底流の変化するイギリス政治

イギリス政治の底流が大きく変化している。

2015年5月の総選挙は、保守党が過半数を占めるという予想外の結果となった。そして9月には、労働党の党首に、誰も予想していなかったジェレミー・コービンが就任。コービンブームが労働党を含めた左派を席巻、他の候補者を圧倒した結果である。保守党はコービン当選を喜んだ。労働党の中の異端で、過去30年余り、イギリス政治の辺境にいた「極左」のコービンが相手では、次の総選挙は、保守党が楽勝すると信じたからだ。

そして、この12月のシリアへの空爆を巡る下院の審議。キャメロン首相は、11月のパリ同時多発テロ事件の後、フランス、アメリカなどの要請も受け、その事件を起こした過激集団「イスラム国」(ISIL)を攻撃するため、シリアへの空爆参加に踏み切りたいと考えた。しかし、下院の支持が得られるかどうか疑問があった。そのカギとなったのは、労働党の対応である。平和主義者のコービンは空爆に反対で、コービンが労働党下院議員に空爆反対の投票指示をするかどうかが注目された。労働党では、影の内閣のメンバーをはじめ、空爆に賛成する下院議員がかなりおり、メディアが「労働党は分裂している」と報道する中、コービンは、結局、自由投票とした。そして、その結果、下院は大差でシリア空爆に賛成。コービンは、このため、その立場をかなり弱めたと見られた。

一方、この過程で、有権者は、当初、空爆に賛成していたが、その支持はかなり弱まる。

そして下院の採決の翌日、12月3日に行われた、下院の補欠選挙。労働党の圧倒的に強い選挙区だが、労働党が敗れる可能性も指摘されていた。しかし、労働党新人が、予想を裏切り、62%の票を獲得し、5月の総選挙時より得票率を伸ばし、次点のUKIPに大差をつけて当選。第3位の保守党は10%ほど得票率を減らした。コービンは、一挙に面目を回復した。

イギリス政治は大きく変わっているが、ほとんどの政治コメンテーターの見方は、これまでの政治の見方、価値観に基づいたものである。「予想外」の出来事が多発しているのは、イギリスの政治の底流が大きく変化しているためのように思われる。