追い詰められているスナク首相

スナク首相率いる保守党は、世論調査の支持率で労働党に20%程度の差をつけられている。劣勢挽回を狙ったハント財相の「秋の声明」で働く人とビジネスに対する減税を打ち出した。しかし、その減税は、公共サービスに必要な支出を軽視して生み出したもので、物価上昇率が4.6%に下がったとはいえ、依然大きく物価が上昇している中で生活苦の中にある人々にはそれほど大きな助けにはなっていない。

スナク首相の対応は、目先の問題に対応したもので、長期的な展望に立ったものではない。例えば、ロンドンからバーミンガムを経てマンチェスターなどのイングランド北部への高速鉄道HS2の建設で、バーミンガム以降の路線の建設をキャンセルした。しかし、バーミンガムからマンチェスターの鉄道路線は、キャパシティの余裕が乏しく、老朽化している。キャンセルされた区間の既に買収された土地は売りに出される予定だ。これでは、この路線の復活は極めて困難だ。

HS2の代替策として「自動車の運転手」を助けるとして、道路の傷み修理の遅れている道路網の改善を図る計画を打ち出した。また、ロンドンの空気浄化対策に反対し、また電気自動車への移行目標年を先延ばしし、さらに化石燃料開発の促進に踏み切った。次の総選挙が1年以内に行われる見込み(13カ月以内に実施しなければならない)で、来年2024年5月にある可能性もささやかれている中、スナク首相が英国の長期的なビジョンよりも目先の有権者にアピールする政策を重視していることは明らかである。むしろ、大方が次期総選挙では労働党が勝つと見ていることを考えると、スナク首相は、後のことを考えずに、次期総選挙後のことは労働党に心配させた方がよいと見ているように思われる。なお、次期総選挙での労働党勝利の賭け率は1-8である。ほぼまちがいなく労働党が勝つと出ている。

一方、コロナウィルスによるパンデミックの政府の対応をめぐる公的調査が行われている。この中で、医療の専門家や科学者が、それぞれの日記に、当時財相だったスナク首相を「死の博士(Dr. Death)」や「人を死なせてもOKだ(Just let people die, that’s OK)」などと記していたことがわかった。人々の行動の自由を大幅に制限するロックダウンで飲食業界が大きな影響を被ったことに対して、スナクが多額の補助金を出して「外食して助ける(eat out to help out)」政策を打ち出したことに関連している。この政策が発表される前にスナクは専門家に相談しなかった。専門家たちはこの政策を、政府がお金を使ってコロナを拡散させたとして厳しく批判している。数週間後には、スナク首相が、この公的調査に出席して質問を受けることになっている

また、スナク首相は、移民問題でも苦しい立場に立っている。2022年の移民数(移民として入国してきた人の数から移民として外国に移った人を差し引いた数)が74万5千人だったと統計局が発表し、移民数が大きく増えていることが明らかになったからだ。この移民の最も大きな原因は、学生、そしてケアワーカーや看護師である。その上、不法移民の問題もある。いずれも2023年は2022年よりも減少しているとされるが、有権者の6割が移民は高すぎると思っており、スナク首相に大きな圧力がかかっている。ただし、外国人学生の受け入れは学費収入や生活費で英国の経済にプラスになる上、大学の財政を助けている。また、ケアワーカーや看護師が不足しており、急には移民を止められない状況だ。経済成長がほとんどない中、来年にも景気後退の可能性があるとの予測もあり、移民の減少がマイナス成長をもたらす可能性がある。

いずれにしても、問題解決には、抜本的な対策が必要だ。しかし、保守党内に次期総選挙への不安が高まり、批判勢力を抱え、将来へのビジョンに欠けるスナク首相には、極めて厳しい前途であると言える。

スナク首相の苦境

スナク首相が次期総選挙を来年10月31日に考えているのではないかという憶測がある。次期総選挙は遅くとも2025年1月までに実施なければならない。しかし、スナク首相率いる保守党は、野党第一党の労働党に15%を上回る差をつけられており、その差が縮まらないばかりか、直近の世論調査の中には28%という結果が出たものもある。

インフレはやや落ち着いてきたが、それでも6.7%と高く、生活苦は続いている。その中で、来年10月31日総選挙のアイデアは、1年後には現在の経済状況を改善できる可能性に期待をかけ、また、その時は、大学生が学期中間休暇(ハーフターム)で、住んでいるところにいない可能性が高いことに期待をかけているようだ。若者の支持は圧倒的に労働党に偏っている

スナク保守党政権は、まだ1年過ぎたばかりだが、2010年から13年間続いている保守党政権の問題を引き継ぎ、さらに次から次に出てくる問題の対応に四苦八苦している。保守党下院議員の辞任などを受けた補欠選挙では、労働党や自民党に次々に敗れ、直近の2補欠選挙では、圧倒的に保守党が強かった2議席ともに労働党に敗れた次に予想される補欠選挙でも保守党が勝てる状況にはない。下院議員の不品行や、それを看過してきた風潮が問題の根底にあるばかりではない。保守党の公共サービス運営も大きな批判にさらされている。短視眼的な政策で緊縮政策を推し進め、公共投資が不足し、必要なお金を提供せず、2010年に保守党が政権に就いた時よりはるかに悪くなっているという。

10月初めの保守党大会で、スナク主将は英国の第2都市バーミンガムと北部イングランドの重要都市マンチェスターを結ぶ高速鉄道(HS2)の建設を取りやめると発表した。土地購入も進展しており、既に購入した土地は売却するという。イングランド北部と南部の格差を解消すると言いながら、鉄道網はキャパシティの限られた既存のものに頼らざるを得ない。その政策のちぐはぐさ、同時に打ち出したイングランド北部の格差解消策がいい加減なものであったために、大きな批判を受けた。驚くことにHS2建設の廃止もイングランド北部の格差解消策も政府の自ら設けたインフラ諮問委員会に諮ったものではない。

環境問題対策を緩和する方針も打ち出したが、これは、国内ばかりか国際的な批判も受けた。この政策緩和の目的の一つは、自動車の使用者を重んじるとしたものである。このアイデアは、ボリス・ジョンソン元首相が下院議員を辞任した後の今年7月の補欠選挙で、勝てると思っていなかった保守党候補者がロンドンの労働党市長の自動車排出ガス対策地域拡大方針に反対する政策を打ち出し、その結果、かろうじて勝ったことから来ている。しかし、その際の他の補欠選挙、その後の補欠選挙や世論調査の結果から、世論調査の権威ジョン・カーティス教授は、ジョンソン元首相選挙区の補欠選挙結果は、「蜃気楼」だとする。

右を向いても左を向いても苦境に陥っているスナク首相には選挙のことしか頭にないようで、場当たり的対策に終始している。そのため、なかなか日の目が見えず、苦境に陥っている。