増え続ける司法審査

20141027日、上院(貴族院)が司法審査の申し込みに制約を設ける法案を否決した。

イギリスには、公の機関の判断に対して不服がある場合、司法審査を申し込むことができる。そこでは一人の裁判官が担当し、裁定を下す。例えば、2012年、運輸省の路線フランチャイズ決定に対して不服のあったバージン鉄道が司法審査を申込み、その過程で、運輸省側が採用したモデルに瑕疵のあることがわかり、運輸省がその決定を破棄したことがある。一方では、亡命申請を却下され司法審査を申し込むケースなど、多岐の問題にわたる。 

政府が司法審査に制約を設けようとする動機は、その数が非常に多くなってきたことにある。1974年には160であったのが、2013年には15千件となり、この伸びは特に近年著しい。

その一因は、司法審査にかかる費用である。司法審査への申し込み費用は、まず申請時に60ポンド、そして申し込みへの許可が出れば、さらに215ポンドを支払う仕組みとなっている。つまり275ポンド(48千円:1ポンド=174円)で、比較的手ごろに申し込める。さらに、福祉手当受給者などにはこの費用の免除の制度などもある。

そして公的機関の判断が変更される可能性がほとんどなくても申し込む例が増えてきた。これらの申請を処理するにはかなりのスタッフが必要であり、しかも、公的機関の担当部局がその準備に多くの時間を割かれるため、公的機関にとって重荷になってきている。そのため、財政削減に取り組む政府にとって、司法審査の削減が課題となった。

しかしながら、この司法審査は、民主主義の下では、政府など公的機関に説明責任を果たさせる重要な役割を果たしているとして、元裁判官も含め、その制約に反対をする人が多い。それが上院での法案否決につながった。

なお、上院は公選ではなく、公選で議員の選ばれる下院により大きな権限があり、この法案が下院の賛成で法となる可能性がある。いずれにしても、民主主義の原則にこだわる姿勢は、いかにもイギリスの上院らしいと言える。