スコットランド独立住民投票の行方

918日の独立住民投票を控えて、スコットランドでは独立賛成側と反対側のキャンペーンが猛烈に行われている。その中、昨日、本日と二つの世論調査結果が発表された。いずれも、賛成と反対が拮抗しており、まだまだ予断を許さない。 

912日現在最も新しい世論調査は、ICM/ガーディアンのものであり、賛成49%、反対51%である。ただし、17%はまだ態度を決めていいないため、これから動く可能性がある。この電話による世論調査で特徴的なのは、87%が必ず投票するとしていることだ。この中でも特に若い世代の16歳から24歳の世代の82%、25歳から34歳の87%が必ず投票する(既に郵便投票で投票したも含む)と答えており、関心が非常に高いことがうかがえる。

世代間の賛成・反対の違いもある。賛成の最も多いのは、25歳から34歳のグループで賛成57%、反対43%、一方、反対の最も多いのは、65歳以上の賛成39%、反対61%である。男女間では男性が賛成52%、反対48%であるのに対し、女性は、賛成45%、反対55%である。

また、11日夜に発表された、YouGovの世論調査結果は、賛成48%、反対52%で、態度を決めていない人が4%である。この世論調査では、特に、今回の住民投票の行方を決めると考えられている女性の賛成が先週末と比べて47%から42%へと減っている。さらに独立賛成派のサモンド首席大臣への信頼度が先週末の42%から38%へと減っており、一方では、独立反対側の中心として活動し始めたブラウン元首相の信頼度が32%から35%へと上がっている。独立賛成に向かっているとして心配されている労働党支持者層に影響を与えているようだ。有権者の中に一定の地殻変動が起きていることがうかがえる。

911日には、独立反対という結果が出る賭け率を1-5、つまり、ほぼ間違いなく独立反対となるという賭け率にした賭け屋が多かった。ただし、独立賛成側と反対側の支持率の差は小さく、誤差の範囲内にある上、態度を決めていない人もいるだけに結論を出すのは時期早尚に思える。

キャメロンの判断ミスが招いたスコットランド危機

918日のスコットランド独立住民投票まであと8日。事態は非常に深刻になってきた。独立反対側の保守党、自民党、労働党は、本来、首相と党首の出席する「首相への質問」をそれぞれの代理に任せ、スコットランドに飛んで、独立反対運動に懸命だ。

さらに、スコットランドのイギリスからの分離を防ぐために、2010年までイギリスの首相を務めたゴードン・ブラウンを先頭に担ぎ出した。ブラウンはスコットランド人で、スコットランドでは非常に良く知られている。

ブラウンは2010年の総選挙で労働党を率いて戦ったが、キャメロン率いる保守党に後れをとった。労働党は、2005年の総選挙時の得票率35.2%で355議席から2010年には得票率29%で258議席と6.2%も得票率を落とした。それでもスコットランドでは2.5%アップの42%の票を獲得し、全59議席のうち、前回と同様41議席を獲得した。 

キャメロン率いる保守党は、スコットランドでこれまでに大きく支持を減らし、下表で見るように現在ではわずか1議席、スコットランドで勢力を失っている。

2次世界大戦以降の保守党のスコットランド総選挙結果
 

ミリバンド労働党党首はロンドン生まれで、スコットランドでは人気がない。 一方、自民党は保守党との連立政権に参画して以来、スコットランドで支持を大きく失った。

これらを考えれば、スコットランドの労働党の牙城を守るためにも、スコットランド独立に強く反対しているブラウンが表に出てくるのは当然の人選とは言える。もちろんキャメロンは、これまでブラウンを厳しく批判してきた経緯があり、二人の関係に問題があった。しかし、総力戦となった今の段階では、体裁にこだわっていることはできない。

ブラウン投入の効果があるのだろうか?もちろん、ブラウンに心を動かされる有権者はいるだろう。しかし、問題は、それで十分かどうかである。例えば、ブラウンは、スコットランドの住民投票が「独立反対」となれば、スコットランドにさらなる権限の委譲を行うと発表した。これは上記三政党の支持を得ている。ただし、この約束がどの程度の効果があるかは別の問題のように思われる。その内容がはっきりとしていない上、ブラウンは所得税への権限には触れているが、法人税には触れていない。つまり、スコットランドが「独自の税制」を行えるような内容となっていない。しかも、ウェストミンスターのイギリス政府側がスコットランドとポンドを共有するのに反対したのは、もしスコットランドが独自の経済財政政策を行うと通貨が危機に陥るというものであった。つまり、この理屈では、スコットランドの分権でも、両者の経済財政政策に大きな違いをもたらすような政策は打てないことになる。つまり、この約束にはそう大きなインパクトはないように思える。

それでは、この住民投票の行方はどうなるのか?勢いは確かに独立賛成側にある。オンライン世論調査のYouGovに加えて、面接調査のTNSでも賛成・反対側が拮抗していることが明らかになっている。独立賛成が急速に伸びてきたことを見ると、その勢いが今ストップするかどうか推し量りがたい。しかし、スコットランドに深い関係のある金融機関や企業が、独立賛成多数の状況に備えて、イングランドに事業を大きく移すなど対応策を発表し始めており、これらがスコットランド住民に微妙な影響を与える可能性がある。

キャメロン首相は、スコットランドにイギリスに留まるようにとの心のこもったスピーチを発表した。このようなスピーチは、イギリス国民の多くの心を打つかもしれないが、スコットランド人にどの程度受け入れられるかははっきりしていない。

こういう事態を招いたキャメロン首相のこれまでの判断、例えば、賛成側も望んだYesNoに大幅分権の選択肢も入れた三者択一ではなく、YesNoの二者択一にしたことや、18歳の投票権を、今回に限り16歳まで認めるなど、多くの判断ミスがある。国の運命を決める重要な投票の結果がどちらに転ぶかわからないような事態を招いたのは、結果の如何を問わず、キャメロンの大失敗と言える。