UKIPの可能性(How far can UKIP go?)

イーストリーの補欠選挙で、議席を獲得したのは自民党だが、本当の勝利者はUKIP(英国独立党: The UK Independence Party)だと言われる。UKIPは、議席獲得を狙った、キャメロン首相の保守党をしのぎ、自民党に肉薄し、もう少しで下院に議席を獲得できるところまで近づいた。これは2010年の総選挙時とは大きな違いである。その際、UKIP候補者は得票率5%以下で供託金を没収された。

UKIPは、1993年に英国をEUから離脱させることを目標に設立された。1999年の欧州議会議員選挙で3議席を獲得したが、この選挙でUKIPが使ったお金はわずか6万ポンド(840万円)と言われる。欧州議会議員選挙は、完全小選挙区制の下院議員選挙とは異なり、地域ごとの比例代表制を取っているために、得票が議席に直接つながる。

このUKIPが5年ごとに行われる欧州議会議員選挙で大きな飛躍を遂げ、2004年には英国の78議席中12議席を獲得した。この選挙では、アメリカのクリントン元大統領のストラテジストで、その容赦ないスタイルに賛否両論のあったディック・モリスがメディア戦略をアドバイスし、しかも英国の有名なパブリシスト、マックス・クリフォードも協力した。豊富な資金力を背景に、新聞広告や全国の街頭看板二千か所での巨大ポスター掲示、さらにメディアの注目を集めるスタント、著名人の勧誘などを行い、UKIPの知名度をその1年前の4%から75%へと大きく上げたといわれる。

もともと英国には「島国根性」があり、EUになじみにくい要素がある。英国は、第二次世界大戦でも、アメリカ、ロシアと並ぶ三大戦勝国の一つで、これまで他の国の占領下で苦しんだ経験がない。また、アメリカとの「特別な関係」もある。一種の優越感のようなものがあり、EUで自分たちを守らねばならないという強い動機がない。1952年に設立されたEUの前身に加わらず、1973年にECに加入したが、加入が遅すぎ、加入当初その恩恵を十分享受できなかったこともあり、今でもEUについては他の国と温度差がある。その中で、EUとの関係が英国の問題の一種のスケープゴートになっている面があると言える。そこにUKIPに支持が集まりやすい、そもそもの原因がある。

UKIPは、2009年の欧州議会議員選挙で、保守党に引き続く第2位で72議席中13議席を獲得した。完全小選挙区の下院議員選挙では、これまで議席を獲得したことはない。下院選挙では、ほとんどの選挙区に候補者を擁立し、その多くが供託金没収(5%未満)程度の得票しかできないが、次第に供託金没収の率が減ってきている。なお、供託金は500ポンド(7万円)であり、比較的候補者が立てやすい。(なお日本では衆議院選挙に立候補するには供託金が小選挙区300万円、比例区600万円であり、返還を受けるには10%の得票が必要である。)

UKIPのメッセージは極めてクリアーである。EUからの脱退が基本的なメッセージであるが、それ以外の教育、税、健康などすべての重要な分野をカバーする政策を持つ。

イーストリー補欠選挙の後、UKIPの党首ナイジェル・ファラージュがBBCのインタヴューに答え、その中でUKIPの政策に対する質問にも答えた。例えば、このような具合である。

Q: 単一政策の政党という批判がありますが。

A: もちろんEUからの脱退は重要ですが、この地域で最も大切なことは、雇用と経済成長です。それが一般の家庭の関心事です。EU内の移民をコントロールできないようでは雇用を確保できません。来年1月からブルガリアとルーマニアからの移民の制限がなくなります。前回ポーランドなどからの移民の制限がなくなった時には、政府は移民の数は年1万5千人ほどと言っていたのに、実際にはそれよりはるかに多かった。EUから脱退すればこのような問題はなくなります。EUからの規制を撤廃し、商店、小事業者、ビジネス、一般の人たちが自由に活動できるようにすべきです。また、一日当たり5千万ポンド(70億円)のEU拠出金をやめ、一日当たり2千万ポンド(28億円)の海外援助をストップして財政削減に役立てるべきです。

Q: キャメロン首相は1917年末までに国民投票を実施すると言い、断固たる移民政策を約束しましたが。

A: キャメロン首相は国民投票をするといいましたが、それは5年後です。キャメロンは2007年に首相となればリスボン条約の国民投票をすると固く約束しましたが、それを守っていません。私はキャメロンを信じていませんし、キャメロンの行っていることは詐欺です。

以上のような具合で、これらを非常に弁舌さわやかに語る。

ファラージュは論争の的の人物である。1964年4月3日生まれ。もともと保守党に所属していたが、1992年に当時のメージャー保守党政権のマーストリヒト条約の調印で保守党を離れた。1993年のUKIP設立時からのメンバーであり、1999年にUKIPが欧州議会で3議席を獲得した時、当選し、それ以来欧州議会議員を務めている。2006年から9年まで党首を務めたが、下院議員選挙に出馬するために一度党首を退いた。しかし、2010年に再び党首となった。

ファラージュの過激な発言は、マスコミでよく取り上げられる。例えば、欧州議会では、欧州懐疑派のグループの議長を務めているが、その発言は多くの物議をかもしている。例えば、以下のようなものだ。

Who is Herman van Rompuy? – YouTube

UKIP Nigel Farage tells Mrs Merkel it’s time for Britain to leave the EU – Nov 2012 – YouTube

ファラージュにはUKIPのワンマンバンドという批判がある。UKIPのトップを自分の仲間で固め、かなり独断的なリーダーシップを揮っているために、UKIPの欧州議会議員には、それに反発して離党し、保守党へ移った人もいる。

政府の政策に不満であった人たちは、これまで、野党時代の自民党に向かうこともできたが、今では自民党は政権政党となり、その受け皿にはならない。その人たちが、UKIPに向いている面もある。特に英国の経済が不調で、しかも大きな財政削減が行われている状態では、人々の不満はさらに高まり、その不満の対象は政権政党、保守党と自民党、それに前政権の労働党とに向かう。この状態ではUKIPがさらに支持を集める可能性は大だといえよう。

自民党の苦悩(Agonising Lib Dems)

BBCの政治副部長が、ある保守党下院議員が言ったとして次の言葉をツイートした。

「自民党だけだ。セックスの絡まない性的スキャンダルがあり、それをリーダーシップ危機にできるのは」

今回のレナード卿のセクハラ疑惑(レナード卿は強く否定している)で、ニック・クレッグ自民党党首・副首相は「いつ何を知っていたか」で追い詰められた。「何も知らなかった」と党に言わせ、自分が答えるのを引き延ばした挙句、党の発表と異なる声明を発表した。その結果、クレッグは大きく傷つけられた。

警察がレナード卿のセクハラ疑惑に犯罪行為の可能性があるかについて自民党の職員と会った。労働党下院議員が警察にコンタクトした後、自民党スタッフが被害を受けたという女性たちの代表として警察にコンタクトした結果だ。警察がこの疑惑に犯罪行為の要素があるとして本格的な捜査に入るかどうかにはかなり疑問がある。しかし、自民党としてはこのような行動を取らなければならない立場に追い込まれてしまったと言える。

当事者の女性たちは、非常に真剣で、そのうちの一人は、自分たちのこれまでの苦しみを他の若い女性たちに味あわせたくない、とテレビ出演に踏み切ったいきさつを語った。これらの女性たちは、そのために自民党の体質を変えることに傾倒しているようだ。

それは正しいと思う。10人にも及ぶ複数の女性が同じような疑惑を訴えていることを考えれば、元チーフ・エグゼクティブは、同じことを何度も繰り返していたのではないかと想像され、「真の被害者」、つまり、嫌であったにもかかわらず、事に及ぶこととなった人も少なからずいるのではないかと思われる。つまり、セクハラを無くすことは、こういう真の被害者もなくすことにつながり、自民党にとっては極めて大切なことだといえる。

BBCラジオにスーザンという名の自民党地方議会議員が出演し、自分の同様の経験を語った。その中で、この女性は、クレッグはどうしたらよいかわからなかったのではないか、非常に下手に問題を処理したと言ったが、これはかなり実情に近いのではないかと思われる。クレッグは、2005年に下院議員に初めて当選し、2007年12月に党首となった。すぐにレナード卿の問題を報告されたようだが、下院議員として経験の浅かったクレッグにはこの問題はかなり重荷ではなかったかと思われる。そして、この問題が現在まで尾を引いている。

ただし、この一連の過程で明らかになったのは、自民党の古い体質だ。男性優遇の体質が残っている。女性の下院議員の数は、現在56人の下院議員のうちわずか7名。しかも自民党の強い選挙区から出ている下院議員は男性だけで、現在のような低支持率が続くと、次の総選挙では、女性議員が一人もいなくなる可能性がある。クレッグのように下院議員となる前から特別扱いで、自民党の非常に強い選挙区から出馬した男性とは違う。しかも、現在自民党から出している5人の閣僚(クレッグ副首相、ケーブル・ビジネス相、アレキサンダー財務省主席担当官、デイビー・エネルギー相、ムーア・スコットランド相)は全員男性だ。

自民党が、これを契機に、党の体質を変えようとすることが、他の政党にも変わるきっかけを与えることになるだろう。自民党は、古い体質があるとはいえ、それでも保守党や労働党と比べると、かなり純粋な政党である。そのために、今回のスキャンダルが自民党に与えた打撃は大きい。しかし、長い目で見ると、英国の政治の体質を変えるためのきっかけの一つとなるのではないかと思われる。