スペシャル・アドバイザーの変遷(The Transition of Special Advisers)

キャメロン政権のスペシャル・アドバイザーの数は政府の発表によると98名である。スペシャル・アドバイザーは、英国ではよくスパッズ(SpAds)と呼ばれるが、政治任用の臨時国家公務員で、大臣をサポートしながら、政治的中立を要求される一般の国家公務員の行えないような政治的な役割を担当する。

給与的には、首相に直接仕えるようなトップ級の年収14万ポンド(2200万円:£1=¥158)から3万ポンド(470万円)程度までばらつきがある。

キャメロン首相は、その職に就く前から先のブラウン労働党政権よりスペシャル・アドバイザーの数を減らすと約束してきた。また、連立合意書で、その数には制限を設けると謳ったが、これらの約束を守っていない。また、スペシャル・アドバイザーへの給与総額がかなり増えている。

財政削減で国家公務員の数が減っている中、2012-13年には前年度の85名から98名に大きく増え、その給与総額は620万ポンド(9億8千万円)から720万ポンド(11億4千万円)へと16%アップしている。

この原因は、自民党がスペシャル・アドバイザーの大幅増員を求めたことにある。保守党の単独政権ならば数の制限は守られたであろうが、連立政権を保守党と組む自民党が、政府の中で起きていることを知るには自党のスペシャル・アドバイザーの数を増やすことが必要だと主張したためだ。大臣などの役職は下院の議席数で割り当てられるため数が限られている。

自民党は、政権に参画したために、野党に配分される公費の「ショートマネー」がなくなり大きな痛手を受けた。また、次期選挙に必要なスタッフを確保しておくためにはスペシャル・アドバイザーとして保っておくことが最も手早い方法である。いずれにしても下院議員の数に比べて自民党のスペシャル・アドバイザーの数が多い。

スペシャル・アドバイザーは基本的にそれぞれの省庁の大臣の責任で雇う(そのルールは大臣規範3.2参照)。そのため、大臣がその職を離れればそのスペシャル・アドバイザーは同時にその職を離れることになるが、次の大臣が引き継ぐ場合や、中には専門的知識のために党派を超えて継続する人もいる。

なお、このスペシャル・アドバイザーの枠組みで対応しにくい「専門家」を雇う制度が昨年設けられた。これは職階でいうと課長級のスタッフを期限付きで雇う仕組みである。これは、スペシャル・アドバイザーの数を増やしにくいための裏口ルートだとして批判が強い(参照)。

これらのスペシャル・アドバイザーが中立であるべき行政を汚染していると考える人が多い。ブラウン前首相の下でスペシャル・アドバイザーを務めたダミエン・マクブライドの例が記憶に新しい。

もともとこのスペシャル・アドバイザーには、ブレア元首相の下で広報局長だったアラスター・キャンベルやキャメロン首相のスティーブ・ヒルトンなど、権限や性格で突出した人たちのイメージがある。BBCの人気政治コメディ「真っただ中(The Thick of it)」でもこれらの人物のイメージにならった人物が登場した。

最近の研究によれば、スペシャル・アドバイザー像がかなり変わってきている(これはUCLの憲法部門の1979年以来の分析で、来年夏に刊行予定)。50代の人が大きく減り、平均年齢が31歳と下がってきている。

これから見ると、かつてイメージのあったような政治的に強引な介入をする役割から単なる大臣のサポートへと重点が移りつつあるようだ。また、目立つ人が減っている。アメリカで9・11が起きた時に「悪いニュースを葬るいい機会だ」とのEメールを送って顰蹙を買ったスペシャル・アドバイザーもいたが、全体的に小粒になってきているようだ。

ただし、スペシャル・アドバイザーを管理監督するのはそれぞれの大臣であり、大臣の管理運営能力を高めることは必要だ。ハント健康相は、文化相時代に自分のスペシャル・アドバイザーをそのニューズ・インターナショナルの幹部との関係を巡って辞めさせた(参照)。トカゲのしっぽ切りのように見えたが、大臣のスペシャル・アドバイザーの管理は重要である。

英国の電力価格保証(Britain’s Energy ‘Strike Price’)

フランス電力(EDF)を中心とした企業体がサマーセットのヒンクリーポイントに原子力発電所を建設することを英国政府と合意した。

原子炉2基のうち最初のものは2023年に稼働する予定で、費用は160億ポンド(2兆5千億円)と見積もられている。建設には2万5千人の雇用を生み、完成後は900人が勤務することになるという。これらの原子炉の寿命は60年の見込みで、英国の電力の約7%をカバーする見通しである。EDFが来年最終決定し、EUの許可も受ける必要があるが、特に問題があるとは見られていない。

エネルギー大臣は、英国で初めて税金を使わずに建設される原発だと胸を張ったが、そのかわりに消費者が支払うことになる。

原子力発電所の建設は長期間にわたり、しかもエネルギー価格の変動は予想が難しい。そのため、巨額の費用のかかる原子力発電所の建設を進めるために、英国政府は電力会社に価格保証をした。メガワット時92.5ポンド(1万4500円)で、35年間続く。EDFがサフォークのサイズウェルでも原子力発電所の建設をする場合には、費用が節約できることから89.5ポンドに下がるという。

現在の電力の卸売価格は、45ポンド程度(7千円)であることから、この価格保証は卸売価格の2倍となる。保証額を下回ればその差額が消費者から徴収される一方、保証額を上回れば、その差額が消費者に還元されることになる。

他の再生可能エネルギーの価格保証は、BBCによると以下の通りである。

種類 保証価格
風力(内陸) 100ポンド
風力(洋上) 155ポンド
潮力 305ポンド
波力 305ポンド
バイオマス 105ポンド
太陽 125ポンド

これから見ると、原子力発電所の建設は、そう悪くは見えないが、それでも実際上の「補助金」が年に8億ポンド(1260億円)から10億ポンド(1570億円)となると批判する学者もいる。

英国では、主要三政党のいずれもが原発推進である。古い発電所を止めて電力供給余力が急速に減少しており、必要な電力が供給できなくなる事態も想定される中、低炭素エネルギー化を進めながら、同時にエネルギーの安定的な確保を図るのは、そう簡単ではない。ただし、どのような方法を取ってもかなり高いものにつきそうである。

英国のエネルギー政策の厳しい選択肢(UK’s Energy Policy: Hard Choice)

オズボーン財相が中国を訪れ、英国の原子力発電所建設に中国の資本が導入されることを発表した。英国は、57年前の1956年にコールダーホール原子力発電所で世界で初めて商業用発電を開始した国である。

その誇り高き国が今や原子力発電所建設に外国資本を必要としている。中国からの投資の第一号は、フランス電力(EDF)を中心とした、英国のサマーセットのヒンクリーポイントの原子力発電所の建設となる。

英国で原子力発電所の建設されるのは1995年以来であるが、これは、英国のエネルギー事情を象徴した出来事である。

先だって、英国の送電を担当する会社ナショナル・グリッドなどが、電気の供給余力、すなわち、ピーク時の需要と供給能力の差が非常に低くなると警告した。2年前には16%であったのが、今冬には5%となり、さらに2015年には2%になるという。なお、ナショナル・グリッドは、電力供給余力が低くなれば、警報を発し、操業を停止した工場などを保証する制度がある。

この事態の背景には、温暖化ガスの排出規制のために既存の発電所の廃棄が計画通り順調に進んでいるのに対して新発電所の建設が大幅に遅れていることがある。EUの汚染防止指令のために、総発電の3分の1を担っている石炭発電所の多くを2015年までに閉鎖する必要がある。また、原子力発電所は現在約5分の1を担っているが老朽化しており、廃炉のためにその割合が急速に減っている(参照)。

一方、風力発電所が増えているが、この形のものは風が無くなると発電できない、また、季節的に風が強い時期と弱い時期があるなど、不安定な要素がある。

英国は2030年までに温暖化ガスの30%を削減するとしており、再生可能エネルギーにも力を入れているが、それだけでは足りず、原子力発電所の建設は不可欠だと判断している。

原子力発電所については、保守党と連立を組む自民党は2010年総選挙前、原発建設反対の立場を取っていた。政権参加時に黙認することとし、さらに今年の党大会で党として正式に国庫補助を出さないことを条件に認めることとした。

ただし、政府が補助金を出さなければ、消費者がそれを支払うことになる。ヒンクリーポイントの原子力発電所建設計画の交渉の争点は、建設費用が140億ポンド(2兆2千億円)と見られており、その多額に上る費用を長期的に賄うために英国政府がいかに価格の保証をするかであった。

この価格は、1時間・メガワット当たり、93ポンド(1万5千円)程度となったと見られており、その期間は40年にも及ぶと見られている。その価格は、現在の卸売価格の2倍以上である。

風力発電所でも同じような価格保証がある。これまで1時間当たり、155ポンド(2万5千円)であり、これが15年続く。これが2016年からは、135ポンドとなるが、かなり高価である。

英国のエネルギー政策には幾つかの制約がある。まずは環境問題への取り組みである。財政削減が求められている中、公費投入はそう簡単ではなく、民間投資が必要だ。そのためには、投資意欲がわくような環境が不可欠である。

その結果、価格保証が求められることとなるが、国民がどれだけの費用負担を受け入れる用意があるのだろうか?電気・ガス料金の問題を巡っては、生活費が上昇する中で政治的な論争がある。

もちろんナショナル・グリッドらが警告したように、供給余力の大幅な低下が最大の関心事ではあるが、政府としては、結局、環境、政治、財政的なリスクを検討しながら、国民の納得できる、もしくは納得できそうな施策を慎重に選択していくこととなる。

英国では、原子力発電所の建設に中国の資本が入る見返りとして、将来、原子力発電所の所有権を当面の少数株主から支配株主となることを認め、その上、中国産の原子力発電所の英国での建設を認める方向だと言われる。

長期的に見れば、年率7.5%の経済成長をしている世界第二位の経済大国からの資本の導入は望ましいと言えるが、英国内での原子力発電所建設となると二の足を踏む向きも多い。しかし、中国からの資本なしではヒンクリーポイントの建設もとん挫する可能性があった。

英国は、非常に狭い選択肢の中から、厳しい選択を迫られたと言える。

ある下院議員のスキャンダル対処法(How To Deal With A Scandal)

労働党下院議員で影の女性・機会均等大臣が、かなり悪影響の出ると思われるスキャンダルに対応するため極めて効果的な手段を取った。この議員は、かつてBBCなどでもジャーナリストとして働いた人物である。

スキャンダルは、現在40歳の女性下院議員グロリア・デ・ピエロが、15歳の時に、お金を求めて、トップレスの写真を撮らせたことである。

その写真をあるエージェンシーが探しているという話を聞いて、この議員は、その先手を取った。

その議員はBBCのラジオ番組でそのことを話した上、自分のブログで、そのことに触れた。かつて自分の父親が健康でない時、生活に苦しんでそのような写真を撮らせたと説明した後、それが公表されないことを望むと言ったのである。

この対処の仕方を見て、かつてパディ・アッシュダウン自民党党首が行ったスキャンダル対応策を思い出した。

アッシュダウンは、かつて自分の秘書と関係を持ったことがある。そのことの書面を自分の弁護士に預けていたが、その弁護士事務所に入った泥棒がそれを盗み、新聞社に渡したのである。そのことを知らされたアッシュダウンは、総選挙が迫っている状況も考え、自ら記者会見を開き、自分の秘書とのかつての関係を公表した。

アッシュダウンは、タブロイド紙から「パンツダウン」などと揶揄され、それ以降何度もそれを繰り返されることとなったが、その時の対応の仕方から、総選挙への影響や、自分へのダメージを最小限に食い止めた。

スキャンダルになるようなことに関わりができると、金銭を求めて恐喝される、いわゆるブラックメールされることがあるが、そういう話に乗ってもそれでことが終わるわけではない。むしろ、それを契機にさらに要求されることになりかねない。

それが刑事事件となる、または他の民事訴訟が起こされる可能性のあるような場合は別だろうが、一度自主的に発表してしまうと、それは急速にニュース価値がなくなり、逆にそれを発表したことを賞賛される場合もある。いずれにしてもこういう事態に面した政治家に最も必要なのは、冷静な判断と勇気だと言える。

新聞の自主規制機関(Press Self-Regulated Body)

2011年に発覚した電話盗聴問題は、当時最も売り上げ部数の多かった日曜紙ニュース・オブ・ザ・ワールドの廃刊を招くほど大きな問題となった。

そして新聞の行き過ぎを防ぐために設けられたレヴィソン委員会が2012年11月、報告書を発表。その中で、信用を失ったプレス苦情処理委員会(Press Complaints Commission)に代わる機関として、強い権限を持つ自主規制機関が提案された。

それを基に二つの案が提出された。

まずは、主要三政党の保守党、自民党そして労働党が合意した自主規制機関案である(なおこの提案の概略は、2013年3月に発表された際のデイリーメイルの記事の図参照)。一方、三政党案は政治の介入を許し、報道の自由を侵害する恐れがあるとして、新聞業界は基本的に同じ体裁をとりながらも新聞業界案を出した。

いずれも法律ではなく、女王の認可を得る「勅許(Royal Charter)」の形をとるものである。BBCも勅許で設けられている。

新聞業界の提案したものは、レヴィソン提案の条件に合致しないとして勅許を審査する枢密院の委員会で拒否された。それをマリア・ミラー文化相が10月8日に発表した。

文化相は、主要三党案には修正する余地があるとして、新聞業界の歩み寄りを期待したが、状況は平行線をたどっている。業界は、自分たちの案でも西側先進国で最も厳しいものだという。

そこで、この二つの案を比較しておきたい。基本的な対立点は以下のようになる。

 

 

  主要政党案 新聞業界案
政治の関与 勅許は国会で修正されうるが上下両院それぞれの3分の2以上の賛成が必要。 国会は修正を認めたり止めたりできない。認証委員会、自主規制機関と業界団体がその変更に合意する必要。
認証委員会(新聞が適正に規制されているかを認証する) 元編集長はこの委員会委員になれない。 元編集長も委員となれ、少なくとも委員のうち一人は新聞業界の経験者とする。
任命委員会 4人の委員で構成され、委員は現職の編集長でも下院議員でもない。 4人のうち一人は、関連出版社の利益を代表する人物。
訂正と謝罪 自主規制機関は、訂正と謝罪を要求でき、£100万(1億5千万円)の罰金を課すことができる。それらがどのように実施されるかその具体的な方法を指示できる。 不正確な記事の訂正をきちんと行わせる力を持ち、全体的な不正行為には£100万の罰金を課せる。謝罪は指示ではなく、行うことを要求することができる。
仲裁 被害者は無料で仲裁サービスを提供される。誰もが出版社を訴えることができるよう、苦情を迅速に処理する制度を設ける。 試験的試みが成功すれば、名誉棄損裁判の代わりとなる迅速で費用のかからない仲裁サービスを提供する。

メージャー政権の欧州問題の再来?(Major’s Tory Eurosceptic Mess Again?)

ある保守党下院議員のEUの国民投票を来年行うべきだという発言を聞いて、ジョン・メージャー首相の保守党のことを思い出した。

メージャー首相率いる保守党は、1997年の総選挙でブレア労働党に地滑り的大敗を喫した。

メージャー政権下では、現在のキャメロン政権と同じく、失業が減り、経済は上向いていた。ブラック・ウェンズデー(ポンド危機)があり、また、議員の数々のスキャンダルや1979年から続く保守党政権への飽きもあった。しかし、中でも大きく保守党を揺るがせたのは、EUとの関係の問題だった。

EUからの撤退や権限関係の見直しを求める欧州懐疑派が党内を動揺させていた。さらにEUに留まるかどうかの国民投票を求めるジェームス・ゴールドスミスの国民投票党が出現し、保守党が分裂したまま選挙戦に突入した結果だった。

10月6日、保守党下院議員のアダム・アフリエー(Adam Afriyie)がEUに留まるかどうかの国民投票を2015年の総選挙の前に来年10月に行うべきだと提唱した。

アフリエーは無役だが、キャメロン後の保守党党首の座を狙っていることが今年初めに報道された。アフリエーの動きは、この野心と結びついていると見られているが、その提案は、キャメロン首相がこれまで慎重に取り扱ってきた英国とEUの関係戦略を大きく揺るがす可能性がある。

キャメロン首相は、もし2015年に予定される次の総選挙で勝てば、2017年末までにEUに関する国民投票を実施すると約束した。その前に他のEU加盟国と交渉し、EUから一定の権限を取り戻した上でその国民投票を実施する計画である。

これは、保守党からかなりの支持が流れている英国独立党(UKIP)対策である。つまり、キャメロン首相は、EUの国民投票を実施すると約束することで、欧州懐疑的な保守党員と一般有権者を納得させようとした。

しかし、それでは十分ではないという批判に対応するため、その2017年国民投票を法制化しようとした。ところが、親EUの自民党と連立を組んでいるため、2017年国民投票を政府提案で法制化できない。

そこで議員提出法案の時間を使ってその法律を推進することとし、7月に議員提案で「欧州連合(国民投票)法案」を提出したのである。その法案は11月に討議が始まる。

しかし、議員提出法案に使える時間には制限があり、しかも自民党と労働党の多くが反対しているために、この法案が法律になる可能性は少ない。それでもキャメロンはこの法案を推進することで保守党の国民投票実施の決意を示そうとしている。

アフリエーは、キャメロンの考えは明確ではないという。2017年ということになれば、次期総選挙でUKIPが保守党から多くの票を奪う可能性がある。その結果、労働党が政権につけば、国民投票そのものがなくなる、つまり、国民はEU国民投票の機会を失うことになる。それより次期総選挙前に行う方がよいというのである。

そして次期総選挙前に結果が出れば、保守党はUKIPをもう恐れる必要はないという理屈だ。アフリエーは、先述の議員提案を修正して、来年10月にEUの国民投票を実施させようというのである。

アフリエーの提案には支持者があまりおらず、そのような修正案が通る可能性は少ない。むしろ限られた時間がさらに少なくなると批判されている。

ただし、問題は、このままではEUの国民投票そのものがなくなる可能性が指摘されたことだ。この可能性は誰もが感じていたことだが、改めてはっきりと指摘されると、上記の議員提出法案で一旦休戦状態になった保守党内を動揺させる可能性がある。

キャメロン政権とメージャー政権末期の違いは、メージャー保守党は当時ブレア労働党に世論の支持率で大きく引き離されていたが、キャメロン保守党は一桁代の差に留まっていることだ。

それでも来年5月の欧州議会議員選挙でUKIPが保守党より多くの得票をするようなことがあれば、保守党は再び大きく動揺するだろう。

なお、英国では選挙にも賭けがある。2014年の英国での欧州議会議員選挙で最も多い票を獲得する政党の賭け率は賭け屋大手のウィリアム・ヒルでは以下のようになっている。
UKIP 10/11、労働党 15/8、保守党 7/2で、UKIPが優位に立っていると見ている。

ミリバンドの市場原則(Miliband’s Market Principles)

ミリバンド労働党党首は、10月6日(日)、9月下旬の党大会でのスピーチで発言したことを確認する発言をした。それは市場(market)に対する考え方に関するものである。

ミリバンドは、1990年代に労働党がダイナミックな市場を求めたことは正しいとした。

そして生活費の上昇で苦しんでいる人を援助するための方法の一つは、市場を公共の利益に適うよう機能させることだとし、その具体的な例として銀行や鉄道を上げた。

つまり、市場で競争が機能しない場合には、その市場のルールを正当なものにする必要がある、そして市場をリセットするという。

これは、基本的に党大会での発表と同じである。そこでは、2015年の総選挙で勝てば、電気・ガスの料金を2017年初めまでの20か月間凍結するとしたが、その間に、きちんと機能していない市場を正すとした。

この原則は、解釈する人によってかなり意味の異なるものとなるように思われる。右の立場の人にとっては、大きな左傾化の動きと見られるだろう。

ただし、運用上は、キャメロン政権でも銀行や鉄道の分野で一定の規制を行っており、それとの違いは、どこに焦点を置くかの問題に過ぎないのではないかと思われる。

デイリーメイル読者とミリバンド記事(Daily Mail Readers’ View on Miliband Article)

デイリーメイル紙が労働党のエド・ミリバンド党首の亡父を「英国を嫌悪した男」と決めつけた件で、右派のタブロイド新聞デイリーメイルの読者でさえそのような言葉を使うことは許されないと考えていることがわかった。

デイリーメイルは保守党支持で、英国第二の売り上げ部数を誇り、インターネット版では英語版で世界最大の読者数を持つといわれる。

その記事は、マルクス主義の学者であった亡父を攻撃することで、左傾化していると思われたミリバンドの危険性を浮き彫りにする狙いがあった。しかし、父への攻撃に怒ったミリバンドはそれに強く抗議している。

ミリバンドの父は、ナチスドイツの迫害でベルギーから英国に逃れてきたユダヤ人難民で、第二次世界大戦中に英国海軍で戦った人物であった。

この問題をめぐる世論調査では、ミリバンドの父を「英国を嫌悪した男」と呼んだことを許されるという人は17%にとどまり、許されないと言う人は72%にも上っている。また、78%の人はミリバンドがデイリーメイルに苦情を申し入れたのは正しかったという。

特に、保守的な見解に共感する傾向が強いと思われるメイルの読者も60%がそのような言葉を使うことは許されないと言っている。

デイリーメイルの記事は、ミリバンドの勢いを削ぐどころか、むしろその勢いを増進した効果があったようだ。しかも、その読者の見方を考えると、今後ミリバンドを攻撃する際にその親族に触れることはかなり難しくなったと言える。

ただし、デイリーメイルにとって最大の問題は、1年の契約延長がなされたばかりといわれる編集長ではないだろうか。これまでカリスマ的なリーダーシップを揮ってきた編集長に大きな疑問が出てきた。今回のミリバンドとの論争を乗り切ったとしても、一度ぐらついた信頼を取り戻すのはそう簡単ではない。

恐らくその最大の受益者は、デイリーメイルにこれまで叩かれ続けてきたミリバンドのように思われる。

ミリバンドの父の報道をめぐる論争(Mail’s Report about Miliband Father)

労働党のエド・ミリバンド党首の父親は「英国を嫌悪した」と報道したデイリーメイルの記事(9月28日)を巡る論争はまだ続いている。

デイリーメイルは保守党支持である。英国第二の売り上げを誇る、人気のあるタブロイドの新聞紙であり、そのオンライン版は英語版で世界一の読者数を誇るという。

ミリバンドの父ラルフは、1940年にナチスドイツの迫害を逃れ、16歳でベルギーから英国へ来たユダヤ人難民だった。英国の海軍で第二次世界大戦を戦い、その後、LSE、リーズ大学、アメリカやカナダの大学でも教えたマルクス主義の学者であった。1994年に亡くなった。

デイリーメイルは、そのラルフを攻撃することで、その父の影響を受けたとするミリバンドを間接的に批判しようとした。

ラルフが「英国を嫌悪した」としたのは、ラルフが英国に来て数か月後に書いた日記の一節にそれとおぼしきものがあったからだ。17歳の少年の記述を、その生涯の評価として否定的に使うのは妥当ではないだろう。

ミリバンドは、その記事に怒った。父は英国を愛していた、と主張した。デイリーメイルは、ミリバンドの反論を掲載(10月1日)したが、同時にもとの記事の主張を繰り返し、さらに社説でラルフの残したものは邪悪な遺産だと主張した。

ミリバンドは、それにさらに怒り、それ以降、デイリーメイルとの対立が続いている。

10月2日、ミリバンドの叔母(ラルフの妹)の夫の追悼会が身内だけで開かれた。そこにデイリーメイルの姉妹紙であるメイル・オン・サンデーの記者が押しかけて取材しようとした件で、その翌日、新聞紙のオーナーがミリバンドに謝罪した。しかし、デイリーメイルはその立場を維持している。

この論争の影響はかなり大きい。まず、この論争が保守党の党大会開催中に重なり、党大会へ向けられるメディアの報道時間が大幅に減った。

メディアはこの論争にかなり多くの時間を割き、また、親の子供への政治的影響について論評がいくつも出た(参照BBCの論評)。

デイリーメイルは、マルクス主義者の父親を持つミリバンドはその影響を受けて、自由市場主義に反対している、それゆえにそれを報道する価値があると主張する。

ただし、親の子供への政治的影響があるかどうかについては、どちらとも言えないというのが結論だと思われる。例えば、アメリカの共和党大統領だったロナルド・レーガンの息子は、民主党大統領候補を応援した。英国の保守党の有力政治家だったマイケル・ポーティロはメージャー政権の国防相でサッチャーの支持者だったが、その父親は、スペインのフランコ政権を逃れて英国に亡命した左翼の人物だった。

ミリバンドとデイリーメイルの論争がこれからどうなるか現時点では不明だが、こう着状態になる可能性が高いと思われる。しかしながら、もう既にこの論争の効果ははっきりしていると言えるだろう。

まず、これまで保守党らが指摘してきた「ミリバンドは弱い」という評価は消えたと思われる。

次に、新聞はタブロイド紙も含めて政治家の個人攻撃にかなり慎重になるだろう。

さらに来週、枢密院で大手新聞社らの提案した自主規制機関案の審議に少なからず影響を及ぼすだろう。

この案は、主要三党の提案した準公的規制機関案は報道の自由を妨げるとして反対し、提出されたものである。しかし、この論争は、BBCの記者がデイリーメイルは「墓穴を掘った」と評したように、自主規制機関案には大きなマイナスとなった。

デイリーメイルの編集長は、現在の報道苦情処理委員会(Press Complaints Commission)の「編集長の行動基準委員会」の委員長でもある。明らかに不適切な記事を掲載したにもかかわらず、報道の自由だと居直る態度は自己規制案に対して大きな疑問を投げかけたからである。

今回の事件は予想外に大きな影響があったが、英国のメディアの報道のあり方に好ましい結果をもたらしたように思われる。特にこれまで「報道の自由」の名の下に不当に批判されてきた政治家にはそうだろう。