2024年7月4日の総選挙で労働党が地滑り的大勝利を収め、スターマー労働党政権が7月5日に発足した。それから5カ月余り。7月末から8月にかけて各地で暴動が発生するなどの政権の危機があった。10月30日には、リーブス財相がスターマー政権の予算を発表し、批判を受けた。有権者はどのように政権を見ているのだろうか?
もともとスターマー政権は、1997年の総選挙で非常に高い人気の下、地滑り的な大勝利を収めて政権についたブレア労働党政権とは異なる。有権者から非常に高い支持を受けて政権に就いたわけではない。14年間にわたって政権にあった保守党の失政、さらに2007年以来スコットランド分権政府にあるスコットランド国民党(SNP)の内部の問題でSNPがスコットランドの有権者の支持を大きく失い、それらの結果、労働党が地滑り的な大勝利を収めたのである。スターマー労働党の人気がそう高かったわけではない。
そのため、有権者は、スターマー首相にそう大きな期待があったわけではなく、政権に就いた途端に、労働党の支持率は下がり始めた。今では、14年間の施政で信用を失った保守党とほぼ並んだ程度の支持率となっており、右のリフォーム党にも脅かされる程度となっている。また、スターマー首相の個人評価は、極めて低い。
しかしながら、労働党は、下院の全650議席のうち402議席(2024年12月16日現在)を占めている。保守党は121議席、リフォーム党は5議席。5年の任期終了までまだ4年半以上ある。
労働党は、政権に就いて成し遂げたいことをはっきりと総選挙のマニフェストで示した。この12月に入って、スターマー首相は、それらを再確認するスピーチを行った。世論の支持率が低迷していることを心配したためである。
このようなスピーチの効果には疑問がある。労働党政府内の大臣や国家公務員を引き締める効果はあるかもしれないが。
むしろ地道に着実に目標を達成し、NHSを改善し、待ち時間を減らし、また、生活がよくなったという実感を生み出すことに専念するほうが確実だろう。ブレア政権では、人気があっただけに、その政策に対する世論の動向に過剰に注意を払い過ぎたように思われる。スターマー政権では、その心配は少なく、逆に世論の反応に拘わらず必要な政策を推進できるという強みがある。
特に、リーブス財相の予算では、必要な財源を生み出すために、企業の負担する国民保険料のアップだけではなく、一定の一般有権者にも負担が増加した。この負担増に有権者の多くは、おおむね理解を示している。すなわち、多くの有権者は、公共サービスの立て直しには一定の増税が必要だと理解していると言える。
スターマー首相は地味な政治家である。言葉ではなく、自分の政権が約束したことを成し遂げるために全力をふりしぼることが現在最も大事なことのように思われる。