党大会シーズン③ キャメロン保守党の課題(Cameron’s Challenges)

キャメロン首相は、保守党の党首として、これまでの業績を党大会に示すことになる。党大会のテーマは、「2015年への道」だが、保守党にとって、次の総選挙で政権を維持できるかどうかが大きな課題だ。問題は、キャメロン政権が、勢いを失ってきていることである。

次回の総選挙は、ほぼまちがいなく、2015年に行われるように思われる。自民党が、上院改革に保守党が賛成しなかったため、保守党の強く望んでいた下院選挙制度の改正に賛成しないこととした。この改正は、650議席を50議席減らし、各選挙区のサイズを均等にするものである。もしこの改正が進んでいれば、保守党に有利で、自民党に不利になると見られていた。この問題がなくなったため、自民党は、党勢回復のための時間稼ぎと現職の下院議員をなるべく長くその地位につけておくために、2015年以前の総選挙を回避すると思われる。自民党は支持率が大幅に低下しており、次期総選挙では大幅に議席を失うのは必至だ。そうすると、次期総選挙まで、2年半である。

キャメロンの最大の問題は、保守党の中でキャメロンの求心力が衰えていることである。これには幾つかの要因がある。経済が順調に回復し、財政赤字の削減が軌道に乗っていれば、将来への期待感で求心力を維持できると思われるが、経済が停滞し、財政赤字の削減が計画通りに進まない状況では、将来への不安感がある。さらに度重なるUターン、行政上の失敗で、キャメロンのリーダーシップに疑問が出ていることである。

その上、連立政権を組む自民党との関係に陰りが出てきた。自民党は、これまでの政権内での努力が有権者に評価されると考えてきたが、それがほとんど評価されていない。そのため、連立政権内で自民党の声がより大きく出るよう、その政権内での態度をかなり強いものとしていく構えだ。もちろん、自民党の求めた、下院選挙制度改革のAV制度導入が、保守党勢力の極めて強い反対キャンペーンの結果、国民投票で否決された上、また、自民党の求めた上院改革を、保守党内の強い反対であきらめざるを得なかったことから、保守党への不信感もある。2010年の連立合意の後、その2年後には、第二の連立合意を作ろうという考え方があったが、今ではそのような考えはない。キャメロンは、いまだに自民党のクレッグ党首との間に強い個人的な関係はあるものの、キャメロン政権内での融通がはるかにききにくくなっている。

一方、経済の停滞や度重なるUターンなどで、保守党の支持率は労働党に10ポイント程度の差をつけられている。その上、ユーロ債務危機などでEUとの関係に国民の目が向けられ、その結果、英国のEU脱退を目的に設立された英国独立党(UKIP)が支持率を伸ばしてきており、保守党支持者がUKIPへ支持替えをしている傾向がある。これも保守党内でキャメロンが求心力を弱めている一つの原因だ。キャメロンは、先だって、次期総選挙後にEUに関する国民投票を実施する可能性に言及したが、これは、党大会前の一種のガス抜きと思われる。

労働党の党大会で、ミリバンド党首がメモなしで65分間スピーチし、好評を博し、評価を上げ、労働党のモラールを大きく上げたことから、キャメロンもそれに対抗する必要がある。保守党のモラールを上げる必要があるからだが、それを成し遂げるのはそう簡単ではない。次の党首を狙うボリス・ジョンソン・ロンドン市長が注目を集めており、ジョンソンには党大会で30分のスピーチの時間を提供したが、キャメロンとオズボーン財相のスピーチの間の日で、なるべくキャメロンとオズボーンのスピーチがジョンソンの陰にならないようにした形だ。また、平民事件で世論の非難を浴びた閣僚アンドリュー・ミッチェルには、党大会に出席しないように指示した。メディアがそれに注目し過ぎるのを防ぐためだ。

さらに、EUの問題を始め右寄りの傾向を強める保守党に対し、ミリバンド労働党が、移民問題やEU国民投票問題などで、左右の政治軸の真ん中へ軸足を移し、現在の保守党に幻滅する保守党支持者を獲得しようとしはじめている。つまり、キャメロンにとっては、保守党の左右に配慮しなければならない状態となっている。

この党大会で保守党のモラールを労働党のように上げることは難しいだけではなく、この党大会後、キャメロンはさらに難しい党運営、政府運営を迎えるように思われる。

女性保守党議員の辞職(A Tory Female MP Resigned)

2010年5月の総選挙で当選したばかりの保守党の女性下院議員が議員を辞職した。ルイーズ・メンシュは、下院議員となる前から流行作家として有名で、議員となってからも、電話盗聴問題を担当する委員会の委員としてマスコミの注目を集めてきた。それが突然、家庭を優先したいと辞職を発表した。これまで子供の世話と政治活動を両立させてきたが、それが難しくなり、ニューヨークに住む、昨年結婚した夫のもとへ3人の子供と転居したいというのが理由である。議員や政府の役職を辞任する場合、党首や首相と手紙のやり取りをすることが通例だが、保守党党首のキャメロン首相からの返事で、メンシュは次の内閣改造の際に、政府の役職に就く可能性があったことがわかった。

この辞職で、11月15日に、警察・犯罪コミッショナーの選挙と同時に補欠選挙が行われる見通しだ。2010年の総選挙で次点との差が少なく、補欠選挙では、労働党が勝利を収めるのは間違いないと見られていることから、下院で過半数を占められず、そのために自民党と連立を組んでいるキャメロン首相は辞職してほしくなかったことは明らかだ。

しかし、何がこの辞職を招いたのだろうか。もちろん家庭の問題があったのは明らかだが、基本的に、それを犠牲にしてこのまま下院議員として政治活動していくだけの意味がないと判断したように思われる。

先に述べたように、新区割りが導入されても、されなくても、労働党が世論調査でリードしている状態で、次回の選挙戦は厳しい。しかも最近、BBCの番組でかつて、最も有害性の高いクラスAの麻薬を使ったことがあると発言した。具体的にどの麻薬を使ったかは発言を避けたが、これで選挙戦はさらに難しくなったと思われる。保守的な考え方を持つ人の多い保守党支持者にはこういう話は大きなマイナスになる。

なぜ、このような発言を公の場でしたのだろうか?英国では、このような噂がマスコミに広がり、それがマスコミに取り上げられようとする直前に自ら先手を取る形で発表することがかなりある。これは、自ら主導権を握り、発表し、潔いという印象を与えることが目的である。昨年、麻薬疑惑に関して、あるジャーナリストからのEメールをメンシュが自ら公開し、その可能性を暗に認めたことがある。いずれにしても、私の印象では、BBCの番組に出るまでは少なくとも政治家を続ける意思があったと思う。

個人的な事情がそれ以降変わった可能性もあるが、いずれにしても本人の「幸せ」や3人の子供の世話を犠牲にしてまで政治の道を継続する意義はないと判断したようだ。14歳で保守党の党員となったと言われる。母親が保守党の地方議員になる選挙運動を手伝い、何度も総選挙で選挙運動を手伝った経験があるそうだ。政治に関心があったのは間違いないが、政治に直接携わってみて、自分の本当の気持ちがわかったのかもしれない。