英国で進められる原子力発電所建設(More Nuclear Power Stations in UK)

茨城県東海村の日本原子力研究開発機構の実験施設内で放射線物質が漏れた事故もあったが、日本では原子力発電所への忌避感は強い。一方、英国では、原子力発電所の建設が益々進められようとしている。

英国の連立政権を組む保守党と自民党は、2010年総選挙のマニフェストでは原子力発電に対する立場が全く異なっていた。自民党は原子力発電所建設に反対していたが、保守党は古い原子力発電所を新しいものに建て換える方針を示していた。連立政権の合意書で、自民党は国が補助金を出さなければ認めることとしたが、今ではその立場も変更し、原子力発電所建設を推進する立場となっている。

2020年までにEUの20%のエネルギーを再生可能エネルギーとする目標があるが、オズボーン財相は、天然ガスを活用すべきだとしてこれからの10年で20余りのガス火力発電所を建設する考えがあると伝えられる。

それに対し、自民党の下院議員であるデイビー・エネルギー気候変動相は、2015年に世界的な合意ができた場合には、2030年までに炭素排出量を1990年比で、50%まで減少させる政策を打ち出す。1990年には英国の二酸化炭素排出量は7億7700万トンであったのが、2012年度には5億7200万トンとなった。この2030年の目標を達成するためにはさらに約2億トンを減少させる必要がある。この達成には、新しい原子力発電所と風力発電所の建設が必要であり、英国の原子力発電への依存度は現在18%であるが、これを2030年までに3分の1以上に増やす計画である。

このような状況の中で、昨年、日本の日立がホライゾン原子力発電所を買収した。その地に新しい原子力発電所を建設する予定である。

また、フランス電力によるヒンクリー・ポイントでの原子力発電所の建設許可が既に出されており、その建設が合意する見込みである。これまでフランス電力は建設費用が大幅に上昇し、140億ポンド(2兆1千億円)となったため、英国政府の電力の価格保証を求めて交渉していた。当初1ギガワット当たり150ポンドを求めていたが、その3分の2をやや下回る金額で合意される見通しである。また、中東や中国からの投資が期待されているという。

英国では、古い発電所を新しい発電所に建て替える時期であるが、新しい発電所の建設が遅れており、新旧交代のギャップのために電力が不足する可能性が心配されている。温暖化ガスの排出削減にも積極的に取り組んでいることから、原子力発電所への依存が増す形になっている。

マニフェストの検証?(Vetting Manifesto?)

2011年12月まで国家公務員のトップである内閣書記官長(Cabinet Secretary)を務めたオードンネル卿が、選挙の前にマニフェストを独立機関が検証をしてはどうかと言いだした(サンデータイムズ紙2013年4月7日)。

オードンネル卿のアイデアでは、選挙マニフェストがどの程度実現可能か、それを公的に検証するべきだというのである。

このアイデアは、実現可能性がないと思われる。

まず、政党がそのようなアイデアに同意する可能性は極めて少ないだろうと思われる。政党のマニフェストが、選挙前に事細かく検証され、もし、実際的でないとか、実現が困難と言われれば、その政党への信頼性が揺るぐ。

次に、そのような検証にどのような意味があるのだろうか?

2010年の総選挙の前、保守党の効率化アドバイザーであったピーター・ガーション卿が、予定されているものにつけ加えて、120億ポンド(1兆8千億円)の財政カ削減が可能だと言った。

ガーション卿は、民間会社の重役から公務員となり、政府商務局のチーフ・エグゼクティブも務めた人物である。2004年から5年にかけては、ガーション・レビューと呼ばれる政府全体の活動を見直し、歳出と効率化について勧告をした。

保守党のキャメロン党首(当時)が、ガーション卿が可能だと言っているのでできるという立場を取ったのに対し、ファイナンシャルタイムズ紙がガーション卿にインタヴューした。公務員の余剰人員解雇なしで公務員給与から10億ポンドから20億ポンド(1500億円から3000億円)のお金が捻出できると言ったことに対し、マンチェスター大学の専門家に聞いたところ、それは無理だという。そのため、ガーション卿の効率化に大きな疑問が投げかけられた。それでもキャメロンが首相になった後、ガーション効率化案を大幅に変更せざるを得なかったが、結果的に必要な財政削減を成し遂げた。

もしその「独立機関」がこの財政削減を検証していれば、否定的な結論を出していた可能性が高いと思われるが、それがその「独立機関」の意味なのであろうか?特に野党の場合には、実際に政権に就いて見なければ何が可能か不可能か分かりづらい点がある。現在でも総選挙の前に、首相の許可を得たうえで、野党が公務員トップに接触する制度があるが、それでお互いの能力を十分にはかることは難しい。

さらに、誰がそのような検証をするのだろうか。

キャメロン政権では、独立して経済や財政の予測を出す機関、予算責任局(OBR)を設けたが、この機関の予測がどこまで信頼できるかには疑問がある。経済成長、インフレ、税収などの予測がかなり外れている。その上、例えば、第四世代移動通信の周波数オークションによる歳入見通しでは、OBRは、昨年12月、財務省の予測した35億ポンド(5300億円)を承認したが、その当時から多く見積もりすぎていると見られていた。実際に財務省に入った金額は、それより3分の1も低い23億4千万ポンド(3500億円)であった。

かなり狭い分野に限定されたこのような独立機関の予測や判断に疑問が残るのに、マニフェストのような広い分野にわたるものを「独立機関」がどの程度有効に判断できるか疑問である。

さらに2010年の保守党のマニフェストのNHSの記述のように、専門家でもその真意が理解できていなかった場合もある(参照http://kikugawa.co.uk/?p=405)。この「独立機関」がマニフェストの記述をすべて理解できると想定できるものだろうか?

最も根本的な問題は、政治家と公務員の能力をどの程度だと判断するかである。非常に優れた政治家、もしくは公務員が担当する場合と、そうでない人が担当する場合では、成否だけではなく、達成度も費用も大きく異なる可能性がある。これを「独立機関」が勘定に入れて判断することは極めて難しい。時には特定の政治家と特定の公務員の組み合わせが予想以上の効果を生む場合もあるだろうし、その逆もあり得る。

それに付け加えて、この「独立機関」が誤った報告をすればどうなるのだろうか?もしかすると選挙の結果を左右することにもなりかねない。

これらのことを考えると、公的な「独立機関」がマニフェストの問題に踏み込むよりも、それは、民間のシンクタンクやマスコミに任せておいた方が賢明なように思われる。