういう政治の方向を取るか直感で判断できるとか、人々の気持ちを感じられ、それに対応できるというように、頭よりも心でそれを察知できる能力と言える。メイ首相はそれに欠ける。すなわち、多くの官僚に見られるように、与えられた仕事をきちんとこなす能力があっても、刻一刻変化する状況に対してクリエイティブな行動のできる能力に乏しい。メイは官僚としては優れているかもしれないが、イギリスがEUを離脱するような重大な時に国の舵を取る役割は、荷が重すぎる。メイが力を失い、早晩その地位から去る状況が生まれているのは、イギリスという国に運があることを示しているかもしれない。

イギリスは、1973年以来、過去44年間メンバーだったEUを離れることとなった。イギリスとEUとの関係は、単に全貿易の44%を占めるEUとの貿易関係だけではなく、産業、労働、消費、人権、研究開発、地域開発、セキュリティなどを含め、社会のほとんどすべての分野に及ぶ。EUを離れるにあたり、EU法や規制に関わる19000の法令を見直す必要がある。すなわち、EUを離れることは、イギリス人にとって、非常に大きな変化だ。そしていかにEUと別れるかは、今後のイギリスに大きな影響を与える。

メイ首相は、68日の総選挙で率いる保守党の議席を減らし、第一党の座を維持したものの全650議席のうち318議席と過半数を割った。お粗末な選挙戦を展開したためだ。その後のロンドンの公営住宅グレンフェル火災、10議席を持つ、北アイルランドの統一民主党(DUP)との閣外協力をめぐる協議、さらに、イギリスに住むEU国人のEU離脱後の権利をめぐるイギリスの提案などお粗末な対応が続いている。

メイのお粗末な政権運営

EU離脱交渉は、619日から始まったが、メイが昨年713日に首相となって以来の言動で、EU側(イギリスを除く27か国)の態度を硬化させ、EU側は、その既得権の維持、EUの今後を優先し、容易に譲歩する考えはない。EU側は、EU内のセキュリティなど他の問題の方が大切で、イギリスとのEU離脱交渉は二の次だとする。

メイは総選挙で当初、地滑り的大勝利を予測されながら、それまでの過半数をやや上回る状態から、少数政権となったことから、権威を失った。メイの側近らのスピン(情報、印象操作)で、有権者からの支持率はサッチャーを上回る、戦後最高レベルとなったが、本人の政治センスのなさが曝け出され、支持を失ったのである。

メイは、施政方針である、621日の「女王のスピーチ」で、首相就任以来主張してきた数々の政策を放棄した。保守党が過半数を大きく下回る非公選の上院(執筆時点で807議席のうち254議席)ばかりではなく、下院保守党内での見解の相違から、下院の賛成を得る見込みのないものは放棄せざるを得なくなったためだ。また、EUとの対決的な離脱交渉戦略を改めざるをえなくなった。しかし、メイの施政方針もEU離脱交渉も中途半端でとても維持できるものとは思えない。

メイの政策変更

メイ政権は、3月の予算で、2025年までに財政赤字をなくすとしたが、総選挙後、これまでの緊縮財政を緩和し、国家公務員や看護師らのNHSスタッフの給料も、過去7年間の1%アップ上限を変更し、増やす構えだ。ポンドが下落し、輸入品などの価格が上がり、物価が2.9%上昇する中、ある程度の賃上げが必要となっている。

グレンフェル火災以来、公営住宅をはじめとする、公共建築物の火災対策をめぐる巨額の財政負担が予想され、しかも総選挙マニフェストで挙げていた、高齢者の冬季燃料補助、年金上昇率の計算基準、高齢者ケア費用負担、無料学校給食の変更など数々の財源確保策を実施しないこととしたため、財政が混乱するのは間違いない。

壁にぶち当たるEU離脱交渉

EU離脱交渉は、既に壁にぶち当たっている。イギリスは、既に、EU側の求めた、2段階交渉プロセスに合意した。最初にイギリスのEU離脱交渉で合意し、その後、貿易をはじめとするお互いの将来の関係交渉に入るという段取りである。

第一段階のEU離脱交渉では、①イギリスに住むEU国人の権利、②メンバー国としてイギリスに責任のある、EU側に支払うべき「離婚料」、③アイルランドの北アイルランドと南のアイルランド共和国の国境問題がある。このうち最も容易な問題だと思われた、①イギリスに住むEU国人の権利とEU国に住むイギリス人の権利の問題では、メイが622日のEU首脳会談で提案したが、十分ではないと冷たい反応を受けた。それだけではなく、今後、このようなことは、正式な交渉の場で対応すべきで、重要なサミットで持ち出さないようにという指摘を受けたと言われる。さらには、EU加盟国のリーダーと個別に話をする場合には、離脱交渉に関する話を持ち出さないようにとクギをさされたと言われる。

このイギリスに住むEU国人の権利に関して最も重要な問題は、合意ができても、どのような形でその合意がきちんと実行されるかという点である。EU側は、欧州司法裁判所がその任に当たるべきだとする。メイは、まず、イギリスの裁判所がその任を果たすとする。メイは、これまでにイギリスが主権を取り戻すために欧州司法裁判所の管轄から離れると発言しており、また、保守党内の強硬離脱派への配慮から、欧州司法裁判所は受け入れ難い。一方、将来結ばれるであろう離脱条約で明記されれば、国際司法裁判所で扱える、もしくは、新たに仲裁機関を設けるなどの案もあるが、いずれも現在のところ実現性は乏しい。メイは、基本的に、これまでの発言から強硬離脱的戦略を捨てられない。

スムーズにいかないDUP閣外協力

メイの期待したDUPとの協力関係交渉も壁にぶち当たっている。DUPの要求しているとされる、北アイルランドのNHS(国民保健サービス)へ10億ポンド(1400億円)、さらにインフラ整備などに10億ポンド、計20億ポンド(2800億円)の財政要求は、バーネット・フォーミュラと呼ばれる予算計算方式で、自動的に他の地域、イングランド、スコットランド、ウェールズへの増額を招き、20億ポンドで済まず、総額700億ポンド(49千億円)となるという見方もある。北アイルランドの人口185万人はイギリスの全人口の3%弱であるため、全体額が35倍膨れ上がる可能性がある。財務省らが慎重だとも言われている。

その上、DUPはもともとEU離脱派だが、ソフトなEU離脱を求めている。また、北アイルランドと南のアイルランド共和国との国境は、現在のように、地図上国境はあるが、物理的な国境のない状態を維持したいとしており、メイの強硬離脱的な戦略とどのように折り合えるか疑問がある。

メイの後継首相 

現在のメイは、総選挙直後より強い立場だとする見方もあるが、とてもそのような状況とは言えず、まさしく風前の灯火であり、メイ政権は早晩崩れるだろう。

その後継首相は、もしすぐに総選挙が行われなければ、現離脱相のデービスとなるだろう。

長く筆頭候補だったジョンソン外相は、離脱交渉の終わる2019年前には党首選に出ないと示唆した。EU離脱に当たり、イギリスは何らの支払いをする必要はないどころか、むしろこれまでの貢献分から払い戻しがあるべきだと主張した上、昨年6月のEU国民投票キャンペーン中にEUを離脱すれば、週に35千万ポンド(490億円)をNHSに向けられると主張した。これらの発言と現実の交渉を両立させることは極めて難しい。また、ハモンド財相は、EU残留派だった上、ソフトな離脱を訴えており、党内をまとめることは難しい。

デービスは、離脱派の一人だったが、既に離脱交渉の難しさを十分に理解している。2005年の党首選で勝利するだろうと見られていたが、キャメロンに敗れた。キャメロン党首の下で影の内相となったが、人権問題で自分の考えを貫くために、議員辞職して再び立候補し、当選した人物である。625日のBBCテレビでのインタビューで、イギリス側とEU側が折り合える点を探ると発言したが、現実的な対応をするように思われる。

一方、もし、総選挙があれば、労働党が政権に就き、党首コービンが首相となるだろう。コービンは政治センスが意外に優れていることが明らかになってきている。コービンは、昨年のEU国民投票の前、EU残留を10の内、7もしくは7.5賛成とし、EU残留に100%賛成ではなかった。しかし、EU離脱交渉では、労働党は、合意を必ずするとし、労働者を守るために、貿易関係を重視するとしている。メイと比べて、これまでのお荷物がはるかに少なく、より現実的な交渉ができるだろう。

メイの困難な立場は、多くの国民にEU離脱後の不安を掻き立てており、貿易で現実的な妥協を求めるようになってきている

この状況の中では、メイが首相の座を去ることは、恐らくイギリスにとって望ましいことのように思われる。イギリスがEUから離脱すること自体、長期的に見れば悪いことばかりではないだろう。しかし、その離脱の仕方が大切で、長期的な関係が維持できる、スムーズな離脱となるよう慎重な配慮が必要だ。もしイギリスに運があれば、政治センスのないメイがこの舞台から退場させられることとなるだろうと思われる。

なぜ保守党は総選挙を避けたいのか?

611日、保守党の無役の下院議員の会、1922年委員会のブレイディ会長がテレビに出演し、議員たちには「総選挙に臨みたいという気持ちはない」と発言した。この会は、保守党の党首選挙を運営し、また党首への不信任案を扱うなど非常に重要な役割を果たしている。68日の総選挙の結果が分かった9日には、ブレイディはメイ首相と会談している。

この発言の背後には、総選挙で保守党が13議席減らしたのに対し、前評判を覆して2015年総選挙から30議席を積み増した労働党の現状がある。もし総選挙が行われれば、勢いのある労働党がさらに議席を獲得し、メイ政権ではなく、労働党のコービン政権が誕生するだろうという判断がある。

これには、総選挙後の最初の世論調査が指標となっているように思われる。Servationの政党支持率は以下の通りである。

労働党45%、保守党39%、自民党7%UKIP3%、その他6%

労働党が保守党を6ポイントリードしている。すなわち、労働党がさらに議席を伸ばし、保守党は減らすことを示唆している。

Servationは、今回の総選挙で、多くの世論調査会社が世論の状態を読み誤ったのに対し、最も選挙結果に近かった。実は、2015年総選挙でも世論調査会社がこぞって読み誤った。その中、Servationは、ほとんど正しい結果を出していた。ある新聞社と話をしたそうだが、他の会社のものと比べておかしいとして乗り気ではなく、結局、選挙前発表しなかったという話がある。これらの事実から考えると、Servationのこの選挙後の世論調査はかなり信用できるものだと言えるだろう。

このような政情の中で、前財相のジョージ・オズボーンが、メイ首相は、「死刑囚(Dead Woman Walking)」だと発言した。「死刑を待っている女性」だというのである。総選挙の結果、メイ首相の権威はなくなった。本来なら、党首選挙の話が大きく取り上げられるところである。

611日の日曜紙は、ボリス・ジョンソン外相の出馬の憶測を大きく取り上げたが、ジョンソン本人は、くだらない話だと打ち消した。もちろん、上記のServationの世論調査でもジョンソンが最も有権者の支持を集められる候補だ。しかし、党首選となれば、ハングパーラメントの状態の中で、新しい党首は、総選挙を求められるだろう。その時期ではないという判断から、ジョンソンらは様子を見ており、メイ首相が存命している状況だ。611日に行われた内閣改造では、主要閣僚を異動させることができなかった。多くが、サンデーテレグラフ紙が1面トップで指摘したように、メイは首相だが、権力はなくなったと見ている。

ただし、このようなメイ政権で、果たしてきちんとしたEU離脱交渉ができるかという疑問がある。また、メイ政権が北アイルランドの民主統一党(DUP)の支援で、過半数の数を確保できたとしても、それが何らかの事情で機能しなくなる可能性も無視できないように思われる。労働党は、メイ政権の政策を発表する「女王のスピーチ」で、大規模な修正案を出してメイ政権を揺さぶる構えだ。事態はかなり流動的だと言える。

保守党少数政権の行方

68日のイギリス総選挙の結果、保守党は、前回の2015年総選挙から13議席減らして318議席にとどまり、過半数を獲得できなかった。そこでメイ首相は、10議席を獲得したDUP(北アイルランドの民主統一党)の支持を閣外協力で得、少数政権を運営していくこととした。この合意で本当にメイ政権はやっていけるのだろうか?

保守党とDUPの合意で、全650議席のうち過半数(650の半分に1を足したもので、小数点以下切り捨て)を意味する326議席を2議席上回る。ただし、シンフェイン(北アイルランド)は、女王に忠誠を誓うことを拒否して下院の審議に参加しておらず、今回もその旨を明確にした。そのため、事実上の過半数は322である。

メイは、EUとの交渉が始まる前に、その立場を強くするためとし、必要のない総選挙を実施したが、13千万ポンド(182億円)の公費を選挙に使った上、議席数を減らした。権威を失ったメイ政権は、そう長く続かないだろう。保守党をまとめることも難しく、しかもかなり極端な政党であるDUPへの対応も簡単ではない。恐らく年内、遅くとも来年前半にはメイの後任が選ばれ、直ちに総選挙となるだろう。

総選挙結果

政党 議席数 増減 得票増減%
保守党 318 -13 +5.5
労働党 262 +30 +9.5
SNP 35 -21 -1.7
自民党 12 +4 -0.5
DUP 10 +2 +0.3
シンフェイン 7 +3 +0.2
プライドカムリ 4 +1 -0.1
緑の党 1 ±0 -2.1
無所属 1 ±0  

投票率68.7%
SNP
:スコットランド国民党
DUP:民主統一党

保守党の中の問題

保守党が一致結束してメイ首相を支えれば、この政権がしばらく続く可能性がある。しかし、それはかなり難しい。

最大の課題であるEU離脱交渉では、離脱派と残留派の対立が表面化するだろう。メイ首相はこれまでEUの単一市場並びに関税同盟に残らないとし、EUと新しい自由貿易の枠組みを作ることを想定してきた。しかし、権威を失ったメイ首相は、すでに内閣改造をする力も乏しく、そのような枠組みへの党内調整能力はないだろう。

しかも619日に始まる、EUとの交渉ではいわゆる「離婚料」の問題がある。EU側は1000億ユーロ(123500億円)を求めてくるという憶測がある。これがもし、600億ユーロ(74千億円)程度で落ち着いたとしても、保守党内に、これまでのイギリスの貢献額を考えれば、むしろお金が返ってくるはずで、一切そのような「離婚料」を支払う必要がないという考え方がある。その金額の多寡にかかわらず、党内の考え方をまとめることは難しい。

党内の問題は、EU離脱に関わる問題だけではない。例えば、メイ政権は、ヒースロー空港の第3滑走路の建設推進を決めているが、今でも空港周辺の保守党下院議員たちには不満がある。飛航路のリッチモンドパーク選挙区で当選したゴールドスミスは反対派だが、今回の選挙ではわずか45票の差で当選した。ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道HS2建設問題など、それぞれの地元の事情でメイ政権の政策に反対する議員が少なからずでるだろう。

しかも党内の右左の問題もある。福祉政策などをめぐり、対立が表面化する可能性もある。

DUPの問題

DUPは、もともと過激なロイヤリスト(イギリスとの関係を維持する立場)だった牧師イアン・ペーズリーの設立した政党である。1998年のグッドフライデー合意に反対。2006年のセントアンドリュース合意で、仇敵だったシンフェイン(アイルランド共和国との統一を求める立場)と北アイルランド分権政府をともに運営していくことに合意したが、それまで北アイルランド政治の異端だった。

今でも同性婚反対、妊娠中絶反対などかなり極端な政党である。一方では、過激ロイヤリスト武装集団との関係が今でもあると見られている。このため、従来の保守党政権はDUPと深い関係にならないよう注意してきた。

北アイルランド最大政党であるDUPのフォスター党首は、北アイルランドの首席大臣だったが、ビジネス相時代に推進した再生エネルギー政策の大失敗で、その後始末のコストが49000万ポンド(690億円)に上ると見られている。この問題で、北アイルランド議会は解散され、3月に北アイルランド議会議員選挙が行われた。しかし、この問題は解決に至っておらず、未だに再開されていない。

本来、イギリスの中央政府は、この北アイルランドの問題に中立的な立場で臨み、利害の対立する政党を融和させ、話し合いを促進させる立場にある。しかし、メイ政権がDUPの支援を受け、その中立性が失われてしまった。北アイルランドの分権政権回復が難しくなったのは間違いなく、現在の中途半端な状態が慢性化する可能性がある。

すなわち、今回の合意で保守党が支払う代償は、そう小さなものではない。

次期総選挙

保守党が、党内の対立を防ぎ、DUPの枷を一刻も早くなくしたいと考えるのは当然だろう。そのベストの方法は、党首を入れ替え、総選挙を実施し、勝つことである。野党労働党のコービン党首の人気が高まっていることから、人気の点で対抗できるのは、現外相のジョンソンである。すなわち次期保守党党首・首相にジョンソンが就任する可能性は高い。

コービンは2017年総選挙で勝てなかったが、その評価は大きく上がった。労働党内の反コービン勢力の多くが、コービンのリーダーシップを称えた。一般でも、若者だけではなく、コービンを評価する見方が広がっている。

今やコービン率いる労働党は、これまでよりはるかに統一され、活性化された集団となっている。恐らく、労働党は、今回の総選挙直後に政権に就かなかったことを幸運だと考えているだろう。少数政権ではできることが限られているからだ。次期総選挙が実施されるのはそう遠い先ではなく、その準備に既に走り始めていると思われる。

コービンにとっては、次期総選挙、そして政権に就くまでの準備が十分にできることになる。柔軟性に欠けるメイ政権が早晩挫折するのは間違いなく、次の総選挙では、人気はあるが、信念の乏しいジョンソンを党首に抱く保守党をコービン労働党が大きく破ることとなるだろう。

その際、労働党は今回の総選挙で掲げた政策を実施していくこととなる。保守党は、コービンの政策は「魔法のお金のなる木」に頼っていると主張した。しかし、その経済政策は、ノーベル経済学賞を受賞した、アメリカのジョセフ・スティグリッツが「慎重に練られた計画」だと評価している。

いずれにしても、これからメイ政権への重圧は高まる一方で、メイ首相にとっては非常に厳しい政権運営となる。

総選挙結果

メイ首相は、68日、イギリス下院の総選挙を実施した。その結果、総選挙前にあった330議席を獲得できなかった。しかも下院の650議席のうち、過半数の326議席(650の半数+1)も下回った。北アイルランドで10議席を獲得した民主統一党(DUP)の協力で、メイ首相は、政権は維持できるものの、この選挙中、そのポリティカル・キャピタルを使い果たし、今やその進退が議論される状況だ。この状態で、11日後に始まるEUとの離脱交渉に臨まねばならない。メイが首相と保守党党首を辞任する可能性が高まっている。

その結果、EU離脱に関しては、メイが移民の制限を優先して欧州単一市場から離れる意思を明確にし、これまで「悪い合意より合意のない方がよい」と度々主張して示唆してきたような強硬離脱の可能性は薄れ、イギリスはソフトな離脱に向かうのではないかという見方が強まっている。

今回の総選挙は、メイ首相が、保守党が圧勝して100議席を大きく上回るマジョリティを獲得するのは間違いないという考えから自らの判断で引き起こしたものである。世論調査で圧倒的に優位な立場にあったためである。

ところが、選挙中に発表したマニフェストの「認知症税」問題、度重なるUターン、それに選挙期間中にマンチェスターとロンドンでイスラム教過激派によるテロ事件があり、選挙戦の様相が大きく変化した。

一方、多くの有権者だけではなく、労働党の多くの下院議員が、コービン党首は強硬左派で無能だと信じていたが、そのコービンが予想外に健闘した。そのマニフェストは緊縮財政を覆すもので、有権者の多くから評価された。若者を中心にコービンブームが起きた。コービンは明らかにこの選挙戦を楽しんでいる雰囲気があった。また、メイと交互に行われた、2度の聴衆らとのテレビでの質疑応答では、メイを上回る評価を受けた。コービンのスピーチには非常に多くの聴衆が回り、その聴衆の数は増える一方で、あるベテラン政治記者は、これほど各地で多くの人が集まるのは、チャーチル以来だとコメントしたほどである。

選挙期間中に実施された世論調査では、保守党と労働党との差が大きく縮まり、当初の20ポイント余りの差から、一桁、そして最後には、1ポイントの差とするものも出てきた。

メイとコービンのいずれが首相にふさわしいかという選択では、メイが418日に総選挙を実施したいと発表した際には、メイがコービンを39ポイント上回っていた。それが投票日直前には9ポイントとなった。それでも多くの世論調査会社は、保守党が過半数をかなり上回るような世論調査を発表していたが、これらの世論調査会社は面目を失った形だ。

69日の午前7時時点、全650議席の644議席が開票済みだが、各党の獲得議席数は以下の通りである。

保守党:314
労働党:
260
SNP
35
自民党:
12
DUP
10
その他:13

若者の支持で選挙結果が変わる

68歳のコービンを驚くべきほどの若者が支持している。

2015年の総選挙では、若者(18歳以上25歳未満)の投票率は、43%だった。ところが、63日発表の若者を対象にした世論調査(世論調査会社ICMによる)で、必ず投票に行くと答えた若者は63%にのぼる。しかもこれらの若者の中で、労働党に投票するとしたのは68%、メイ首相率いる保守党へは16%だった。

これは、非常に大きな動きである。選挙の結果を大きく左右するものだ。

5月末、世論調査会社大手のYouGovがその政党支持率調査の方法を変えた。68日の総選挙まで10日となって方法を変えるのは、無謀だという見方があった。他の世論調査会社の中には、YouGovを「勇敢」だとし、その上、その結果に基づいて議席予想をし、ハングパーラメント(宙づり国会:過半数を獲得した政党がない状況)になるとの結果を1面トップで掲載したタイムズ紙を「もっと勇敢」だとコメントしたものがある。

現在の主な議席数予測は以下のようだ。

 (出典:63日現在のWikipedia

確かに、YouGovのみがハングパーラメントで、それ以外は、保守党の獲得議席予想が354から368の間にある。全650議席の過半数は326議席だが、YouGov308とし、他の世論調査会社のものとはかなり離れている。

ただし、このYouGovの転換には、それなりの理由があった。それは、主に若者の投票率の問題である。

前回2015年の総選挙で、世論調査会社はその結果を予想できなかった。総選挙前、保守党と労働党の支持率が均衡しており、ハングパーラメントとなると予測したが保守党が過半数を獲得したのである。そのため、英国世論調査協会はその原因を調査した。そして、主な原因は、サンプルに問題があったという結果となった。その一つは、世論調査に応じる、特に若い人たちの投票率は高いが、同じ世代で実際に投票に行く人が比較的少なかったという点である。すなわち、サンプルがその同じ世代の代表値となるとは必ずしも言えないということである。そのため、年齢を区分けして、それぞれの投票する確率を想定し、それで生のデータを加工する方式が主流となった。

6月3日に発表された今回の総選挙の世論調査では、保守党が労働党を12ポイントリードしているものから1ポイントリードのものまである。2015年総選挙の際の年齢別投票率を参考にして結果を出している世論調査会社があるが、このような方法をとっている会社は、保守党のリードが大きい。

YouGovは、その最近の調査の結果から、25歳未満の人の投票率を51%65歳以上の投票率を75%と見ている。その差は24ポイント。下院の調査によると、2015年総選挙では、その差は35ポイントだった。2010年は23ポイント、そして2005年は36ポイント

YouGovは、今回の総選挙では、若者のコービン支持が急増している。そのため、今回は2015年のパターンではなく、2010年のパターンに近いと見ている。そして、もし、若者の中のコービンブームが実際の投票に結び付けば、調査時点での保守党の獲得議席は265から340議席の間となり、その中央点は308、労働党は230から301議席の間で、その中央点は261となるとする。

確かに若者の支持が実際に投票に結びつくかどうかには不確かな点がある。YouGovの新しいモデルが正しいかどうかは総選挙が終わるまでわからない。しかし、最初に触れた「若者の世論調査」のように、2015年の投票率を20%も上回る、もしくはそれに近い投票が現実のものとなれば、メイ保守党の過半数獲得が困難になるのは間違いない。

高まる大番狂わせの可能性

68日の総選挙投票日まで、あと一週間となった。418日にメイ首相が解散総選挙を発表して以来、その率いる保守党が地滑り的大勝利を収めるのは確実と見られていた。ところが、ここにきてその状況は大きく変化している。保守党は過半数を獲得できない可能性が出てきた。

反保守党ムード

その状況は、531日に行われた7党の討論会で典型的に示されたように思われる。保守党への批判が強く、保守党に批判的な言葉に、聴衆が頻繁に大きな拍手をした。そのため、聴衆が左寄りではないかという苦情が出たほどである。筆者も、聴衆の強い反保守党の反応を意外に感じた。

この討論会を主催したのはBBCであるが、聴衆の選別はComResという世論調査会社に委託された。この会社は聴衆を厳密にチェックして選別したと答えている

メイ首相はもともとこのような直接討論には参加しないという立場をとってきた。そのため、この討論会にラッド内相を送った。ラッド内相は、これまで保守党の立場を説明するためメディアに度々登場しており、その登場回数は「労働党攻撃」担当ともいえるファロン国防相を超えて保守党で最も多い。すなわち、保守党の中で最も優れたメディアでのパフォーマーである。しかし、他の参加者たちからそろって強い攻撃を受け、苦しい展開となった。

この討論会には、当初参加しないとしていた労働党のコービン党首が急きょ参加することとしたため、メディアの注目が大きく集まった。他の参加者は、自民党のファロン党首、緑の党のルーカス共同党首(緑の党には二人党首がいる)、ウェールズのプライドカムリのウッド党首、イギリス独立党のヌタル党首、そしてスコットランド国民党(SNP)のロバートソン副党首である。

参加者からは、参加しなかったメイ首相への批判が続いたばかりか、「強い、安定した」リーダーシップを訴えてきたメイ首相をUターンばかりする「Uターンクイーン」で、頼りにならず、グラグラしているという言葉も飛び出した。

参加者と聴衆の最も大きな批判は、メイが緊縮財政を維持しようとしていることにある。国民の関心の高い国民保険サービス(NHS)、ソーシャルケア、学校などの公共サービスが過去7年の財政削減で苦しんでいるのに、それらに名目だけの予算をつけ、本当の危機を救おうとしていないようなことに不満がある。

メイの弱体化                                                                                                   

この背景には、メイ首相が総選挙を2020年まで実施しないと度々主張していたのに急きょ方針を変えたことや、今回の総選挙の保守党マニフェストで打ち出した「認知症税」への批判が高まったため、急きょ方針を変えたこと、さらには、3月の予算で批判が高まった自営業者への国民保険料アップを急きょ取り消したことなど数々の政策転換がある。この討論会の前、529日のITV/SkyNews共催のメイとコービンが別々に出演した討論会でも、ブロードキャスターのパックマンに、少し批判が高まればすぐにUターンする、それでEU離脱交渉ができるかと批判された。

「認知症税」のUターンの際、メイは、この政策は「何も変わっていない、何も変わっていなーい」と主張し、嘲笑を買った。保守党のマニフェストには、その公約に財源がほとんど示されておらず、税金を含め、政権の裁量の非常に大きなものである。このマニフェストは大失敗とみなされている。

531日の討論会に出席しなかったメイは、地方を遊説していたが、その際のジャーナリストからの質問は、メイがこの討論会に出席しないことに集中した。メイはこのような質問を笑い飛ばそうとしたが、本当には笑っておらず、その顔には疲れと焦燥が出ていた。一方、ソーシャルメディア上では、「メイはどこ?」がトレンドとなった。

メイは、これまで、強いリーダー的な振る舞いをし、その強いレトリックで有権者から「敬意」を受けていたが、一連の失敗で、これまでの権威が弱くなり、その政権運営能力にも大きな疑問が出てきている。それは、メイへのジャーナリストからのしつこいともいえる質問にも表れている。メイのポリティカル・キャピタルがなくなってきている証拠である。

これでは、EUとの離脱交渉に当たり、この総選挙で国民から強いマンデイト(付託)を受け、自分の立場を強化したいとの目論見がまったくかなわないこととなる。

人気の高まるコービン

一方、コービンの人気が高まっている。コービンのスピーチ会場はすぐに満杯となり、中に入れなかった人たちのために、コービンが外でもう一度スピーチするという具合だ。遠くからわざわざ聞きに来る人が多く、コービンも、聴衆の数が益々増えているとコメントしたほどだ。

これまで野党第一党の労働党のコービンを無能とする見方が強かった。この背景には、労働党の中で強硬左派の立場であり、多くの労働党下院議員から党首としての資格はないとみなされていたことがある。労働党リーダーシップの指示に、労働党の中で最多の500回以上背いて投票した実績がある。

2015年の労働党党首選に立候補した際には、下院議員の推薦人を集めるのに苦労した。党首選での議論を高めるために左派からも候補者を立てるべきだとして、コービンに投票しないが、推薦人の名前だけは貸してもよいという人の署名を集め、なんとか立候補締め切り直前に間に合わせた人物である。

なぜ立候補したのかと問われ、これまでにマクダネル(影の財相)やアボット(影の内相)が立ったので、今回は自分の番だったと語った。党首となるとは全く考えていなかった。

ところが、コービンが党首選に立候補すると、その原則に生きた、政治の考え方に共鳴する人が急速に増え、コービンブームが起きる。前のミリバンド党首時代に党首選制度を変更し、それまでの党員、労働組合、下院・欧州議員の3つのグループで均等に票を案分する制度から、党員、関連団体メンバー、登録サポーターが平等に一人一票で総得票を争う制度となっていた。コービンを支持するため、党員と登録サポーターの数が急増した。

この党首選挙は、多くが驚いた、コービンの圧勝に終わった。しかし、労働党下院議員や旧来からの労働党支持者らからのコービンへの不信は続く。その上、右寄りの新聞が、コービンを極左、無能と決めつけた。

このコービンでは次期総選挙で勝てないと見た労働党下院議員たちが、2016623日のEU国民投票後に行動を起こし、コービンの影の内閣から次々に影の閣僚が辞任し、コービンへの不信任を突きつけ、圧倒的多数の賛成で可決した。しかし、この不信任は党の規約にはない非公式なもので効力はなかった。結局、2回目の党首選が行われることとなった。ところが、この2回目も再びコービンブームが起き、前回を上回る支持を集め、圧勝。この後、労働党下院議員たちは、コービンの引き下ろしは無理だと悟るにいたる。しかし、この間に、メディアには、コービンは、労働党をまとめることもできない無能な党首だという見方が定着した。

そのため、今回の総選挙は「有能で有権者の評価の高いメイ」と「無能で有権者の評価の低いコービン」の戦いという形でスタートした。

労働党のマニフェストが漏えいされ、メディアで大きく取り上げられると、労働党は鉄道の国有化、大学授業料の無料化など、古い夢のような政策を並べて借金だらけになると批判された。改めて正式に発表されたマニフェストには、その財源リストがついており、しかも個別の政策は有権者に人気があることが分かった。それでも、有権者のコービンへの不信は続く。

ところが、比較的若い人たちを中心にコービンへの支持は拡大しており、しかもジャーナリストたちは、上記の529日の討論会で、68歳でいいお爺さんのイメージのあるコービンが落ち着き、率直で熱意のある優れたパフォーマンスをしたため、コービンを見直し始めた。

531日の討論会では、コービンは7人の参加者の中で、そう目立たなかったが、コービンを無能だと見る見方は、保守党のラッド以外なくなっていた。

議席数予測

保守党と労働党との世論調査の差は大きく縮まってきている。その中でも世論調査最大手のYouGovの世論調査では、総選挙が発表された時には、その差が24%だったのが、531日には3%となった。

また、YouGovは、コンピュータによる新しい選挙予想法を導入した。YouGovは毎日そのデータを更新し、現時点での各党の議席を予測している。この方法には、誤差がかなり大きいという問題があるが、530日に発表された時には、衝撃が走った。保守党が解散前の議席を20議席減らすとしたからだ。この予測には、他の世論調査会社からの批判がある。

なお、世論調査会社の間で、生のデータを解析する方法が異なっており、2015年総選挙で世論調査の結果が誤った後、多くの修正を施している。今回の総選挙では、特に若い有権者の投票率の見方で、その結果がかなり異なる。50歳以上では保守党が強く、それ以下では労働党が強い。通常、若い有権者の投票率は低い。しかし、コービンブームの若い世代は異なるという見方がある。

61日時点でのYouGov各党予測議席数は以下の通り。なお、保守党の選挙前議席数は330だった。

政党 議席予測
保守党 317
労働党 253
SNP 47
自民党 9
プライドカムリ 3
緑の党 1
その他 2
北アイルランド 18

 

タクティカルボーティング

今回の総選挙が始まった時、保守党の圧勝は間違いないと思われた。メイは、EU離脱交渉について「悪い合意より合意のない方がよい」との発言で、繰り返し発言している。メイが過半数を大きく上回る議席を獲得した後、勝手に交渉を進め、イギリスがEUからスムーズに離脱できないのではないかと危機感を持った人たちを中心にタクティカルボーティングを進める動きが出ている。これは、保守党の議席を増やさせないために、それ以外の当選可能な候補者に票を集中させるものである。その動きの一つは、「イギリスにとってベスト(Best For Britain)」である。

531日の7党討論会で現れたように、他の政党は、保守党に非常に強い批判を持っている。それぞれの支持者がタクティカルボーティングで、保守党以外の当選可能な候補に票を集めて当選させる動きは今後強まるだろう。

その一つの例は、東デボン(East Devon)選挙区である。上表のYouGovの議席予測の「その他2」には「下院議長」が含まれるが、それ以外のもう一つで、当選見込みとされている。

完全小選挙区制のイギリスの下院選挙では、それぞれの選挙区で最多得票者が一人だけ当選するため、通常、選挙区に強い支持基盤のある政党の公認を得なければ当選は難しい。ところが、東デボン選挙区では、無所属の候補者が健闘している。

この候補者クレア・ライトは、前回の2015年の総選挙でも無所属で立候補した。その際の結果は以下の通り。

 

得票

得票率

保守党

25,401

46.4

クレア・ライト

13,140

24

UKIP

6,870

12.5

労働党

5,591

10.2

自民党

3,715

6.8

投票率73.7

もし、労働党と自民党の票並びに、その選挙に投票しなかった有権者の投票をかなり集められれば当選の可能性が出てくる。イギリスにベストでは、この無所属候補者に投票するよう勧めている。

このようなタクティカルボーティングは、YouGovの議席予測では、前回総選挙で保守党が自民党から奪った議席の幾つかで効果が出ているようで、その議席数が自民党の予想議席数に反映されている。

苦境のメイ

これまで述べたようにメイ首相は既に傷ついている。保守党が過半数を下回るようなことがあれば、それは大番狂わせであり、メイの進退問題にも発展するだろう。もし、ほとんど議席を増やすことができないようなことであれば、保守党内での立場が極めて弱いものとなり、メイの「強い立場でEU離脱交渉」をするという目的は果たせないだろう。

コービン首相の可能性

68日の総選挙で労働党のコービンが首相となる可能性が出てきた。

531日付のタイムズ紙が、世論調査会社最大手のYouGovの獲得議席数予測を一面トップで掲載した。これは、YouGov5万人の調査から選挙区ごとに分析した結果をまとめたものである。

政党名 予想議席 解散時議席
保守党 310 330
労働党 257 229
SNP 50 54
自民党 10 9
プライドカムリ 3 3
緑の党 1 1
議長 1 1
北アイルランド 18 18

 

なお、この予測では保守党の獲得議席予想数は345から274の幅があるが、上の表通りの結果が出た場合を想定してみる。

北アイルランドでは、2015年総選挙で、民主統一党(DUP)が8議席、アルスター統一党UUP2議席を獲得した。保守党はUUPと特別な関係があり、また、DUPは、EU離脱を支持した。シンフェイン党が支持を伸ばしており、同じような結果が出るとは限らないが、もしDUPUUPが保守党を支持するとすれば、保守党は支持議員の数を10議席伸ばせる可能性がある。シンフェイン党は、4議席だったが、当選しても議会審議には参加しない。もし、その方針が継続すれば、過半数を計算するには、全650議席からシンフェイン党の獲得議席数が差し引かれることとなる。前回と同じ4議席だと仮定すれば、残りは646議席となり、過半数は324議席ということになる。

もし上記の表通りの獲得議席数なら保守党、DUPUUPの合計は320議席で、過半数に足りない。

一方、労働党は、北アイルランドの、前回3議席を獲得した友党の社会民主労働党(SDLP)と、メイ首相のEU離脱方針に反対するスコットランド国民党(SNP)、自民党、ウェールズのプライドカムリ、緑の党の支援を受けられるだろう。すなわち、324議席で過半数を制することとなる。労働党がこれらの政党と連立政権を組むとは考えにくく、少数政権となるだろうが、労働党のコービンが首相となる。

今回の総選挙では、メイ首相率いる保守党が圧倒的に優勢で、最初から結果が決まっているという見方が強かったが、その当初の予想を裏切り、コービンが首相となる可能性が出てきたと言える。

保守党と労働党の支持率の差5%

驚くべき展開だ。68日の総選挙まで2週間。この段階で、世論調査の保守党と労働党の差が5%となった。

この総選挙は、当初、支持率の差で労働党に20%余の差をつけていた保守党の地滑り的大勝利は間違いないと見られていた。しかし、徐々に支持を失う保守党と、急速に支持を拡大する労働党との間で予断を許さない展開となっている。もしこの状態が続けば、確実視されていた保守党の過半数獲得は危うくなり、いずれの政党も過半数のない、いわゆるハングパーラメント(宙づり議会)となる可能性がある。

世論調査最大手のYouGovは、メイが総選挙の実施を発表した418日の後の世論調査では両党の差を24%としていた。それが51819日に実施した世論調査では9%、そしてマンチェスター爆弾事件後の52425日の調査では5%となった。

他の世論調査会社の結果も軒並み一ケタの差を示している。51819日以降に実施された世論調査で、2社が12%14%の差の結果だったが、世論調査結果の算定方法の違いによるもので、いずれも恐らく一桁だったのではないかと言われる。

5%の差を出した世論調査と同じ525日夕方に発表されたもう一つの世論調査の会社の方法は保守党に若干有利と見られているが、結果は8%の差だった。

この原因は何だろうか?それは保守党と労働党のマニフェストに原因があると思われる。

労働党のマニフェストの政策は、近年最も左寄りと言われたが、そのほとんどが有権者に人気のあるものだ。一方、保守党の政策で有権者が最も覚えているのは、高齢者ケアに関するもので、国民の多くに強い不安を起こさせたものである。メイは、下がる支持率と、これでは選挙が戦えないとする候補者たちの声を受けて、マニフェスト発表後に異例の方針転換をしたが、その一連の過程は醜いものだった。メイの「強い、安定したリーダーシップ」のイメージを大きく傷つけるものとなったと言える。また、Brexitが中心となる選挙と思われたが、その影が薄くなっている。

メイは、マンチェスター爆弾事件を自分に有利に導くよう努力したが、その効果は限られていたようだ。その上、内相時代の警官数削減が自分に跳ね返ってきている。

これからどうなるか、その展開が俟たれる。