女性保守党議員の辞職(A Tory Female MP Resigned)

2010年5月の総選挙で当選したばかりの保守党の女性下院議員が議員を辞職した。ルイーズ・メンシュは、下院議員となる前から流行作家として有名で、議員となってからも、電話盗聴問題を担当する委員会の委員としてマスコミの注目を集めてきた。それが突然、家庭を優先したいと辞職を発表した。これまで子供の世話と政治活動を両立させてきたが、それが難しくなり、ニューヨークに住む、昨年結婚した夫のもとへ3人の子供と転居したいというのが理由である。議員や政府の役職を辞任する場合、党首や首相と手紙のやり取りをすることが通例だが、保守党党首のキャメロン首相からの返事で、メンシュは次の内閣改造の際に、政府の役職に就く可能性があったことがわかった。

この辞職で、11月15日に、警察・犯罪コミッショナーの選挙と同時に補欠選挙が行われる見通しだ。2010年の総選挙で次点との差が少なく、補欠選挙では、労働党が勝利を収めるのは間違いないと見られていることから、下院で過半数を占められず、そのために自民党と連立を組んでいるキャメロン首相は辞職してほしくなかったことは明らかだ。

しかし、何がこの辞職を招いたのだろうか。もちろん家庭の問題があったのは明らかだが、基本的に、それを犠牲にしてこのまま下院議員として政治活動していくだけの意味がないと判断したように思われる。

先に述べたように、新区割りが導入されても、されなくても、労働党が世論調査でリードしている状態で、次回の選挙戦は厳しい。しかも最近、BBCの番組でかつて、最も有害性の高いクラスAの麻薬を使ったことがあると発言した。具体的にどの麻薬を使ったかは発言を避けたが、これで選挙戦はさらに難しくなったと思われる。保守的な考え方を持つ人の多い保守党支持者にはこういう話は大きなマイナスになる。

なぜ、このような発言を公の場でしたのだろうか?英国では、このような噂がマスコミに広がり、それがマスコミに取り上げられようとする直前に自ら先手を取る形で発表することがかなりある。これは、自ら主導権を握り、発表し、潔いという印象を与えることが目的である。昨年、麻薬疑惑に関して、あるジャーナリストからのEメールをメンシュが自ら公開し、その可能性を暗に認めたことがある。いずれにしても、私の印象では、BBCの番組に出るまでは少なくとも政治家を続ける意思があったと思う。

個人的な事情がそれ以降変わった可能性もあるが、いずれにしても本人の「幸せ」や3人の子供の世話を犠牲にしてまで政治の道を継続する意義はないと判断したようだ。14歳で保守党の党員となったと言われる。母親が保守党の地方議員になる選挙運動を手伝い、何度も総選挙で選挙運動を手伝った経験があるそうだ。政治に関心があったのは間違いないが、政治に直接携わってみて、自分の本当の気持ちがわかったのかもしれない。

上院改革法案の採決で見る政党事情(Parties’ Position on Lords Reform)

連立政権を構成する保守党と自民党の間がきしんでいる。この大きな原因は、上院改革法案である(内容は下の記事を参照のこと)。自民党は、2011年5月の国民投票で、下院の選挙制度を修正するAV制度の導入が否決された後、この上院改革案に望みを託している。しかし、保守党内で上院改革法案に反対する者が多く、保守党のリーダーシップがそれを抑えることができないために、連立政権内で軋轢が起きている。

7月10日夜の下院の上院改革法案の第二読会で、保守党が最厳重党議拘束をかけたにもかかわらず、91名の保守党議員が反対した。しかも19人が棄権。法案そのものは、野党の労働党が賛成したために、賛成462、反対124で賛成多数で通過した。しかし、本当の問題は、反対票を投じる保守党議員が多いことがわかったために、この当日、この法案の審議を10日間に限定する議事進行時間表の採決を取り下げたことにある。労働党がもっと審議の時間が必要だとしており、しかも保守党内での反対が多いために、採決をすれば否決されるのは間違いない状態だった。この結果、保守党の反対者が下院でフィリバスターをするのは確実で、この法案の審議が長引くこととなる。労働党は大切なところで反対する可能性がある上、国民投票を求めている。

この結果、上院改革法案が2015年までに成立・施行される可能性はほとんどなくなった。定期国会法によって、5年の任期となったが、まだこの政権は発足して2年3か月であり、時間はあるという見方があるかもしれない。しかしながら、時間的な余裕はほとんどない。

もし、保守党の下院議員の賛成があれば、自民党と合わせて多数を持っているために、まず間違いなく否決されると見られる上院で否決されても、国会法を使い、早ければ来年秋には成立・施行できる。しかし、最厳重党議拘束をかけたにもかかわらず、110人もの保守党下院議員が反対または棄権したという事実は重要だ。つまり、キャメロン首相らが採決後に主張したように、もう一度説得を試みるといっても、それで覆る議員の数はかなり少ないものと思われる。つまり、保守党の努力で変えられる要素は極めて少ない。そうなると労働党の動きがカギとなる。しかし、労働党は、法案の基本的な案には賛成しているが、じっくりと法案を吟味すべきだという立場で、しかも事前に国民投票の実施を求めている。その上、連立政権の保守党と自民党の間の関係が悪化するのを望んでいる立場からすれば、そう簡単に連立政権を援けようとはしないだろう。自民党は、AVの国民投票の失敗があり、国民投票の事前の実施には賛成しないと思われる。

そこで、保守党の反対者が納得できるように法案の内容を大幅に変えればよいという見方があるが、選挙で選ばれる上院議員の割合を大幅に減らす案では、自民党が納得しない。それは、連立合意に反し、しかも自民党の存在意義を明示することができなくなるからだ。