英国は上院改革ができるか?House of Lords Reform: Never-ending Story?

英国の国会は二院制で、下院と上院がある。下院は一般の選挙で選ばれるが、上院はそうではなく、貴族院であり、一部の世襲貴族と大多数を占める一代貴族で構成される。この上院をより民主的な選挙で選ぶ仕組みを作ることが過去100年間検討されてきた。2010年の総選挙でも主要三党の保守党、労働党、自民党がこの問題を取りあげ、議員全員もしくはその大多数を選挙で選出することをマニフェストで掲げた。これを受けて、保守党と自民党は、連立合意でこの課題に取り組むこととし、それを担当する自民党党首で副首相のニック・クレッグが5月に下院でその原案を発表した。しかし、上院は現状維持を望んでいる上、下院でも改革案に賛成する議員が少ないことから、これが実現する可能性は当面ないだろうと見られる。

クレッグの政府案の骨子は、以下の通りだ。
1. 定数を基本的に300とし、その内、80%にあたる240を選挙で選出し、60は任命制。それに12名の英国国教会主教が加わる。
2. それぞれの議員は15年間の任期で、一期限りとする。
3. 5年ごとに80名ずつ選挙で選ばれる。
4. 選挙は、単記委譲式投票(STV)と呼ばれる比例代表制で行う。
5. 最初の選挙は、2015年に行う。

日本の国会も二院制だが、両院とも議員が選挙で選ばれ、両院の権限が一部を除き同等であるが、英国の場合、選挙で選ばれる下院が政治の中心であり、上院は補完的な役割を果たすにとどまる。上院は法案の審議を一年間引き延ばすことができるが、予算の伴う法案ではそれはできず、法案の修正も基本的にはできないことになっている。また、上院は、総選挙で下院の多数を占めた政党のマニフェストに含まれた政策には反対しないことになっている。さらに上院議員には給料はなく、出席した場合の日当や経費が支給されるにとどまる。

上院議員の選出に選挙を行うようになると、このような上院の役割が少なからず変えられることとなる。例えば、下院は、選挙で選ばれるがゆえに大きな力を発揮するが、上院も同様に選挙で選ばれるようになれば、上院にさらに大きな権限を与えざるをえず、両院の力関係が変化するだろう。また、給与を支給し、オフィスを用意し、秘書を提供する必要が出てくる。つまり、多くの追加費用がかかることとなる。また、現在800名近くいる一代と世襲議員をどうするかという問題がある。これらの問題を解決しないことには、上院改革は前に進まない。そのため、危急の問題とは言えないこの課題に本格的に取り組み、上院議員を選出する選挙が2015年に行われる見通しは、極めて小さい。

下院選挙区区割り変更で最大の被害を受けるのは、労働党ではなく自民党 The impact of constituencies’ boundary changes

次の下院総選挙は、2015年5月の予定だ。その総選挙では、現在の定数650が600に減り、選挙区の有権者数の差が、特定の選挙区を除き、5%の上下の幅に抑えられることとなっている。当初、この変更で有利となるのは保守党で、不利になるのは労働党、そして自由民主党は不利にも有利にもならないと見られていた。そのため、この法案の審議過程で、労働党はこの変更は、選挙区の線引きを政権政党が自党に有利に変えるゲリマンダーだと言って非難した。そして上院で労働党議員によるフィルバスターが起きたほどだった。しかし、最近の研究によると、保守党には思ったほど有利にはならず、労働党にはそれほど大きく不利にはならないが、自由民主党への影響は非常に大きいことが明らかになった。

この研究は、リバプール大学の『民主的監査』(Democratic Audit)が行ったものである。結果は、
http://filestore.democraticaudit.com/file/5618fc68c4694271e17e44762ef93e19-1307458033/summary-boundary-changes—all-countries-and-regions-v2.pdf

これによると、650から600議席へと50議席減る中で、主要政党の議席数の変更は、保守党マイナス15、労働党マイナス18、そして自由民主党マイナス14である。2010年総選挙の獲得議席数は、保守党307、労働党258、そして自民党57であり、各政党の減少割合は、保守党5.9%、労働党7%、そして自民党は、24.6%である。つまり、新しい区割りが実施されると、自民党は選挙の前から既に4分の1の議席を失っていることになるのである。(参考http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-13665221 なお、この記事は、6月6日付であるが、民主的監査は6月7日に結果を修正しているために、数字に若干の違いがある。)

若干の背景説明が必要だろうと思われる。まず、新選挙区区割りは、2013年秋までに確定されることになっており、それは、2010年12月の有権者名簿に基づいて行われる。また、選挙区区割り委員会(イングランド、スコットランド、ウェールズそして北アイルランドの4つの区割り委員会)は、既に多くの区割り方針を発表しており、各地方で減らす議席数を発表している。例えば、ウェールズで何議席減り、ロンドンで何議席減るといった具合だ。今後、具体的な選挙区区割り案が発表され、ヒアリングが行われ、最終的に確定するという順序を経る。民主的監査は、今回の発表は、予想ではないと言うが、そのメソロドジーなどから、結果にそう大きな差は出ないものと思われる。

なぜ、今回の区割りの変更が自民党に不利になるかだが、これは、自民党が議席を獲得している地域がいくつかの拠点に集中しており、隣接の選挙区からその議員が出ているところが多く、そのために区割りの影響を直接受けるためである。自民党にとっては、下院選挙制度変更の国民投票の否決、連立政権参加後の大幅な支持率の低下と相まって、更なる大きな打撃である。