ジョンソン・ロンドン市長のキャメロン首相への脅威(Boris will be a threat to Cameron)

保守党のボリス・ジョンソンが、5月3日の地方選と同時に行われたロンドン市長選で労働党の元市長ケン・リビングストンを破り再選された。キャメロン首相率いる保守党は地方選で大敗北を喫したが、労働党の強いロンドンで、大勢に逆行して勝利を勝ち取った。

キャメロン首相は、地方選の大敗の中で、ジョンソンの当選を大きな光のように扱った。しかし、恐らくこれは逆だろう。ジョンソンは、キャメロン後の保守党党首になる希望を持っている。そのため、これから次の保守党党首の座を目指し、自分のプロフィールをさらに上げようとすると思われる。そして、キャメロン首相や連立政権が落ち目になればなるほど、ジョンソンは自分の立場の違いを浮き立たせようとするだろう。その結果、キャメロン首相の目の上の大きなたんこぶになる可能性があると思われる。(なお、5月6日のサンデータイムズとメイル・オン・サンデーでキャメロンとジョンソンの党首としての比較の世論調査をしている。参照:http://ukpollingreport.co.uk/)

保守党の中には、落ち目のキャメロンに見切りをつけ始めている人がいる。一方、ジョンソンのスター性に注目し、保守党を救う人物として見なし始めている。ジョンソンは、キャメロン政権外の人物であり、統制できない上、ジョンソンの行動は「ロンドンのため」と言えば正当化されうる。一方、ジョンソンは保守党市長であり、無碍に扱えない。キャメロンが強ければともかく、かなり弱体化した今では、もしジョンソンが当選しなければ、キャメロンには、この面からの脅威はなかっただろうと思われる。

背景について触れておきたい。まず、ロンドンでは労働党が強いということだ。ロンドンには下院議員の選挙区が73あるが、その内、労働党下院議員が38人、保守党の下院議員が28人である。また、ロンドン市長選と同時に行われたロンドン議会議員選挙では全25議席のうち前回の2008年から労働党が4議席増やして12議席を獲得したのに対し、保守党は2議席減らし9議席だった。議会議員選挙では、小選挙区比例代表併用制が取られており、14議席の小選挙区での投票に併せて、ロンドン全体で党へも投票する。そして、各政党のリストに基づき11議席が割り振られる。ただし、その割り振りには各政党が既に小選挙区で獲得した議席が計算に入れられる。党への投票は、労働党41.1%(前回より13.1%アップ)、保守党32%(5.4%ダウン)で、ロンドンの保守党に大きな逆風が吹いている中、ジョンソンは勝利を得た。つまり、ジョンソンは、保守党支持層だけではなく、労働党も含め他の政党へ投票した有権者からの支持も受けて当選した。ジョンソンの当選した理由には、労働党のリビングストンに税金問題などでネガティブなイメージがあったこともあるが、有権者がジョンソンにスター性を見出したことがある。つまり、ジョンソンは面白い人物だ、との評価を受けた。

選挙期間中、ジョンソンは、キャメロン政権とは政策の面でも関係の面でも距離を置こうとし、選挙運動中にキャメロン政権の大臣が顔を出すことを避けようとした。再選された後、ジョンソンは、ジョークで「キャメロンに推薦されたにもかかわらず当選した」と言ったが、これには本音が出ていると思われる。

なお、選挙期間中、ジョンソンの怒りっぽい性格などが明らかになった。また、緑の党のロンドン議会議員で、リビングストン元市長の下で副市長を務めたこともあるジェニー・ジョーンズが討論会で「ボリスに市長ができるなら私にもできる」と発言したが、ジョンソンの行政の長としての能力には疑いがある。ジョンソン周辺からもそのような話が出ていると言われる。保守党の党首としての適格性には疑いがあるが、本人やその支持者には、そういう適格性の問題は、今は問題ではないだろう。

今後の政治の動き次第でジョンソンの政治行動は変わるだろうが、当面の方針は、2015年に予定される総選挙で下院議員となり、2016年まで市長と兼職することだろう。(この兼職は何ら問題がなく、実際、ケン・リビングストンは2000年に市長に当選したが、2001年の総選挙まで下院議員でもあった。)ジョンソンは市長の任期4年を務めると発言しているが、もし、次の総選挙で保守党が過半数を占めることができなければ状況は変わるだろう。

アイデアだけでは不十分(Coalition Government’s Mistakes Will Haunt Them)

5月3日の地方選挙が終わった。労働党が1996年以来という成功を収め、党首のエド・ミリバンドが威信を得、一時危ぶまれていたリーダーとしての地位を確保したのに対し、連立政権を組む保守党と自民党が大きく議席を失った。しかし、今回の選挙で最も注目すべきは、同時に行われた、選挙で選ぶ市長制を導入するかどうかを問う住民投票だったと思われる。

政府は、昨年11月に制定したローカリズム法で、11の大規模地方自治体に、選挙で選ぶ市長制を導入するかどうかの住民投票を義務付けた。このうち、リバプール市は、この法の施行前に住民投票なしで選挙市長制の導入を決め、5月3日に市長選挙を実施し、労働党の候補者が市長となった。(なお、この他、サルフォード市で市長選がおこなわれ、労働党の候補者が市長に選ばれた。一方、ドンカスターで、選挙で選ばれた市長と市議会の多数党との関係悪化で、選挙市長制を廃止するかどうかの住民投票が行われたが、選挙市長制を維持することとなった。)

問題は、リバプールを除いた後の10市の中で、わずかにブリストル市のみが選挙市長制にイエスで、後はノーとなったことだ。いったい何のための義務付けだったのだろうか?確かに、長期的に見れば、選挙できちんと選ばれた市長は、市の先頭に立って、責任を持って市政を預かり、強力なリーダーシップを発揮できる可能性があり、政府が地域振興の引き金にしようとしたことは理解できる。しかし、これらの市の意向や動向も十分に理解しないまま、むしろ理解しようともしないまま、この方向に走り出してしまった政権担当者=政治家にその責任があると言える。

このような失敗は、現政権には数多い。例えば、NHS改革法だ。既存システムの中間層を省き、現場のGP(家庭医)のグループにNHS予算を落とす制度を作り、そこに責任を持たせる仕組みだ。アイデアはよくわかる。しかし、問題は、そのような改革が簡単にできるかどうかだ。特に医師会や看護婦会、さらにGP会まで反対しているのに、この改革法を押し切って成立させた。

さらに大学の学費の問題だ。英国では、2校を除き、他のすべての大学が国立大学だが、これまでの最大限3290ポンド(43万円)までの年間学費から、それを一挙に9千ポンド(120万円)まで認めることにした(イングランド)。ところが、政府は、ほとんどの大学はそれよりかなり低い水準の学費にすると「期待」していたのに対し、ほとんどの大学は、上限、もしくはそれに近い水準の学費とした。いったい政府は何を考えていたのだろうか?

ヒースロー空港などの入国審査でEU外からの人たちの中には3時間待たされた人たちがおり、大きな問題になっている。これは、2010年からの財政カットのために8900人の部門からこれまでに800人程度人員が削減されている上に、内務相とこの部門の前責任者の間でいざこざがあり、内務相が面目を保つために、すべてのチェックをきちんとするよう指示されているためだ。驚くのは、現場の人たちのことを考えずに、上から指示すればそれで物事が動くと考えている人がトップにいることだ。

また国防省の空母艦載機の判断だ。現政権誕生後まもなく、他のタイプの方が安価でしかも機能が上回っている、と前政権を強く批判し、艦載機を他のタイプに変えた。ところが、そのために使われる離発着のシステムは未だに開発中で、実用化の時期に不安があり、しかも軍の方から前のタイプの方が機能的にもふさわしいとアドバイスされ、これも判断を覆さねばならない状態だ。

現政権の判断の多くは「机上の空論」からきているものが多いように思われる。アイデアとしてはよいかもしれないが、それが実施できるかどうか慎重に検討されているかどうか、現場や当事者の意見が反映されているかは二の次となっている。このような失敗は、この政権の将来を危うくするだろうと思われる。