スナク首相の労働党攻撃戦略

6月4日夜の2大政党党首討論で、保守党のスナク首相は、労働党が総選挙で勝てば、税金を一勤労者家庭当たり2000ポンド(40万円)上げる(4年間で)と労働党を攻撃した。

保守党は2010年から14年間政権にあるが、有権者の3分の2が保守党政権に不満を持っている。保守党は世論調査支持率で、野党第一党の労働党に20%程度の差をつけられており、獲得議席予測では惨敗する情勢である。そのため、なりふり構わない状態になっている。

スナク首相は、討論の中で労働党が2000ポンド税を上げるとの主張を繰り返した。しかもこの数字は、偏っていない財務省の国家公務員が出したものだと主張したのである。財務省の職員が計算に関わっていたのはまちがいないようだが、保守党のスペシャルアドバイザーらが、この計算の根拠となる労働党の政策を想定し、しかも計算の根拠となる条件を勝手に判断していたようだ。マニフェストはまだ出ていない。財務相の国家公務員トップである事務次官も、保守党の大臣らにこれは財務省の仕事であるとは主張しないでくれとあらかじめはっきりと明言していた。しかし、スナク首相は、あえてそのような要請を無視したのである。

スナク首相と保守党は、財務省の国家公務員が出したということは言うことをやめたが、労働党の2000ポンド増税は、継続して主張している。保守党の選挙放送でもそれが中心メッセージである

2000ポンド増税の金額が有権者の記憶に残りやすいという指摘がある。しかも、この2000ポンド増税が話題になって以来、メディアがこれを繰り返し報道しており、保守党は「労働党政府=2000ポンド増税」を有権者の頭に叩き込むことを狙っているようだ。

保守党の「労働党が2000ポンドの増税をすると財務省の国家公務員が計算した」という主張は、統計規制局(The Office for Statistics Regulation)が調査中である。ただし、スナク首相と保守党にとっては、総選挙の結果以外のことは考えていないようだ。

一方、労働党は、スナク首相を「嘘つき」だとして個人攻撃に出ている。実際、スターマー党首は、討論の際、非常に緊張していた。そのためか、スナク首相の2000ポンド増税攻撃に直ちに対処できなかった。それでも討論後の2つの世論調査では、スターマー党首の人柄が高く評価されている。労働党は、2人の人柄の差を取り上げていくだろう。なお、労働党にとって、「2000ポンド増税問題」は、警鐘といえるだろう。スターマー党首は、元人権問題の法廷弁護士であり、イングランドの公訴局長だった人物である。同じような失敗を2度と繰り返さないだろうと思われる。