切羽詰まってきたイギリスのEU離脱交渉

11月10日に終わった6回目の交渉の後、EU側の交渉責任者ミシェル・バーニエが、次の第二段階の交渉を年内に始めるためには、イギリス側は2週間以内に、イギリスの離脱清算金の立場をはっきりさせる必要があると発言した。12月14日、15日に開かれるEU首脳会議で話し合うには、その準備の時間も含めてかなり時間がかかる。そのため、あと2週間の話がでてきているのである。なお、離脱清算金は、イギリスがこれまでEU加盟国として約束しているお金の支払いや、EU公務員の年金などを含むものである。

メイ英首相は、9月末のフィレンツェの演説で、EU加盟国が不利にならないようにすると発言したが、それを詳しく説明するように求められたのである。メイは、これまでに、200億ユーロ(26兆円)ほどのお金の支払いを示唆したと見られている。しかし、EU側は、600億ユーロ(80兆円)を求めているとされており、その差は大きい。

もちろんEU側は、イギリスが具体的な金額を提示することを求めているわけではない。その最終的な額が決定されるにはかなり時間がかかることは承知しているが、どのような項目で支払いを行うのか、その明示を求めているのである。しかしながら、このEU側の要求にイギリス側が答えることは極めて難しいように思える。

EU側は、第一段階の交渉で、(1)イギリス離脱後のEU国民の地位(そして逆にイギリス国民の地位)、(2)清算金、そして(3)EU加盟国アイルランド共和国とイギリスの一部、北アイルランドとの国境の問題の3課題で、大きな進展があれば、第ニ段階の、貿易を中心にした将来の関係の交渉に入るとしている。つまり、これらの問題に両者の基本的な合意がなければ次の第二段階の交渉に入れないことになっている。

しかも2019年3月のイギリスのEU離脱後、両者の新しい関係が始まるまでの、いわゆる「暫定期間」の交渉も将来の関係の大枠が見えなければ進まないという状況にある。将来の関係がある程度明らかでなければ、「暫定期間」を設けることそのものの意味が乏しくなる。

そして、イギリス側の関心の中心は、貿易関係であり、これがどうなるかで、清算金への立場が変わる。イギリス側は、離脱交渉でEUとの差は極めて小さいと主張しているが、実際には、上記の清算金の例でも示されるようにかなり距離がある。すなわち、現在のように、将来の貿易関係がはっきりしない中で、どうして清算金の具体的な話ができるのかという見方が、イギリスの中にある。

一方、ビジネス側は、年内に第二段階の交渉に進むことを求めている。ビジネスにとっては、その戦略を立てる上でイギリスがEU離脱後、どのような立場になるかをかなり前に知っておくことが必要だ。例えば、輸出入への対応や新しいコンピュータシステムを構築するのにも、1年以上かかる。12月に第二段階の交渉が始まらなければ、その次にEU首脳が集まるのは来年3月であり、もしその際に、交渉が第二段階に移れるほどの十分な進展を達成しているかどうかを議論されるのでは遅すぎる。2019年3月の離脱に対して、手続き上の制約から、イギリスとEUとの合意は、2018年秋までになされている必要があり、バルニエらが何度も触れているように、時間は本当になくなってきている。

イギリスのEU離脱の、過去40年以上の非常に緊密で複雑な関係を清算するような試みは、これまでになく、その困難さは前例のないものである。メイ政権は、明らかに、この離脱交渉を見くびっていたと言える。

問題は、離脱清算金の詳細の合意に、あと2週間しかないと言われて、それがその期間内でできる状況にあるかどうかである。デービス離脱相が、双方のイマジネーションと譲歩が必要だと主張したが、イマジネーションが本当に必要とされるようなら、お互いの立場が膠着しているのは間違いない。

一方、現在でも保守党内の強硬離脱派は、巨額な清算金の支払いに反対している。オランダの国会議員が、メイ政権は、国全体のことより党のことを考えて行動していると批判したが、辞任した閣僚の後任の任命に閣僚のバランスを慎重に考える必要のあるメイ首相では、重荷に過ぎるだろう。もし、2週間で交渉が進展しなければどうなるか?恐らく、すぐに動きはないだろうが、イギリスの政治に切羽詰まったムードがさらに広く蔓延してくるのは間違いないだろう。それでどうなるか?

イギリス政治がさらに面白くなってきた。