ジョンソン首相と2022年の政治

2019年12月の総選挙で勝ったボリス・ジョンソン首相が就任して2年たった。英国の下院は、2011年議会任期固定法で、次回総選挙は2024年5月まで実施しなくてもよい(議会任期固定法では総選挙が行われた後、5年目の5月に総選挙を実施することとしている)。ただし、それより前でも下院で一定の賛成があれば、総選挙を実施することは可能である。ただし、現在の政治情勢では、ジョンソン首相が急いで総選挙を実施する可能性は少ない。

2022年の英国政治の大きな焦点は、5月に行われる各種地方選挙である。保守党を率いるジョンソン首相は、保守党下院議員の行動基準違反の問題、自分(首相として、また、下院議員として)の行動基準をめぐる様々な疑惑、首相官邸や閣僚らの、コロナ制限違反の疑いのあるパーティ開催、また、総選挙から2年たっても約束したことを実施していない、または約束したことと行うことに差がある、さらに、立場をくるくる変える(Uターン)などの問題で大きな批判を浴びてきた。その結果、下院の補欠選挙で保守党の安全な選挙区と見られていた議席を次々に失った。保守党への支持率が減少し、2021年12月8日から2022年1月7日に行われ、発表されている24の世論調査で、野党第一党の労働党に3〜9%の差をつけられている。また、首相としての評価も、ジョンソン首相への厳しい評価が好意的な評価を大きく上回る状態である。

次の総選挙は、まだ2年余り先だ。与党の政権半ばで支持率が野党第一党を下回るのはしばしばあることで、それほど心配する必要はないという見方があるだろう。しかし、ジョンソン首相の場合、その政権運営が危なっかしく、公私にわたりその行動に不安がある。また、約束したことを成し遂げるためのリーダーシップが欠けていると見られている。そのため、このまま首相として政権に居続けても、改善する見込みは大きくない。ジョンソン首相のこれまでの強みは、有権者受けがよく、選挙に強いということであった。それは、2019年の総選挙で示されたが、もともとその政権運営能力には疑問があった。ところが、一旦、有権者受けが悪くなり、その改善の可能性が出てこないと、ジョンソン首相よりも新しいリーダーの方が望ましいということになるだろう。5月の地方選挙結果が注目されるのは、その結果によって、ジョンソン降ろしが始まる可能性があるからである。

保守党下院議員で、特に前回の総選挙で、もともと労働党の強い議席を奪って当選してきた人たちにとっては、現在の状況は不安である。これらの選挙区は、イングランド南東部と比べて、産業や生活水準が劣るところが多く、ジョンソン首相はレベルアップすると約束してきたが、首相就任後2年たっても、その具体策がはっきりしていない。さらに、ジョンソン首相は、EU離脱運動のリーダーの一人だったが、その結果達成されたブレクジットの影響は、GDPを長期的に4%押し下げると予算責任局(OBR)は見ている。また、EUを離脱し、人の自由な行き来ができなくなったため、EU加盟国、特に東欧からの労働力が大きく不足してきている。特にサプライチェーンの大型トラックの運転手の不足が大きな問題となった。流通コストのアップは、物価上昇の大きな原因となっている。また、一般の人の生活費が上昇してきており、物価上昇率は今年7%近くに達すると見られている。その上、世界的にエネルギーコストが上昇しており、家庭の光熱費は、現在の年1300ポンド(20万円)から2000ポンド(30万円)程度に上昇すると見られている。賃金から差し引かれる国民保険料も今年4月から1.25%上昇する。人手不足で賃金は上昇する傾向にあるが、物価上昇に追いつかず、生活費の上昇は国民の生活を圧迫することとなる。

これらは、5月の地方選挙に大きな影響を与える可能性がある。ジョンソン首相は、コロナの拡大を抑えて普通の生活を取り戻すことで、国民の支持を回復したいと考えているように思われるが、どの程度効果があるか注目される。これらを乗り越えたとしても、北アイルランドの問題を中心としたEUとの交渉、ブレクジットの後始末をはじめ、問題は山積している。

下院議員の行動基準コミッショナーの判断基準

下院の院内総務のジェイコブ・リース=モグが、自分の会社から、通算600万ポンド(約9億円)のおカネを安い金利で借りていたことを下院に報告していなかったことで、下院議員の報告義務に違反していた疑いが出た。下院の行動基準コミッショナーが調査するよう求められ、調査が行われた結果、コミッショナーは、特に問題がないと判断した

その判断の理由は、以下のとおりである。

1.これは完全に個人的な事案である。

リース=モグは、自分の100%所有する会社から自分のロンドンの家に関連しておカネを借りた。

2.この取引は、リース=モグの下院議員としての立場に何ら影響を与えるものではない。

すなわち、誰かほかの人が、特定の下院議員に影響を与えるために、何らかの便宜をはかるものではない。

下院議員個人の問題とおカネの関係は、時にこそこそした問題があるのではないかと捉えられがちだが、コミッショナーの判断は、極めて明快に思われる。

首相官邸の「パーティ」問題とロンドン警視庁

ロンドン警視庁は、昨年、新型コロナでパーティなどの集まりが禁止されていた時に首相官邸でパーティが開かれていた疑いに関して、警察監督機関に、ロンドン警視庁の行動の当否を判断するよう依頼した

これは、昨年、新型コロナの流行拡大を抑えるため、国民に行動制限を課し、パーティなどの集まりを禁止していた時に、首相官邸でパーティなどの集まりが開かれていた疑いが持ち上がったことに関連している。それを裏付けると思われる様々な情報が出てきたことが、12月16日に行われた、保守党が圧倒的に強いと思われていた選挙区の下院補欠選挙で保守党が議席を失った直接の原因だと見られている。

ジョンソン首相は、この疑いを当初否定した。しかし、次から次に情報が出てきたため、内閣書記官長(官僚のトップ、Cabinet Secretary)に調査を依頼した。ところが当の内閣書記官長のオフィスでも「クリスマスパーティ」が開かれていたことがわかり、内閣書記官長がその調査を辞退し、今年4月に内閣府の第二事務次官に就いたスー・グレイが担当することとなった。まだ結果は明らかになっていない。

このパーティにまつわる疑いで、野党らがロンドン警視庁に調査を求めたが、ロンドン警察庁は、十分な証拠がない、このような件では、過去に逆もどって調査を行わないなどの理由で、調査を拒んだ。ところが、これに対して疑問が出た。そもそも首相官邸ではロンドン警視庁の警官が四六時中警備し、人の出入りを管理している。これらの警官が、違法なパーティが開かれ、時には深夜まで続いていたのを知らないはずがないというのだ。また、そのような催しの開催にあたって、警官が準備などに関与していた疑いがあるという。

緑の党に所属する英国の上院議員が、それを「警察行動に対する独立機関」(IOPC、Independent Office for Police Conduct)に調査するよう求めた。

IOPCは、イングランドとウェールズの所轄警察の苦情を監督する機関である。その判断で、直接調査を実施する権限があり、ロンドン警視庁も、この件でIOPCに調査の必要の有無の判断を委ねたのである。

IOPCは、即座に返答し、苦情を提出した人(もしくはその代理人)が直接害を被ったわけではないため、この苦情を無効とした。ただし、もし、警官に何らかの咎があった証拠があれば、苦情の提出がなくても、ロンドン警視庁は、それをIOPCに付託する義務があると念押しした。そのような証拠をメディアが探し始める可能性がある。

ジョンソン首相の終わりの始まり

ジョンソン首相の保守党が再び補欠選挙で敗れた。様々なあきれたニュースが続いた後、昨年末にコロナパンデミックのため国民にはパーティなどの集まりを禁止しておきながら、首相官邸などでパーティを催していたという暴露ニュースが出て、「自分たちのルールと他の人たちにあてはまるルールが異なる」と強く批判された挙句であった。世論調査の政党支持率とジョンソン首相への評価が大きく低下し、最大野党の労働党の支持率の方が上回っている。ジョンソン首相はオミクロン株が急速に広がる中、対策を懸命に講じようとしているが、厳しい局面となっている。コメンテーターの中には、ジョンソン首相には「驚くべき回復力がある」などとして今後の行方を慎重にみるべきだという見方もあるが、既に来夏に党首選挙を考える人もいるなどとされる。ジョンソン政権の終わりが始まったとも言える。

さて、英国の選挙区の境界は、一定の期間を経て継続的に見直されているために全く同じ選挙区ではないが、この選挙区は19世紀前半から200年近く、ほとんど継続して保守党支持の地域である。ただし、この補欠選挙は、現職がロビーイングのルールの違反で、議員の行動基準コミッショナーから30日間の登院停止を勧告されたのに、ジョンソン首相が「厳重投票指示(Three Line Whip)」を出し、下院がその勧告を受け入れなかった。さらに、議員の行動基準制度そのものを変更する動きに出た。それらに世論が反発したため、ジョンソン首相は1晩で方針を変え、その結果、当の現職議員が辞職したために行われた補欠選挙である。

2021年12月16日に行われた下院議員補欠選挙得票結果(North Shropshire

自由民主党 17,957 当選
保守党 12,032 次点
労働党 3,686

(自民党のマジョリティ((第2位との差))は5,925。投票率46.28%)

この選挙区では、2年前、2019年の総選挙で、現職の保守党下院議員が次点の候補者に圧倒的な差をつけて勝利している。

2019年総選挙得票結果(North Shropshire

保守党 35,444 当選
労働党 12,495 次点
自由民主党 5,643

(保守党のマジョリティは22,949。投票率は67.9%)

なお、今回の補欠選挙では、2019年総選挙で第3位の自民党が勝った。2016年のEU離脱国民投票では、この選挙区では60%が離脱に賛成した。離脱選挙区と言える。自由民主党はEU残留政党だったが、その過去は今回の補欠選挙にはあまり影響していないようだ。

なお、自由民主党は、その政策的立場が保守党(右)と労働党(左)の中間にあると考えられており、保守党支持者には比較的投票しやすい政党である。また、労働党支持者には、自由民主党が保守党に勝てる見込みがあれば、自由民主党に投票する傾向もある。そのため、今回は、保守党支持の有権者が投票しない、もしくは自由民主党に投票するという選択肢を選んだことを背景に、自由民主党の勝利となった。

なお、自由民主党は、他の選挙区の6月の補欠選挙でも勝利を収めている。現職保守党議員が死亡したために行われた補欠選挙である。この選挙区(Chesham and Amersham)では、2016年のEU離脱国民投票で55%が残留支持だった。この6月の補欠選挙の結果、今回(North Shropshire)は、自由民主党は党首が何度も応援に駆け付けたのに、労働党党首は一度も足を運ばなかった。英国の賭け屋は、自由民主党勝利と予測していたが、まったくその通りとなった。それでも、選挙区の性格や票のスイング(政党間の票の動き)のため、6月の補欠選挙よりもはるかに大きなショックだった。

この結果は、保守党にとって激震といえる。

保守党下院議員のジョンソン首相に対する不満は大きく高まっており、この補欠選挙前には、保守党下院議員の中に、今回の補欠選挙でジョンソン首相はお灸をすえられる必要があると言う議員もいた。しかし、今回の結果は、その範疇を大きく超え、ジョンソン首相のみではなく、保守党にも大きなダメージとなった。

信頼低下で苦しむジョンソン首相

12月8日以降に実施された世論調査で、ジョンソン首相率いる保守党の支持率が減り、最大野党の労働党の支持率が保守党を4〜9%上回る状態となっている(執筆時点では7つある。YouGovの世論調査Opiniumの世論調査)。ジョンソン首相が2019年7月24日に首相に就任して以来このようなことはなかった。

特に保守党にとって気がかりなのは、人気の高かったジョンソン首相の支持率が大きく悪化している点だ。最新の世論調査では、首相としての実績を「認められない」という人が62%(このうち「とても認められない」という人が38%)で、「認められる」という人の22%を大きく上回っている。労働党のスターマー党首がそれぞれ38%と26%であるのと比べるとかなり悪い。同じような結果は、別の世論調査でも見られる。

約束に対して行動の伴わないジョンソン首相が、「嘘つき」だとレッテルを貼られたり、「自分たちのルールと他の人たちのルールが違う」と攻撃されたりしてきたが、これらが、同じパターンでさらに拡大して起こってきたことが現在の支持率の低下につながっている。

すべてのものごとにいい加減に対応しているように見えるジョンソン首相だが、「それほど悪い人ではない」という人も多い。ただし、現在の状況は、ジョンソン首相のだらしなさと、おカネの問題から起きていることが多い。

おカネの問題では、ジョンソン首相は、首相になって収入が大きく減った。ジョンソン首相は、かつてはジャーナリスト、スピーチなどをして年に50万ポンド(7500万円)以上稼いでいたようだが、首相になって、首相と下院議員として受け取る15万7千ポンドを含め、18万ポンド(2700万円)ほどと思われる。大きな減収である。

ジョンソン首相は、自分の内閣に何人もいるような、政治以外で十分におカネを稼いでから政治に入ってきた人ではない。また、これまでに複数の女性と関係し、7人の子供がいる。現在のカリー夫人との間にも2人目の子供が生まれたばかりだ。海外のホリデーによく行き、また、首相官邸の模様替えも行った。これらにかかったお金は現在の疑惑に関連している。

特に大きな問題は、昨年11月、12月に、コロナパンデミックの対策で、国民にはパーティーを禁じていたのに、首相官邸などでパーティーを開いていた疑いが持ち上がったことだ。次から次に出てくる疑惑に保守党内で不満が高まってきている。ただし、保守党の中で、2019年の総選挙で大勝利を飾ったジョンソン首相を直ちに替えようとする動きには至っていない。なお、保守党の中では、党所属下院議員の15%(現在の361人のうち55人)が不信任の手紙を書けば、投票が行われることになっている。

なお、下院議員の行動基準違反問題で辞職した議員の選挙区の補欠選挙が12月16日に行われる。保守党の非常に強い選挙区だが、中道の自由民主党への支持が強まっていると言われる。どのような結果となるか注目される。

ジョンソン首相は、もともと強い信念に基づいて政治家となった人物ではない。ジョンソン首相の性格を考えれば、薄給で厄介なことの多すぎる首相を辞めて、自由に稼げる身分になった方がいいという結論に達する可能性は大いにあるだろう。

英国の議員の行動の監視制度

英国の下院議員には、公職を担う議員として守るべきルールがある。ある保守党下院議員が、企業の依頼を受けて顧問料を受け取り、大臣や政府関係機関に働きかけていた疑いが表面化し、下院議員の行動を監視するコミッショナー(The Parliamentary Commissioner for Standards)が調査した。そして、その事実があったとし、登院停止30日間の勧告をした。その後、下院の行動基準委員会(The Committee on Standards )がその勧告を審査する。そしてその勧告を受け入れる、もしくはその勧告を変更するなどの決定をする。このケースの場合、登院停止30日間の勧告通りに下院本会議に諮られた。最終的には下院が判断するからである。ところが、ジョンソン首相の指示を受けて、保守党が過半数を占める下院がその通り承認しなかったために、大きな騒動となった。その上、当の保守党下院議員は、保守党支持のテレグラフ紙のインタビューを受けて、自分は何も悪いことをしていない、また同じことをすると居直ったのである。ところが、ジョンソン首相は、下院の採決の翌日には考えを変え、その結果、当の下院議員は議員を辞職した。

なお、下院が登院停止10日以上と決定した場合、若しくは他の特定された条件を満たした場合、下院議員のリコール請願が行われる。この請願に選挙区の有権者の10%以上が署名すると、リコール選挙が実施される。対象となった下院議員は再び立候補することも可能だが、上記のケースの場合、そのような不名誉を避けたかったことが背景にあるようだ。

この騒動で、下院議員の利害登録や議員活動に注目が集まった。その結果、保守党の幹部で、ジョンソン政権の下院院内総務と枢密院議長を兼ねるジェイコブ・リース=モグが、現在、コミッショナーに調べられている。自分の所有する会社から計600万ポンド(約9億円)ほどのお金を低利で借りたにもかかわらず、それを登録しなかった疑いのためである。

一方、下院議員で法廷弁護士のジェフリー・コックスが、弁護士として多額の報酬を受け取り、コロナパンデミックの最中に、西インド諸島の政府の仕事で西インド諸島に飛び、また、議会の議員事務所からビデオ会議に参加していたなどで批判されていた問題では、コミッショナーが調査をしないことが明らかになった。コミッショナーは、それぞれの事案が調査に値するかどうかを独立して判断して調査をするかどうかを決定する。そして調査中の事案は、コミッショナーのウェブサイトで発表される

それでも下院議員の行動基準や大臣や国家公務員らの行動基準には、まだあいまいな点が多く、さらなる検討が必要である。

首相としての仕事がおっくうになってきたようなジョンソン首相

2021年11月22日、英国産業連盟(CBI、日本の経団連のような団体)の総会でスピーチしたジョンソン首相は、話が脱線し、演説原稿のどこを読んでいるかわからなくなってしまった。産業界のリーダーたちは、コロナパンデミック後の産業政策、サプライチェーン問題、技能者不足対策、クリーンエネルギー問題など多くの課題の政府の対応の話が聞けると思っていたと思われる。また、首相にとっては、これらの課題を直接リーダーたちに語りかけられる良いチャンスだったが、スピーチの時間を埋めるためだったのだろう、話がそれてしまって、折角のチャンスを無駄にしてしまった。この後、取材していた記者から「大丈夫ですか?」と聞かれる羽目となった。

ジョンソン首相が国政に真剣に取り組んでいるのか疑問を抱かせるエピソードである。ジョンソン首相は、2週間前には、保守党下院議員の行動基準ルール違反問題で大失敗した。ジョンソン首相は、問題の議員を救済し、さらに行動基準ルールの体制の見直しを図ろうとし、保守党議員に強引に指示して投票させ、自分の思う通りの結果を得たが、世論や保守党内の反発を受けて、一日で方針を転換する羽目に陥った。それまでも政府の政策の度重なるUターンが批判されていたが、この問題を契機に保守党関係の疑惑(スリーズと言われるが)が次々とメディアで報道されるに至り、保守党の中でもジョンソン首相の施政能力と信頼度に大きな疑問が生まれてきている。

世論調査でも、ジョンソン首相の自ら招いた問題で、保守党と野党第一党の労働党の支持率が拮抗している。前回総選挙では、ジョンソン首相の魅力が、保守党が多くの労働党議席を奪った原動力となったと分析されている。これらの議席は、よく「赤い壁(Red Wall)」と呼ばれるが、これらの議席から選出された保守党の議員は、ジョンソンが約束をしたことを守らない上、しかもジョンソン自身の魅力が減退する中で、次の総選挙がどうなるか心配している。一方、保守党のベテラン下院議員らは、ジョンソンの行動基準ルールをめぐる失敗で、自分たちの議員以外の収入への影響を心配している。

前回総選挙は2019年12月だった。5年の任期があることから次期総選挙はまだ先である。しかし、英国のEU離脱の悪影響が、身近に感じられるようになったり、北アイルランド問題の処理をめぐるEUとの対立が円満に収まらない事態となったりした場合には、ジョンソン首相を交代させる動きが出てくる可能性がある。現在は、まだ、メイ前首相の際にあったような、党首不信任の手紙が提出される動きにはなっていないと言われる。ただし、ジョンソン首相には、何が何でも首相として継続してやっていくという気迫に欠ける。ジョンソン首相には健康問題があるように思われるが、自ら退陣するという事態があるかもしれない。

公職に関するノーラン7原則とジョンソン首相

公職にある者が心がけておかなければならない原則として、「公職にあるものの行動基準に関する委員会」の初代会長ノーランが掲げた7原則がある。それらは以下の通り

  1. 無私無欲
  2. 誠実さ
  3. 客観性
  4. 説明責任
  5. オープン性
  6. 正直
  7. リーダーシップ

ジョンソン首相が、30日間の登院停止処分を勧告された保守党下院議員を救い、それとともに、行動基準を逸脱、もしくは逸脱した可能性のある議員の調査を実施し、その処分を決定するシステム全体を改革しようとした。そして、下院のその勧告に関する投票で、保守党所属下院議員に指示し、以上の2つの投票で勝利を収めた。ところが、これを英国政治の大きな危機だとみなしたメディアや識者が強く反発したため、ジョンソン政権はその翌日Uターンすることとなる。そのUターンの前、上記委員会の現会長のエバンス卿(元MI5のトップ)が政府の倫理基準は、国民の信頼の基盤であるとして、強く批判し、ノーラン7原則を改めて強調した。

そして、これまであった、Good Chap theory という、みんなが自制してうまくいくように運営できるという前提は当てにできないとし、コンプライアンスのシステムが必要で、その文化を養成していく必要があると強調したのである。

ジョンソン首相の狙いは、下院議員の行動基準コミッショナーのキャスリン・ストーンの排除にあったと見られている。ジョンソン首相は、既にストーンに3度調べられている。ストーンが公職にあるものとして自分の仕事をきちんと行っているところが煙たがられたようだ。しかも首相の住居の改修費用の問題やホリデーなど、さらに調べられる材料がいくつもある。ジョンソン首相のトップアドバイザーだったドミニク・カニングスは、ジョンソンは、自分への非合法な献金が暴かれるのを恐れているのだと言う。ストーンに脅迫などの攻撃が激しくなったとして、警察のセキュリティが強化されたと伝えられるが、ストーンは現在の職を離れるつもりはないと明言している。

今回の件で、公職への任命を含み、公職の行動基準への関心が大きく高まったことから、ジョンソン首相の行動は、やぶ蛇になったと言えよう。

ロビーイングのルールを破った下院議員への制裁が二転三転

ロビーイングのルールを破った下院議員への制裁が、ジョンソン首相の指示で二転三転し、ジョンソン首相に大きなダメージとなった。

2021年11月3日、英国の下院は、ロビーイングのルールを破って、大臣や官僚など関係者に陳情していた保守党下院議員への制裁(30日間の登院停止)勧告を覆した。そしてこの勧告を出した制度そのものの見直しを始めることを賛成多数で決めたのである。このベテラン保守党下院議員オーウェン・パターソンは元閣僚で、1年に112,000ポンド(1736万円:£1=155円)ものコンサルタント料を受け取り、合わせて50万ポンド(7,750万円)もの報酬を2つの会社から受け取っていたと言われる。

この勧告は、下院の規範委員会の決定に基づくものだ。この委員会は、下院議員7名と一般人7名で構成される。その下院議員の内訳は、保守党4名、労働党2名、SNP1名である。この委員会は、下院の議会規範コミッショナーの報告に基づき判断する。そして委員会の判断は、通常、下院がそのまま承認する。特に今回は、委員会が、パターソンの件は、おカネをもらって大臣や当局に働きかけた「悪質なケースだ」とし、全員一致で制裁に賛成した。

ところが、保守党党首であるジョンソン首相は、規範委員会の勧告に反対するよう保守党下院議員に指示した。保守党は2019年下院総選挙で他の政党議席を80議席上回る勝利を収め、首相の指示通りに投票すれば、下院の投票でその通りの結果を得られる。投票結果は、規範委員会の勧告は承認されず、また、同時に、下院は、議員の規範問題を扱う新しい仕組みを作ることに賛成した。この投票には、野党の労働党、SNP、自民党などがこぞって反対票を投じた上、保守党議員が13名反対票を投じた。また、投票に出席しなかった保守党議員も多かった。政府の役職についていたが投票しなかった保守党下院議員は直ちにその役職をクビになった。一方、野党は、新しい委員会を作ることには反対で協力しないと表明した。

この結果は、1晩で覆ることになった。ビジネス相が、報道機関を回って、規範コミッショナーは辞職を考えるべきだと示唆したが、朝刊は、この下院投票の結果を第一面トップで取り上げて批判したものが多かった。「恥を知らない保守党下院議員が汚職ルールを引き破る」といったセンセーショナルで猛烈な反発に、保守党は突然方針を転換することとなる。パターソンの件は改めて採決するとし、規範の新体制は、野党と相談しながら進めるとした。また、政府の役職をクビになった保守党下院議員には、新しい役職を与えた。行き場を失ったパターソンは、下院議員を辞職した。

このUターンは、ジョンソン政権に大きな痛手となったように思われる。下院での投票直後、BBCの政治部長が規範委員会の勧告に反対した保守党議員は、そのことをこれからずっと言われ続けるだろうと発言したが、保守党議員のジョンソン首相への信頼は大きく揺らぐだろう。

この問題は、ジョンソンの2019年12月のカリブ海ホリデーに関連しているのではないかと見る向きもある。パターソン問題を扱った議会規範コミッショナーがジョンソンのホリデーのお金の出所を詮索し、ジョンソンがルールを破ったとの結論を出し、それを規範委員会に送った。規範委員会がさらに調査を進め、ジョンソンの報告には誤りがなかったとしたが、ジョンソンのコミッショナーへの対応を批判した。ジョンソンは、パターソンの件をこの規範コミッショナーへの復讐に使ったのではないかというのである。この規範コミッショナーに調べられて制裁を科されたり、調査を受けていたりする議員はかなりおり、このコミッショナーを嫌っている下院議員はかなりいると思われるが、ジョンソン首相の復讐の話はさもありなんと思わせるところにジョンソンの問題がある。

英国の予算発表

リシ・スナック(Rishi Sunak)財相が、今後3年間の予算発表を2021年10月27日に行った。この予算発表の前には、財政緊縮に向かいたい財相と、多くの政策課題に対応するために予算を拡大させたかったジョンソン首相との軋轢が報道された。

英国では、コロナパンデミック対策で、休業補償などを含め既に多くの財政支出を行っており、その上、国民保健サービス(NHS)の医療体制など多くの公共サービスを強化する必要があった。2010年から続く保守党政権で緊縮財政をとってきたため、各省庁で公共サービスの問題が山積していたのである。

その結果、この予算では、大幅な公共支出の増加と増税となった。経済全体に対する公共支出の割合は1979年のサッチャー保守党政権の誕生の頃の高いレベルとなり、また、税は、第二次世界大戦後の復興期の1950年初め以降最高レベルとなった。そして保守党は、2019年の総選挙で掲げた保守党のマニフェストの公約を2つ破ることとなる。破ったのは、①「国民保険税(National Insurance)を上げない」を破って上げたこと、②「年金は3つの数字(物価上昇率、賃金上昇率、2.5%)のうちの最も高い数字に基づいて上げる」としていたが、これを今回は停止し、物価上昇率の3.1%とした(後述)。

一方、供給不足、人手不足、燃料高騰などのため、インフレが起きていることから、国民生活対策として、①最低賃金を来年4月から時給8.91ポンドから9.5ポンド(1,470円:£1=155円)にする、②ユニバーサルクレジットと呼ばれる生活扶助を受けている人たちは、働くとその賃金に対して受ける扶助金が一定の割合で差し引かれるが、その割合を減額した。一見、国民の世帯当たりの所得がかなり増加するようだが、2022年には4%余りのインフレが予測されており、国民生活がパンデミック前より悪い状態は、2023年後半まで続き、その後も2020年代半ばまで平均1.3%程度の増加にとどまると見られている。

スナック財相は、ジョンソン後の保守党党首(そして首相)の座を狙っている。保守党の中の小さな政府・減税支持勢力を味方につけるため、次期総選挙(5年任期で、2024年までに行う必要がある)の前に減税する意向を示した。その思惑どおりになるかどうか注目される。

[国民年金のトリプルロック(Triple Rock]について]

これは、2010年の総選挙で政権を担った保守党と自民党の連立政権で始まった。翌年の国民年金は、3つの数字、①9月の物価上昇率(CPI)、②7月の平均賃金上昇率、そして③最低保証の2.5%のうち最も高い数字を使って計算することとなっている。2022年4月からの年金計算は今回だけ②を除き、①と③だけを使い、3.1%の上昇率とした。なお、7月の平均賃金上昇率は8.3%だったが、パンデミックの影響で、歪んだ数字と判断されたからである。なお、これまでの年金上昇率は以下のとおり。

適用日

物価上昇率

平均賃金上昇率

最低保証

採用数字

6 April 2012

5.2%

2.7%

2.5%

物価上昇率

6 April 2013

2.2%

1.5%

2.5%

最低保証

6 April 2014

2.7%

1.2%

2.5%

物価上昇率

6 April 2015

1.2%

0.6%

2.5%

最低保証

6 April 2016

-0.1%

2.9%

2.5%

賃金上昇率

6 April 2017

1%

2.4%

2.5%

最低保証

6 April 2018

3%

2.3%

2.5%

物価上昇率

6 April 2019

2.4%

2.6%

2.5%

賃金上昇率

6 April 2020

1.7%

3.9%

2.5%

賃金上昇率

6 April 2021

0.5%

-1%

2.5%

最低保証

6 April 2022

3.1%

n/a

2.5%

物価上昇率