北アイルランドの火種:国旗(Union Jack: Troubles carry on)

北アイルランドのベルファストで国旗掲揚を巡って暴動が起きている。北アイルランドでは、英国(UKは連合王国という意味)との関係継続を求める立場のユニオニストと、南のアイルランド共和国との合同を求めるナショナリストの対立がある。それぞれの勢力の過激派は、それぞれロイヤリストとリパブリカンと呼ばれるが、特にこれらの過激派の衝突がこれまでも繰り返されてきている。

1998年に、グッドフライデー合意(もしくはベルファスト合意と呼ばれる)が成立した後、北アイルランド議会が復活したが、この議会は何度も中断した。しかし、2007年の選挙で成立した議会は、4年の任期を全うし、2011年の選挙を経て、現在に至っている。北アイルランドの最大政党で、ユニオニストである民主統一党が主席大臣を出し、ナショナリスト側の最大の政党であるシン・フェイン党が副主席大臣を出して、政府が継続しており、北アイルランド政権はうまくいっているように見える。しかし、実際は必ずしもそうでない面がある。例えば、ユニオニストの人たちとナショナリストの人たちの衝突を避けるためにお互いの住む地域の間に、高い「平和の壁」が1969年から作られ始めたが、グッドフライデー合意の時には22あったのに対し、今では48ある。そしてこれらの平和の壁の近隣住民の3分の2の人たちは、この壁が今後も必要だと見ている。

さて、ベルファストの国旗掲揚の問題は、12月3日に始まる。ベルファストの市議会で、ナショナリスト側が、それまで市庁舎に毎日掲揚されていた英国の国旗、ユニオンジャック(正式にはユニオンフラッグという)の掲揚を中止する提案をした。ユニオニスト側は、それに反対したが、いずれの側も議会で多数を持っておらず、そのため、中立の立場の同盟党の投票でそれが決まることになった。なお同盟党は、ベルファスト市議会51議席中、6議席を占める。

ナショナリスト側とユニオニスト側が手詰まりの状態の中、同盟党は、折衷策を提案し、それを受け入れたナショナリスト側の賛成で、女王の誕生日など年間20日だけユニオンジャックを掲揚することとなった。そしてそれは翌日から実施された。しかし、ユニオニスト側はそれに反対し、ロイヤリストたちが、この国旗の件は、自分たちの文化的アイデンティティへの攻撃だと主張して暴動を始めたのである。ユニオニストたちは、特にパレードと呼ばれる行進とユニオンジャックの国旗をその文化を代表するものだと考えている。しかし、自分たちの文化的なものが、ナショナリストたちの要求で、次第に侵害されてきていると感じているのである。その不満が一挙に吹き出た形だ。その背後にはロイヤリストの武装集団が控えていると言われる。

そのため、まずこれらのロイヤリストたちから標的となったのは、決定権を握る同盟党だった。同盟党の下院議員が脅迫され、ベルファスト市議会の議員の家やその自動車を攻撃するなど同盟党の議員たちが自分たちの生命の危険を感じるほどとなっている。

この暴動が継続しており、それらを制止しようとする警察とロイヤリストが衝突して、警官にも多くの負傷者が出ている。英国の中で、高圧放水車を唯一持つ北アイルランドでは、それも使う事態となった。山は越えたという見方もあるが、北アイルランドの問題は、一時沈静化しても、すぐにぶり返す傾向があり、北アイルランドの平和にはまだまだ時間がかかると思われる。