イギリスの景気どうなる?

一般に景気後退の恐れは和らいだと見られている。

6月の国民投票でイギリスがEU離脱を選択すれば、イギリス経済には、すぐに大きなショックがあり、景気後退局面に入ると見られていた。しかし、それから3か月、イギリスの統計局(ONS)は、9月21日、イギリス経済への長期的な影響はまだわからないとしたものの、大きな影響は出ていないと発表した。

さらに7月の消費は0.4%アップした。消費支出は強いままで、失業は少なく、現在の4.9%は過去11年間で最低水準である。住宅価格は安定している。しかも国の借入は、1年前より少ない。

このような中、EU離脱投票はイギリスに非常に大きな悪影響を与えるとしていたIMFがその見解を大きく変え、イギリスの2016年の経済成長の見通しは1.8%でG7の中で最も高いだろうとした。なお、アメリカは1.6%、日本は0.5%の予測。IMFは、イギリスが離脱を選択すれば、インフレが上昇し、GDPが5.5%下降、株式市場は暴落、住宅価格は急降下すると予測していたが、それらが悲観的過ぎたことを認めたのである。

なお、IMFの2017年のイギリスの経済成長率は、経済が下降し、インフレが上がり、見通しが不安定なため、ビジネスが慎重となる、さらに通貨ポンドの価値が下がり、生活に響くということから1.1%としている。なお、アメリカの2017年予測は1.6%、日本は0.6%である。EU国民投票のキャンペーン中、離脱派がIMFの予測は外れるばかりだと主張し、IMFの警告はあまり効果がなかったが、IMFは面目を失ったかたちだ。

一方、EU国民投票以来、イギリスのポンドは大幅に下がっている。数日前、米ドルに対して1985年6月以来の最安値を記録したが、それがさらに下落。ポンドの購買力が大幅に弱まり、輸入品の価格が上昇する結果を招いている。インフレは、7月には前年と比べて0.6%、8月は同レベルの状態で安定しているが、来年は3%を超えるという見方もある。確かに輸出には有利で、製造業は好調だ。また、イギリスでの滞在費や買い物の価格が下がっているとして、海外からの旅行客は大きく増加している。特に、欧州、アメリカ、日本、中国などからで、特に中国からは昨年と比べて60%アップしていると言われる。

ただし、他のEU国などの外国人労働者で、本国に仕送りしている人たちは、仕送り額が大きく減り、イギリスで働く価値が薄れるという効果があると見られている。

なお、イギリスの株式が大きく上がっている。FTSE100は、10月5日には、2015年4月の記録7104に近い7074を記録した。今年2月から28%アップ、国民投票からは12%アップしている。ポンドが下がり、株が上がるという現象は、多国籍企業の本社がイギリスにある、もしくはイギリスで上場している場合、米ドルで稼いで、ポンドで利益を計上するため、ドルがポンドに対して強くなれば有利だということがその一つの理由とされている。さらに、メイ首相がイギリスのEU離脱に移民の制限を優先するとしたことから、単一市場を離れる憶測が高まり、イングランド銀行が既に0.25%の政策金利をさらに下げ、国債や預金利子からの収入が見込めないと考えられたことから、株式の方が望ましいとする動きがあるとされる。

ハモンド財相は、イギリス経済は復元力が強いが、今後2年以上、ローラーコースターのようなアップダウンが続くだろうとした。イギリス経済の行方は、今しばらく見守る必要があるように思われる。

欧州のイギリスへの影響

イギリスの現在の政治を考えるうえで欧州の問題は重要だ。これには大きく分けて二つある。まず、EU経済のイギリスへの影響、そしてEUに留まるかどうかの国民投票が行われるかどうかである。この二つがイギリスの政治・経済に、大きな不安定要因となっており、企業の投資意欲を削ぐ大きな要因ともなっている。

EU経済不安

EU経済のイギリスへの影響はかなり大きい。イギリスの貿易の半分はEUとの取引であり、EU圏、特にユーロ圏の経済の停滞はイギリスに響く。欧州中央銀行(ECB)が景気支援とデフレ回避を目的にQE(量的緩和)を発表したが、その効果には疑問がある。また、ギリシャが反緊縮財政の左翼政権の誕生で、ギリシャがユーロ脱退する可能性が高まった。ギリシャは、これまでEU、ECB、IMFらの支援を受け、緊縮財政を実施してきたが、GDPが25%減少、失業率は25%となった。そのため、国民は、反緊縮財政を訴えた左翼政権を選んだのである。ただし、ECBらは既にギリシャに厳しい態度を示しており、ユーロ圏に大きな不安がある。もし、ギリシャがユーロ離脱ということとなれば、かなりの混乱が起きると思われ、イギリスへの影響も免れない。さらにウクライナ紛争に関連した不安材料、ロシアへの経済制裁などの要因もある。5月の総選挙を控えてイギリスの経済が順調に成長してほしいキャメロン政権の不安材料でもある。

EU国民投票

次にイギリスがEUに留まるか、脱退するかの国民投票の問題である。保守党のキャメロン首相は、5月の総選挙後、首相に留まることができれば、2017年末までに国民投票を実施すると約束している。しかし、キャメロン首相らは総選挙後できるだけ早く実施したい考えだ。労働党はこの国民投票を実施しない方針だ。総選挙の結果、保守党政権、もしくは保守党が中心となる政権が誕生すると、EU国民投票の結果、イギリスはEUから離脱する可能性があり、不安材料となっている。

もし国民投票が行われれば、1975年にウィルソン労働党政権下で、国民投票を実施した時とはかなり状況が異なる。その前のヒース保守党政権下でイギリスはEUの前身であるEECに加盟していた。ウィルソンは欧州を巡る労働党内での対立に終止符を打つために国民投票を実施したのである。当時国民はEU支持であり、しかもウィルソンは国民投票でEECに留まるという結果が出ることを確信していた。しかもこの国民投票へのキャンペーンには、EECに留まる側が、脱退側の10倍のお金を使ったと言われる。つまり、ウィルソンは勝つのは間違いないという状況で、さらに念を押した運動を行ったのである。

ところが、もしキャメロン政権下で国民投票が行われれば、前回のものとかなり様相が異なる。世論調査によると、EUメンバー維持の賛成、反対が拮抗している。しかもスコットランド独立住民投票と同じく、賛成側、反対側ともに運動で使える金額は同じだと見られ、しかも使えるお金に厳しい制限があることは間違いない。つまり、1975年の国民投票のようなわけにはいかないのである。

これらの不安定さが、イギリス企業の投資意欲にも大きく水を差しており、欧州に関連して、イギリス政治の不安定さは続く。