上院改革と選挙区割り改革の取引(The Lords Reform and Boundary Changes are a Set)

選挙区割りの変更で最も不利な政党は?

答えは、自民党である。そのため、もし、保守党がこれをやり遂げたければ、自民党に代わりになるものを与えなければならない。つまり、上院改革を行い、比例代表選挙で選ぶ仕組みに変えることである。

2010年の総選挙後の保守党と自民党の連立合意で一つの取引が成立した。政権で、自民党は、下院議員選挙制度をAVと呼ばれる制度に変更する国民投票を行う、保守党は、選挙区の数を650から600に減らし、選挙区のサイズを均等にするというものだった。それぞれの党に有利な制度へ変更しようという合意であった。

自民党に有利になるはずのAV制度を導入するか否かの国民投票は2011年5月に行われ、国民はノーと言った。一方、選挙区の区割り作業は現在進行中であるが、既に区割り委員会の案は発表され、コンサルテーションもかなり進んでおり、微調整の段階である。

当初、この選挙区区割りで有利になるのは保守党で、最も大きなマイナスの影響を受けるのは労働党と見られていた。保守党が最も有利になるのは、同じだが、最も大きなマイナスの影響を受けるのは、実は自民党であることがわかっている。

その計算については、以下の二つのスタディを参照のこと。
① http://eprints.lse.ac.uk/37245/1/blogs.lse.ac.uk-The_proposed_constituency_boundary_changes_will_hurt_the_Liberal_Democrats_and_not_help_the_Tories_mu.pdf
② http://ukpollingreport.co.uk/blog/archives/4627

これらの計算では、もし次回の総選挙で、有権者が前回の2010年の総選挙と同じ投票行動をすれば、どういう結果となるかという仮定に基づいている。現在の政治状況は、その当時からかなり変化しているため、前回と同じとなる確率はほとんどない。

上の二つのスタディの内、より新しい②によると、新600議席のうち、保守党は299議席、労働党は230議席、そして自民党は46議席となる。つまり、2010年の650議席で、保守党は306議席、労働党は258議席、そして自民党は57議席獲得したのに比べると、それぞれマイナス7、マイナス28、そしてマイナス11となる。数字的には労働党のマイナスが大きいようだが、割合でいうと、最も大きいのは自民党で5人に1人近くが議席を失うこととなる。労働党は、9人に1人ほどだ。2010年総選挙では、自民党は23%の得票を獲得したが、それ以降、自民党の支持率は大きく下がっている。地方選挙の結果などからみると、選挙では自民党への支持がアップすることがわかっているが、それでも、次期総選挙では、大幅な支持率減少が予想されている。そういう中、自民党がこの新区割りを受け入れる可能性は極めて低い。唯一の可能性は、上院改革を行い、比例代表選挙で8割の上院議員を選ぶ制度に変えることだ。そうすれば、自民党は、公選で選ばれる360議席のうち、74議席を獲得する可能性がある。なお、保守党は128議席、労働党141議席と予測される。http://ukpollingreport.co.uk/blog/archives/5702 これは、自民党にとって5人に1人であり、現在の下院の11人に1人より大きな前進となる。

政権政党の思考の罠(Governing Party’s Wrong Way of Thinking)

バークレー銀行がLibor(ロンドン銀行間取引金利)とEuribor(欧州銀行間取引金利)の不正操作で、英国や米国の金融監視当局から莫大な罰金を科された。この問題には銀行内での企業文化や慣行などが深くかかわっていると言われるが、この問題の究明調査方法を巡り、政権を担当する保守党と野党の労働党の間で見解が食い違っている。

キャメロン首相らは、議会が特別の委員会を設置し、上下両院から委員を選んで、何が起きたかを突き止め、それを基に改善策を打ち出し、それを直ちに実施すべきだと言う。昨日の首相のクエスチョンタイムでも、首相は「スピーディ」という言葉を連発した。

一方、野党労働党のミリバンド党首らは、この調査は、トップ裁判官一人の率いる委員会で、厳正に行うべきだと主張している。メディアの倫理などの問題を扱っているレヴィソン控訴院判事の率いる委員会のような調査方法を取るべきだと言うのである。また、この形の委員会には時間がかかりすぎるという批判に対しては、財相の主張しているように今年の12月までにLiborの問題の報告を求め、1年後に銀行業界の文化や慣行に対する報告を求めればよい、と反論する。首相らの案の議会の委員会の焦点は狭すぎる、もっと広い問題に迫る必要があるというのだ。

この見解の違いは、政権が、銀行関係者にあまり大きな圧力をかけたくないということからきている。何らかの究明委員会が必要だということは十分認識しているが、銀行のトップらが、裁判官らの前で、尋問され、厳しい質問を受けるのは、ロンドンの金融センターとしての地位に大きなマイナスだと考えているのだ。

実は、これは、上記のLiborの問題の起きたとされる時に政権を担当していた、労働党にも当てはまる。労働党は、政権担当時、英国の金融業界に関する規制を緩め、銀行らにロンドンの居心地がよくするよう努力していた。キャメロン首相らは、労働党の規制が甘すぎたためにこういう問題がおきたのだ、と繰り返し主張している。これはその通りだと思われる。それでも昨日の首相のクエスチョンタイムでミリバンド労働党党首が指摘したように、キャメロンは、2008年に「英国には規制が多すぎる」と批判しているが。

要は、政権政党は、前の労働党政権、そして現在の保守党も含め、英国の経済の大きな要素を占める金融セクターに配慮し過ぎた、ということだ。この過ちを今回も繰り返すべきではない。つまり、銀行業界の文化や慣習にも踏み込んだ、抜本的な改革が必要だ。つまり、これまでの膿を出すために、考えられる最良の方法、つまり裁判官による委員会で究明するべきだと思われる。

特に、英国の金融業界には古くからの伝統的な文化や慣習、これは、今朝のラジオ番組TodayでのBBC政治部長ニック・ロビンソンの言葉を借りれば、「エスタブリッシュメント」の問題がある。短期的には、政府に対して大きな批判が出てくるかもしれないが、長期的に健全な金融業界を作り、ロンドンの評判を維持していくには必要なのではないか。