英国下院の特権栄誉委員会(Commons Select Committee of Privileges)が、ジョンソン首相がパーティゲートに関連して嘘を言った疑いで調査を始めることとなった。ジョンソン首相の立場は、非常に弱くなっている。
パーティゲートは、2020年から21年の新型コロナのロックダウン期間中に人の集まりが厳しく規制されている中、首相官邸などで数々の集まり(パーティ)が開かれていたことがわかった事件である。ジョンソン首相は、その中で少なくとも3つの集まりに参加していたが、これらの集まりは、すべてロックダウンの規制に適う形で行われていたと議会で繰り返し述べていた。ところが、ジョンソン首相自身、自分のために催されたバースデーパーティでその法規を破っていたとして、ロンドン警視庁から罰金通知を受け取り、支払った。ジョンソン首相は、これまでに首相官邸などのパーティゲートで罰金通知を受け取った少なくとも50人のうちの一人である。
ジョンソン首相のバースデーパーティは、ジョンソン首相が参加したと言われる集まりの中でも最も深刻度が少ないという関係者の見方に関する報道がある。さらにこれらのパーティに関連して官邸の公的写真家の撮った写真が150枚以上あるともいわれる。ロンドン警視庁の取り調べが進めば、ジョンソン首相はさらに罰金通知を受け取る可能性が高いと見られている。
野党は、ジョンソン首相がパーティゲートだけに関わらず、これまで他の問題でも「ウソつき」だと攻撃してきていた。ところが、パーティゲートの発覚で、国民には新型コロナの法規を守るよう強く求めながら、ジョンソン首相自身がそれを守っていなかったことがわかって以来、国民の多くの見方はジョンソン首相に厳しいものとなっている。
下院の特権栄誉委員会での調査は、2022年4月21日の下院本会議で決まった。ここに至るまで、首相官邸は、何とかこの調査を避けようとした。野党第一党労働党の提案を保守党下院議員への強制指示投票(Three‐Line Whip)で否決させようとしたが、保守党の中に労働党案に賛成もしくは投票しない議員がかなりいることがわかると、そのような調査はロンドン警視庁の捜査が終わってからにすべきだと修正案を提出した。ところが、その修正案にも保守党の中で十分な賛成が得られないことがわかると、その修正案も取り下げた。労働党案の討議は、暗い雰囲気の中で進行し、その討議の最後に、議長がこの案に反対はあるかと聞くと、返事がなく、「うなずいて承認」された。
保守党下院議員たちには、まず、普通の下院議員なら嘘を言ったという嫌疑が出てくれば調査は当たり前だが、なぜ首相を別扱いにするのかという疑問がある。さらに、昨年11月のオーウェン・パターソンのロビーイング違反問題の投票で、ジョンソン首相から強制投票を命じられたのに、世論の反発を受けてジョンソン首相が一晩でUターンし、地元選挙区で苦しい立場になった思いがある。さらに、ジョンソン首相がパーティゲートで罰金通知を2回目、3回目と受けるような事態となる可能性が強いが、そうなると、ジョンソン首相では選挙が戦えない。
その上、難民や亡命希望者をアフリカのルワンダに送る政策は、英国国教会や国連難民高等弁務官事務所などから強い批判を受けたが、事務次官がその政策の効果に疑問を持っているために、内相が過去30年間で2回目といわれる大臣指示書を提出せざるをえなかったように政策がチグハグである。現在は、ウクライナ戦争や物価の急上昇と生活危機など深刻な問題があるが、ジョンソン首相をどうしても守っていかねばならないという状況ではない。 ジョンソン首相は、投票を避けることで、自分への支持がどれほど弱っているか示さずに済んだという見方があるが、ジョンソン首相が、深刻に弱体化していることは明らかである。