次の総選挙までに労働党のしておかねばならないこと

野党第一党の労働党は、2010年の総選挙で敗れて下野して以来、2015年、2017年、2019年の総選挙で立て続けに敗れている。特に2019年の総選挙では、コービン党首のもと、ジョンソン現首相率いる保守党に大敗を喫した。次期総選挙は、2023年頃に行われると見られているが、コービンの後任の党首となったスターマー党首の下、支持率はそれほど伸びていない。

ジョンソン政権の混乱したコロナパンデミックの対応もあり、ジョンソン首相の評価や保守党への支持率が下がってきている。有権者がジョンソン首相に飽きはじめていることがうかがえる。その中、かつての労働党のブラウン首相の世論調査担当者が、スターマー党首の戦略担当者となり、現在の政治情勢を分析した。その主な点は、以下のとおりである。

・有権者は、労働党の目的が何か、どのようにして人々の生活を向上させようとしているのかわかっていない。

・政策を次から次に発表するだけではだめで、労働党の考え方や党首の考え方を反映した、(1)はっきりとして(2)焦点の定まった(3)気持ちの高揚するようなメッセージを出していく必要がある。

これらの点は、かつてジョンソン首相のトップアドバイザーだったドミニク・カミングスの手法に通じるように思われる。カミングスは、2016年のEU離脱をめぐる国民投票で、EU離脱派の公式団体の責任者だったが、「コントロールを取り戻そう」と訴え、予想に反して離脱賛成の結果をもたらした。また、2019年の総選挙の際、ジョンソン首相の下で、「EU離脱を成し遂げよう」のスローガンでジョンソン保守党の大勝利をもたらした。

労働党の党員は、50万人弱から43万人程度まで減ったと言われるが、スターマー党首の下党員の中のコービン支持が大きく減る傾向が出てきている。2019年の総選挙で、労働党を長年支持してきた有権者の票を多く失った。労働党の内外の変化に対応し、次期総選挙でまともに戦えるよう準備をするためには、今が正念場であると言える。

補欠選挙で予想外の勝利を収めた労働党

2021年7月1日に行われた英国下院の補欠選挙で野党労働党の候補者が予想を覆して当選した。苦しい立場に追い込まれていたキア・スターマー党首は、すぐに西ヨークシャー州の選挙区に入り、この結果をたたえた。スターマー党首は5月の下院補欠選挙で労働党がこれまで数十年にわたって占めてきた議席を失い、また、同時に行われた地方選挙で多くの地方議員議席を失った。その上、6月の別の下院補欠選挙では、2パーセント以下の票しか獲得できなかった。2019年の総選挙で大敗した労働党が支持を回復するどころか、さらに支持を失いつつある状況の中で、この7月の補欠選挙は、わずか3百票余りの差で勝利を収めたものながら、労働党に明るい光をもたらした。

この結果を受けて、7月4日のBBCの日曜日の政治番組アンドリュー・マーショーで、労働党の影の財相が出演し、スターマー労働党の反転攻勢に打って出た。その中心は、「英国のものを買う」政策である。ジョンソン保守党政権が、政府関係、NHSを含めて公共機関の外注、契約などで国内の企業を重視していないことに目をつけたものである。ジョンソンが発展の遅れている地方や、貧困層の多い地方のレベルを上げると言いながら、公共機関は、必ずしも英国の技術レベルや地方の雇用・給料・スキル並びに環境や社会状況を向上させることを念頭に置いていない。例えば、英国の新しいパスポートの契約を獲得したのは、外国の企業だ。ジョンソンは、もともと緻密に考える人物ではない上、EU離脱後の英国の経済や対外貿易交渉に注意を奪われている。コロナのパンデミック対応でも、国民の命が第一であるとは思われず、注意が散漫だ。それにもかかわらず、スターマーは十分な注目を集められずにいた。

これまでスターマーを支えるチームは、十分な戦略的思考のできるものであったとは思われない。野党労働党が本当にジョンソン政権を脅かすようになってこそ、ジョンソン保守党政権の運営が向上するのではないかと思われる。