スティール卿の上院改革案(Lord Steel’s Lords’ Reform)

自民党の上院議員スティール卿が議員提出の上院改革案(House of Lords(Cessation of Membership) Bill)を出し、上院での審議を経、7月24日に第三読会を無修正で通過して下院に送られた。スティール卿は、最後の自由党党首で、社会民主党との統合後、社会自由民主党党首を自民党と改名するまで務めた人物である。この法案は、上院議員の引退、無出席、それに犯罪行為について定めようとするものである。これは、上院改革案でも、自民党党首クレッグ副首相の公選制を導入した上院改革とは基本的に異なる。

スティール卿の見解はこうだ(タイムズ紙8月8日への投稿を参照)。上院議員の数が多すぎる。高齢者が多い。世襲議員が未だにいる。議会に出席しない人でも上院議員として遇している(咋期には72人いたという)。また、かなり重い罪を犯した人でも議員として居座ることを許している。公選制を導入しようとする前にできることはかなりあるというのである。

そこでスティール卿は上記の上院改革案に付け加えて、以下のような点を付け加えるべきだという。

① 各議会会期終了時点での上院議員の定年を定める。現在825人ほどの上院議員がいるが、例えば、80歳とすれば、次期総選挙の予定されている2015年には、200人近い人が減り、もし75歳とすれば350人余り減る。なお、現在74歳のスティール卿は、この枠に入る。
② ブレア政権での上院改革で92人の世襲制貴族を残し、もしそのうちの誰かが上院を去れば、世襲貴族内での選挙を経て後継者が選ばれているが、この選挙をやめる。つまり、時間が経てば、世襲貴族はいなくなる。
③ 政党党首の上院議員候補者推薦をやめ、既存の上院議員任命委員会の役割を拡大する。

スティール卿の指摘したことはもっともなことである。多少の手直しで大きく改善すると思われる。しかし、政党のリーダーたちは上記の③を手放したくないのでことはそう簡単には進まない。

下院選挙区の新区割り作業の今後(What’s going to happen on Boundary changes)

自民党の党首であるクレッグ副首相が、保守党内での反対で公選制を導入する上院改革が不可能となった状況を受け、それに対する対抗手段として、保守党が積極的に進めてきた選挙区の新区割りに反対すると表明した。保守党を率いるキャメロン首相は、それでも新区割り手続きを進めていく方針を表明したが、新区割りが次の総選挙で実施される見通しはない。

それでは、2011年国会投票制度並びに選挙区法で進められてきた下院の新選挙区割の手続きはどうなるのだろうか?

① 選挙区区割り委員会の作業は継続し、来年9月末までに区割り最終案を出す。
② 大臣が直ちにそれを施行するための命令案を国会に提出し、それを受け入れるかどうかの投票が行われるが、明らかに可決される見通しのないものには投票しない可能性がある。
③ 次の総選挙は既存の650選挙区の区割りで行われる。
④ それまでに2011年法の修正、もしくは、現在国会で審議中の選挙管理法案2012-13に新しい条項を加え、2011年法の事実上の修正が行わなければ、区割り委員会は2011年法に基づき、現行の650議席ではなく、600議席に基づいた作業を進めていくことになる。問題は、区割り委員会は、これまで人口動態によって選挙区区割りの見直しを行ってきたが、次回選挙も、その次の選挙も650選挙区制度に基づいた区割り見直しができなくなる点だ
⑤ 次期総選挙でもし労働党が勝てば、2011年法は労働党に不利なため、大幅な修正・もしくは廃止される可能性がある。選挙区のサイズの誤差を5%より大きくする、2011年法では有権者の数を基に選挙区割りをすることとしたが、保守党の強い選挙区では、人口に対して有権者登録の割合が高いと見られているので、人口を基に選挙区割にする可能性がある。また、区割り見直しの期間をそれまでの8年から12年から5年ごとに変えたが、これを元に戻すか、10年ごとの国勢調査ごとにする可能性などがある。