2013年7月3日のタイムズ紙の付録の7ページに、イングランドの学校視察官の学校訪問の随行記が掲載されている。学校視察はどのように行われるのだろうか?
対象の学校
(1)この学校はロンドン郊外のリッチモンド・アポン・テムズのハムということころにあるグレイ・コート・スクールである。11歳から16歳の生徒の通う中等学校で、貧しい地区の読み書きの能力の低い子供たちが多いという。さらに生徒の19%は英語が母国語でない。近所にカウンシルエステイト(地方自治体の公共住宅の団地)がある。これはよくカウンシルハウスと呼ばれる。地方公共団体からそのアパート(フラットと呼ばれるが)を購入して住んでいる人もかなりいる。しかし、一般には貧しい人たちが多く、福祉手当で生活している人たちも多い。
(2)この学校は10年前に不適当校と認定された。現在の校長が赴任した2007年に可(Satisfactory)となり、2010年にも可。
(3)GCSEの試験結果は、過去3年間向上している。昨年、68%の生徒が英語と数学を含み、少なくとも5つのGCSE科目でCもしくはそれ以上を獲得した。今年の目標は81%。
なお、GCSEとは中等教育修了到達度試験のことで、必須科目と選択科目を受験し、到達度の最も高いA*から順にA、B、C、D、E、F、Gで評価される。履歴書にはこれらを書き込む必要がある場合が多い。日本のような一般的な学校修了証書とは異なる。
校長
50代の女性、マギー・ベイリー。これまで、達成度が低く、教員の入れ替わりの多い(英国では本人の意志で転職・転校する)困難校で多くの経験を積んできた人。
視察の評価
かつては4段階で上から優(Outstanding)、良(Good)、可(Satisfactory)そして不適当(Not adequate)とし、可で合格とされていた。しかし、2012年1月に就任した、視学官の責任者(Chief Inspector of Schools)マイケル・ウィルショーが、優と良のみが学校として許されるべきであり、可は向上する必要があるとして、基準を変えた。ウィルショーはイングランド学校教育水準局の(Ofsted)のトップである。なお、Ofstedは独立機関。(ウィルショーについては、参照http://kikugawa.co.uk/?p=205)
なお、2013年の最初の3か月間で717校が向上の必要があると判定され、さらに115校が不適当と評価された。
この期間に、4分の3の学校が良以上と評価されており、昨年に比べてその数が9%向上している。ウィルショーのアプローチの効果が出ているようだ。
視察
視察前日の午後12時10分にOfstedから学校に電話。校長は外出中で、連絡を受け、すぐに帰校。ウィルショーの方針で、連絡は前日に行われることとなっている。
校長は、用意していた視察対応計画を実施。生徒を学年ごとに集めて視察の説明。教員たちへのアドバイス。
当日午前7時半、4人の視学官が学校到着。視学官は、4人。上級視学官、大学の学者、元校長、それにアカデミー校グループの副校長。
午前8時 校長と学校の幹部スタッフと視学官たちのミーティング。40分。校長らからの説明。急速に向上しているので良と評価される価値があると主張する。
視学官からの質問例
・解雇問題のある教師はいるか?
・授業援助の必要な教員の数は?
・見てほしくないことがあるか?
・GCSEの試験を年齢より早く受ける生徒の数は?
・優秀な生徒の能力をどのように伸ばしているか?
視学官の授業査察
・手分けして授業を見る。
・内容と教え方の査察
・教員の授業プラン書を確認
・生徒と会話、それぞれのノートを見る。教師の書き込んだコメントなども確認。
一日の査察の後、視学官が教員にフィードバックを与える。緊張のあまり泣き出す教員もいる。
そして校長ら幹部スタッフとのミーティング。一日目の査察後の暫定的な評価を与える。28の授業を査察した結果を4つの分野について1から4の4段階で評価。
校長からのコメント。一日目の授業では、教員がピリピリしており、それぞれの能力がきちんとでないことがある。
視学官が学校を出るのは夕方。宿にさらに多くの書類を持って帰る。なお、視学官たちはお昼のサンドイッチ代として一人当たり5ポンド(750円)を出す。
2日目の査察では、教員も慣れ、教え方がよくなった。また、試験結果とそれ以外のデータも考慮に入れる。
結果は、優との判定。
補足
視学官には、Ofsted直属の視学官と外部からの専門家らによる視学官がいる。総勢2千人を超える。Ofstedの視察は、非常に恐れられており、特にその責任者であるウィルショーは教員や校長から嫌われているようだ。