早速おカネの問題で苦しむスターマー政権

保守党政権下で、公共サービスの給与は、非常に低く抑えられた。繰り返し給与が凍結された。その財政緊縮政策のためである。この給与の問題では、2022年10月にインフレ率が11.1%まで上がり、公共サービスの多くの勤労者の生活に大きな影響があった。2024年に入って、インフレ率が2%まで下がったが、インフレ率が2%でも、モノの値段は2%上がるために、生活の苦しみは続く。

NHSと教員の給与審査機関が5.5%アップを勧告したと伝えられる。これらは緊急の課題の一つである。前の保守党政権では、3%の給与アップを予定しており、2.5%の差を埋めるための費用は₤3ビリオン(約6000億円)必要だという。

財政研究所(Institute for Fiscal Studies)のポール・ジョンソン所長によると、この費用は、借金するか、増税するか、または、支出削減のいずれかをする必要があるという。また、公共サービスが一律に5.5%の給与アップをすると、₤10ビリオン(約2兆円)必要だとする。

いずれにしても政府は給与についての決定を、7月末までにしなければならない。その上、医師の資格を得たがまだトレーニング中の医師(Junior Doctor)がその給与をめぐって繰り返しストライキを実施しており、NHSの仕事に大きな混乱を招いている。この問題も解決する必要がある。スターマー政権は、お金がないと言うが、課題は多い。

経験が乏しくてもトップ官僚が務まるか?

英国の官僚には、民間から転職してきた人がかなりいる。生え抜きだけだと考え方が画一化してくる恐れがあり、様々な経験がある人が同じ職場にいることには意味があるだろう。

ただし、比較的官僚経験の少ない人が省庁トップの事務次官(Permanent Secretary)になるのはどうか?

これまでにも、民間のコンサルタントだったイアン・ワトモアや地方自治体出身のボブ・カースレイクが事務次官となったなどの例がある。また、近年ではアントニア・ロメオがいる。

最近、比較的官僚経験の少ない、ある事務次官が二つの件で焦点となった。それは41歳のセーラ・マンディーである。マンディーは、オックスフォード大学でPPEを学んだ後、LSEで経済学の修士号を持つ。その後、エコノミストとして国家公務員となったが、コンサルタント会社のマッキンゼーに移り、15年間働いた。そして官僚となり、今は、サイエンス・イノベーション・テクノロジー省の事務次官である。

二つの件の一つ目は、英国郵便局(Post Office)での日本企業富士通の会計システム「ホライゾン」の欠陥に絡む損害賠償である。英国では、個人経営の小さな郵便局が多くある。会計システムの欠陥のため、多くの小さな郵便局で不正が行われていたとされて900人以上の人が無実の罪を問われた。その結果、刑期を務める、借金を背負う、または破産した人が多数出た。その人たちへの補償は計10億ポンド(1900億円)にも達するとされているが、その補償の支払いはかなり遅れている。

この件に関連して、政府が100%の株式を持つ郵便会社の会長が、ビジネス大臣に更迭された。その会長が、マンディーに次の総選挙が終わるまで、補償支払いを遅らせるよう言われたと主張した。マンディーは、そのようなことを言ったことはないとしたが、その会長は、その言い分を変えず、宣誓証言の下で、下院のビジネス委員会でも同じことを繰り返した。

さらに、現在のサイエンス相のミシェル・ドナリーが、ある学者のツイートを取り上げて非難し、サイエンス省関連の委員会のメンバーにふさわしくないと攻撃した事件がある。その学者は、ドナリー相手に名誉毀損で訴訟を起こした。その結果、ドナリーは謝罪し、賠償金を支払ったが、その費用15000ポンド(約285万円)は省から出された。省が出した理由は、法律アドバイスも受け、省の事務方トップがドナリーの言い分を認めていたためだという。

実際、官僚には、このような問題に巻き込まれることはあるだろう。しかし、二つ続けて起きたのは、不運だったというより、それ以上の問題があるように思われる。