反ストライキ法案

英国のインフレは、10%を超えている。それに対し、政府の提供する賃上げが十分ではないと、公共サービスに携わる労働組合が次から次にストライキに打って出ている。看護、救急車、鉄道、郵便、教員、出入国管理などをはじめ、一般の公共サービス部門に広くわたっている。

2010年に始まった保守党政権の緊縮財政で、公共サービスに関係する分野の賃上げは、2010年以来のインフレ率を考慮に入れると、例えば、看護師では2010年レベルよりも実質10%下がっている。

2022年10月にスタートしたスナク保守党政権は、その前のトラス政権の財政政策で金融の不安定を招き、わずか50日の短期政権となったことを受け、その財政政策は極めて慎重で、容易に財布のひもを緩めようとはしていない。

ストライキは「使用者側」と「労働者側」が、給与の額で相容れない際に行われる。それは、通常、お互いの交渉で歩み寄って解決するが、現在起こっているストライキでは、政府側がその立場に固執する傾向が強いようだ。

かつてマーガレット・サッチャー保守党政権で、1980年代に炭鉱労働者組合を相手に、強硬な組合対策を実施し、ストライキを押しつぶしたことがあるが、その際には、サッチャー政権が慎重な準備を進め、非効率になっていた鉱業を大幅に縮小する政策とともに進めた。しかし、現在、行われている労働争議は、そのような慎重な準備とはかけ離れている。ウクライナ戦争で突然起きた、ガスなどの燃料の価格急上昇と大幅なインフレで起きた労働争議である。特にこれまでの保守党政権で、財政緊縮に重点を置き過ぎていたため、今回のような非常時の準備、例えば、ガスの備蓄などが十分ではなかった。しかも、英国がこれまでの投資の欠如とEUを離脱したブレクシットの影響で、主要先進国の中で、英国だけがまだコロナ禍前の経済レベルにまだ達していない問題もある。

スナク政権が、公共サービスの労働者に対応する新たな策として、ストライキを大幅に制限する、反ストライキ法案を提出した。この法案では、大臣が公共サービスの最低サービスレベルを決め、その最低サービスレベルを守らない労働者は、使用者が解雇できるというものである。これには、労働組合は一斉に反発しており、次期総選挙で勝つことが有力視されている労働党は、この法案が法律になれば、政権に就けば、それを廃止するとする。

スナク政権は、対応策に欠けており、どの程度現在の姿勢を維持できるか注目される。