民間セクターの限界(The Limit Private Sector Can Perform)

 

ロンドンオリンピック開始直前に大きな問題が発生した。2億8400万ポンド(350億円)で10400人のセキュリティスタッフを派遣する契約を負っていた、世界有数のセキュリティ会社G4Sが、その人数を確保できないことがわかったのである。その穴埋めは、軍と警察が担った。軍からその穴埋めに約4700人が追加で投入され、合計約1万8千人の陸海空軍などの軍人が使われた。当初、関係者には、軍人の存在が目立ちすぎることに警戒感があったが、背に腹は代えられない。それでも軍人、警察官がオリンピック開催中至る所で見られ、そのことがむしろセキュリティを向上させたのではないかと思われる。しかし、この結果、民間セクターに公共セクターの仕事を任せる場合の限界も明らかになったと言える。

フィリップ・ハモンド国防相がインデペンデント紙(8月14日)のインタヴューに答え、G4Sと軍の違いを分析した。ハモンド国防相は、元ビジネスマンである。

ハモンドは、二つのモデルの違いがくっきりと明らかになったと言う。これは以下のようなものだ。

① G4Sの例。予定のコストの範囲内で結果を出すために、できるかぎりぜい肉を削ごうとする。マネジメントの構造も一時的で、臨時スタッフのやる気に頼っている。その結果、問題が起きた時の回復能力が非常に弱い。
② 軍の例。もしもの時のための能力で、確固としたマネジメント機構があり、使っても使わなくても、巨額の経費がかかる。しかし、実際に使われた時には効果が高い。

この二つの例はそれぞれかなり極端な例だが、ハモンドは、国防省の仕事への民間セクターの導入を再考すると言う。G4Sの失敗は、民間セクターの弱点を浮き彫りにしたため、今後のキャメロン政権の民間セクター導入計画にかなり大きな影響を与えるように思われる。

英国政府の効率化と無駄削減(Coalition trying hard to cut waste)

内閣府担当大臣のフランシス・モードが、2011年3月から2012年3月までの間に、効率化と無駄削減で政府が55億ポンド(約6800億円)節約したと発表した(http://www.cabinetoffice.gov.uk/news/francis-maude-reveals-further-savings-beat-expectations)。

2010年に保守党と自民党が連立政権を組んで以来、保守党重鎮のモードが責任者となり、2010年5月から2011年3月には37億5千万ポンド(約4600億円)の節約を成し遂げた。今回の数字は、前年を大きく上回る。モードは、今後も徹底した質素倹約と生産性の向上を追求し、さらに節約の実を上げ、2015年には200億ポンド(約2兆4600億円)の節約を目指すと意気込んでいる。

この節約の内容は以下のようなものだ。

① 国家公務員の削減と絶対必要なスタッフ以外の雇用の管理で15億ポンド(約1800億円)。これは前年3億ポンド(約370億円)であった。2010年からスタッフの数は5万人以上減り、現在、第二次世界大戦後最低の42万8千人となっている。
② 政府全体のコンサルタント使用の凍結で10億ポンド(約1230億円)。コンサルタントの使用は、2010年以来85%減少したという。
③ 政府の物品・サービスの一括購入、効率化で5億ポンド(約620億円)。前年3.6億ポンド(約440億円)。
④ 広報・広告費は、必要不可欠なもの以外は凍結し、3.9億ポンド(約480億円)。前年は4億ポンド(約490億円)。
⑤ 政府のオフィスの効率利用、リースの契約見直し、打ち切りなどで2億ポンド(約130億円)。これは前年0.9億ポンド(約110億円)。

内閣府でこの責任者であった、元大手コンサルタント会社社長のイアン・ワトモアは今年1月から内閣府の事務次官も兼ねていたが、5月に突然辞職した。その理由は明らかになっていない。モードは、政治家でありながら非常に細かい点にまで口を出してくるマイクロマネジャーだと聞いたことがあるが、それが我慢できなくなった可能性はある。また、いくら無駄削減努力をしても、さらに多くを求めてくるのに嫌気がさした可能性はある。

なお、この発表には、マンチェスター・ビジネス・スクールのColin Talbot 教授などから、これは単なる財政カットであり、政府の主張する効率化ではないという見解もある(http://whitehallwatch.org/2012/08/09/lies-damned-lies-and-government-efficiency-savings-yet-again-this-is-starting-to-get-boring-4/)。人員削減にしても、空港の移民審査官など必要な人を減らしてしまい、混乱を招いたなど、試行錯誤的な要素はあるが、継続していると次第に焦点が合ってくる可能性が高いと思われる。前労働党政権時代の「放漫経営」で緩んだ政府の体質改善には時間がかかるだろう。