クロスビーの選挙戦略(Crosby’s Methods)

キャメロン首相の選挙ストラテジスト、リントン・クロスビーの手法の一部が明らかになった。クロスビーとあるロビイング会社のミーティングでの話が漏洩されたためである。サンデータイムズ紙(8月4日)が報じた。

その内容は、大きく分けて二つある。

まずは、英国内の不法移民問題についてである。クロスビーは、内務省が不法移民への対策としてパイロット的に行った看板作戦を批判した。「(自発的な)帰国もしくは逮捕」の大きな看板を車に載せてロンドンの6つの区を走らせたが、これには、保守党より右と見なされる英国独立党(UKIP)のファラージュ党首が「不快だ」とその手法に反対し、また保守党と連立を組む自民党は、そのような試みを知らなかったと抗議した。

クロスビーは、その内容よりもそのやり方に注目が集まったのは失敗で、しかもUKIPに再び注目が集まる機会を与えてしまったと批判したのである。

この批判から見ると、クロスビーが移民問題を重要だと考えているのは間違いないが、「帰国もしくは逮捕」の看板作戦には直接携わっていなかったようだ。なお、8月2日以降大きな問題となった、駅などでの移民のスポットチェックについてのコメントはなかった。クロスビーがロビー会社とのミーティングをいつ行ったのかはっきりしていないことから、スポットチェックにどの程度クロスビーが関わっていたのかは不明である。

次に右寄りの有権者の支持を保守党と競うUKIP対策についてである。次期総選挙では、保守党からUKIPに流れる票を最小限に抑え、しかもUKIPに流れた支持を取り戻す必要がある。それを成し遂げる二つの方法をあげている。

一つは、UKIP所属の地方議員139名の議会での発言などを徹底的に調べ、不適切な言動をマスコミに流すことである。UKIPの信用を落とすことにその目的がある。保守党がそれに関与していることを知られないようにしておくことが肝要としたが、これは明らかになってしまった。

二番目に、保守党の大物で、UKIPと同じ欧州懐疑派の立場をとる人物にUKIPを攻撃させるというものである。これには、かつてサッチャー政権で幹事長などの要職を占め、今でもマスコミに出演するテビット卿らを考えているようだ。保守党支持者の多くはテビット卿に敬意を持っている。政権の中枢にあるキャメロン首相やオズボーン財相ではなく、それ以外で、保守党支持者やUKIP支持者が信頼できるような人物ということとなる。

これらの発言から言えることは以下のようなことだ。

まずは、メッセージの出し方だ。メッセージは、ストレートにターゲット層に伝わるものでなければならない。ターゲット層が素直に受け止められるもので、その注意をそらせる要素は避けねばならない。

次に、目的を達成するための障害をできるだけ取り除き、その力をできるだけ弱めることである。

このエピソードからうかがえることは、クロスビーが選挙のストラテジストと自分の本業のロビイストの二役をかなりオーバーラップして務めているのではないかということである。タバコの包装の問題で「利害の対立」が取りざたされたが、この例から見ると、そのような利害の対立が実際に起きている可能性はかなりあるように思われる。