BBCの見る安倍政権女性活用政策

安倍政権では、アベノミクスの一環としてウーマノミクスを訴えてきた。日本で最も生かし切れていない人材は女性だとし、女性の活用を重点政策としたのである。その成果についてイギリスの公共放送BBCの「リアリティ・チェック(真偽の確認)」が評価している

安倍首相らは、その政策の効果を自画自賛している。25歳以上の女性の雇用率は、過去5年間増加しており、アメリカより高いという。日本の66.1%はOECDの平均59.4%を上回る。

しかし、BBCは、女性の雇用の57.7%は非正規雇用であり、質より量となっている、またその一方、かつて掲げた公的機関・民間会社の幹部の女性の割合を2020年までに30%にするという目標は、2016年に公的機関7%、民間15%に下げられたと指摘する。

さらに、世界経済フォーラムの男女格差指数の世界ランキングで、日本は10年前80位であったのに、2016年の111位、2017年の114位と下がっているが、この主要な原因は、女性の政治参画が逆進していることだと指摘する。2014年の安倍内閣の女性閣僚数は18人中7人だったが、今では、20人中わずか2人。女性衆議院議員は、465人中47人でG8参加国最低。これらは政治的意思次第で変えられることだと指摘する。

イギリスでも、統計などの数字を政治家が自らに有利なように解釈して利用する傾向がある。フェイクニュースの問題もあり、各種の「リアリティ・チェック」がこのような数字の正当性を検証することが流行している。日本の政府が外国の機関のこのような評価分析を好むとは思われないが、個々の国内政策が国際的に吟味される時代となっていることを改めて感じる。

まだ道遠い北アイルランド自治政府復活

北アイルランドでは、2017年1月に自治政府が倒れて以来、自治政府を復活できない状態が続いている。これは、北アイルランドの特殊性に関係している。北アイルランドでは、イギリスとの関係を重んじるユニオニスト(キリスト教のプロテスタントと重なる)とアイルランド共和国との関係を重んじるナショナリスト(キリスト教のカソリックと重なる)の紛争が続き、両者の妥協がなければ北アイルランドの平和は保てないという考えから、自治政府のトップである首席大臣と副首席大臣の二人をそれぞれの側の最大政党から選出する仕組みを作ったことにある。

この仕組みは、北アイルランド地元の政党、イギリス政府、アイルランド共和国政府だけではなく、アメリカ政府も絡んだ大掛かりで、しかも複雑な交渉の結果生まれたものだった。これはベルファスト合意(グッドフライデー合意)と呼ばれる。

2017年1月の自治政府の崩壊は、首席大臣の、民主統一党(DUP)のフォスター党首がビジネス担当相時代に始めた再生可能エネルギー政策の法外な政府負担の問題に端を発し、シンフェイン党のマクギネスが副首席大臣を辞任し、その後ナショナリスト側最大政党のシンフェインが代わりの副首席大臣を出さなかったことによる。

それ以来既に13か月経つ。2017年3月には北アイルランド議会選挙が行われた。また、同年6月にはイギリス全体の総選挙も行われたが、北アイルランドの結果は、ユニオニスト側、ナショナリスト側の両者ともそれぞれの最大政党であるDUP、シンフェインがさらに勢力を伸ばし、北アイルランドの政治構造は全く変化していない。すなわち、北アイルランドの自治政府の復活のためには、DUPとシンフェインとが納得できる合意をなしとげなければならない。そのためにイギリス政府、アイルランド政府も尽力してきた。

問題の一つは、現在、北アイルランド自治政府は、その公務員によって運営されていることであり、通常、北アイルランド議会の判断で行われる予算の議決などができないことだ。必要最小限の法制は、ロンドンのウェストミンスターの議会で行えるが、このままでは北アイルランド政府が成り立って行かないという危惧がある。北アイルランド議会を停止して、ウェストミンスターからの直接統治をするという方法はあるが、これはベルファスト合意の趣旨を損ない、しかも新しい法制を設ける必要がある。

一方、複雑な北アイルランドの政治にウェストミンスターの政権が深く関与することには慎重だ。

さらにメイ政権は、2017年6月の総選挙で過半数を失い、DUPの閣外協力で政権を維持していることがある。DUPの機嫌を損なうことは政権の危機につながる可能性がある。昨年12月、イギリスのEU離脱後の、アイルランド島内の、英国の北アイルランドとEUメンバーのアイルランド共和国との間の国境問題が大きな話題となった。DUPの立場は、北アイルランドがイギリスの他の地域と同じように扱われることを求め、現在設けられていない国境での検問の再設置には反対というものである。これらを満足させることはメイ政権にはそう簡単なことではない。一方、機能していない北アイルランド議会議員の給与が全額払われているが、これを減らすべきだという報告書もあり、メイ政権には重荷になっている。

2018年2月、シンフェイン党の党首がジェリー・アダムズからメアリー・ルー・マクドナルドに変わる中、新しい動きがあった。シンフェインの要求していたアイルランド語を公式に法律で認めることにDUPが理解を示し、この問題の解決で、自治政府が再開するのではないかという期待が盛り上がったのである。ただし、DUP側の支持者らの理解を得られず、DUP側が退いた。

これには、シンフェインの伝統的な交渉戦術があるように思われる。一つの課題を粘り強く推していくのである。新党首のマクドナルドは、もしこの要求が認められれば、新党首として大きな成果となる。シンフェインは、政治情勢の移り変わりにその支持者らをともに連れていくことを重視している。すなわちシンフェインは政治情勢を極めてよく読んでいるといえる。一方、DUP側は、自治政府の再開に躍起になっており、シンフェインほど細かい配慮をしていない。

北アイルランド自治政府の再開にはまだ時間がかかりそうである。メイ首相の頭痛の種は残ったままだ。

メイ首相のお粗末な政権運営

保守党内でもメイ首相への批判が高まっている。メイ首相は、国内政治で停滞しているばかりではなく、EU離脱交渉でも閣僚の中の強硬離脱派とソフト離脱派の対立をまとめられていない。また、メイ首相が専心しているとされるEU離脱交渉はうまくいっていないと有権者の多くが見ている。ところが、通常大きく下がるはずの支持率がそれほど影響を受けていない。最近の世論調査では、有権者の保守党支持が野党第一党の労働党を上回っているさらに最新のOpinium/Observer。この原因には様々な説明がある。有権者が政治に注意を払っていない、有権者がEU離脱の賛成、反対で分かれていて、その線に沿って政党支持を決めている、または、労働党の支持がこれ以上伸びない点に達しているなどだ。

メイ首相は、イギリスのEU離脱はイギリスにとって歴史的に重要であるため、自分がそれに専心しなければならないと考えているようだ。しかし、そのようなことは第二次世界大戦後でもメイ首相に限ったことではない。例えば、第二次世界大戦で破産状態となったイギリスを立て直し、しかも「ゆりかごから墓場まで」と言われる福祉国家を築いたアトリ―である。アトリ―はその福祉国家の中心となる国民保健サービス(NHS)の設立をナイ・べヴァンに託した。すべてを首相が担当できるわけではなく、そのような権限移譲をしなければ重要なことを成し遂げることは極めて難しい。

メイ首相はマイクロマネジャーで、すべてを自分が決めたいと思っている人物だ。しかもなかなか決断できない人である。それがEU離脱交渉だけではなく、国内政治にも大きな影を投げかけている。メイ首相はいまさらそのやり方を変えられないだろうが、その政権運営がどこまで続くか見ものである。

保守党の党首選が間近?

もし、保守党の下院議員たちが党首に不満を持ち、党首を変えたいと思えばどうするか?

党首選を仕切る無役の下院議員の会、1922委員会の会長に党首不信任の手紙を送る。もしその数が保守党下院議員の総数の15%となると、保守党下院議員による党首の信任投票が実施される。そこで信任されなければ党首選が実施されることとなる。その場合には現職は立てない。もし信任されたとしても党首としての権威はさらに衰えることとなる。

現在、保守党下院議員の数は316人。すなわちその15%である48人が党首不信任の手紙を送ると、不信任投票が実施されることとなる。

1922委員会の会長が、メイ首相の不信任が15%に達し、党首選になるのではないかと心配していると伝えられた。現在の時点で、既に40人ほどの手紙を受け取っているようだ。もしこの情報が正確なら、あと10人足らず。そう遠い数字ではない。

メイ首相を巡る保守党内の動き

ボリス・ジョンソン外相とジェイコブ・リース=モグ下院議員がテリーザ・メイ首相(保守党党首)を倒すことにつながる動きを示しだした。メイ首相への保守党内の不満は、これからますます高まる気配だ。

ジョンソンが、イギリスがEUを離脱した後、EUに支払う必要がなくなるお金から国民保健サービス(NHS)に1週間1億ポンド(155億円)支払うべきだと閣議で要求すると報じられ、大きな物議をかもした。

これは、2017年のEU国民投票のキャンペーンで、離脱派のリーダーとして、EUから離脱すれば、NHSに週に3億5千万ポンド(540億円)回せると訴えたことが背景にある。予算がほとんど増加しない中、需要の増加で苦しんでいるNHSに理解を示す姿勢を打ち出し、メイを直接攻撃せず、自分の存在感を出す目的があったのだろう。

当の閣議では、ジョンソンはメイから叱責され、さらに他の閣僚らから、閣議で話し合うことは他で話すべきではないとクギをさされた。しかし、ジョンソンの目的は達成されたように思われる。

一方、EU離脱強硬派のリース=モグは、メイ政府のEUとの交渉姿勢は臆病で、EU離脱に伴う打撃をなるべく少なくしようとしているようだとコメントした。メイを支持すると言うが、ブックメーカーが、メイの後継の最有力候補としているリース=モグがこのような発言をすることは、党内の空気を反映しているといえる。

メイは保守党内を掌握しているとはとても言えない。EUとの交渉は3月から本格的に始まるが、それまででもメイ政権への危機が起きる可能性はある。

シンフェインの新リーダー

シンフェインの党首ジェリー・アダムズが退き、その後任にメアリー・ロウ・マクドナルドが就くこととなった。

マクドナルド(1969年5月1日生まれ)は、2009年からシンフェインの副党首を務めている。48歳。2004年にシンフェインの欧州議会議員に選出され、2011年からアイルランド下院議員を務めている。他の多くのシンフェインの議員と異なり、裕福な家庭で育った人物で、他の政党のメンバーだったことがある。

シンフェインは、北アイルランドとアイルランド共和国の両方にまたがる政党で、北アイルランドとアイルランド共和国の統一を目指している。マクドナルドが党首となることで、既に北アイルランドのリーダーが女性であることから、シンフェインのトップ2人が女性となる。血にまみれた過去のあるシンフェインのイメージが大きく変わる。

党首を退くアダムズは、IRAのトップ級幹部だったと言われている。アダムズの相棒だったマーティン・マクギネス(故人)は、自らIRAの幹部だったことを認めたが、この2人はIRAに非常に大きな影響力を持っていた。

IRAの行った多くの殺人事件にアダムズやマクギネスが関与したと考えられているが、新しい党首にはそのような過去から引きずってきた問題がない。その意味では、北アイルランドで第2、アイルランド共和国で第3位の政党で、国境を越えて勢力を拡大してきたシンフェインにとっては、さらなる飛躍を目指す、一つの大きなステップとなるだろう。

ここで注目すべきは、IRA/シンフェインのリーダーの選び方だ。アダムズとマクギネスの例を見てもそうだ。ヒース首相時代の1972年7月7日、IRAのトップが、当時の北アイルランド相と密かに会談した時、2人はそのメンバーの中に含まれていた。アダムズ(1948年10月6日生まれ)は当時23歳、マクギネス(1950年5月23日生まれ)は22歳だった。このような重要な機会に出席したということは並々ならぬことだった。その当時から2人がはっきりとしたリーダーシップを発揮していたばかりではなく、将来のトップとして見込まれていたのである。

マクドナルドは、はっきりと話す、強い女性だ。他の政党からもその能力は認められている。シンフェインのような組織が生き残り、勢力を拡大していくためには、リーダーシップの質が極めて重要だ。それが次の世代のリーダーを選ぶ基準となっているようだ。シンフェインは、世代交代の時期を迎えていた。このマクドナルドの就任で、シンフェインがどう変わり、アイルランド共和国と北アイルランドの政治にどのような変化を起こすか注目される。

懲りないメイ首相

メイ首相は内閣改造を行った。新年を迎え、フレッシュな政権のイメージを訴える意図があったと思われるが、不発に終わった。そのことよりも、メイ首相の変わらない手法に落胆したのは筆者だけではないだろう。

メイは相変わらず、側近だったニック・ティモシーに頼っているようだ。ティモシーは、昨年6月の総選挙で、メイが保守党の議席を減らした後、保守党下院議員らの圧力で、首相のスペシャルアドバイザーを辞任した人物である。そして、よく「トーリーグラフ(保守党新聞の意味)」と揶揄されるデイリーテレグラフ紙のコラムニストとなった。ティモシーは、もともと教育問題に深く関わっている。過去の言動で大きな議論を呼び、4 万ものツイッター投稿を削除したトビー・ヤングの、新大学監督機関、学生局(Office for Students)の役員会への任命の背後にあるのではないかと思われる。ヤングは、フリースクールと呼ばれる新しい形の学校の組織「ニュースクールズネットワーク」で、ティモシーの後任の代表者となった人物である。結局、ヤングは学生局役員を辞任することとなる。

しかも、ティモシーは、グリニング教育相が更迭された背後にあると見られている。この更迭は、保守党の議員も含め、大きな議論となった。メイは相変わらず、政治感覚の乏しい側近の声に動かされている。

さらに、その閣僚の任命の仕方だ。その典型は、北アイルランド相に任命されたカレン・ブラッドリーである。この女性は、前任の文化相時代、政府出資のテレビ局チャンネル4の役員への黒人女性の任命に反対して論議を起こした。チャンネル4のトップらが歓迎し、テレビ局の監督機関オフコムが推薦した、イングランド芸術評議会の副会長だった女性に拒否権を行使したのである。大きな問題となり、説明を求められたが、十分な説明ができなかった。結局、1年後にこの女性の任命を認める。

北アイルランドへの対応は熟練の政治家でも難しい。再生エネルギー政策の欠陥で大きな財政問題を抱えているだけではなく、政党間の深刻な対立で、分権議会が2017年1月から停止されている。北アイルランドの政治を正常化するのはたいへんだ。メイは、自分が判断できると考えている節があるが、そのような何もかも自分が采配したいし、できるという発想そのものがメイ政権のこれまでの失敗につながっている。自分に政治感覚が乏しいことを自覚していないようだ。

今までとやり方の変わらないままでは、EU離脱交渉も含め、メイ政権の前途が苦しいものとなるのは間違いないだろう。

メイに拍手喝采したEUリーダーたち

メイ首相が12月14日、EU首脳の夕食会に出席した。そこで短いスピーチをしたメイを他の首脳が拍手喝采でたたえたという。イギリスのEU離脱交渉には、いいニュースだろう。2段階の交渉のうち、第1段階の交渉で合意に至り、貿易を含む将来の関係を扱う第2段階の交渉に進むこととなったが、今後の交渉が比較的明るいものとなる兆しである。

イギリスの下院の採決で、EU離脱関係で初めて敗れたばかりのメイも他のリーダーたちの拍手には喜んだだろう。しかし、これは国内政治的にはそうよいニュースではないだろうと思われる。というのは、特に強硬離脱派が、メイが第1段階の交渉で譲歩しすぎたのではないかという疑いを強めるからだ。これからの国内対策が難しくなるかもしれない。

Blessing in disguise

これまでのEU離脱交渉の展開を見ていて、強く感じることがある。英語に“Blessing in disguise(不運に見えるが実は幸運)”という言葉があるが、これが当てはまるのではないかと思われる。

昨年7月に首相に就任して以来、メイの首相としての能力には疑問符が付きっぱなしであった。首相官邸前の最初の演説で、メイは、なんとか生計を立てている人たちを助けると言いながら、それは言葉だけで、実行されていない。メイの最重点項目の一つだった、能力選別「グラマースクール」の拡張、新設政策は、保守党内でも多くの反対を受け、既に放棄した。権限移譲できず、小さなことにこだわりすぎ、しかも「秘密裏」にことを進める傾向は、EU離脱交渉でもそうで、政府内で何が起きているかわからないという不満が募り、政府内のまとまりを欠いた。

大勝するとの世論調査予測でメイが突然実施した今年6月の総選挙では、予想外に保守党は議席を減らし、過半数を割り、北アイルランドの統一民主党(DUP)の10議席の閣外協力で政権を維持していく羽目に陥った。メイ政権は風前の灯火で、いつ崩壊するかわからないという状況だったが、これまで生き延びてきた。総選挙で議席を伸ばした、コービン党首率いる野党労働党が復活の兆しを見せ、もし再び総選挙があれば労働党が政権に就く可能性がある上、EU離脱という難問を処理しなければならず、保守党でメイの後の火中の栗を拾う人物が現れなかったことがその大きな原因だ。

メイは、12月初旬、追い込まれた立場にいた。イギリスのEU離脱に伴うこれまでの責任負担部分の支払い(いわゆる「EU離婚料」)ばかりではなく、政権を維持していくためにアイルランドの国境問題にも全力で取り組まざるを得なかった。EU側も、メイが国内的に苦しい立場にあることは十分に承知しており、協力的だった。

保守党が下院で過半数がないため、メイは、従来のドグマ的で専横的な政権運営から、保守党内の考え方の違い、野党の動き、さらに北アイルランドのDUPの意向などを慎重に見極めながら政権運営をしていかざるをえなくなっているが、それが現在の状況につながっている。まさに“Blessing in disguise”ではないか。

英国下院のEU撤退関連の採決でメイ政権が敗れる

12月13日の下院で、EU撤退法案の修正案が4票差で可決された。EU離脱に関して、メイ政権が敗れるのは初めてである。イギリスの新聞にはこれを殊更に騒ぎ立てる向きがあるが、実際にはそう大きな意味があるとは思われない。メイ政権は下院で過半数がなく、北アイルランドの10議席を持つ民主統一党の閣外協力で政権を維持している。そのため、もし少数の保守党の下院議員が、今回は11人だったが、反対票を投じれば、政府提出法案が否決されることとなる。

この修正案は、EU撤退法案が、EUとの最終合意の実施を政府が命令で行うことができるとしていることに歯止めをかけるもので、議会が法制の形で最終合意を承認しなければできないとしたものである。政府側は、これまで議会に最終合意を承認するか承認しないかの採決をさせるとしてきたが、もし承認しなければ、合意なしの離脱だとしてきた。また、そのような議決の時期がいつかはっきりしていなかった。

EU撤退法案には、イギリスがEUを離脱するにあたって、これまでイギリスの法制でEUの法令に依拠していた部分を、一挙にイギリスの法制とすることを含んでいる。2万にもわたると思われる項目を検討していくには膨大な時間がかかり、しかも最終合意の内容次第で変更方法が異なるかもしれない。実情にそぐわないものは、管轄大臣の職権で変更できるとしているが、本来、議会で吟味して決められるべきものを、このような方法で行うのはおかしいという議論があり、メイは譲歩した。

イギリスは、議会主権の国である。すなわち、議会の法制権をバイパスするようなやり方は、EU離脱が本来、イギリスの主権を取り戻すという考え方から出てきていることを考えると、EU離脱の場合でも、本来の目的にそぐわないこととなる。

多くは、大臣が職権を党利党略に使う可能性があると心配している。そして、議会がきちんと関与した方法を模索すべきだとする考え方が、保守党内にもある。それらの人たちは、いわゆる「EU残留派」であり、それがゆえに、イギリスのEU離脱に反対していると攻撃されている。しかし、これらの人たちが求めた改正案は、そう極端なものではない。

今回の事態に至ったのは、メイ首相の考え方にあるのは間違いないように思われる。EUとの間で第一段階の交渉に合意し、貿易を含む将来の関係を扱う第二段階の交渉に進むこととなり、保守党内をかなりまとめることができたと判断し、その勢いで、今回の採決も乗り切れるだろうと判断したのではないか。メイ政権には、裁量の余地を残したいという気持ちからか、このような雑な計算がしばしばある。きちんとした議論を詰めるべきだった。政府側は、採決前、反乱の可能性のある議員に猛烈な働きかけをしたが、不十分だった。保守党内の強硬離脱派に配慮し、メイが簡単に野党に妥協する姿勢を見せたくないという考えもあっただろう。

但し、これからのイギリスとEUとの交渉を考えると、議会でメイの提案が頻繁に否決されるという事態は避けたいだろう。EU側との第1段階の交渉でも、メイはその方針を大きく覆した。そのようなことが、議会対策でもあるように思われる。

英EU離脱後どうなるか?

イギリスは、EUを2019年3月に離脱することとなっている。12月8日にイギリスとEU 側は基本的な3つの問題を扱う第1段階の交渉に合意し、貿易を含む将来の関係に関する第2段階の交渉に進むことに合意した。今後の交渉の経緯如何では、イギリスの離脱の時期が変更される、または、離脱後に2年ほど設けると見られる「移行期間」が延長される、さらには現在では考えにくい「合意なし」などの可能性もあるが、イギリスがいずれEUを離脱するのは間違いない。

イギリスとEU側は、お互いができるだけ自由に貿易できる環境を作ろうとしている。しかし、お互いの原則的な条件のために、それを現状維持のような形で実施するのは極めて難しい。

イギリス側の条件は以下のようなものだ。

  • EU市民の英国における権利を制限する(特に労働力の移動の自由)
  • イギリスの主権の回復(EUルール・裁判管轄権から離れる)
  • 非EU国との自由な貿易関係の樹立(現在はEUのみが行い、個別にはできない)

EU側の条件は以下のようだ。

  • EU加盟国の利益を損なわない。
  • EUの4つの自由(もの、サービス、資本、人)を守る。
  • EUの統一を維持する。

いずれの側の条件も100%かなえるのは難しいが、そこに妥協する余地があるともいえる。すなわち、いずれの側も、イギリスがEUを離脱した後、少なくともある程度の期間、経済的な悪影響があることを想定している。

アメリカのシンクタンク、ランドコーポレーションが、イギリスのEU離脱後の経済予測を発表した。このシンクタンクはその予算の半分以上をアメリカ政府から得ており、アメリカ寄りの分析が出ることは予測できる。

このシンクタンクの結論は、以下のようである。

  • EU側と比べ、イギリスへの経済的悪影響が大きい。特に合意なしの場合。
  • アメリカのイギリスへの投資の28%はイギリスがEUメンバーであるため。
  • EUがアメリカに敵対的になる可能性がある。イギリスがEUを離脱すると、アメリカのパートナーとしてのイギリスの影響力がEU内で無くなるため。
  • アメリカ、イギリス、そしてEUの3者間の包括的自由貿易協定が、イギリスの経済にベストだが、そのような協定ができる可能性は少ない。

上記で述べたように、イギリスもEU側も、イギリスのEU離脱で、お互いに経済的にある程度マイナスとなることは覚悟している。ただし、長期的に見ると、イギリスのEU離脱が必ずしもマイナス面ばかりだとは言えないかもしれない。特にEUの経済成長力より、それ以外の国の経済成長力が大きく上回っている例が増えているからだ。

イギリスのEU離脱は、経済的なものというより、政治的なものだ。そしてそれが長期的にどのような結果を招くかは、これからの離脱交渉と世界の今後の政治、経済状況によると思われる。