総選挙を楽しんでいるコービン

野党第一党の労働党のコービン党首が、非常に生き生きとしている。来月68歳になるが、68日に向けての総選挙キャンペーンを楽しんでいるように見える。

メイ首相が突然解散総選挙を宣言した時、コービンはすぐに賛成した。これには労働党下院議員からもかなり大きな批判があった。総選挙が行われれば、労働党は大きく議席を失うと思われたからだ。

世論調査で労働党は保守党に20%程度の大きな差をつけられ、支持率が歴史的に低い。1983年総選挙で惨敗した時よりも悪いと言われる。しかも有権者のメイ首相への評価は非常に高いが、コービンへの評価は、非常に低い。多くの国民が、コービンには首相になる資質がないと思っている。これではとても総選挙が戦えないと思ったからだ。

それでも解散総選挙に賛成したコービンの判断は、正しいように思われる。2011年議会任期固定法では、下院の総議席の3分の2が賛成する、もしくは政権が不信任され、後継政権が生まれなければ、解散総選挙となる。下院総議席の3分の1以上持つ労働党が反対すれば、3分の2が賛成することはなかった。しかし、その場合、メイは労働党が総選挙を恐れている、メイ政権にEU離脱交渉を成功させないように画策していると攻撃して、メイ政権そのものの不信任案を提出して可決させ、無理やりに解散総選挙に持ち込む可能性があった。そうなれば労働党には「臆病者」のレッテルが貼られ、さらに厳しい総選挙になったかもしれない。

労働党下院議員の中には、労働党が惨敗すれば、コービンが自ら退く可能性があるという見方もあった。労働党内の異端で、急進左派のコービンが2015年党首選で全く予想外に党首に選ばれ、しかも2016年のEU国民投票後に、労働党の4分の3近い下院議員たちがコービン下ろしに走ったが、行われた党首選挙で再びコービンブームが起き、前回よりも多くの支持を集め圧勝した。党首選ではコービンを倒すことができないことがはっきりした。

コービンは原則の人として知られる。多くはコービンをいい人だと言うが、労働党のような大きな政党を率いるリーダーシップはないとする人がほとんどだ。コービンの最初の妻は、コービンをいい人だと言うが、党首にはふさわしくないとする。2番目の妻との離婚は、妻が息子をグラマースクール(能力を選別して入学させる公立学校)に入学させたいのに、それにコービンが強く反対したことが原因だった。

労働党の支持者である、ケンブリッジ大学のスティーブン・ホーキング教授は、個々の政策では、コービンの考え方には正しいものが多いが、リーダーではないとして、コービンの党首辞任を求めた。コービン党首の広報戦略局長だった人物もコービンの能力を批判している。

メイ首相は、今回の総選挙をリーダーシップの戦いだとして、コービンのリーダーシップ能力を徹底的に批判している。

ところが、424日の朝のTodayというラジオ番組で、BBCのベテラン政治記者が、奇妙なことが起きているとリポートした。有権者が、コービンには首相になる可能性がないとして、地元の労働党下院議員に投票することに抵抗がないというのである。通常、イギリスの総選挙は、次の首相を選ぶ選挙であり、党首が首相にふさわしいかどうかを考えて投票する。そのため、総選挙では、党首の評価は非常に重要だが、どうも今回はそれが必ずしも当てはまらないようだ。まだ選挙戦は序盤であり、今後の展開は異なってくる可能性がある。

ただし、労働党は、これまでの常識を破り、いわゆる中道の有権者を惹きつける戦略ではなく、本来の「地のコービン」を打ち出す戦略に出ている。作り物ではないコービン像、すなわち自分を打ち出すことが許される状況が、コービンにエネルギーを与えているようだ。その演説には力がこもっている。一方、423日のBBCのテレビ番組で、コービンは弱い者が虐げられる今の政治状況に怒っており、うんざりしていると静かに話した。

コービンの労働党大会

リバプールで開かれた労働党の党大会には驚いた。無能と攻撃されていたコービンらの首脳部が予想外に有能な党大会運営ぶりを見せたからである。もちろん、すべてがコービンらの思惑通りに進んだわけではない。核武装のトライデントシステムの更新(既に下院で更新が採決されている)に関する問題で、影の国防相との政策のすり合わせが不十分だった。また、労働党の執行機関である全国執行委員会(NEC)への参加資格を巡って、NECとコービンらとの間に対立があり、コービン側の意見が通らなかったこともある。しかし、9月28日のコービンの党首演説はコービンのベストの演説だったとの評価があり、それは聴衆の反応でも示された。コービンにとって成功した党大会だったといえる。

この党大会は、厳しい党首選直後のため、特にメディアの注目を浴びた。党首選は、党員・サポーターらの支持する現職のコービン党首と、大半の労働党下院議員の支持する挑戦者オーウェン・スミス下院議員との戦いだった。コービンが党首では次の総選挙が戦えないと判断した労働党下院議員たちがコービン追い落としを謀ったのである。しかし、党大会の始まる9月25日の前日の24日に発表された党首選の結果は、1年前の党首選で党員・サポーターの圧倒的な支持を受けて初当選したコービンが、その支持を伸ばし、コービンへの謀反は失敗した。

この結果を受け、内乱状態の労働党をいかにまとめられるかに注目が集まった。反コービン派の下院議員たちは、党内がまとまることが大切だと言いながら、コービンへのけん制をはかる者が多い。これらの下院議員はコービンにはリーダーとしての能力がないと決めてかかっている。しかし、コービンの党首演説や、その前の9月26日の、コービンの党首選責任者を務めたマクダネル影の財相などの主要メンバーの演説は、よく考えられており、能力がないと言えるものではない。

マクダネルの考え方は、足枷のない国際化の中で、自由経済は醜い不平等をうんだとし、企業活動を自由にさせる時代ではなく、勤労者の権利や最低限の生活(真の生活賃金)を守るため、国が積極的に介入・協力して、公平な社会を築くというものである。そのため緊縮財政をやめるとし、以下のような施策を提言した。

  • 記録的に低い利子率を利用した5000億ポンド(65兆円)の短期的な積極的公共投資と新事業への投資
  • 収入への課税から資産への課税へ
  • 税逃れ摘発部門の国税局職員の倍増、そのような企業の公共サービス契約の禁止
  • 企業取得の際の賃金・年金の保証、
  • 企業所有権の変更や閉鎖の際の社員共同所有推進、
  • 業界別団体交渉の復活、
  • 最低賃金を2020年に時給10ポンド(1300円)以上とする。
  • 起業家国家の構築
  • スト制限を強化した2016年労働組合法の廃止

コービンは、

  • 地方自治体の借金制限を除き、住宅資産を担保に公共住宅建設のための借金を促進
  • NHSの民営化の流れを止め、真に国の事業とする
  • 幼児教育から成人教育までをつかさどる国民教育サービスを設置
  • 学生の生活扶助・助成金復活のため、法人税を1.5%までアップ
  • 国家投資銀行を設け、インフラ投資に貢献する
  • 人権侵害の問題のある国への武器販売の禁止
  • GDPの3%を研究開発に向ける

さらに、注目された移民の制限の問題では、移民のイギリス社会への貢献を強調し、移民の「数」の制限はせず、そのかわりに移民の公共サービスや賃金への悪影響を緩和する方策を訴えた。しかし、移民の問題が、6月23日に行われたEU国民投票でBrexitの結果を招いたと広く信じられており、それへの直接の対策を打ち出すべきだとする意見が労働党内にもある。ただし、移民の問題は、単に移民が増えているというだけではなく、移民がNHS、学校、公共住宅などの公共サービスに与える影響を肌身に感じているという要素がある。それへの対策に、移民インパクト基金を復活させるとした。かつてブラウン労働党政権が2008年に設置したが、キャメロン政権で2010年に廃止されたものである。さらにイングランド北部で離脱投票が多かったが、これらの地域で十分な投資がなされておらず、住民の不満が高まっていたことを指摘し、これらの地域をはじめ、全国至る所で投資をすることを訴えた。この点は、スコットランドのスタージョン首席大臣が、保守党政権の緊縮財政と離脱投票の関係を指摘している点に通じる。

一方、トライデントの問題については、コービンは個人的には更新反対だが、党としての政策は更新賛成のままである。ただし、多国間核軍縮は推進する立場だ。しかし、これは、核軍縮を訴える団体から強く批判された。また、NATOにはその集団主義、国際主義、弱者を助けるという考え方から引き続きメンバーに留まるという立場を明らかにしている。シェールガスのフラッキングの禁止も掲げた。

もちろんコービンやマクダネルは強硬左派で、その政策は左である。ただし、コービンが「21世紀の社会主義」と主張したように、平和な世界と公平なイギリスを築くため、現在の社会に適合するような政策を求めたものである。ミリバンド前党首の回りくどいともいえるような政策、特に緊縮財政をめぐるあいまいな立場とは異なり、はっきりと保守党と差別化したものである。

コービンの政策に対し、これらは単に「社会主義者の夢」だと批判し、コービン労働党は、その施策のために莫大な借り入れをし、イギリスの財政を破たんさせるだけだという見方もある。ただし、影の財相マクダネルはロンドンの地方自治体で財務のトップだった人物であり、ロンドン全体の地方自治体組織のトップを長く務め、運営の経験が豊富である。マクダネルは、今年3月、財政ルールを発表している。コービン労働党の批判者が、労働党が「無能」だと決めつけ、こきおろすのは、その政策にある程度メリットがあることを示唆しているように思われる。

ただし、コービンには克服すべき多くの課題がある。まずは、労働党内の調和をいかに図るかである。コービンに不信任を突きつけた党所属下院議員たちとの関係改善は急務である。さらに、保守党に世論調査で大きな差をつけられており、有権者の支持を引きつけ、コービンの党首、そして首相としての能力があると認めさせることは容易ではない。コービンは、その演説で、2017年に総選挙があることを想定して準備を進めるとした。コービンを支持するために加入した多くの党員、そしてコービンに投票するためにサポーターとなった多くの有権者がいる。これらの人たちの協力を得て、総選挙準備を進めるとしたが、その効果がどの程度あるかである。

また、コービンの演説は評価されたが、その移民政策などで、これまでの古い原則にしがみついているのは誤りだという見方がある。ただし、政策には、左から右へ、右から左へと揺れ動く傾向がある。総選挙は来年行われるかもしれないが、2020年までないかもしれない。2020年は3年半後で、Brexitの後になるだろう。その時には有権者の移民に関する考えは、全く変わっているかもしれない。例えば、NHSには、EU国民が5万人以上働いている。Brexitのために移民の数が自然に減ったり、必須の公共サービスで人手不足の事態になったり、また人口の増え続けるイギリスで住宅建設は必須だが、高く評価されるポーランド人の建設関係労働者がいなくなれば、これらの分野でも人手不足の問題が出てくるだろう。有権者の移民への不満も変わる可能性がある。

移民へのヘイト犯罪が増加している背景には、EU国民投票で離脱派が反移民政策を煽り過ぎたことがある。そのような問題も避けたコービンの移民政策は、イギリスでは妥当なものと思われるが、それを有権者が理解するかどうかは別の問題である。コービンは目先の問題で立場を変えるのではなく、自分の原則に徹した政策を取ろうとしている。それが実を結ぶかどうかは、政情がどう変わるか、コービンに運があるかどうかにかかっているように思われる。

コービン現象

労働党の党首選で再選されたコービンの背後には支持者たちの強い支持がある。昨年の労働党党首選以降、労働党の党員数は急増し、50万人を超えた。コービンの党首選の選挙責任者を務めたマクダネル影の財相は、今や68万人の党員で、来年には100万人に達する可能性に言及している。

ブレア・ブラウン労働党政権時代、労働党の党員数が減った。2009年末には15万6千人まで低下。2010年には若干回復し、19万4千人となったが、ミリバンド党首の下、2014年まで19万人程度で推移した。

ミリバンドが2014年に党首選ルールを大きく変えたのは、自らが労働組合の応援で党首に選ばれた上、労働組合が選挙区で下院選候補者選考を操作しようとした疑いが出たこともあるが、党員数が停滞する現状を改善し、草の根の党基盤を拡大することが狙いだった。それまで党首を選ぶには、①党員、➁組合などの関連団体関係者、そして③下院・欧州議会議員の3つのカテゴリーで3分の1ずつの票を割り当てていたが、それを党首選有権者全員に1人1票を与え、その合計で当選者を決めることとし、①党員、➁関連団体サポーター、さらに、アメリカの大統領選予備選でしばしば行われている有権者の登録をもとに③「登録サポーター」の制度を導入した。なお、保守党は、いくつかの選挙区で候補者選出に党派を問わず投票させる公開予備選を実施したが、これもアメリカで一部行われている「公開予備選(Open Primary)」をもとにしたものである。ミリバンドの党首選改革は、コービンの出現で、想像もしていなかったような結果を生んだ。

コービンの主要な支持母体は、モメンタムと言われる団体である。この団体は、コービンが党首になってから生まれた。そのメンバーは1万8千人、それにサポーターが15万人いると言われるが、急激にメンバー・サポーターを増やしている。また、コービン支持者には若者が多いとされるが、それだけではなく、今回の党首選では、25歳から60歳の党員の3分の2近くがコービンに投票していると見られており、かなり広範囲の年齢層の支持を集めている。さらに女性の党員の3分の2近くの支持も集めている。このコービンへの支持は、現在の政治に飽き足らない人々の一種の社会運動にまでなっているという見方もある。

世論調査では、強硬左派のコービン率いる労働党への支持は、保守党をかなり下回っており、また、コービンを有能なリーダーとして認める有権者が少ない。ある世論調査によると、有権者のコービンへの信頼度は、これまで労働党が圧倒的に強いと考えられていた国民保健サービスNHSの分野でもメイ首相より下回ることがわかった。労働党下院議員たちとコービン、さらにこれらの下院議員とコービン支持の党員・サポーターの関係が十分機能していないため、コービンが有権者に大切な問題を対処できる能力があるとは信じられていない。そのため、労働党が総選挙で勝てると見る人はほとんどいない。

しかし、このコービン現象を警戒する声はある。メイ首相の率いる保守党は、その党員数が13万から15万と見られていた。最近、5万人ほど党員数が増えたというリポートがあったが、現在どの程度の党員数かはっきりしていない。保守党の問題は、その党員の大多数が引退した人たちであることである。2015年総選挙では若い世代のグループが接戦の選挙区をバスで回ったが、この活動にはいじめの疑惑があり、自殺者も出し、しかもこの活動の費用が選挙違反という疑いも出るなど、多くの問題があった。このような保守党の現状は、コービン現象で増大する労働党支持基盤と比べるとかなり大きな違いがある。

この中、67歳のコービンでは総選挙に勝てないだろうが、もしカリスマのある、多くの支持を得られるような人物がコービン後の党首となり、現在の強力な支持基盤を継承すれば、全く異なる状況となるという見方がある。コービン現象を現在の政治状況と切り離して考えることは危険だという警告であろう。

労働党党首に再選されたコービン

労働党の現党首ジェレミー・コービンが党首に再選され、その党内での立場を強めた。約64万人が有権者で投票率は78%。昨年の党首選で55万人余が有権者で76%が投票したのを上回る。コービンが61.8%を得票し、昨年の59.5%より大きな支持を受けた。これは、今回の党首選のいきさつを考えると、驚くべき結果と言える。

今回の党首選は、労働党の下院議員たちがコービンを党首の座から追い落とそうとして始まった。6月23日のEU国民投票でイギリスがEU離脱を選択した直後である。コービンが中途半端な残留運動をしたとして、コービンにはリーダーとしての能力がなく、選挙に勝てないと主張し、影の内閣の3分の2が辞職し、230人の労働党下院議員のうち172人がコービン不信任に賛成した。もともと、昨年、強硬左派のコービンが党首に選ばれたこと自体に不満があったが、世論調査で、野党が与党の保守党を上回るべきであるのに、かなり下回っている。そのため、労働党下院議員たちは党首を入れ替えようとした。ここまで多くの労働党下院議員が反コービンに回れば、コービンは辞任せざるを得ないだろうとの読みがあったのである。ところが、コービンは、多くの党員・サポーターたちからの負託があるとして辞任を拒否し、党首選が始まることとなった。

コービンは、昨年の党首選で立候補する際、必要な下院議員の推薦人を集めるのに苦労し、党首選には党内左派の声も必要だと他の立候補者を推す人にも推薦人になってもらったほどである。そのため、今回の党首選も、現党首に下院議員の推薦が必要かどうか大きな問題となった。結局、党規約への専門家の意見も聞いた後、労働党の全国執行委員会(NEC)で、現党首には必要ないと決定したが、さらに裁判所にも持ち込まれ、最終的に推薦人は必要ないこととなった。

党首選の有権者には3つのカテゴリーがある。党員、関連団体サポーター、そして登録サポーターである。有権者はすべて一人一票である。労働党の下院議員によるコービン攻撃が始まり、コービン危機の状態が生まれたため、労働党への加入者が急激に増えた。そのため、昨年とは異なり、この新規加入者への党首選投票権を認めないこととし、さらに登録サポーターへの登録料は昨年の3ポンド(400円)を25ポンド(3300円)に8倍増とし、登録期間はわずか48時間しか認めなかった。また、労働組合など労働党関連団体のサポーターになって投票しようとする人を防ぐため、この新規加入者にも投票権を認めないこととした。その上、有権者を厳しく篩にかけ、何万人もの人が投票を許されなかった。

このような状況の中で、コービンの対抗馬のオーウェン・スミスが大多数の下院議員、さらにハリーポッターの著者JKローリングらの支援を受ける中、コービンが昨年よりも得票率を伸ばしたのである。

党首選の結果の発表された後、党員がコービンとスミスにどのように投票したかの世論調査による分析が出された。これによると、2015年5月の総選挙より前に党員になった人の約3分の2がスミスに投票している。昨年の党首選中に党員になった人の4分の3がコービンに投票し、そしてコービンが党首に選ばれた後に党員となった人の8割以上がコービンに投票している。つまり、新しい党員ほど、コービン支持者が多い。

今回の党首選には、今年1月12日より後に加入した党員は投票できなかった。これらの党員にはさらに25ポンドを支払い、登録サポーターとなって投票した人がかなりいる。それでも、もしこれらの党員も投票を許されていれば、コービンの得票率はさらに高かっただろう。コービン支持は、今回の党首選で現れた結果より強いのは明らかである。

コービンの信念

労働党の党首選最後の候補者討論・質疑応答会が9月18日に行われた。ジューイッシュ・ニュースというイギリスのユダヤ系新聞が主催したものである。

コービンは党首となる前にパレスチナのハマスやヘズボラを「友人」と呼んだことがあり、また、労働党内の反ユダヤ主義の調査を実施し、対応策を発表したものの、この問題に十分対応できていないという批判がある。そのため、労働党を支持するユダヤ人のグループからのコービン支持はわずか4%で、その92%は党首選の対抗馬スミスを支持している。そのため、この討論会でも、反ユダヤ主義の質問が繰り返しなされた。なお、反ユダヤ主義とは、ユダヤ人への人種差別である。

党首選の他の討論会では、主催者が聴衆のコービン支持、スミス支持のバランスを取るよう細心の注意を払っている。それにもかかわらず、例えば、9月14日のスカイニュースの主催した討論会では世論調査会社が慎重に聴衆を選んでいるにもかかわらず、スミスへのヤジが飛び、コービンへの拍手が大きく、コービン優勢がはっきりと窺われた。

しかし、今回の討論会では、聴衆の反応は、スミス優勢だった。コービンは、いかなる人種差別も否定している。イスラエルのパレスチナ人の取り扱いを批判しているが、それはユダヤ人に対するものではない。これは、左の人物によくある反米主義、反植民地主義で、イスラエルは西側の新植民地主義の象徴のように考えられているとする見方もある。ただし、多くのユダヤ人は、イスラエルへの批判は、ユダヤ人批判だと見なし、感じている。かつて労働党は、ユダヤ人の強い支持を受けていたが、今ではユダヤ人の多くの支持を失った。コービン党首の労働党は、わずか8.5%の支持となっていると言われる。

コービンのメディア報道にはバイアスがある。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の学者が2015年9月1日から11月1日までの新聞を分析した結果、コービンは不公平に扱われているとした。ロンドン大学バークベックと、ロンドン大学ゴールドスミスのメディア改革連合の学者の行った、労働党影の内閣の大量辞任から2016年7月6日までの10日間のオンライン・テレビ報道分析では、民放のITVが公平な報道を行っているとされたのに対し、公共放送BBCのテレビニュースでは、コービンに批判的な報道が擁護的な報道の2倍近いことを指摘している。コービン自身メディアを批判しているが、コービン支持者の多くは、エスタブリッシュメントがコービンを引きずり落とそうとしていると捉え、メディア報道にかかわらず、コービン支持は増加する一方である。

コービンにはリーダーシップがないとする見方が強いが、1983年から下院議員を務めるコービンが、過去30年余りの間、その重要な判断が正しかった、判断が正しいことはリーダーにとって重要な特性だとする指摘がある。コービンは党首に就任するまで、労働党のリーダーたちに厄介者扱いされていた。党首脳部の指示に従わず、自分の信念を曲げなかったからである。

世論調査の労働党の支持率は保守党よりかなり低く、また、コービンへの評価も低い。それでもコービンの信念に共感している人が多く、コービン労働党は党員数が急増し、それまでの2倍の50万余となり、今では、欧州一の党員数の政党となったと言われる。

9月21日正午に党首選の投票は締め切られ、投票の結果は、9月24日に発表される。昨年9月の開票では、4人の立候補者のうち、コービンは最初の開票で全体の59.5%を獲得し、当選した。2人の立った今回の党首選では、コービン選対責任者のマクダネル影の財相が、前回の支持を下回る可能性を示唆した。6月23日のEU国民投票後、コービンが労働党下院議員たちから辞任圧力を受ける中、わずか1週間ほどで13万人が党員となったが、これらの新党員を含め、過去半年余りの加入者は投票が許されなかった。それでも、多くは、コービンに前回を上回る支持が集まると見ている。いずれにしても、党首に再選されるのは確実で、今回の迫られて行われた党首選でコービンの立場が弱まるどころか、さらに強まったと思われる。

労働党党首選:コービンが大勝する見込み

労働党の党首選で、投票が行われている。現職のコービンと影の労働年金相だったスミスの2人が立候補している。この投票は9月21日に締め切られ、その結果は9月24日に発表される。

この党首選に投票できる人に世論調査した結果が発表された。それによると、コービン支持が57%、スミスが35%の支持、未定が8%となっており、未定を除くと62%対38%で、コービンが前回の昨年9月の党首選で獲得した59.5%を上回る勢いとなっており、コービンが当選するのは確実な状況だ。

この世論調査会社は、有権者の極めて大きな登録ベースを持っており、その結果、労働党の党首選の有権者をピックアップし、有意義な世論調査、すなわち1000プラスのサンプルで世論調査を実施できる。前回の4人の立候補した党首選でも同様の世論調査を実施した。それでは、コービン支持が53%で、2番目の候補に30ポイントの差をつけており、コービン圧勝を予測した。党首選の結果は、1回目の開票でコービンが59.5%を獲得し、半分以上の票を獲得したため2回目以降の開票が必要なかった。なお、コービンは2番目の候補に40ポイントの差をつけた。

前回党首選で、この世論調査会社のコービン大勝の予測があたったため、今回の世論調査も注目される。この結果によると、党首選有権者カテゴリーの3部門である、党員(今年1月12日までに加入した者)、労働党関連団体サポーター(今年1月12日までに関連団体のメンバーとなり、投票の権利のある者)、登録サポーター(今年7月の48時間の枠内に25ポンド⦅3500円⦆を支払った者)のいずれの部門でもコービンが優勢だ。

カテゴリー コービン スミス 未定
全体 57 35 8
党員 52 40 8
関連団体サポーター 54 33 13
登録サポーター 70 25 5

興味深いことは、ミリバンド前党首下の2015年総選挙までに入党した党員の下では、スミスがコービンを支持率で68%対32%とリードしているのに対し、ミリバンド辞任後の2015年5月から9月に入党したメンバーでは、スミスへの支持は28%に下がり、しかもコービン党首当選後の9月以降に入党した人の間では、スミス支持は14%に下がる。つまり、新しいメンバーほどコービン支持が強い。

前回の党首選では、有権者登録は、有権者データベースの整理の始まるまでできたが、今回は、新しい党員・サポーターが圧倒的にコービン支持であることが明らかであったため、党員入党などが1月12日までに限定され、しかも登録サポーターは、48時間の枠を設けられ、しかも登録費が前回の3ポンドから25ポンドに大幅アップされた。それでもコービン支持の強さが浮き彫りになっている。

この世論調査会社のデータベースに偏りがある可能性は否定できず、また、18万人余りの登録サポーターのうち、5万人近くが様々な理由で投票を拒まれているとも伝えられている。投票締め切りまでにはまだ3週間あり、最終的な結果が、この予測通りにならない可能性はあるが、大勢としては、既に多くが予想しているように、コービン大勝の結果となるように思われる

SNPと労働党

スコットランドの政情は、過去10年で大きく変わった。2005年の下院総選挙(完全小選挙区制)では、労働党がスコットランドに割り当てられた59議席のうち41議席を獲得したが、2年後の2007年のスコットランド議会議員選挙(小選挙区比例代表併用制)で、スコットランド国民党(SNP)が第1党となり、少数与党として初めて政権を担当。2010年総選挙では、労働党が41議席(SNPは前回同様6議席)を維持したものの、2011年のスコットランド議会議員選挙では、SNPが過半数を制し、2014年のスコットランド独立住民投票が可能となった。独立住民投票は、55%対45%で独立が否定されたものの、2015年の総選挙では、SNPが59議席のうち56議席を獲得。2016年のスコットランド議会議員選挙では、SNPが過半数を若干下回ったものの、2007年以来、与党として政権を担当している。一方、労働党は、2015年総選挙でわずか1議席に留まったばかりではなく、2016年スコットランド議会議員選挙では、かつて牙城だったスコットランドで、サッチャー政権以来嫌われていた保守党を下回り、議会第3党となった。

労働党は、なぜわずか10年ほどで急に勢力が衰えたのか?

労働党が有権者の信を失い、その上、2010年総選挙で政権を失い、政党として投票する魅力がなくなった。一方、その代わりにSNPが中道左派の選択肢となったためである。労働党がエスブリッシュメントの政党となり、かつての労働党支持者が離れていった。SNPは、2007年の政権では、全129議席のうち47議席しかなかったが、政策ごとに提携政党をうまく選択し、無難な政権運営をした上、特に2011年以降、イギリスから独立するという党是を武器にスコットランドの愛国心を煽り、キャメロン政権に立ち向かい、独立住民投票を実施させた。また、スコットランドの大学の学費無料を継続し、教育、福祉に力を入れ、スコットランド住民第一の姿勢を維持し、住民の信頼を勝ち得たといえる。それが2015年の総選挙ではっきりと出た。

この状態から労働党を立ち直らせるのは簡単ではない。

8月25日、労働党の党首選で立候補しているコービン党首とスミス前影の労働年金相の討論会がスコットランドのグラスゴーで開かれた。党首選討論会は全国で行われている。この党首選の投票は既に始まっており、9月21日に締め切られ、その結果は9月24日に発表される。コービンの当選は確実視されており、コービン支持者はスコットランドでも増えている。しかし、スコットランドの独立に反対しているため、スコットランドでの支持者の増え方は、イングランドやウェールズほどではない

6月23日の国民投票でイギリスは欧州連合(EU)からの離脱を選択したが、スコットランドでは3分の2近くが残留に投票した。労働党は残留の立場でキャンペーンしたが、コービンはキャンペーンを中途半端に行ったと批判された。コービンは、1975年のEC(EUの前身)国民投票で離脱票を投じた人物であり、また、EUとアメリカとのTTIP貿易投資パートナーシップ協定に反対している。しかし、労働者や消費者の権利などを考え、全体として残留を支持するという立場だった。

この討論会は、残留派の多かったスコットランドで行われ、SNP党首のスタージョン首席大臣が、スコットランドがEUから離脱しないために最大限の努力をすると主張しているため、スミスは、この国民投票の問題でコービン攻撃に出たと思われる。スミスは、2度目のEU国民投票を含め、イギリスのEU離脱を防ぐことに力を入れている。6月の国民投票の結果をそのまま受け入れたコービンが国民投票では離脱に投票をしたのではないか、また、その結果を喜んでいるのではないかと主張した。これに対し、コービンは残留に投票したと即座に答え、残念ながら離脱の結果となったが、民主的な選択の結果に従う必要があると答えた。そして、そのような疑問を投げかけたスミスは、保守党支持のタブロイド紙デイリーメールなどのレベルに落ちていると示唆した。

スコットランドの労働党建て直しについては、スミスが、革新的な政策で保守党政府を攻撃し、政権を取り戻すことが必要だとしたが、具体的な内容に欠けた。一方、コービンは、労働党とSNPは政党の伝統も目的も異なる、労働党は勤労者のための政党だが、SNPはスコットランドの独立を求める政党だと指摘した。コービン労働党は反緊縮策を訴えており、コービン政権が誕生すれば、スコットランドへの財政支援を打ち出すと約束した。

スコットランドは、これまで大きな財政収入源と期待していた北海油田からの税収が、オイル価格の騰落でほとんどゼロになり、その2015年度の財政赤字は、名目上スコットランドのGNPの10%近くとなっており、イギリス全体の財政赤字が5%を下回るのに対し、2倍以上である。スコットランド政府は、財政削減にも取り組んでいるが、教育や福祉などの人気政策の変更を渋っているため、そのしわ寄せは、地方自治体にかかっている。この財政状況は、イギリスの枠内であればしのげるが、独立国としては維持が難しく、独立機運が増す可能性は乏しい。

スタージョン政権では、財政削減に取り組みながら、スコットランドでの政権支持の維持に取り組んでいく必要があり、今後厳しい時期を迎えると言える。ここに、労働党回復のカギがある。コービンは、労働党が政権を取れば、スコットランドを助けることができるというのである。

コービンもスミスも政権樹立のためのSNPとの連携を否定している。議員の数の上では、例えば、2015年総選挙で232議席を獲得した労働党と56議席のSNPが提携すれば、288議席となり、全650議席のうち330議席を獲得した保守党から、労働党が次期総選挙で、例えば30議席獲得すれば、政権を獲得するための土台ができる。もし40議席獲得すれば、労働党とSNPで過半数を占められる。しかし、次期総選挙で、労働党が一挙に単純過半数の326議席(もしくは選挙区区割りが変更されれば、全600議席となり、301議席となる)の獲得を目指すのは、不可能と言えないが、かなり困難だ。労働党の下院議員の4分の3がコービンを不信任したのは、世論調査の支持率で労働党が低迷している上、有権者のコービンへの個人評価が極めて低いために次期総選挙では、議席を獲得するどころか、さらに大きく議席が減るという不安があるためだ。そのため、党首を変えようとした動きが、今回の党首選につながっている。

コービンは、労働党の政策にSNPが賛成するのは自由だが、それを政党間の提携のような形では行わないという。2015年総選挙で保守党やその支持メディアが、「弱いミリバンド(労働党前党首)」を「狡猾なサモンド(SNP前党首で、前スコットランド首席大臣)」が操るイメージを振りまき、保守党が過半数を制し、労働党が惨敗する一つの原因となった。同じようなことが起きることを警戒しているためだ。

いずれにしても、ここ10年ほどの選挙結果から見ると、スコットランドの住民は政権から離れた労働党に愛想をつかしており、これまでの政治への不満を集め、巧みな政策と政権運営を行ってきたSNPへの支持が強くなった。ところが、SNPは財政的にかなり厳しい状況となっており、これまで通りの政策の実施が困難になってきている。また、2016年スコットランド議会議員選挙で、SNPは議席を減らし、過半数を失った。一方、保守党が議席を伸ばし、スコットランド議会でSNPに次ぐ第2党となった。また、緑の党が議席を伸ばしたことから見ると、既成の政治への不満も集めていたSNPへの支持は既にピークを越したようだ。スコットランド政府は、イギリスの中央政府から大きな自治権を与えられており、その付与された権限を使って、独自の政策を実施できる立場にある。そのため、スタージョンの政権運営能力がこれから厳しく問われるが、財政緊縮の背景の下では容易なことではない。

イギリスのEU離脱交渉はまだ始まっておらず、また、国民投票後心配された経済的ショックは今のところ一般の人の生活には大きな影響をもたらしていない。しかし、投資は鈍っており、早晩その影響は出てくる。特に歳入に影響が出てくるだろう。

それから考えると、スコットランド政府の苦しみは、これから悪化するだろう。ただし、そのためにスコットランドの有権者が直ちに労働党への支持に向かうかどうか疑問だ。スコットランドの労働党は、基本的に自律的な組織であり、その政策は必ずしも中央とは一致しない。SNPは地域政党であり、単独でイギリス全体の政権を獲得できない。スコットランドが独立すれば別だが、独立の機は熟しておらず、イギリスの中に留まる限り、政権に参画するには他の政党に頼るしかない弱い立場である。労働党は中央政府の政権獲得の可能性があり、コービン労働党はSNPよりも左で、有権者が、労働党へ再び目を向ける可能性はないとは言えない。しかし、そうなるには、コービン労働党にプラスαが必要だ。それは、具体的には、SNP政権の失政と、コービン労働党への支持率が増加し、コービン労働党が政権を取るかもしれないという状況となった時である。そのような時がくるかもしれないが、今のところ、その可能性は見えてこない。結局、スコットランドの政局は、かなり不透明なまま、しばらく継続することとなる。

コービンを嘘つきと決めつけるメディア

8月11日のこと。労働党のコービン党首が、労働党党首選の候補者討論に出席するため、ロンドンから列車でイングランド北部のニューカッスルの隣のゲイツヘッドに向かった。このヴァージン鉄道の車内を、席を探して歩き回ったが妻と一緒に座れなかったコービンは他の乗客と一緒に床に座った。そして、それを関係者がビデオに撮った。その中で、コービンは列車が非常に混んでいるとし、乗客のために鉄道の国有化を唱えた。そのビデオは、ガーディアン紙オンラインに掲載された。

この話に対し、ヴァージン鉄道を創設した億万長者のリチャード・ブランソンは、空席があったのに、コービンが座らず、床に座ったのは、そのビデオを撮るためのスタントだったと示唆し、コービンが車内を歩いた際のCCTVの映像をインターネットで公開した。これには、データ保護法違反の疑いがあり、情報コミッショナーの調査が始まった。

ただし、ヴァージンの映像だけでは、すべての事実関係が明らかになったとは言えない。ガーディアンが、最初のビデオの映像には含まれていなかった映像を追加で出したが、この列車はかなり混んでいたようだ。指定席に空席があったのは明らかだが、自由席がどうであったのかはっきりしない。車掌が、2等切符を持ったコービンに1等席に座るよう話をしたが、コービンは他の乗客も床に座っている状態で、そのようなアップグレードは受けられないと断ったため、車掌が2等席に座っていた他の乗客に1等席に移ってもらい、そこにコービンが座ったと言われる。それは、列車が出発してから42分後のことだった。

ヴァージン鉄道の言い分は、事実に反して、コービンがこの列車をスタントに使ったというものだが、テレグラフ紙、デイリーメール紙、タイムズ紙らは、この出来事をコービンが「嘘つき」だと決めつけるのに使った。正直なはずのコービンがメディア操作をしようとした、「新しい種類の政治」を唱える人物は「嘘つき」だと言うのである。

この報道ぶりを見て、2010年総選挙時の、自民党クレッグ党首への個人攻撃を思い出した。保守党、労働党、そして自民党の3党首テレビ討論の後、突如、クレッグブームが起き、自民党の支持率が大幅にアップした。そのクレッグブームを抑えようと、次の3党首テレビ討論前夜、テレグラフ紙らが協同してクレッグの政治献金疑惑を打ち上げた。その疑惑は数日で消えるが、テレビ討論後の世論調査で、クレッグブームは沈静化した。

コービンへの反対勢力は、労働党内の下院議員の4分の3以上に及び、労働党は内乱の状態に陥っている。しかし、コービンへの一般党員やサポーターの支持は非常に強く、党首選でもコービンが勝つのは間違いないと見られている。コービンへの一般有権者の評価は低いが、コービンの信念と誠実さに惹きつけられたコービン支持者の広がりは誰もが驚くものがある。アメリカで予想外にトランプが共和党の大統領候補となったように、既成のエスタブリッシュメントに飽き足らない有権者は新しいものを求める傾向がある。万一、一般有権者のコービンへの支持に火がつかないよう、コービンをけなし、信用を失わせるように仕向けているのではないかという感じがする。有権者に最も評価の高いビジネスマン、リチャード・ブランソンのコービン攻撃を誇大に報道することで、その目的を達成しようとしているようだ。また、ブランソンにもコービン攻撃へのメリットがあるという見方もある。

コービン労働党への世論支持は最悪か?

EU残留か離脱かをめぐる国民投票が行われた後、労働党影の内閣のメンバー大量辞任、そして党所属下院議員4分の3が党首コービンを不信任し、労働党の内乱が始まった。それでもコービンは昨年9月の党首選で党員・サポーターの圧倒的な負託を受けていると主張し、辞任することを拒否した。そして、現在、コービンと影の労働年金相だったスミスの2人による党首選となっている。この党首選の結果は9月24日に発表される。8月12日時点での労働党の選挙区支部の推薦状況では、コービン242、スミス45で、コービンが大きな差をつけている。

反コービン派の内乱は、EU国民投票で労働党が残留を支持したにもかかわらず、コービンが中途半端な運動をしたために、離脱が勝ったとして、コービンの責任を問うことから始まった。しかし、昨年9月にコービンが予想を裏切って党首に選ばれて以来、労働党下院議員の多くは、強硬左派のコービンでは選挙に勝てないと決めてかかっていた点がある。

コービン下ろしの最大の理由は、世論調査で労働党の支持率が低迷していることである。通常、野党第一党は、政権政党への批判を吸収して、選挙と選挙の間のかなりの期間、高い支持を集める傾向がある。特に、その後の総選挙で勝った政党は、10ポイント以上の大きな差をつけることが多い。ところが、コービン率いる労働党は、政権政党の保守党より、継続して下回っており、これでは到底選挙に勝てないというのである。今年5月の地方選挙でも労働党は大きく勝つべきだったが議席を減らしたと批判する。コービンは最悪だというのである。

これを分析するには、プリモス大学のRallingsとThrasher両教授の分析(p16)が参考となる。地方選挙は、毎年、部分的に行われるが、全国的に見た得票率を1979年から推計したものである。これによると、この5月の地方選挙では、労働党が33%、保守党が32%となり、労働党が1%上回っている。コービンが党首として初めて迎えた地方選挙の得票率としてはかなり低いと言えるが、それでも2002年のイアン・ダンカン=スミス党首の保守党が労働党を1%リードした時と並ぶ。また、2011年のミリバンド党首の労働党は保守党に1%よりも下回っていた。いずれの場合もその次の総選挙では大敗しているが、コービンが最悪というわけではない。

ただし、こういう過去の例が、そもそもコービン労働党の場合に当てはまるかどうか疑問がある。コービンが労働党の党首に当選したこと自体、本来あるべきではなかったことが起きた。また、多くの労働党下院議員の動きで見られるように、コービンブームは昨年の党首選の一時的なものだったと思った人が多かったと思われるが、今回の労働党内乱では、そのブームは継続しているだけではなく、昨年よりも強まっているように思われる。労働党選挙区支部で党員が急速に増加しているが、その圧倒的多数は、コービン支持と伝えられる。また、党首選で投票するためにサポーターになろうとして、今年7月、わずか48時間の時間枠内に18万3千人が25ポンド(3500円)を支払ったということに見られる。この人たちの圧倒的多数は、コービン支持だと見られている。閣僚も長く経験した労働党のベテラン下院議員マーガレット・ベケットが、これらの人たちは、労働党を支持して労働党の党員になったわけではなく、「コービンのファン」だと指摘したが、ここに現在のコービンブームの源泉がある。

保守党のメイ党首が首相に就任して1ヶ月、まだそのハネムーンが続いており、保守党と労働党の支持率の差は7から14ポイントある。総選挙が近いと見る人が多く、メイが総選挙を実施すれば、労働党は大敗するという声が強い。しかし、2011年固定議会法がある中、2020年より前に総選挙を実施することは、そう簡単ではない。

また、政権は野党が獲得するのではなく、政権政党が失うものだとよく言われる。メイ政権がEU離脱交渉をめぐるごたごたなどの問題を抱え、コービンブームがさらに大きく広がるような事態が起きれば、保守党が過半数を割る事態が起きるかもしれない。ただし、現在のように労働党の中で内乱が続き、コービンがメイに満足率で極めて大きな差をつけられているような状況では、コービンの議論に真剣に耳を傾けるような有権者はそう多くないだろうが。

労働党内紛:強力なコービン支持

コービンが党員らの圧倒的な支持を受けて労働党党首となったのは、昨年2015年9月だった。4人立った党首選では、有効投票総数の59.5%を獲得し、第2位の19%に大きな差をつけて当選した。これは、労働党の下院議員たちの大多数には大きなショックだった。強硬左派であり、労働党トップの指示に従わない「問題議員」だったコービン党首では、到底総選挙に勝てないと信じたからである。総選挙で勝てないどころか、労働党は惨敗し、大きく議席を失うだろう、なるべく早くコービンを党首の座から下ろす必要があると考えた。そしてこれまでその機会をうかがってきた。欧州連合(EU)国民投票後、それを実行したが、党員らのコービン支持は非常に強力で、労働党の4分の3にも及ぶ反コービン派下院議員たちには打つ手がなくなってきている。

コービン下ろし

まず、反コービン派の下院議員たちは、補欠選挙、地方選挙などで労働党が惨敗すれば、その機会に一挙にコービン下ろしに打って出られると考えていた。ところが、これまでの4回の下院補欠選挙では、負ける可能性が大きいと言われながら、いずれも勝ち、しかもそのうち3回は得票を伸ばした。また、5月の地方選挙でも予想よりはるかに健闘した。イングランドの地方議会議員選挙では、十数議席の減少に食い止め、保守党よりも減少数が少なく、大きく議席を失うと見られていたウェールズ分権議会でも1議席減らしただけで、政権を維持した。スコットランド分権議会選挙では2015年の総選挙に引き続き、大敗したが、スコットランドは、ウェールズとは地位が若干異なり、スコットランド労働党の自立性が強いため、コービンの責任とは直接みなされなかった。なお、北アイルランドは特別で、労働党の友党である社会民主労働党があり、労働党は選挙で候補者を立てていない。

コービンがこれらの選挙を予想に反して無難に乗り切った後、反コービン派の下院議員たちの次の標的は、6月23日のEU国民投票だった。コービンは1975年の前回の国民投票でも離脱に投票した人物であり、これまでEUに批判的であった。特に現在行われているEUとアメリカとの大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)に批判的であり、労働者の権利、消費者の権利、環境問題などが弱められる他、イギリスの国民保健サービス(NHS)に民営化の圧力がかかるなどとして、TTIPに真っ向から反対する立場である。しかし、労働党では10人を除き、ほとんどの下院議員がイギリスのEU残留を求めており、しかもEU内で確保された労働者の権利や環を守り、さらに拡大していくためには、EU内の他の国の社会主義的な政党と連携していく必要があるとの判断から、EU残留の立場を取った(参照:あるニュース番組に出演したコービンのパフォーマンスへのガーディアン紙のジャーナリストたちの評価)。

ただし、コービンは、キャメロン首相(当時)と一緒に残留キャンペーンをすることは避けた。コービンが政治エスタブリッシュメントの一員だという印象を与えることを恐れたことと、2014年のスコットランド独立住民投票で、ミリバンド前党首がキャメロン首相(当時)と一緒に残留キャンペーンをした結果、スコットランドで労働党が保守党と同じだという印象を与え、2015年総選挙でスコットランドの議席を1議席除いてすべて失った二の舞を避ける目的があったと思われる。5月の議会開会式でも、慣例通りコービンとキャメロンの2人が並んで下院から上院に歩いていく際、熱心に話しかけようとするキャメロン首相を無視した態度を取った。ただし、残留キャンペーンには、全国を労働者の権利などを訴えて回った。EU国民投票後の世論調査によると、2015年総選挙で労働党に投票した人の63%が残留に投票している。これは、党所属下院議員の現在の54人全員、分権議会議員の63人全員が残留で運動したスコットランド国民党(SNP)が64%であったことを考えると遜色ない数字である。

一方、反コービン派の下院議員たちは、EU国民投票が52%対48%の結果で離脱となったのは、コービンが懸命にキャンペーンに取り組まなかったからだとして、コービンの不信任案を提出した。労働党には党首の不信任という規定はなく、不信任が可決されても拘束力はない。影の内閣の3分の2が辞任し、コービン不信任には4分の3の労働党下院議員が賛成した。この背景には、キャメロン後の新首相が早晩総選挙に打って出るかもしれない(2011年議会任期固定法があるが、これは可能である。拙稿参照)、もしそうなれば、コービン率いる労働党が惨敗するのではないかという危機感もあった。なお、EU国民投票で離脱となれば、コービンにとっては致命的な結果だとして、影の内閣からの集団辞任をはじめ、コービン下ろしに走る計画を国民投票の10日前にテレグラフ紙が報道していた。それでも、これを昨年9月に党員らの圧倒的支持で選ばれ、これまでそう大きな失点のないコービン下ろしの理由にするのは弱い。

コービンは、自分は昨年9月の党首選で党員らから負託を受けたとして、その負託を裏切れないと一歩も引く姿勢を示さなかった。そして、影の労働年金相を辞任したオーウェン・スミスが反コービン派から党首選に打って出て、党首選挙が始まったのである。

党首選ルールの改正

党首選ルールは2014年に改正された。それまでの3つのカテゴリー(党員、労働組合、下院・欧州議会議員)に3分の1ずつ票が割り振られていた制度から、新しい3つのカテゴリー(党員、関連団体サポーター、登録サポーター)で、全員が1人1票を割り当てられる制度へと変更された。この結果、労働組合と議員の力が弱まった。

この変更は、前党首エド・ミリバンドが勝った2010年党首選に大きな原因がある。ミリバンドは、本命と見られていた実兄の元外相デービッドを僅差で破り当選したが、その当選は、デービッドよりも左と見られたエドを労働組合が強く支持したことによる。また、その後、労働組合が自分たちに有利と思われる人物を、選挙区の候補者として選ばれるよう画策していたという疑いが出て、エド・ミリバンドが労働組合の力を削ぐような対策を講じなければならない状態だった。もともと、労働組合の力をいかに削ぐかは、労働党内の大きな問題であり、ジョン・スミス、そしてトニー・ブレア党首の下でも1人1票制度の導入への努力がなされてきた。そのため、2014年のルール改正にはブレア元首相も称賛したほどである。この改正が今回のような、党員らの圧倒的な支持を受けた党首を、労働党下院議員が信任しないというような事態が起きるかもしれないと予測した人はいなかった。

労働党党首選の行方

党首選に立った、2人の候補者、コービン党首とスミスの7月23日(土)の演説を見れば、その様子はある程度理解できるだろう。サルフォードでの1800人の会場がチケット売り切れの盛況で、コービン党首は「我々は、社会運動だ」と語った。同時にロンドン、ブリストル、ノッティンガム、バーミンガム、ハル、グラスゴー、ケンブリッジでも会合が開かれたという。一方、スミスの会合は低調だった。コービンはこれを党首選の出陣式にも兼ねていた。労働党下院議員がコービンの不信任案に投票した際には、ウェストミンスター議会の前にコービンの支持者が数千人集まった。コービンが話す場には、屋外でも数百人、数千人がコンスタントに集まる。

昨年の総選挙の敗北で、ミリバンド党首が辞任した後、コービンが労働党党首選に立候補したが、コービンブームが起き、党員数がそれまでの2倍弱の39万人ほどになった。そして6月23日のEU国民投票の後、労働党下院議員によるコービン下ろしが始まったが、わずか2週間ほどでさらに13万人が労働党の党員となった。申込書の記述から、増加した党員の大半が来るべき党首選でコービンに投票しようとした人たちだと見られている。ところが、コービンが党首選に立候補できないかもしれないという話が出て、党員申し込みの勢いが鈍った。コービンが自動的に立候補できるかどうかを労働党の全国執行委員会(NEC)が決定することとなり、NECは、コービンが党首選に立候補できるが、今年の1月12日までに加入した党員しか投票できないこととし、さらに関連団体(労働組合など)サポーターにも同じ制限が加わることとなった。ただし、登録サポーターについては、前回とは異なり、登録期間を大幅に制限し、48時間の申し込み時間内に25ポンド(3500円)を払った人だけが投票できることとした。昨年は3ポンド(420円)だったのに比べると大幅な値上がりである。

登録サポーターの数は、登録料を考えるとそう多くないだろうと見られていたが、驚くべきことが起きた。なんと、この時間内に18万3千人が申し込んだのである。すなわち、わずか48時間で労働党に450万ポンド(6億3千万円)余りのお金が入った。内紛で危機に立つ労働党を救おうと反コービンの立場で25ポンド支払った人もいるだろうが、この勢いは宗教的とも言えるほど熱狂的なコービン支持者のためだと見られている。

賭けを扱うブックメーカーは、既にこの党首選は一方的な戦いとなっているとして、コービンを当選確実とし、スミスが2か月の党首選の間に出馬を辞退するオッズを提供し始めたところもある。一方、保守党支持のサンデー・メイル紙は、コービン支持の団体が、コービン党首選を支援するためのTシャツをバングラデシュの低賃金労働者を使った工場から購入したと第1面で批判した。この新聞は、コービンを継続的にコケ下ろしてきたが、コービンの勢いに歯止めをかけようとする意図があるのではないかと思われる。コービン支持団体は、この購入を中止した。

奇妙な苦情

ある労働党下院議員が奇妙な訴えをした。コービンが個人的ないじめをしようとしたというのである。この下院議員は、本来コービン党首を助けるべき院内幹事の1人だが、反コービンで動いていたことがわかった。この下院議員の主張を見ると、反コービン派が一種のパラノイアに陥ってきたのではないかと思われるほどだ。党首選でコービンの対抗馬として立っているスミスはこの主張を信じると言い、コービンを批判した。しかし、スミスのコービンの「いじめ」批判がメディアで取り上げられるものの、それ以外の前向きの発言はそれほど取り上げられない状況になっている。

さらに44人の労働党女性下院議員が、コービンに、「コービン支持者ら」のソーシャルメディアでの威嚇や議員事務所周辺などでのデモ活動を止めさせるように求めた。コービンは繰り返し、威嚇など民主主義的でない行為は許されないと発言しており、マクドナルド影の財相は、その対策を講じているとしているが、警察が介入しない限り、誰がこのようなことをしているかを特定することは難しいように思われる。一方、コービンは、自分はクーデターを起こしたり、人を侮辱したり、威嚇するようなことはしないと発言したが、「クーデター」は、これらの反コービン派の議員たちが、コービンの追い落としを謀ったことを批判しているようだ。

影の内閣を1か月前に辞任した他の労働党下院議員が、影の内閣のポストに付随して与えられた議会内のオフィスを未だに出ておらず、野党第1党に与えられるすべてのオフィスを管理している党首のスタッフがそのオフィスを合鍵で開けて、出たかどうかをチェックしたことをプライバシーの侵害などとして下院議長に正式に苦情を申し入れ、公式の調査を始めるよう求めた。

これらの反コービン派下院議員の行動は、もちろん正当化されるものもあるが、自分たちの責任はともかく、自分たちの権利や自由が少しでも妨げられたり、侵害するように思われたりするものがあれば、それらを公に訴え、その実行者はともかく、コービンに狙いを絞り、打撃を与えようとする手段に出ているようだ。これは、状況が非常に深刻になっており、反コービン派が追いつめられている状態を示すものだろう。

労働党の今後

コービンが昨年9月の党首選よりもさらに大きな差をつけて当選するという見方もあるが、もし、予想されているようにコービンが党首に再選されるとどうなるか?反コービン派の下院議員たちは、既に自分たちをのっぴきならない立場に追い込んでいるようだ。

キャメロン政権で始まった選挙区を650から600に減らし、選挙区のサイズを均等にするという選挙区改革が、2018年に実施されるかもしれず、そうなれば、労働党の現職下院議員は誰もがそれぞれの労働党選挙区支部で候補者として改めて選出される必要があるとコービンが発言した。これを反コービン派下院議員への脅しだと党首選の対抗馬スミスは批判した。なお、現在は、「引き金投票」といわれる制度があり、再立候補を希望する現職を選挙区支部関係機関が承認する。もし、現職議員にも再選出が必要になると、複数の候補者の中から選考を経て選出されるようになり、反コービン派下院議員たちは極めて難しい立場に追い込まれる。労働党の選挙区支部では、現在、支部ミーティングの開催が停止されているが、これは、これらの反コービン派下院議員たちへの出席者らからの批判が非常に強いためである。下院議員たちへ悪口雑言が浴びせられるところもあるようで、そのようなことをする出席者の数はそう多くないとされる。コービン支持の党員が大きく増えているのは、ロンドンをはじめ比較的限られた地域だと言われるが、新しい党員が何百人単位で入党した支部もかなりあるようだ。半年たてば、下院議員選挙での選挙区候補選出の投票権を持つ。すなわち、コービン支持で入党した人たちの多くが選挙区で候補者を選択するのに大きな影響力を揮うようになりかねない。コービン支持の団体モメンタムは、既に1万人以上のメンバーがいるが、このような団体が、各選挙区支部でコービン支持の勢力培養をはかることは想像に難くない。イギリスは、政党選挙であり、労働党の現職下院議員でも労働党の公認を受けられなければ当選することはほとんど不可能である。

もちろん、新しい選挙区の区割りが進まない可能性は高い。これが実施されると、保守党は他の政党より20議席余り有利となると見られているが、選挙区の併合、組み換えなどで、多くの保守党下院議員が「国替え」や新たに候補者選考への出願などを迫られる。また、13万から15万人と目される保守党員には、かなり高齢の人が多く、新たな選挙区になじみにくい党員も出るだろう。さらに2015年総選挙で、多くの若者をバスで接戦の選挙区に送り込み運動させたが、いじめで自殺したメンバーが出たり、選挙費用支出違反の疑惑が出たりで、保守党の選挙態勢の問題があるように思われる。保守党は過半数をわずかに上回るだけであり、保守党下院議員の多くの意思を無視してこの選挙区区割りを押し通すことは簡単ではないだろう。そのため、2018年ごろの政治情勢にもよるが、今のところ、新しい区割りが進まない可能性はかなり高いように思われる。それでもコービン支持の労働組合最大手のユナイトが、選挙ごとに選挙区候補者の再選出を義務付ける政策を推進することとした。もし労働党で認められると、選挙区の区割りが進むかどうかにかかわらず、再選挙が必要となる。

いずれにしても反コービン派の下院議員は、コービン再選後、落ち着いて寝られない状態となる可能性がある。そのため、これらの下院議員がコービン労働党から離党して新しい政党を設置するだろうという見方がある。230人の労働党下院議員で半分以上の下院議員が離党すれば、下院で労働党を上回る下院議員を持つ野党最大党、すなわち政府に対する「対立政党」となれる。ただし、この新政党に労働党地方支部の党員の多くがついて出ていくという可能性は少なく、この新政党は、すぐに資金をはじめとするロジスティクスの問題が出てくる上、いつあるかわからない次の総選挙を戦うことは難しいだろう。

1981年に左のフット党首をいただく労働党から、中道寄りの社会民主党(SDP)が別れた。1979年の「不満の冬」で労働党の人気が下降し、サッチャー率いる保守党が政権を獲得したが、サッチャーの財政緊縮政権で、失業率が大きく増加し、サッチャー政権の支持が大きく下降していた時期だった。もし総選挙があれば、サッチャーが政権を失うのは間違いないというような政治状況だった。そのような時期に労働からSDPがわかれ、その支持率が50%にも達し、22名の労働党下院議員が参加する。次期総選挙でSDPは自由党と提携したが、結局、6議席に留まり、結局、現在の自民党に吸収される。現在のメイ新政権はまだハネムーン期間中であり、1981年当時のサッチャー政権よりはるかに状況がましだ。このような中で、反コービン派が新政党を設立するのは、自滅行為のように思える。

反コービン派の下院議員たちがそこまで追いつめられているのは確かだろう。しかし、今回のコービンへの謀反が失敗に終われば、再び謀反を起こすことははるかに難しくなる。筆者には、コービンが早かれ遅かれ次の総選挙に労働党を率いて臨み、もし敗北すれば、党首を退くことで決着するように思われる。コービンは、現在、これまでになく情熱を持って党首選に望んでいるように見えるが、67歳である。ただし、ソーシャルメディアの急激な発達もあり、政治の世界は大きく急激に変化している。反コービン派の下院議員たちが、現在の労働党の政治状況を見通せなかったように、政治の専門家たちの政治観が時代遅れになっているようだ。コービン人気がごく一部の支持者だけでなく、現在の政治に不満を持つ一般有権者まで広がるような事態が出てくるかもしれない。アメリカの大統領選でドナルド・トランプが共和党大統領候補に選ばれたように、従来の常識に反した政治現象が起きる可能性がこれほど高まっている時代はこれまでなかったかもしれない。