党員の減少に苦しむ主要政党(Main Parties Losing Members)

 

日本では、民主党の党首選が終わり、自民党の党首選が26日にあるが、いずれも党員が参加する党首選である。英国では、主要政党の党員が減り、政党にとっては深刻な事態となっている。

保守党は党員数が1950年代に300万に達したが、キャメロンが首相となった2010年までに党員数は17万7千人となり、現在は13万人を割ったと見られている。労働党は、個人の党員と労働組合など関係団体のメンバーが絡むために複雑だが、個人の党員の数は1950年代に100万人を超したが、昨年19万4千人となっている。そして自民党は昨年4万9千人である。

かつては、政党の党員になって「社交」をする、同じような考え方や立場の人たちと出会う、場合によっては、結婚の相手を見つける、といったような意味があったが、それが今や党員になる人はかなり限られてきた。つまり政党が党員を惹きつけることができなくなっているのである。その結果、党員の年齢が大きく上昇してきている。保守党の活動家の数は30万とも言われるが、その平均年齢は64歳だそうだ。政党の党員が社会の姿を映すどころか、非常に偏った形になってきている。

24日のタイムズ紙は、この点を踏まえ、政党が全体の利益をはかるよりも一部の人の利益や考え方を強く反映する危険性を指摘する。特に、お金の乏しい、しかもメンバーや活動家の少ない政党は、一部の献金者や利益団体に大きな影響を受ける可能性がある。そして特に政党の候補者選択では、党員だけによるものではなく、それ以外の支持者らも含めたオープンなものにするよう求めている。

英国の政治は今もなお、基本的に保守党と労働党の二大政党によって担われており、世論調査によれば、その構図が少なくとも当面変わる気配がないことから、このような提案が生まれているのだろう。つまり、二大政党体制を受け入れた上で、これらの政党が、例えば小さな党員ベースから過大な影響を受けるのではなく、より広い公共の利益の観点に立って働くことのできるシステムを求めている。結局のところ、政治で最も重要なのは、政治家の質だからだと思われる。

党大会シーズン:リーダーたちの課題②(Party Leaders’ Challenges this autumn)

② 労働党:マンチェスターで9月30日から10月4日。テーマは「英国再建」

前回の①自民党に引き続き、ここでは②労働党を見る。

労働党の党首エド・ミリバンドは、2010年9月に党首に選出された。これは、2010年5月の総選挙で、前党首で首相ゴードン・ブラウンが率いる労働党が大きく議席を失い、いずれの政党も過半数を占めることのない、いわゆるハング・パーリアメントという状態になり、最も多くの議席を獲得した保守党が第三党の自民党と連立政権を樹立した後のことであった。

労働党の党首選では、最後まで、前エネルギー相エド・ミリバンドの兄で、前外相のデービッド・ミリバンドが優勢と見られていた。デービッド・ミリバンドは、元首相のトニー・ブレアに近く、労働党の中でも右寄りと見られていた。一方、エド・ミリバンドは、ブラウン前首相に近く、労働党の中でも左寄りと見られていた。

労働党下院議員に支持の強いデービッド・ミリバンドが優勢だったが、労働組合がエド・ミリバンドにテコ入れし、最後にわずかの差でエド・ミリバンドが予想を覆し、逆転勝ちした。この結果、エド・ミリバンドには数々の批判が浴びせられた。

一番大きなものは、保守党らによる「赤のエド」という批判である。つまり、労働組合の支持を受けて党首になったために、労働組合寄りの政策を打ち出す必要があると見られたためである。

次に、兄のデービッド・ミリバンドは、それまでかなり長い間、次期党首候補と見られていたことから、党首に就く心の準備ができており、打ち出す理念がはっきりしていると見られていたが、エド・ミリバンドには、その準備も、理念もはっきりしていないという批判であった。これは、特にマスコミや労働党の下院議員に強い批判であった。これは今でも払しょくされていない。

さらに、言葉尻が明瞭ではない、という批判もあった。なお、これについては、鼻の手術をした結果、かなり改善し、最近ではそう気にならない程度になっている。

エド・ミリバンドは、「赤のエド」というレッテルを取り除こうと、労働組合とは距離を置く方針を取ってきた。例えば、連立政権の公務員の賃金凍結政策に同意する発言をしている。これらの努力の結果、この「赤いエド」という言葉はあまり使われなくなってきた。

しかしながら、党首に就任してから2年経つが、労働党の方向性や、労働党が政権につけばどのような政府になるかについては未だにはっきりしていない。これらをはっきりと示し、党首選でデービッド・ミリバンドを支持した多くの下院議員たちに、労働党の党首としてふさわしいと証明する必要がある。

この点、9月初め、エド・ミリバンドは、Predistributionという言葉で自分の基本的な考え方を紹介しようとした。これは、不平等を減らすために、賃金をまともなものにすることに焦点を当て、これまで行われてきている、低賃金をカバーするためのタックス・クレジット(税額控除)のような制度に頼る仕組みを変えていく考え方である。これは、富の公平な分配のメカニズムを「国」よりもむしろ「市場」へと移す議論であり、国が使うお金を減らしながら、平等の程度を高め、貧困を低くしようとするものである。

つまり、政府債務が増え、財政赤字が大きな状態では、貧困をなくすために増税し、それで得たお金で問題解決することが難しくなったことが背景にある。しかも多くの国民が、これまでの税制による富の再分配に反対していることがある。税金が高くなっても、貧しい人々に政府が福祉給付を与えることにもっとお金を費やすべきだという考えに賛成する人が少なくなっている。2007年を境として反対の人が増えてきた。1989年にはそれに賛成する人が60%を越え、ピークであったが、2009年には、反対が43%、賛成が27%となっている。世代間で同じようなパターンが繰り返すのではなく、全体的に賛成が減っているのである。

以上のような状況の中で、プリディストリブーションの考え方は理解できるが、それではどのような手段でそれを実施するのか?福祉をどうするのか?身体障害者など働くことが困難な人をどうするのか?働いていない人をどうするのか?年金をどうするのか?老人介護をどうするのか?経済をどうするのか?人と人のつながりをどうするのか?

さらにこのプリディストリブーションという考え方は、高度な技術、生産性の高い労働市場が必要だが、最低賃金が上がると、失業とモノの値段が上がる可能性がある。このような問題へ回答を出して行かねばならない。

いずれにしてもエド・ミリバンドは、自分の考え方を示し始めた。党大会では、この動きを歓迎するように思われる。ただし、その具体化は、まだまだ先のこととなるだろうが。

これに関連して重要なのは、ミリバンドの有権者に与えるイメージである。世論調査では、労働党が保守党に10ポイント程度リードしているが、首相としてふさわしいかどうかという点では、保守党のキャメロンの後塵を拝している。その結果、世論調査で、ミリバンド率いる労働党とキャメロン率いる保守党と名指しすると、両党の支持率の差が数パーセント縮む。このイメージの問題に取り組む必要がある。