傷つき弱まったジョンソン首相

6月6日のジョンソン首相の保守党党首信任投票で、保守党下院議員359人(下院の定数は650)のうち、211人が信任し、148人が不信任だった。ジョンソン党首・首相は信任されたが、不信任票が全体の41%あり、ジョンソン首相は「傷つき、弱まった」。この党首信任投票は一度行うとそれから1年は行えないルールとなっているが、反ジョンソン議員の中にはその動きを弱める意思のない議員もおり、1年待つつもりはないとも伝えられる。ジョンソン首相は「終わった」と言うコメンテーターは少なくない

ただし、ジョンソン首相は、普通の政治家とは異なる。5月22日のBBCサンデーモーニングで、プレゼンターのジョー・コーバンが、英国の「最も幸運な首相」と形容した。ジョンソンはかなり特殊な政治家であることを忘れてはならないだろう。

多くのコメンテーターは、これまでの保守党の党首信任に関する投票の結果を挙げて、首相として不信任票の割合の最も高かったマーガレット・サッチャーの場合41%だったが、その2日後に首相を辞任したとする。近年の党首の信任に関する投票結果の概要は以下の通りだが、保守党の党首信任制度のルールは変化してきている。

党首結果
2018テリーザ・メイ(首相)EU離脱政策で不信任37%。6か月後辞任。
2003イアン・ダンカン・スミス不信任55%で辞任。
1995ジョン・メージャー(首相)欧州政策で党内をまとめるため党首を辞任し、党首選挙を実施。27%が対抗馬に投票。2年後の総選挙でブレア労働党に大敗。
1990マーガレット・サッチャー(首相)党首選で41%が対抗馬に投票。1回目で勝てず、2日後辞任。

ジョンソン首相の売り物は、その施政能力ではない。有権者へのアピール能力である。そのアピール能力を信じている保守党下院議員や有権者はまだ多い。

ジョンソン首相の信任投票が、6月23日の2選挙区の下院補欠選挙で敗れた後で行われていれば不信任票はさらに増えただろうと見る向きもあるが、結果は同じだったと思われる。

今回の党首信任投票で、漁夫の利を得たのは、労働党だ。不安定なジョンソン政権の継続で、2019年に保守党へ投票した有権者の多くが労働党に投票せずとも自民党に投票する可能性が高まる一方、労働党への支持がさらに強まる可能性が高い。英国の総選挙は単純小選挙区で一選挙区から1人の下院議員を出す制度であるため、次点との差の少ない選挙区で優位に立つことができるからだ。