キャメロン首相のスピーチの本音?(What Cameron “in truth” said in his speech)

タイムズ紙のOliver Kammが、キャメロン首相の使った言葉の「本当の意味」を分析している。これは一種からかうための記事だが、その中の幾つかは真実をついていると思われるので、説明を付け加えながらここで紹介したい。

まず、Tough decisions である。キャメロン首相はこの言葉を頻繁に使う。首相のクエスチョンタイムでも、それ以外のスピーチでもこの言葉を聞かない時はほとんどない。Kammはこの意味は、Vote-losing policiesだと言う。つまり、票を失うが、どうしてもやらねばならない政策、という意味だと言う。

We’re all in this together. この言葉もよく使う。聞いていると確かに誰もが同じ船に乗っており、同じ運命を共有していると言っているように感じる。Kammはこの意味は、Living standards are falling だと言う。つまり、生活水準が落ちていると言うのだ。しかし、4月29日のSunday Times Rich Listによると英国の金持ちトップ千人の資産は前年より4.7%増えている。ほんとうにWe’re all in this togetherか疑問な点はあるが、これはさて置き、次に移る。

Families that work hard and do the right thing の意味は、Kammは禁欲的で、文句を言わない人たちを好むという意味だと言う。これは、あまり努力せず、文句を言ってばかりいる人が多すぎるということをそれとなく言っているのだろう。

Rebalance our economy は、多くの政治家が使う言葉だが、Kammはこの意味は、The recession is the banker’s fault だと言う。つまり、リセッションは銀行が起こしたと言う。

面白いのは、We need to do more, constantly strive to do more の意味だ。これはKammによるとThe economy is contracting and we’re unclear what to do about it つまり、経済が縮小しているが、どうしたらいいかはっきりわからない、というのだ。確かにこの解釈にはかなりの真実があるだろう。はっきりしていれば、もっと具体的なことをいうからだろうからだ。

Efficiencies は、KammによるとSpending cuts つまり、支出削減だという。これは本音だろう。

そしてキャメロン首相の使った言葉、People want to know that we’re not just bunch of accountants である。Kammは、誰も政府が会計士の集団だなどと非難していないが、財政削減には目的があるということを意味するためにこの言葉を入れていると言う。これはまさしくその通りだろう。

そして最後にキャメロン首相のよく使うフレーズ Let me spell this out と Let me be clearである。Kammはこれらのフレーズには何も意味がない、政治家は、こういうフレーズを使って、わかりやすく話しているという印象を与えようとしているだけだ、という。つまり、こういう言葉を使えば、なんとなくわかりやすく話しているような感じがするというだけだというのだ。これは本当だろう。

キャメロン首相をはじめ、トップ政治家のスピーチは、ほとんどスピーチライターの手が入っている。スピーチライターの仕事は、真実にベールをかけ、聞きやすく、与えたいメッセージが受け入れられやすく、そしていい印象を与えるようなスピーチに仕上げることだ。簡単ではない。

ジョンソン・ロンドン市長のキャメロン首相への脅威(Boris will be a threat to Cameron)

保守党のボリス・ジョンソンが、5月3日の地方選と同時に行われたロンドン市長選で労働党の元市長ケン・リビングストンを破り再選された。キャメロン首相率いる保守党は地方選で大敗北を喫したが、労働党の強いロンドンで、大勢に逆行して勝利を勝ち取った。

キャメロン首相は、地方選の大敗の中で、ジョンソンの当選を大きな光のように扱った。しかし、恐らくこれは逆だろう。ジョンソンは、キャメロン後の保守党党首になる希望を持っている。そのため、これから次の保守党党首の座を目指し、自分のプロフィールをさらに上げようとすると思われる。そして、キャメロン首相や連立政権が落ち目になればなるほど、ジョンソンは自分の立場の違いを浮き立たせようとするだろう。その結果、キャメロン首相の目の上の大きなたんこぶになる可能性があると思われる。(なお、5月6日のサンデータイムズとメイル・オン・サンデーでキャメロンとジョンソンの党首としての比較の世論調査をしている。参照:http://ukpollingreport.co.uk/)

保守党の中には、落ち目のキャメロンに見切りをつけ始めている人がいる。一方、ジョンソンのスター性に注目し、保守党を救う人物として見なし始めている。ジョンソンは、キャメロン政権外の人物であり、統制できない上、ジョンソンの行動は「ロンドンのため」と言えば正当化されうる。一方、ジョンソンは保守党市長であり、無碍に扱えない。キャメロンが強ければともかく、かなり弱体化した今では、もしジョンソンが当選しなければ、キャメロンには、この面からの脅威はなかっただろうと思われる。

背景について触れておきたい。まず、ロンドンでは労働党が強いということだ。ロンドンには下院議員の選挙区が73あるが、その内、労働党下院議員が38人、保守党の下院議員が28人である。また、ロンドン市長選と同時に行われたロンドン議会議員選挙では全25議席のうち前回の2008年から労働党が4議席増やして12議席を獲得したのに対し、保守党は2議席減らし9議席だった。議会議員選挙では、小選挙区比例代表併用制が取られており、14議席の小選挙区での投票に併せて、ロンドン全体で党へも投票する。そして、各政党のリストに基づき11議席が割り振られる。ただし、その割り振りには各政党が既に小選挙区で獲得した議席が計算に入れられる。党への投票は、労働党41.1%(前回より13.1%アップ)、保守党32%(5.4%ダウン)で、ロンドンの保守党に大きな逆風が吹いている中、ジョンソンは勝利を得た。つまり、ジョンソンは、保守党支持層だけではなく、労働党も含め他の政党へ投票した有権者からの支持も受けて当選した。ジョンソンの当選した理由には、労働党のリビングストンに税金問題などでネガティブなイメージがあったこともあるが、有権者がジョンソンにスター性を見出したことがある。つまり、ジョンソンは面白い人物だ、との評価を受けた。

選挙期間中、ジョンソンは、キャメロン政権とは政策の面でも関係の面でも距離を置こうとし、選挙運動中にキャメロン政権の大臣が顔を出すことを避けようとした。再選された後、ジョンソンは、ジョークで「キャメロンに推薦されたにもかかわらず当選した」と言ったが、これには本音が出ていると思われる。

なお、選挙期間中、ジョンソンの怒りっぽい性格などが明らかになった。また、緑の党のロンドン議会議員で、リビングストン元市長の下で副市長を務めたこともあるジェニー・ジョーンズが討論会で「ボリスに市長ができるなら私にもできる」と発言したが、ジョンソンの行政の長としての能力には疑いがある。ジョンソン周辺からもそのような話が出ていると言われる。保守党の党首としての適格性には疑いがあるが、本人やその支持者には、そういう適格性の問題は、今は問題ではないだろう。

今後の政治の動き次第でジョンソンの政治行動は変わるだろうが、当面の方針は、2015年に予定される総選挙で下院議員となり、2016年まで市長と兼職することだろう。(この兼職は何ら問題がなく、実際、ケン・リビングストンは2000年に市長に当選したが、2001年の総選挙まで下院議員でもあった。)ジョンソンは市長の任期4年を務めると発言しているが、もし、次の総選挙で保守党が過半数を占めることができなければ状況は変わるだろう。