グレイ首相首席補佐官叩きが続いている

スターマー政権で未だに首相首席補佐官のスー・グレイ攻撃のブリーフィングが続いているようだ。関係する報道を見ると、グレイを攻撃しているのは、スペシャルアドバイザーなど労働党関係者の一部と大臣などを含めた政治家の一部のようだ。これは、一種の「縄張り争い」のように感じられる。

グレイは、66歳または67歳と言われるが、これまでの国家公務員として40年にもわたる経験があり、高卒であるにもかかわらず、内閣府の第二事務次官にまで上り詰めた人物である。多くの政治家や他の国家公務員をよく知っている。上院議員のハリエット・ハーマは、グレイは「信じられないくらい有能」だという。ハーマンは、労働党の副党首も務めた人物で、2024年7月総選挙で下院議員を退き、上院議員となったベテランである。スターマー首相のウォードローブゲートに批判的だが、グレイがスターマー首相より年俸が多いという件では、それはグレイの仕事に見合うものだという。

野党となった保守党関係者は、ボリス・ジョンソン首相の失墜の機会を作った「パーティゲート」の調査報告書を書いたグレイを警戒しており、労働党内の「内紛」でグレイが失墜することを望んでいるようだ。かつてグレイは「英国で最も力のある女性」と表現されたほどである。スターマー政権では、これまでの行政を変えるための大幅な改革を実施しており、グレイは、政府内の交渉、調整、決定、さらに予算配分まで、非常に重要な役割を担っている。かつて内閣府の局長として各省庁官房を取りまとめていたことがあり、行政全般に対する理解が深い。同時に倫理の責任者でもあったため、政治家並びに国家公務員の倫理規範に関する情報にも詳しいとされる。

グレイは、口先のうまい人は好まないと伝えられる。実際、スペシャルアドバイザーの多くは自惚れ過多の若い人が多いだろう。野党時代に、役に立った人でも、政権に就くと優秀な国家公務員の政策分析能力を利用でき、有用性が減る人がかなりいるように思われる。スペシャルアドバイザーになって給料が前より減ったと不平を言う人たちの気持ちはわかるが、やむを得ない一面がある。また、政治家の中には、グレイが、自分たちの思うように政策を進める邪魔をしているように見ている人がいるかもしれない。今まで気軽に会いに行けたスターマーに会うにもグレイを通さなければならない。これらの人たちは、グレイが自分たちの縄張りを侵していると考えているように思われる。ハーマン上院議員は、年配の女性に対する女性差別があるとも指摘する。

現在の政府部内での問題に関して、スターマー首相がグレイを辞めさせるだろうという見方もあるようだが、スターマー首相が行政を本当に変えるつもりなら、政権のまとめ役であり、また要の役割を果たしており、時に裁決者でもあるグレイなしでは成し遂げられないように思われる。スターマー首相は自分の責任で解決すると言っているが、どのようになるか、注目される。

ブレアの失敗とスターマー首相の衣装(ウォードローブ)ゲート

キア・スターマー首相らが支援者から服やメガネなどの寄付を受けていた問題(ウォードローブゲート)は、必ずしもルール違反ではないようだが、生活苦にあえぐ国民が少なからずいる中、批判を受けるのは理解できる。スターマー首相らは今後、服や衣装の寄付は受けないと発表したが、スターマー首相の評価は大きく下落した

1997年の総選挙で地滑り的大勝利を収め、保守党に代わって政権についた労働党のトニー・ブレア元首相も政治倫理に関する問題で失敗しているF1のバーニー・エクレストンから労働党が1997年5月の総選挙の前に献金を受けていた。そして、総選挙後、政府が、スポーツ関係へのタバコの広告を大きく制限する中、自動車レースのF1への広告はその対象から外した。当時タバコ会社は、F1の広告主の主力であった。この問題では、もしF1でタバコ広告が禁止されると、英国に拠点を置いていたF1チームが他の国へ移るとの「脅迫」があったとされる。結局、労働党は献金100万ポンド(1.9億円)を返金した。この件をめぐって、ブレアは、自分の政治生命は終わったと思った時もあったようだ。この問題に関して、当時、BBCのジョン・ハンフリースがインタビューでブレアを問い詰めたが、ブレアはこの危機は乗り越えた。

ブレアが1997年に首相となった時、個人的な人気が非常に高かったスターマー首相は、それほど個人的な人気があるわけではなく、少しでもこのような話題が持ち上がれば、その影響が大きく出る。ウォードローブゲートは、スターマー首相個人の倫理観の反映であるといえる。スターマー首相は、自分はルールを守ってここまで譲歩しているのに「いったい何が悪いのだ?」という思いがあると思われる。しかし、政治には印象が大切な面があり、今後スターマー首相は、それに留意していかざるを得ないだろう。