オムニシャンブルズ(Omnishambles)

キャメロン首相は、3月21日の予算発表以来、オムニシャンブルズという状態に陥っている。これは、何もかもが滅茶苦茶でうまくいっていないという状態を指す言葉である。

この言葉は、現在の状況を強調的に表現したもので、問題をそれぞれ個別に見ると、必ずしも大きな問題とは言えないように思われる。しかし、小さな問題が重なり、しかも絶え間なく出てくるということになると、それは政権担当者の能力に問題があるのではないかという疑念を生むようになる。そしてそれが次第に確信に変わっていく。そのような非常に危険な状態にキャメロン政権はあると言える。

これらの問題の大きな原因の一つは、所得税の最高税率を50%から45%に下げたことだ。これは来年4月から実施されるが、多くの国民にとっては、それが来年であろうが今年であろうが関係なく、政府は金持ち優遇という印象を持った。政府は、この政策をきちんと説明できるという自信を持っていたようだが、国民はこのことと自分たちの生活に直接関係のある「小さな問題」に関連づけ、不公平だと感じた。これがオムニシャンブルズの一つの背景である。

どのような問題がオムニシャンブルズと見られているか概括する。

1.「おばあちゃんタックス」批判:来年度から年金受給者への税の特別控除を徐々に減らす。また、来年度からの新しい受給者には、税の特別控除はない。

2.ガソリンパニック:ガソリンやディーゼルオイルをガソリンスタンドに運ぶタンクローリーの運転手がストライキに賛成した。これを受けて、政府は具体的にストライキが計画される前に、これらの燃料をジェリ缶(灯油缶)で買いだめしておくようにと勧めた。その結果、直ちにパニック買いが始まった。消費者の中には、ガソリンスタンドでガソリンが買えず、車のタンクが底をついたので、ジェリ缶のガソリンを他の容器に移し替えようとした人がいた。たまたまそれが台所で調理中だったために、引火し、大やけどを負う事故も起きた。政府がパニックを起こしたと批判された。

3.「チャリティタックス」批判:裕福な人たちの税回避を防ぐために税控除制度を制限しようとしたが、その結果、慈善事業に大きな影響が出ることが表面化し、大きな批判を受けた。

4.「パスティゲート」:コーニッシュパスティなどのパイなど温めて販売する食べ物にVAT(日本の消費税に相当)を20%かけることとしたが、消費者から総スカンを食らった。その上、キャメロン首相がパスティが好きで、買って食べたと言って、その駅名まで名指しした。ところが、その駅の店はそれより5年も前に閉店されていたことがわかり、キャメロン首相が買ってもいないのに買ったと言ったのではないかという疑いが生まれた。そのために、これは「パスティゲート」であり、「パスティタックス」ではない。

5.「キャラバンタックス」批判:移動式住宅にVATをかけることとした。このため、2千人が失業すると攻撃された。

6.「チャーチタックス」批判:文化財指定建造物の修復改造にVATをかけることとしたが、教会建物に最も影響が出ることがわかった。

7.イスラム教過激説教師強制送還問題:ヨルダンへの強制送還を下院で意気揚々と発表した内相が、欧州人権裁判所の上訴期限を一日誤っていたようで、この強制送還が可能になるまでにはまだかなり時間がかかることがわかった。

8.入国管理の遅れ問題:ヒースロー空港などで入国審査の待ち時間が非常に長くなる場合が出ており、政府の対応が遅れている。

9.文化相のBskyB問題:文化相が、メディア王マードック氏のBskyB買収の試みに便宜を図ったのではないかという疑惑が浮上した。この買収は、電話盗聴問題で取り下げられたが、キャメロン首相や担当の文化相がマードック氏の会社に非常に近いことが浮き彫りにされた。

10.リセッション:昨年第4四半期に続き、今年第1四半期もGDPがマイナス成長となり、正式に景気後退となった。政府の過度の大幅財政緊縮策が、成長を阻害しているのではないかとの批判を受けている。0.2%のマイナス成長は暫定値であり、見直されるとプラス成長となると見られているが、それでも既に政府の政策にダメージを与えており、見直されても後の祭りと言える。

英国国会での飲酒(Drinking by MPs in the Parliament)

英国の国会議員の飲酒は有名だ。もちろん飲まない人も多いが、飲酒については様々なエピソードがあり、それは過去何百年にもわたっている。3か月ほど前、労働党のスコットランド選出の下院議員が、国会のバーで飲み過ぎ、保守党の下院議員らに頭突きをし、逮捕された。この議員は、労働党を離党し、裁判で執行猶予刑を受けて、次の総選挙には立候補しないと発表した。しかし、この事件で改めて国会でのアルコール文化が浮き彫りになった。

この事件を受けて、下院の委員会で、国会内のバーのスタッフに、酔ったお客には、注文を断る、レセプションなどでは、注ぎ足す頻度を減らすなどのトレーニングをすることとなった。それとともに、ノンアルコールの飲み物の種類を増やし、アルコール度の低いビールを用意することとし、さらにバーの開店時間を見直すこととなった。いずれも妥当な対策と言えるが、これには基本的な要素が欠けているように思う。

それは、国会議員の自制と制裁である。近年の国会は、かなり状況が変わっている。過去20年ほどで大きく変わったと言われるが、ブレア政権下で下院のリーダーだったロビン・クックが国会改革を行い、審議の時間を変えた。また女性議員が増えたために、国会での飲酒文化はかなり改善された。しかし、それでも節度のある飲酒が国民の代表者である国会議員には必要だろう。

シャンペン好きで、ブランデーとジンを好んだウィンストン・チャーチルは、かつて海軍大臣を辞めた後、第一次世界大戦に自ら望んで軍人として行ったが、本部にいるより前線に出たがったと言う。命の危険が大幅に増したが、所属した大隊では本部でアルコールは飲まないが、前線では許されていたからだという。

チャーチルは「アルコールで失ったもの以上にアルコールから多くのものを得た」と言った人物であるが、「父が、酔っ払いを最も軽蔑するようにと教えてくれた」という。英国では、酔っ払いを顰蹙するが、それを許す風潮がある。しかし、国会議員はそれに甘えているわけにはいかないだろう。