総選挙の実施日に関する賭け

英国ではブックメーカー(賭け屋)が政治や選挙に関する賭けも行っている。これには、どの政党が選挙に勝つか、過半数を占めるかどうか、次の党首は誰かなど様々な政治の面についての賭けを含む。その賭けの一つにいつ総選挙が行われるかという選挙の時期もある。

スナク首相が、5月22日、総選挙を7月4日に実施すると発表した。この発表は、多くの閣僚や保守党下院議員には寝耳に水だった。スナク首相は、それまで今秋に総選挙を実施すると思われていたからである。政府の職についている保守党下院議員の中には、この時期にホリデーに行ってもいいと言われて予約しており、5月22日の発表があったにもかかわらず、怒ってホリデーに行った人もいる。

ところが、スナク首相の補佐をしていた保守党下院議員(下院議員の資格は、議会が解散されると失われ、元下院議員となるが、ここでは、元下院議員とは表記しないこととする)が選挙の時期について発表の3日前に賭け屋で賭けをしていたことが明らかになった。さらに、スナク首相の警護をしていた警官が賭けをしており、逮捕された。その上、保守党の職員で、今回の総選挙に保守党から立候補している候補者も賭けをしていたことがわかった。さらに、この候補者の夫は、保守党の選挙部長であり、総選挙の真最中であるにもかかわらず、その妻が調べられていると分かったとたんに休暇届を出していたことがわかった。

英国では、ギャンブル法で、ランダム性のない賭け、例えば、インサイダーの情報に基づく賭けは禁じられている。今回の「総選挙の時期」に関する賭けでは、当初の下院議員が賭けをした賭け屋が、政府の機関であるギャンブル委員会(Gambling Commission)に不審があるとして届け出た。スナク首相の発表3日前には掛け率は10対1、すなわち、100ポンド(約2万円)賭けると1000ポンド(約20万円)の配当が出る掛け率だったそうだが、それが3日前に5対1、すなわち100ポンド賭けると500ポンドになった。ギャンブル委員会は、他の賭け屋にも、この賭けで199ポンド(約4万円)以上の払い戻しをした人を調べるよう指示した。その結果、「少人数」がギャンブル委員会の取り調べの対象になっていると言われる。

スナク首相らは、総選挙の時期のような問題の取り扱いにナイーブであったようだ。今回の総選挙では、少なくとも2人の保守党候補者がインサイダー情報による賭けをしたようだが、2人とも選挙の候補者のままであり、他の政党から批判されている。保守党の歴史的な大敗が予測されている中、スナク首相は、自分の立場をさらに難しくしていると言える。

政治的センスに欠けるスナク首相

スナク首相に政治的なセンスがあるだろうか。現在43歳。2015年に下院議員に選出され、2020年にボリス・ジョンソン首相の下、財相となり、ついに2022年に保守党党首・首相となるまで、計7年半しかかからなかった。しかもその選挙区は、元保守党党首で、キャメロン首相の下で外相などを歴任したウィリアム・ヘイグの保守党の非常に強い選挙区を受け継ぎ、選挙に苦しむという経験もしたことがない。そのような人物に政治的なセンスがある可能性はそう多くないだろう。

本人に政治的なセンスがなければ、政治的なセンスのある人をアドバイザーとするという方法がある。かつてトニー・ブレア首相を広報局長として支えたアラスター・キャンベルが、本人に政治的なセンスがなくても優れたアドバイザーがいれば大丈夫だと言ったことがあるが、キャンベルのように目先が利く人はそう多くない。

英国の政治で現在最も取り上げられているトピックは、レイシズム(人種主義・人種差別)である3月13日の「首相への質問」でも取り上げられた。スナク首相の祖先はインドのパンジャブ地方出身で、本人がレイシズムに触れたくないということがあるのかもしれないが、保守党下院議員や保守党政治献金者のレイシズムに関わる問題が起きてから、それがレイシズムであるということを躊躇した。テレビのニュース番組などには閣僚などを出演させて応答させたが、中途半端な答えに終始し、批判されることとなった。1000万ポンド(18億円)を献金した保守党政治献金者の例では、当初、その人物の言ったことが「誤ったこと」だとしたものの、スナク首相が、それはレイシズムの問題だとしたのはかなり時間がたってからのことだった

政治家の判断にはタイミングが重要だ。追い込まれるまで物事の本質に触れられないというのは、政治的なセンスの欠如のように思われる。