自らを再び窮地に陥らせた内相(When cards are stacked against a politician.)

内相テリサ・メイが、再び大失敗をしたようだ。内務大臣のポストは英内閣の4大職の1つでメイは女性で2人目に内相に登用された人物である。オックスフォード大学出身で過去には保守党幹事長を務めたこともある。当初、内相の職を無難にこなしているように見え、キャメロン政権では業績を上げている大臣として一般に見做されていたが、その手腕にはかなり前からクエスチョンマークがついていた。それが昨年、国境管理を巡る問題で、白日の下となった。メイは、事実関係を十分確認する前に、下院の内務委員会で国境管理の責任者である国境局幹部を痛烈に攻撃した。そのため、既に停職処分を受けていた責任者は、職務に留まることはできないとして辞職し、「推定解雇」で労働裁判所に提訴した。この訴訟では、この元責任者が勝つのは間違いないと見られていたが、この3月に示談が成立した。もし、裁判で事実関係が争われていれば、メイ内相らの失態の詳細が公になっていた可能性が大きい。

メイ内相は、今回も上記の問題と同じミスを犯した。今回は、アル・カイーダのオサマ・ビン・ラーデンの欧州での右腕と呼ばれていた人物、アブ・カターダに関わる事件である。カターダを国外退去処分にするため歴代の内閣が努力してきており、送り先のヨルダンとの間で拷問にはかけないとの約束を取り付けていた。欧州人権裁判所はその約束は有効だと認めたが、カターダをヨルダンに送り戻すと、他の人物から拷問で入手した証拠を基に裁判にかけられる可能性があるとして、許可しないという判断をした。そこで、メイ内相が自らヨルダンに赴き、その点での確約書を取った。そして欧州人権裁判所の判断へのカターダ側からの上訴期限が過ぎたと判断するや、国外退去処分の手続きを進め始めた。

この場合も、上記の国境管理の責任者の場合と同じで、「事実関係を十分に確認する前に行動した」。メイ内相らの考えていた上訴期限の日が、一日ずれていたのである。つまり、メイ内相が国外退去処分の手続きを進め始め、容疑者を収監した後、欧州人権裁判所に上訴が提出され、欧州人権裁判所がそれを受理した。この上訴が期限後だとして退けられる可能性はゼロとは言えないが、専門家の見解では、期限内だという。

メイ内相にとって大失敗であったのは、下院で、上訴期限が過ぎたため、容疑者を収監し、国外退去が間もなく行われると、勝ち誇って報告したことだ。その翌日、下院でメイ内相が、政府の上訴期限に対する判断は正しいと主張したが、その判断の根拠を示せと言われると何も出せなかった。むしろ明らかになったのは、あるジャーナリストが欧州人権裁判所に連絡を取った後、その期限の見解を内務省に問い合わせていたことだ。

メイ内相のこの失敗には、いくつかの政治的な背景もある。国境管理の問題で、自分の不手際で大きな失態を引き起こしたメイ内相が自分の失地回復を図ったことがまず挙げられるだろう。次に3月21日の予算発表以来、税問題で叩かれ、しかもガソリンスタンドでのパニックを政府が引き起こしたなどとの非難を受けて、大きく国民の支持を減らしているキャメロン政権のこれ以上の後退をストップさせようとしたこともあると思われる。

問題は、メイ内相は、同じような失敗を繰り返していることだ。しかも今回は、キャメロン政権の支持率が大きく下がっている中で、さらにキャメロン首相に大きな打撃を与えることになった。内務省は、確かに極めて難しい省だ。歴代の内相が苦労してきている。しかし、自分の過去の失敗から学ぶことのできない、能力に疑問のある人物が、こういう重職に居座ることはキャメロン首相にとっても大きな問題だろう。能力に疑問のある大臣が内閣全体の評判を落とすことは何も日本に限ったことではない。