スコットランドが独立することになれば?(What will happen If Scottish Referendum says Yes)

2014年9月18日にスコットランドの独立をめぐる住民投票が行われる。世論調査では反対が賛成に10ポイント以上の差をつけているが、もし、独立賛成が多数であればどうなるのだろうか?

2011年国勢調査の地域別人口

地域 人口
イングランド 53,012,456 83.9
スコットランド 5,295,000 8.4
ウェールズ 3,063,456 4.8
北アイルランド 1,810,863 2.9
全国 63,182,000 100

スコットランドの人口は、530万人ほどでノルウェーより多いが、英国全体の人口の8.4%である。人口割合は小さいが、その独立の影響は大きい。

1. キャメロン首相への大打撃

キャメロン首相は、スコットランドを英国から独立させた首相として歴史に残るだろう。その2015年総選挙への影響を推し量ることは難しいが、まずそのような住民投票を認めたキャメロン首相と保守党にかなり大きな批判があるだろう。

すでにスコットランド分権政府は2016年3月に独立の日取りを決めているが、もし賛成多数であれば、その日に向けてウェストミンスターの中央政府と交渉を始めることとなる。その交渉で英国の資産のスコットランドへの分割をすることになる。

2. 英国のEU内、国際社会における影響力の減退

国際的威信に大きな悪影響がある。EU内で人口割で割り振られているものは減ることになる。

核兵器は現在スコットランドが基地となっているが、これを動かすこととなる。また、軍事費が減少する。

3. 労働党への痛手

中長期的には、スコットランドに強い基盤のある労働党に大きな痛手となる。労働党は2010年の総選挙でスコットランドに配分された下院議席59議席中41議席を獲得した。保守党は1議席のみであり、保守党はスコットランドがなければそれ以外の地域の議席獲得割合が増やせ、下院の過半数を得やすくなる。ファイナンシャルタイムズ(2014年2月7日)の分析では、2010年の総選挙でもしスコットランドがなかったとすれば、保守党がほかの政党より16議席多く、連立政権を組む必要はなかっただろうという。ただし、1979年以降の総選挙では、スコットランドがある場合と結果は異なっていなかっただろうというが。

4. スコットランド選出下院議員の扱い

住民投票は2014年だが、独立の予定は2016年である。その間の2015年に総選挙がある。すなわち、2015年の総選挙では、スコットランド選挙区は含まれる。スコットランド選出の下院議員の数によっては、誰がウェストミンスターの政権を担当するかに影響を与える可能性がある。もしかすると、独立までは労働党、独立後は保守党という可能性もあり、大きな議論がある。

いずれにしてももしスコットランドが独立賛成ということになれば、英国はきわめて厄介な問題を抱えることとなる。

スコットランド住民投票の行方(Scotland Referendum)

スコットランドの独立に関する住民投票が2014年9月18日に行われる。スコットランド分権政府の発表した白書では、もしこの住民投票で独立賛成が多数を占めれば、2016年3月24日を独立の日とする考えだ。また、この白書では、現在と同様、エリザベス女王を国王とし、英国の通貨ポンドを独立スコットランドの通貨として使う予定である。

これまでの世論調査では、独立反対がリードしている。独立に反対の結果が出ると見られており、現在ではむしろどの程度、独立反対が賛成に差をつけるかに焦点が移ってきているといえる。

現在、スコットランド議会で過半数の議席を占めるスコットランド国民党(SNP)は、この住民投票の結果がその今後にかなり大きな影響を与えるため、少なくとも「かなりよい戦いをした」と言えるだけの結果を勝ち取る必要がある。その結果を背景にウェストミンスターの中央政府からさらに権限の大幅委譲を求めることとなろう。

ただし、もし万一、独立賛成が多数を占めた場合、英国の他の地域に対するショックは極めて大きなものとなる。主要三党すべてが独立反対の立場で、スコットランドの独立反対キャンペーングループのリーダーは、前のブラウン労働党政権で財相を務めたアリスター・ダーリングだが、次期総選挙では、政権を与るキャメロン首相の保守党がその責任を取らされることになるだろう。単なるメンツの喪失だけではなく、独立交渉から始まり、既存の様々な公的機関からスコットランド分を分割するなど、英国にたいへん大きな出費が伴う。つまり、キャメロン首相にとっては絶対に負けられない住民投票である。

スコットランドの独立問題では、そのプラス、マイナスの議論は金銭的に得か損かの次元で議論されることが多い。しかしながら、ガーディアン紙でサイモン・ジェンキンスが「金持ちになるために独立を求める国民はいない、自由を求めてだ」と指摘するように、これはスコットランド人の誇りの問題で、すべてがお金の面で判断されるわけではない。特にスコットランド人の反イングランド感情にはかなりのものがある。

白書は670ページにもわたるものだが、実際のところ、大方の有権者はその中身にそれほど関心があるとは言えないだろう。ただし、それほど大部のものを用意し、その中にスコットランドの有権者の共感を得そうな多くの政策を散りばめたことは、それなりの政治的な判断に基づく。

1934年に既成の団体が集まり、スコットランドの独立を求めてSNPが設立されたが、このような住民投票が行われると信じた人はあまりいなかった。そもそもブレア政権で設けたスコットランド議会ではこのようなことがないよう一党が過半数を占めるのは極めて難しい選挙制度を導入した。それでも数々のハードルを乗り越え、SNP結成80年後に住民投票が行われることとなった。スコットランドの首席大臣アレックス・サモンドは巧妙ともいえる有能な政治家だ。その手腕は侮れない。