メイの命運

離脱後のEUとの経済関係をどのような形にするかで内閣の意見が分かれている。メイ首相の望む関税パートナーシップは、EUのルールに従う必要がある上、EU外の国と自由に貿易関係が結べないと強硬離脱派が反対。その一方、強硬離脱派の選択するMax-Fac案は、テクノロジーがまだ追いついていない上、EUとイギリスの陸上の国境となる北アイルランドとアイルランド共和国の間で何らかのチェックポイントを設ける必要がでてくる。

そこでメイ首相は、内閣のメンバーにこの2案を割り振り、ソフトな離脱を目指す立場と強硬な立場を取る閣僚を混ぜて検討させることとした。何らかの妥協案が出てくることを期待している。しかし、この2案のいずれにもEU側は消極的で、この答えを出さねばならない期限の6月のEUサミットまでにメイ首相が内閣のまとまる、そしてEU側の受け入れられる結論を出すことは極めて困難だ。

この中、2019年3月のイギリスのEU離脱後に計画されている「移行期間」を予定されている2020年末までからさらに3年伸ばし、2023年までにする案が浮上している。この間にテクノロジーを発展させ、また新たな案が出てくるのを待ってはどうかという考えだ。しかし、この案に強硬離脱派がそう簡単に合意するとは思われない。移行期間中、イギリスはEU外の国と貿易合意をすることができないだけでなく、EUの意思決定に参画できないのにそのルールに従う必要がある。また、先延ばしすることは、現在の不透明な状態が継続されるだけである。不透明な投資環境のため、既に多くの企業がイギリスへの投資を控えている中、このような状態を続けていくことはできず、もし一時的な経済的な落ち込みがあっても、むしろ来年の3月ですっぱりと離脱したほうがよいという意見が強くなっていく可能性があるのではないかと思われる。

保守党内のソフト離脱派と強硬離脱派の争いは深刻である。このため、総選挙が行われるのではないかという見方もある。5月の地方選挙で労働党が予想を下回り、保守党が予想以上に健闘したため、保守党内のコービンを恐れる気持ちが減ったのではないかという見方がその背景にあるようだ。しかし、ことはそう簡単ではない。もちろんコービンは総選挙を歓迎し、昨年6月に総選挙が行われたばかりだが、その際と同様、保守党と労働党が総選挙実施に賛成すれば、下院の3分の2以上の賛成を確保し総選挙ができる。ただし、メイが勝てるという保証はない。昨年の総選挙では、保守党が世論調査の支持率で労働党を大きくリードしており、しかも党首のメイの評価は高く、労働党のコービンの2倍近くあった。現在再びメイがコービンに大きな差をつけているが、これらが役に立たない可能性の高いことは誰もが承知している。

また、タイミングの問題がある。6月のEUサミットまでに将来のイギリス・EUの経済関係の枠組みを決めなければならないという状況があるのに、5週間の政治的な空白が生まれることが許されるだろうか。

一方、保守党内でメイの引き落としが本格化する可能性がある。メイがこれまでのまずい離脱交渉の責任を取らねばならないということはわかる。数か月前に党首選などを扱う1922年委員会への保守党党首信任投票の請求は既に40を超え、あと一握りの保守党下院議員が請求すれば、信任投票が実施されるという風評が出たことがある。もし信任投票が行われ、メイが不信任となれば、代わりの党首が選出されることとなる。時間の制約から、マイケル・ハワードが党首となった時のように、保守党下院議員が一致して推せる人物があれば、党員の投票なしで党首が決まるが、ソフト離脱派と強硬離脱派の考え方がはっきりと異なる中、そのような人物は考えにくい。時に名のあがる新内相サジード・ジャビドでは、野心のある国防相ギャビン・ウィリアムソンなどが黙っておかないだろう。そうなると、下院議員の中から二人の候補者を選ぶ作業が始まり、そして党員がその二人のうち一人を選ぶこととなる。党首選出までに数か月かかる。その間、EUとの離脱交渉を放っておくことはできないだろう。その上、もしメイが信任されたとしてもメイの立場が強くなるわけではない。

上院でEU離脱法案に修正が加えられ、下院に戻ってきた。保守党にはソフトな離脱を求める下院議員がかなりいる。強硬離脱派は労働党にもいるが、下院全体では強硬離脱派は少数だ。そのため、メイが労働党らのソフト離脱支持議員をあてにして、ソフトな離脱に大きくかじ取りをし、押し切ろうとするかもしれないという憶測もある。ただし、本当に労働党下院議員らをあてにできるのかという疑問がある。

EU離脱とは関係ないことだが、メイは自分が首相となって推し進めようとした選別教育の「グラマースクール」拡大策に再び取り組み始めた。保守党内にも反対が多くうまくいかなかった政策だが、メイは自分の政治的遺産のことを考え始めているのかもしれない。いずれに転んでもメイの命運には厳しいものがある。

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