驕りが目立ち始めたSNP

SNP(スコットランド国民党)がスコットランドで、大きな支持を集めている。5月の総選挙では、スコットランドに割り当てられている59議席のうち、56議席を獲得。2010年の総選挙の6議席から大きく躍進した。全650議席の下院で、保守党、労働党に続いて第3党となったSNPは、大きな存在感を与えている。来年2016年に行われるスコットランド議会議員選挙でも、過半数を占めることを難しくした選挙制度(小選挙区比例代表併用制)であるにもかかわらず、前回の2011年を上回る議席数で過半数を維持し、SNP政権を維持するのは確実な情勢だ。

ところが、このSNPに思い上がりが目立ち始めた。下院で、労働党の座る座席に座って、保守党政府の政策に対決するのは、労働党ではなく、左の自分たちだと気勢を上げるぐらいは良いだろうが、度を越し始めると問題だ。

特に人気の急上昇している政党は、大きな政策・政治判断ではなく、些細なことでその勢いがそがれないよう慎重に振る舞う必要があるが、多くはその人気がいつまでも続くかのような錯覚に陥ってしまうようだ。

SNPのスタージョン党首・スコットランド首席大臣とサモンド前党首が、BBCを批判したが、これも驕りに端を発しているように思われる。特にサモンド前党首・現下院議員は、昨年9月のスコットランドの独立住民投票で、BBCのロビンソン政治部長(当時)のインタビューで、ロビンソンに批判されたことを未だに根を持っている。当時、SNPの多くの支持者が、BBCのグラスゴー本部に押しかけ、BBCの視聴料支払い拒否を訴え、また、ロビンソンの取材を妨げようとし、その辞任を求めるなどの動きに発展した。ロビンソンが、言論が抑圧されている「プーチンのロシア」と比較するほどの出来事となった。これをサモンドはBBCの将来が議論となっているときにぶり返したのである。

このサモンドらの動きをスコットランド保守党の党首が、BBCを政争の具に使っていると批判した。この批判は当たっているように思われる。比較的小さなことだが、有権者の多くに何かおかしいと感じさせるようなきっかけを与えるようなことは、避けることが賢明だ。しかし、人は、驕ると足元が見えなくなるようだ。

効果の乏しい、ブレアの嘆願

トニー・ブレア元首相が、労働党党首選の有権者に、コービンに投票しないでほしい、もしコービンが党首となれば労働党は壊滅する、とガーディアン紙に寄稿し、訴えた。

ちょうどその発行日に、イラク戦争のいきさつについての調査究明委員会であるチルコット委員会が、調査開始以来6年たつのに、まだ報告書を提出していないのに業を煮やした人たち、特にイラク戦争で亡くなった、イギリス兵士の家族が、その報告書を年末までに公表しなければ、訴訟を起こすつもりであることがわかった。

ブレアは、イラク戦争にイギリスが加わった張本人と見られており、この調査究明委員会の報告書でもやり玉に上がると予想されている。

ブレアにとっては、党首選の有権者登録が締め切られる8月12日の後で、投票用紙が発送され始める14日の間の13日が最もその嘆願に相応しいと思ったのかもしれない。しかし、イラク戦争で、ブレアは国民と国会を欺いた戦争犯罪人だと主張する、ブレアへの怒りを持っている人たちが大きく報道されることとなり、逆効果になったように思われる。何事にもタイミングが大切だが、それをコントロールするのは簡単ではない。

ブレアは、1997年の総選挙で国民の圧倒的な支持を受け、労働党に地滑り的勝利をもたらし、2001年にも大勝した。しかし、2003年には、ロンドンでの100万人反対デモ行進にもかかわらず、イラク戦争に参戦し、ミソをつけた。2005年の総選挙には、勝ったものの、大きく議席を減らし、それが、首相となりたいゴードン・ブラウンの心配を掻き立て、2007年にはブレア退陣を招くことになる。

それ以来、イギリス国民のブレア評価は芳しくない。ブレアは、今や、1945年以来最も酷評される元首相だと言われる。ブレアは、首相時代から、ホリデーには、非常に裕福な人たちの別荘などにたびたび泊まり、批判された。首相を退陣してからは、慎ましいブラウンとは異なり、批判を浴びるくらい多くのお金を稼ぎ、ロンドンの中心部ばかりではなく、郊外にも広大な庭のある大きな家を持つ。アメリカ、ロシア、国連、EUの4者の中東特使となったが、目に見える結果は出せず、むしろ、疑問のある国やそのリーダーたちとビジネス関係を結び、さらに批判を浴びている。

ブレアは首相の地位を保守党のジョン・メージャーから奪った。メージャーは、その自伝によると、総選挙で敗れた後、40万通を超える手紙を受け取ったという。一握りの手紙を除き、手厚いものだったそうだ。メージャーには、謙虚な人物という評判があった。

ブレアの労働党を心配する気持ちはわかるが、イラク戦争の問題で今も批判され、しかも現在の生活環境では、何を言っても、労働党支持者の多くの共感を得られず、むしろ反発をもって迎えられるように思われる。