政策金利を下げたイングランド銀行と政治家の運

英国の中央銀行であるイングランド銀行は、2024年8月1日の金融政策委員会で、政策金利を5.25%から0.25%下げ、5%とした。この政策金利は、2021年12月まで0.1%だった。

この引き下げは、2か月連続で消費者物価指数が2%だったことで、2022年10月の11.1%のピークから大きく下がり安定してきたことがある。このピークは、ロシアのウクライナ侵略のため、エネルギー価格が急騰し、生活費が大きく上昇したことが原因だった。また、5月に賃金の上昇が落ち着いてきて、失業率が変わらず、求人が下降している。一方、第一四半期の小幅のリセッションからの回復が予想以上であることが背景にある。

スナク前首相は、もともと総選挙を今秋に予定しており、11月ごろになるとの見方が強かった。もし、7月4日ではなく、11月に実施していれば、少なくとも、前保守党政権の経済運営の「成功」を誇るチャンスはあったように思われる。

一方、英国のサウスポートで、ウガンダから移民してきた夫婦の英国生まれの17歳の男子が、ダンスクラスに参加していた子供たちをナイフで刺し、そのうち3人が死亡し、大人2人を含む10人がけがをした事件が発生した。その後、極右のグループがサウスポートの全く関係のないイスラム教寺院を攻撃し、暴動を起こし、ロンドンを含む他の地域にも暴動が拡散した。ソーシャルメディアによる偽の情報が、これらの暴動を起こしたとみられている。それに関連し、リフォームUK党のファラージュ党首が、暴動をそそのかすような発言をしたと批判されている。リフォームUK党は、7月4日の総選挙で、全体の14%あまりの得票をし、5人の下院議員を生み出した。もし、この事件が総選挙の前にあれば、リフォームUK党に票を大きく奪われた保守党への打撃はかなり少なかった可能性があるように思われる。

政治・経済情勢は変わる。英国では、いつ総選挙を行うかが決まっている制度ではなく、首相がいつ行うかを決められる。その結果、政治家の運が選挙の結果を左右するともいえるだろう。

保守党の将来

2024年7月4日の総選挙で、歴史的な大敗を喫した保守党。チャーチルやサッチャーなど世界的に、また歴史的に有名な政治家を生んだ政党だが、これからどうなるのだろうか。

2024年7月4日総選挙結果

政党名2019総選挙議席数2024総選挙議席数2024年得票率%
労働党20141233.7
保守党37212123.7
自民党87212.2
SNP4892.5
リフォーム党0514.3
緑の党146.7
(主な全国政党のみ。スコットランド国民党SNPは地域政党だが、2019年総選挙では、スコットランドで48議席を獲得したのでこの表に含めている。緑の党は、スコットランド、北アイルランド、それにイングランド&ウェールズの別々の3党の合計)

大敗北を喫した保守党は、党首のスナク前首相が党首を辞任したが、後継の党首が決まるまで党首を継続するとした。しかし、総選挙直後の混乱のため、次期党首選の方針を決めるまでに時間がかかった。党首選の段取りは以下の通り

  • 立候補するには、本人以外の10人の保守党議員の推薦が必要。ただし、党紀を担当する院内幹事と、党首選を実施する1922委員会の役員は推選できない。
  • 立候補推薦は、7月24日に開始され、7月29日に締め切られる。
  • 9月に下院が再開してから、保守党内で下院議員が投票し、最少得票者が1人ずつ除外され、4人までに絞り込む。
  • 9月29日から10月2日まで開催される保守党大会で、2人に絞り込む。
  • 2人に絞り込まれた2人のうちから、党員がオンラインで投票し、その投票は10月31日に締め切られる。
  • 11月2日に新党首が発表される。

ただし、保守党の問題は、党首を選んだだけでは片付かない。特にその偏った支持層の問題は、極めて大きい。

年齢別の有権者で、誰がどの党に投票したかを見れば、その問題は、一目瞭然だ。世論調査会社YouGovが有権者35000人余りの分析をしている。

18歳から24歳

政党労働党自民党緑の党その他リフォームUK保守党
支持割合%411618898

70歳以上

政党労働党自民党緑の党その他リフォームUK保守党
支持割合%2011351546

下院の任期は5年で、それまでに解散があった場合には、5年以下になるが、仮に5年に一度総選挙が行われた場合、保守党が政権を再び担当できる可能性は5年先、10年先になる可能性がある。現在、保守党への若い層の支持は、リフォームUK党をも下回っている。一方、高齢者層の支持は高くても、将来その層からの支持はあまり期待できなくなる可能性が高い。すなわち保守党の立て直しには、根本的な対策が必要とされている。

そのような対策を提供できる新党首が選べるかどうかが、当面の保守党のカギとなるだろう。