メイ首相後の政局

メイ首相は、イギリスがEUを離脱するにあたり、自分が結んだEUとの合意を下院に提出し、その承認を求めた。しかし、採決を予定していた12月11日の前日、突然、採決を延期。保守党内の反対が強く、大差で否決されるのは間違いないと判断したためだ。そしてEUと再交渉するとしてEUの盟主ドイツやEU本部のブリュッセルを訪問し、トップと会談したが、合意の詳細の明確化などは検討できるとされたものの再交渉は断られた。

この結果、保守党では、メイ首相を退陣させる動きが再び強まり、メイ首相の保守党党首としての信任投票が行われる見込みだ。もちろん、保守党の党首でなくなれば、下院の支持が得られず、首相の地位は維持できない。保守党のルールでは、その所属下院議員の15%が党首の不信任投票を求めれば実施される。すなわち、315人のうち48人の要求があれば、そのような投票が行われることとなる。そしてその数はそろったとみられる。

その不信任投票で、もしメイ首相が過半数を獲得すれば、党首の地位を維持し、通常、首相としての地位を維持できることとなる。しかも、それから1年は再び党首不信任投票ができなくなる。メイ首相は、これまで不信任投票が行われても過半数を獲得すると見られていたため、この点が、不信任を要求する動きがそれほど大きくならなかった大きな原因だ。しかし、状況は大きく変化している。

もしメイ首相が今回の保守党の党首不信任投票で生き残っても、下院で首相不信任されるのはほぼ確実な情勢だ。野党最大の労働党は、それ以外の政党から首相不信任案を提出するよう求められている。労働党は情勢を見極めてとしてきたが、今では首相不信任案に保守党のかなりの下院議員も賛成する勢いだ。

2週間前、拙稿で、この可能性に言及したが、首相不信任可決後、2週間で次期首相が決まらなければ、解散となる。保守党は、このような状況で選挙は避けたい。そのため、3か月かかるといわれる、通常の党首選挙は行えない。そのため、保守党下院議員の総意で誰か一人を選ぶ必要がある。正規のルールでは、下院議員の中の投票で2人の候補者に絞り、どちらかを党員全体の投票で選ぶ仕組みだが、もし、下院議員間の話し合いで立候補者が一人しかいなければ、その時点で、次期党首が決まることとなる。

次期党首の座を狙う野心家は保守党内に多いが、誰か一人にしぼることができなければ、総選挙となり、しかも不透明感はさらに長期にわたることとなる。とりあえず、イギリスの2019年3月29日のEU離脱を延期することも不可能ではないが、それには、EU27か国の関連議会すべての承認が必要である。イギリスが自らEU離脱をキャンセルすることも欧州司法裁判所で許されたが、イギリス議会は現在のところ、そこまで踏み切ることはできないだろう。

結局、2週間前の拙稿で指摘したように、保守党が新党首を選び、北アイルランドの民主統一党の閣外協力を得て、首相に就任し、EUと再交渉するか、総選挙が実施されるかの二つに一つとなるのではないかと思われる。