党員減少で苦しむ保守党大臣たち(Tory Ministers Suffering from Declining Memberships)

日本では通常、大臣になれば地元選挙区で支持が拡大する。特に保守系ではそうだろう。しかし、英国ではそうではない。

保守党の党員数が減っているが、それは保守党閣僚の選挙区でも同じである。保守党は党員数を発表していないが、保守党各選挙区支部が選挙委員会に提出した会計報告のサンデータイムズの調査でそれが裏付けられている。

その調査によると、首相のデービッド・キャメロン(David Cameron)と外相のウィリアム・ヘイグ(William Hague)の選挙区ではほとんど減っていないが、それ以外の有力大臣の選挙区の党員数が大きく減っている。

2010年のキャメロン政権発足以来コミュニティ・地方自治体大臣を務めるエリック・ピクルズ(Eric Pickles)の選挙区では2009年から2012年の間に党員が半減している。昨年9月の改造で、それまでの副大臣ポストから北アイルランド大臣となったテレサ・ビリヤーズ(Theresa Villiers)の選挙区では44%減。元保守党党首で、2010年から労働・年金大臣のイアン・ダンカン=スミス(Iain Duncan Smith)は、3分の1減っている。

他に大きく減っているのは、閣僚クラスの保守党下院院内幹事長から2012年9月に運輸大臣に就任したパトリック・マクロックリン(Patrick McLoughlin)、2010年から教育大臣を務めるマイケル・ゴブ (Michael Gove)、2011年に財務省の政務官クラスのポストから運輸大臣になった後、2012年9月に国際開発大臣となったジャスティン・グリニング(Justine Greening)、文化大臣を務めた後、2012年9月から健康大臣のジェレミー・ハント(Jeremy Hunt)それに2012年9月に副大臣ポストから文化大臣に就任したマリア・ミラー(Maria Miller)などがいる。

グリニングの場合、2011年に運輸大臣に就任し、ロンドンのヒースロー空港拡張に反対と明言した。これは、オズボーン財相らの考えに反対するものであった。その結果、翌年、グリニングの意志に反して他のポストに異動させられることとなった。

保守党は2010年の総選挙ではヒースロー空港の拡張反対を打ち出したが、現在では、ヒースロー空港拡張が最も現実的な対策だと考えており、次期2015年の総選挙では、事実上容認の立場を打ち出す見通しだ。なお、ロンドン市長のボリス・ジョンソン(Boris Johnson)はテムズ川の河口の空港建設を提唱しているが実現可能性は少ない。

グリニングは、自分の選挙区がヒースロー空港の進入路のパットニーにあり、これまでヒースロー空港拡張に強く反対してきた。ヒースロー空港周辺の住民などからこれまで多くの応援を受けてきている。担当の運輸大臣として反対の立場を明確にしたのは、自分の選挙区の党員が減る中で、危機感があったことは容易に伺われる。

日本の場合、政治家と様々な利権との関係がよく指摘されるが、英国では、そのようなことは通常考えられない。日本の政治風土も徐々に変化してきているようだが、日本は、この点で、英国の例を参考にすべきだと思われる。

党員の減少する保守党の将来(What Tory’s Future Holds?)

保守党の党員数が大幅に減っているようだ。保守党は1950年代には300万ほどの党員がいた。それが徐々に減り、1980年代に100万人を割った。それが今や10万人程度になったのではないかと見られている

保守党は、現在の党員数を発表していない。キャメロンが党首になった2005年には25万8千ほどであったのが、2010年までに17万台となり、現在では、キャメロンが党首となった時の半分以下になっているようだ。そのため、体面上発表できないようだ。

この急速な減少の理由には、英国独立党(UKIP)への支持の移行とキャメロン保守党の政策への反感、例えば、同性結婚の推進などが言われている。

自民党も2010年に保守党との連立政権に参加して以来、党員数が34%減った。2011年末の4万9千人が2012年末には4万2千5百人になっている。これは、明らかに保守党と連立政権を組んだことへの反感が大きな原因となっている。

一方、労働党は、20万人弱程度の状態で推移している。それでも1950年代に100万を超える党員数があった時と比べるとかなり少なくなっている。

党員の減少は、それぞれの政党の活動に大きな影響を及ぼす。選挙時の個別訪問や、リーフレット配り、候補者選定への参加、それに党費や政党支部への献金など、すべての党活動に影響を与える。つまり自分たちの信ずる目的のために貢献し、見返りを求めない活動家の数が減ることになる。また、党員数が減れば、かつては公費助成がなくても政党活動が可能であったのが、困難となる。

特に大きな問題は、選挙の候補者を選ぶ人たちが必ずしも社会を反映する考え方を持っているとは限らないことや、有権者との関係が希薄になることである。

保守党の現職下院議員の選挙区でも党員数が150を下回るところもあるようだ。保守党は、2015年総選挙への対応として、オバマ米大統領の2012年再選選挙でインターネット選挙を推進したジム・メッシーナを雇ったが、党員が少なくなる中、ソーシャル・メディアを使って浮動票を獲得しようという意図がうかがえる。

一方、主要政党の党員の減少は、社会の変化の反映とも言える。1951年の総選挙では、82.6%の投票率で保守党と労働党の二党で96.8%の得票をした。それが2010年には、投票率は65.1%に減り、両党で65.1%の得票率となっている。一般の有権者の政治離れが言われて久しいが、UKIPへの支持の増加は、既存政党への不満の表れと考えられている。

つまり、社会の変化に対応して政治も変わっていく必要がある。これには、下院議長のジョン・バーカウも危機感を持っている。ニュージーランドでの演説で、議会の根本的な改革が必要だ、有権者と再びつながる必要がある、そして政府の議会へのコントロールが強すぎるため、それをある程度放棄すべきだとの見解を述べたが、政府の保守党メンバーからこれは議長の権限を越えていると批判された。

保守党の下院議員ダグラス・カースウェル(Douglas Carswell)は、インターネットを有効に使って自分の選挙区で党員の数を2倍にした。カースウェルは、登録支持者やインターネットメンバーの制度を設けて、保守党の主な役職や選挙候補者の選定に関わらせたり、政策に影響を与えたりすることができるようにすべきだと主張している。

いずれにしても、これからの政治がインターネットと深く関係のある形で変化していくのは間違いなく、既成政党がiDemocracyにいかに素早く対応していけるかが生き残りのカギとなりそうだ。