英国最初の女性財相レイチェル・リーブスの経歴に誇張があるとの指摘があり、ニュースとなった。しかし、この話は大げさすぎるように思われる。
リーブスの公式の経歴は、以下のとおりである。
・1979年2月13日にロンドンで生まれた。
・オックスフォード大学でPPE(哲学・政治・経済を学ぶコースでよくエリートコースとみなされる)卒業。2000年。
・英国の中央銀行(日本の日本銀行にあたる)イングランド銀行に2000年から2006年まで勤務。エコノミスト。
・LSE(ロンドンスクールオブエコノミクス)で経済学の修士号を取得。2004年。
・HBOS銀行リーズのモーゲージ小売部門に勤務。2006年から2009年まで。
・2010年 総選挙でリーズウェスト選挙区(現在のリーズウェストパドセイ)から下院議員に当選。
・2010年〜2011年 野党となった労働党の影の内閣の年金相
・2011年〜2013年 影の内閣の副財相
・2013年〜2015年 労働党影の内閣の労働年金相
・2017年〜2020年 下院ビジネス委員会委員長
・2020年〜2021年 影の内閣の内閣府大臣
・2021年〜2024年 影の内閣の財相
・2024年〜 財相
ここで問題となったのは、2006年から働いたHBOS銀行でのポストである。エコノミストではなかったが、エコノミストと読める書き方をしていた。
リーブスは16歳で労働党に入り、将来は政治家の道を志していたようだ。2005年には労働党からロンドンの選挙区で立候補し、破れ、2006年の同じ選挙区の補欠選挙でも落選した。そして2006年にイングランド北部のリーズのHBOSで働き始め、労働党の強いリーズウェスト選挙区の労働党の候補者となり、2010年に下院議員に当選した。リーブスは政治家になるためにリーズのHBOSでのポストよりも場所を選んだと思われる。英国では、選挙の候補者が通常の仕事を持ちながら、夕方や週末に選挙運動をする例は多い。そういう意味で、リーブスにとっては、恐らく当たり前ともいえる選択肢であったと思われる。
しかし、選挙区の候補者として選ばれ、労働党内で頭角を現わしていくためには、プラスアルファの肩書がある方が望ましい。それが、HBOSのポストに関して筆が過ぎた結果となったのだろう。
特に財相などのポストについては、米国最初の女性財相であったジャネット・イエレンも経験したように女性蔑視の風潮があり、女性の能力への疑問がつきまとう。それを乗り越えるのは簡単ではない。
なお、リーブスの経歴は、歴代の財相に決して劣るものではない。2024年10月30日の予算発表の後、企業への負担の大きい国民保険料の増額などでリーブスへの強い批判がある。右寄りの新聞などでリーブスを貶めようとする動きが顕著だが、それでは代わりにどうするかの決定的な代案は、これまで出されていないように思われる。リーブスの財相としての評価は、数年後の結果で判断されるべきで、経歴書のマイナーな記述で判断されるべきではないだろう。