労働党党首選勝利へまい進する「極左」のコービン

労働党党首選で、反戦争、核廃止、反緊縮財政、鉄道などの国有化を訴える「極左」の下院議員ジェレミー・コービンが勝つのはほぼ確実の情勢となっている。大手世論調査会社のYouGovの社長が、8月6日から10日の間に実施した世論調査の結果、コービンが勝たなければ「驚く」と発言した。

YouGovには50万人の調査協力者がおり、その中で今回の労働党党首選挙の投票権がある人1400人余りの世論調査を実施した結果である。この党首選挙では、4人の候補者への選好順位をつけて投票し、開票で、最下位の候補者から順に除外し、その得票をその選好順位に従って振り分け、最終的に過半数を得た候補者を当選者とする。しかし、YouGovの世論調査では、コービンが、第1選好の第1ラウンドで全体の53%の支持を得て、二番手のアンディ・バーナムの21%に大きな差をつけており、第2ラウンドに進むことなく、一挙に当選するという結果となった。もちろん、1つの世論調査の結果だけで、すべてが決まるわけではないが、コービンは、7月17日から21日に行った前回のYouGov調査より支持率を10%アップし、情勢は極めて明確になってきていると言える。

この結果を受けて、賭け屋の賭け率が大きく動き、コービンは、1-3(3ポンド賭けて、予想通り勝てば1ポンドの配当)の本命となり、二番手のバーナムは10-3(3ポンド賭けて勝てば10ポンドの配当)と大きく後退した。

登録最終日の8月12日に労働党の発表した、党首選の有権者数は以下のとおりである。

党員                     299,755人

関連団体メンバー189,703人

登録サポーター  121,295人

合計                     610,753

8月11日には444,000人であったため、1日で、16万6千人余り増えたことになる。5月の総選挙時には20万人を少し超える党員がいただけだったことを考えると、今回の党首選挙に向けて、党首選の有権者が3倍以上になったことになる。ただし、有権者としての資格チェックが行われており、他の政党の党員などは除外されるので、数字は変わってくる。

なお、ミリバンド前党首時代に党首選の仕組みが変更され、関連団体メンバーが個人で登録することとなり、3ポンド(570円:£1=190円)支払えば、登録サポーターとして投票できることになった。投票はそのステイタスにかかわらず、1人1票である。

総選挙後に党首選有権者となった人は、コービン支持が非常に多く、YouGovの8月6日から10日の世論調査時点よりコービンがさらに優勢になったのは確実と思われる。投票用紙は、8月14日から順に送付され、投票締め切りは9月10日、そして9月12日に結果が発表される。ただし、選挙期間はあと1か月あるわけではなく、投票用紙を入手した人は、順次投票していくと思われることから、選挙戦は既に終盤戦に入っていると言える。

この情勢を受けて、今後の焦点は、コービンの意外な健闘ぶりから、コービン率いる労働党の今後へと移っていくこととなるだろう。

スコットランドの政治状況

2016年5月5日木曜日に行われるスコットランド議会議員選挙まで、あと9か月となった。この選挙は、通常4年毎に行われることになっている。前回は5年前の2011年に行われたが、2010年の総選挙後発足したキャメロン連立政権が、政権の安定を求め、5年の任期固定議会とすることとしたため(2011年議会任期固定法)、2015年5月にはイギリス全体の下院の選挙とスコットランドらの議会議員選挙が重なることとなった。異なった選挙制度(下記参照)の選挙を同じ日に実施するのは、不適当という判断から、スコットランドらの議会議員選挙が2016年に行われることとなったのである。

さて、来年のスコットランド議会議員選挙では、有権者の年齢が18歳以上から16歳以上に下げられる。2014年9月に行われたスコットランド独立住民投票(独立反対が賛成を上回った)で、独立賛成派の、スコットランド分権政権を担当するスコットランド国民党(SNP)が、有権者の年齢の引き下げを強く主張し、キャメロンが、それを認めた。年齢の引き下げは成功したと見られ、スコットランド議会が、超党派で有権者の年齢を下げることとなったのである。

この選挙では、SNPが、下記の世論調査で示されているように、その勢力を増大する勢いである。SNPは、650議席の争われた5月の総選挙で、スコットランドの59の下院議席のうち、56議席を獲得した

世論調査

SNP 労働党 保守党 自民党 緑の党
Survation世論調査(7月3日~7日) 選挙区 56 20 14 7 候補者なし
地区比例 45 19 12 8 11
TNS世論調査(6月19日~7月8日) 選挙区 60 20 14 5 候補者なし
地区比例 51 21 13 5 7
TNS世論調査(5月13日~31日) 選挙区 60 19 15 3 候補者なし
地区比例 50 19 14 5 10
2011年選挙実績 選挙区 45 32 14 8 候補者なし
地区比例 44 26 12 5 4

なお、緑の党は、選挙区では候補者を立てず、比例のみで争う。前回の2011年には2議席を比例で獲得した(下記獲得議席数参照)が、次回はその議席を伸ばす勢いである。保守党と自民党は前回とあまり変わらないが、総選挙で、前回の41議席からわずか1議席と惨敗した労働党は、スコットランド議会でも議席をかなり失う情勢である。

以上の世論調査の出所は以下のとおり。
TNS世論調査(5月13日~31日)
TNS世論調査(6月19日~31日)
Survation世論調査(7月3日~7日)

2011年スコットランド議会選挙結果(獲得議席数)

SNP 労働党 保守党 自民党 緑の党 無所属
選挙区 53 15 3 2 0 1
地区比例 16 22 12 3 2 0
合計 69 37 15 5 2 1

SNPは、2007年に最多議席を獲得し、少数政権についたが、2011年には、全129議席の過半数を獲得した。上記世論調査では、SNPが再び過半数を獲得する勢いである。

スコットランド議会の選挙制度

イギリスの総選挙、すなわち下院議員選挙は、完全小選挙区制で、それぞれの選挙区で最多の得票をした1人だけが当選する。SNPはスコットランドでの得票率50%で、59議席中56議席を獲得した。

一方、スコットランド議会議員選挙は、小選挙区比例代表併用制である。日本の衆議院選挙の小選挙区比例代表並立制が、小選挙区と比例区で別々に当選者が決まるのに対し、スコットランドの制度は、8つの地区ごとの比例代表に投じられた政党の票の割合によって、基本的に議員数が決まる。つまり、小選挙区で多くの議席を獲得すれば、地区ごとの比例代表で当選する人の数は制限される。この制度は、一つの政党が過半数を占めることを極めて困難にした制度である。