スコットランドで労働党が勝利

スコットランドで、SNP(スコットランド国民党)の現職議員の死去を受け、2025年6月5日にスコットランド議会補欠選挙が行われた。そこで労働党が予想外の勝利を収めた

全国の世論調査によると、現在、労働党は支持率でリフォーム党に後れを取っている。労働党は2024年7月の前回総選挙で地滑り的大勝利を収め、下院650議席のうち、400議席あまりを獲得した。しかし、今や労働党の人気は低迷しており、現在、右翼のリフォーム党が労働党に10%近くの差をつけてリードしている。スコットランドでは、SNPは前回の総選挙で労働党に多くの議席を奪われたが、現在はSNPが労働党を約10%リードしている。

今回の補欠選挙の事前予想では、SNPが勝利するとされ、労働党はリフォーム党に次ぐ3位と予想されていた。しかし、選挙での得票率は労働党が31.6%、SNPが29%、リフォーム党が26%だった。保守党はわずか6%の得票率だった。なお、2021年スコットランド議会選挙では、得票率は、SNPが46%、労働党が33.6%、保守党が17.5%だった。リフォーム党はこの選挙区に候補者を立てなかった。

労働党は、2025年5月の、下院補欠選挙の敗北(6票差でリフォーム党候補者に敗北)、それにイングランド地方議会選挙での大敗により、苦境に立たされていた。なお、保守党は労働党よりもかなり多くの議席を失っている。その一方、リフォーム党は多くの議席を獲得し、多くの地方自治体を運営することとなった。

リフォーム党の人気はスコットランドでも高まっている。英国選挙の権威カーティス教授によると、スコットランドでは保守党支持者の4人に1人、労働党支持者の6人に1人以上がリフォーム党を支持している。さらに、ITVの政治部長によるとSNP支持者もリフォーム党に投票している。

一方、昨日2025年6月5日、リフォーム党チェアマンのZia Yusufが辞任したと報じられた。38歳の起業家で、メリルリンチやゴールドマン・サックスで銀行員として勤務していた人物である。コンシェルジュ会社を設立し、2億3000万ポンド(約450億円)で売却した。後にリフォーム党に20万ポンド(約3900万円)を寄付する。2024年7月、リフォーム党のチェアマンに就任し、ボランティアとして無報酬で1日18時間働いていると言われていた。リフォーム党をプロフェッショナル化した人物として見られていた。次期総選挙でリフォーム党から立候補するとされていたが、党内の対立により辞任したとみられる。スリランカ系イスラム教徒の両親を持つ。リフォーム党新下院議員のブルカ着用禁止の訴えに触発された議論が引き金になったと言われる。ユスフの辞任はリフォーム党にとって大きな損失といえる。

来年のスコットランド議会選挙、そして今後の英国政治に何が起きるか注目される。

前途多難のSNP

SNP(スコットランド国民党)党首でスコットランドの第一首相だったハムザ・ユーサフが辞任した後を受けて、かつて党首だったこともあるジョン・スイニーが新党首並びに第一首相に選出された。しかし、SNPの前途は多難だ。ユーサフの辞任の原因は、協力関係にあったスコットランド緑の党との合意を突如破棄し、政権内の準閣僚だった緑の党共同代表の2名を退任させ、それに反発した緑の党がユーサフ第一首相不信任案に賛成する動きを見せたことである。

新第一首相を選ぶ選挙では、7議席を持つスコットランド緑の党は棄権した。その結果、全129議席のうち63議席を持つSNPの指名したスウィニーが過半数を占め、第一首相に選任された。この結果、スウィニー政権は議会で過半数を持たない少数政権であり、これからは、各会派と政策ごとに協力して運営していくこととなる。SNPは、2007年の議会議員選挙で43議席を獲得して最大会派となった後、政権を無難に担当した経験がある。スウィニー第一首相は、2007年から財政担当の閣僚を務め、2007年から2023年までは、2人の第一首相の下、副第一首相を務めたベテランである。

スウィニーの抱える問題は、党内が環境問題やトランスジェンダーなどの問題で分裂していることだ。党是であるスコットランド独立の問題は、英国中央政府がそのような動きを認めないとしている中、行き詰まり感がある。

その中、SNPへの支持率が下降している。前回のスコットランド議会議員選挙は2021年に行われ、次期議会議員選挙は2026年の予定だ。あと2年間の時間がある。しかし、英国全体の下院議員選挙は2025年1月までに行われなければならず、2024年秋にも実施される見込みだ。もし、SNPが来るべき下院議員選挙で大きく議席を失えば、2026年スコットランド議会議員選挙にも影響を与えるばかりか、SNPのスコットランド独立運動にも大きな差しさわりが出る。ユーサフ前第一首相の動きは、英国総選挙を見据えた動きであった。

スコットランドの英国下院における勢力

政党名2019年結果議席現有議席
SNP4843
保守党67
自民党44
労働党12
ALBA未設立2
無所属 1
SNPは2019年から5名の議員を失った。2名は、ALBAへ移り、1名は、保守党に移り、1名は無所属となり、1議席は補欠選挙で労働党に敗れた。

一方、スコットランド地域の直近の世論調査(Norstat :2024年4月9日から12日実施)では、以下のようになっている。SNPは2019年総選挙時の支持率では、他の政党よりも圧倒的に強かったが、昨年末から現在までの支持率は労働党と拮抗している。

政党名SNP保守党労働党自民党緑の党その他
支持率321632948
2019年支持率4525.118.69.51.00.8
SNPは2019年から5名の議員を失った。2名は、ALBAへ移り、1名は、保守党に移り、1名は無所属となり、1議席は補欠選挙で労働党に敗れた。

次期英国下院総選挙では、スコットランドでの下院議員数は、2019年の59議席から57議席に減る。SNPの獲得議席予想には、19議席YouGov: 2024年3月7日から27日調査, 並びにElectral Culculous:2024年5月発表)があり、2019年時の48議席より大きく減少する勢いであり、SNPはかなり厳しい立場に追いやられている。

新党首の役目は党内をまとめ、態勢を立て直し、各種選挙に備えることだが、前途は多難だ。