警察コミッショナー選挙から逃げる首相(Cameron Distances Himself from the PCC Elections)

11月15日に、警察・犯罪コミッショナーの初めての選挙がイングランドとウェールズの41の警察管区で行われる。このコミッショナーの制度は、警察活動がより地域住民の関心を反映し、警察のアカウンタビリティー(説明責任)を向上させることを目指して設けられた。警察管区ごとに公選で1人ずつ選ばれる。これまで警察を監視する役割を果たしてきた、管区ごとの警察委員会では不十分だという考え方に基づく。

コミッショナーには、それぞれの管区警察の目標を策定し、予算を決め、さらに管区警察の責任者であるチーフ・コンスタブルを任免する権限がある。なお、コミッショナーを監視する仕組みも設けられており、それは警察・犯罪委員会で、地方議員らで構成される。ロンドンは仕組みが他の地域と異なり、ロンドン市長がこのコミッショナーの役割を果たすことになっており、今年1月にすでにコミッショナーの制度に移行した。

この制度のアイデアは、保守党が2010年の総選挙のマニフェストで打ち出し、自民党との連立合意でも承認され、2011年9月に法制化された。特に大きな問題はないように見えたが、実は、政治家にとっては非常に深刻な問題が起きている。それは、住民の関心が非常に低いことだ。選挙委員会は、既に投票率は18.5%程度にとどまるかもしれないという見解を出しているが、10月の世論調査の結果でも、絶対に投票すると言う人はわずか15%しかいない。
(http://www.apccs.police.uk/fileUploads/PCC_election_polling_2012/APCC_PCC_questions_Ipsos_MORI_toplineresults_221012_FINAL.pdf)
いずれにしてもかなり低い投票率となる見通しである。投票率が低すぎると、この制度の正当性自体に疑いが出る。つまり、政治家にとっては、なぜそのような制度を推し進めたのかという疑問を突き付けられることになる。

こういう状況を見て、キャメロン首相は、この選挙に直接関わろうとしていない。むしろ対岸の火事のように振る舞っている気配がある。自分が関わっても、投票率の大きな上昇は望めず、むしろ逆に自分の責任を問われる可能性が高いためである。大失敗に終わった、指定地方自治体で市長制度を設けるかどうかの今年5月の住民投票でも同様の対応をしたが、これらは首相の責任放棄と言われても仕方がないだろう。

キャメロン首相の失敗(What a mistake Cameron made!)

大臣が首相官邸前の門を警備する警官にののしり言葉を吐き、平民と呼んだとされる「平民事件」の余波は、非常に大きい。当の大臣は先週辞任したが、この事件によるキャメロン首相と保守党へのダメージは極めて大きいように思われる。キャメロン首相は、この大臣を更迭せず、守ろうとした。それが保守党の「嫌な党」イメージを再認識させているようだ。

オズボーン財相の電車切符事件にもそのダメージが現れている。この事件そのものは何でもないことだが、BBCまで巻き込んだ大きな報道に発展した。ことの次第はこうだ。財相が、19日金曜日に選挙区からロンドンに戻ってくるために電車に乗ったが、それは予定していた電車ではなかった。そこで、普通切符で乗車し、ファーストクラス(日本で言えばグリーン車)に御付の人(スペシャルアドバイザーの一人)と一緒に座った。御付の人は、車掌を探し、事情を説明したが、車掌はファーストクラス料金を別途支払う必要があると主張し、結局、190ポンドほど(約2万5千円)を支払った。

オズボーン財相にとって不運だったのは、ちょうど御付の人が車掌と話した時、そのすぐ横にITVというテレビ会社の記者が座っていたことだ。この記者がこのやり取りをツイッターで報告したために、2時間ほどたってロンドンのユーストン駅に到着した時には、大勢のメディア関係者(BBCも含む)が駅に詰めかけるという事態にまで発展した。

21日日曜日のBBCのラジオ番組で、保守党支持者らのウェブサイト、ConservativeHomeの編集長は、これはノンストーリーだと主張し、こういうものをBBCが報道するのはおかしいと言い張ったが、それはあまり効果がなかった。むしろ、ことの次第はともかくとして、「平民事件」で窺われたように、保守党は、自分たちの権力を笠に着ているという印象を裏付けるのに役立ったようだ。そのラジオ番組の街頭インタヴューでもそれが表れていた。

保守党の中で、キャメロン首相が「平民事件」の大臣を素早く更迭しなかったことに大きな批判があるが、それだけではなく、一般の人、それにメディアのキャメロン首相と保守党へのイメージが大きく悪化することにつながってしまったようだ。