政権政党の思考の罠(Governing Party’s Wrong Way of Thinking)

バークレー銀行がLibor(ロンドン銀行間取引金利)とEuribor(欧州銀行間取引金利)の不正操作で、英国や米国の金融監視当局から莫大な罰金を科された。この問題には銀行内での企業文化や慣行などが深くかかわっていると言われるが、この問題の究明調査方法を巡り、政権を担当する保守党と野党の労働党の間で見解が食い違っている。

キャメロン首相らは、議会が特別の委員会を設置し、上下両院から委員を選んで、何が起きたかを突き止め、それを基に改善策を打ち出し、それを直ちに実施すべきだと言う。昨日の首相のクエスチョンタイムでも、首相は「スピーディ」という言葉を連発した。

一方、野党労働党のミリバンド党首らは、この調査は、トップ裁判官一人の率いる委員会で、厳正に行うべきだと主張している。メディアの倫理などの問題を扱っているレヴィソン控訴院判事の率いる委員会のような調査方法を取るべきだと言うのである。また、この形の委員会には時間がかかりすぎるという批判に対しては、財相の主張しているように今年の12月までにLiborの問題の報告を求め、1年後に銀行業界の文化や慣行に対する報告を求めればよい、と反論する。首相らの案の議会の委員会の焦点は狭すぎる、もっと広い問題に迫る必要があるというのだ。

この見解の違いは、政権が、銀行関係者にあまり大きな圧力をかけたくないということからきている。何らかの究明委員会が必要だということは十分認識しているが、銀行のトップらが、裁判官らの前で、尋問され、厳しい質問を受けるのは、ロンドンの金融センターとしての地位に大きなマイナスだと考えているのだ。

実は、これは、上記のLiborの問題の起きたとされる時に政権を担当していた、労働党にも当てはまる。労働党は、政権担当時、英国の金融業界に関する規制を緩め、銀行らにロンドンの居心地がよくするよう努力していた。キャメロン首相らは、労働党の規制が甘すぎたためにこういう問題がおきたのだ、と繰り返し主張している。これはその通りだと思われる。それでも昨日の首相のクエスチョンタイムでミリバンド労働党党首が指摘したように、キャメロンは、2008年に「英国には規制が多すぎる」と批判しているが。

要は、政権政党は、前の労働党政権、そして現在の保守党も含め、英国の経済の大きな要素を占める金融セクターに配慮し過ぎた、ということだ。この過ちを今回も繰り返すべきではない。つまり、銀行業界の文化や慣習にも踏み込んだ、抜本的な改革が必要だ。つまり、これまでの膿を出すために、考えられる最良の方法、つまり裁判官による委員会で究明するべきだと思われる。

特に、英国の金融業界には古くからの伝統的な文化や慣習、これは、今朝のラジオ番組TodayでのBBC政治部長ニック・ロビンソンの言葉を借りれば、「エスタブリッシュメント」の問題がある。短期的には、政府に対して大きな批判が出てくるかもしれないが、長期的に健全な金融業界を作り、ロンドンの評判を維持していくには必要なのではないか。

人が重要(Manufacturing is coming back to Britain)

人の質が大切だ。英国の製造業は、人件費が高いために発展途上国に仕事を奪われていると多くの人が信じている。それはある程度事実かもしれない。しかし、本当の問題は、他にあるようだ。

5月8日と15日のBBCのテレビ番組「The Town Taking on China(中国に挑戦する町)」で、英国のビジネスマンの経験を追っている。リバプールの近くのカービーという所にクッションの工場を持つビジネスマンが、2004年に中国の福州にクッション製造の工場を開いた。しかし、中国でも人件費が開設当初の月50ポンドから現在では250ポンドと5倍になった。しかもインフレ率が年に10%近くとかなり高い。製品のクオリティや輸出費用、関税、それに為替変動などを考えると中国で製造してもメリットがほとんどなくなった。中国で作っているのは、安価なものであり、高級品は英国工場だが、アメリカなどでは「英国製」の方が「中国製」より高い価値があると見られている。そこで英国で大幅にスタッフの数を増やすこととした。これまでは地域にミシン工の経験者で失業している人がかなりおり、比較的簡単に雇うことができたが、それにも限界があるので、若者を雇い、トレーニングすることにした。この工場の地域には、失業が多く、1つの仕事に対して求職者が14人もいるという状況だという。

(なお、このビジネスマンは、5月3日のリバプール市長選に保守党から立候補した人物である。リバプールでは労働党が非常に強く、労働党候補が市長に当選した。このビジネスマンの政治的な動機が、英国で大きな問題となっている若者の失業率に取り組もうとした一つの理由かもしれない。)

この中でわかったのは、特に若い人たちの中にあまり質のよくない人たちがいることだ。よく病欠する、誰にも言わずに勝手に仕事をやめる、仕事の時間が長すぎる、仕事でへとへとになる、給料がばかばかしいほど安い(最低賃金の6.08ポンド《800円》)と文句を言う。

これは英国一般に当てはまる。英国人はよく、EUの中では基本的に労働力の自由な移動が認められているため、他の国、特に東欧のポーランドなどから来た人たちに職を奪われると文句を言う。しかし、実態は、上の若い人たちの事例と似ている。ポーランド人は一般にきちんとよく働く。ポーランド人は「日本人のように働く」と言う人もいる。これでは、英国人の中の「怠惰」な人たちとは比較にならないだろう。

心配なのは、今の日本人、特に若い人たちである。日本人の質が落ちてきていなければよいがと願う。