英国で急成長する銀行と公務員を弱体化させる評価制度(A Swedish Bank’s Success in UK)

3月初め、あるビジネスマンの書いた手紙への返事が大きな話題となった。マイク・ベンソンが自分のビジネスのためにライトバンを購入したいと思い、ある銀行に、その費用1万7千ポンド(250万円)のうち、1万ポンド(145万円)の融資を求めた。しかし、断られた。英国の銀行の貸し渋りは大きな問題になっているが、エアーコンプレッサーのパーツのビジネスで顧客を世界に持ち、過去15年間利益を上げてきた自分が断られるとは思っていなかった。

腹を立て、その勢いで、英国の中央銀行であるイングランド銀行のマービン・キング総裁に苦情を訴える手紙を書いた。ベンソンの驚いたことに、キング総裁が自分でサインした返事を書いてきた。大手銀行の融資判断は狂っているとベンソンに同情し、あるスウェーデンの銀行にあたってみればとアドバイスした。(参照 http://www.bbc.co.uk/news/business-21630828

このスウェーデンの銀行ハンデルスバンケンは英国で急成長している。現在152支店あり、2週に1店の割合で増えているという(タイムズ紙2013年4月2日)。顧客満足度は他の銀行よりはるかに高いという。

この銀行の特徴は、支店長に非常に大きな裁量権を与えていることである。一定額以上の取引には地区本部の許可が必要(ある支店の例ではその割合は5%)だが、それ以外は金利に至るまでそれぞれの支店長に権限がある。

大手銀行は、2007年に始まった信用危機以降、リスク管理を中央で行い、それぞれのカスタマーの事情を十分に把握せずに一定の基準枠に入れて融資判断を下す傾向があり、それがかなりひどい貸し渋りにつながっているようだ。

この話で感じたのは、大手銀行は中央でのリスク管理のために2つの問題をおこしているのではないかということだ。

一つは、スタッフがそれぞれのシステムに頼る風土を生み、自らの能力を維持、向上する機会を奪い、その結果、組織を弱体化させているのではないかという点だ。もう一つは、第一番目の点と関連するが、かつて優秀なスタッフがそれぞれのカスタマーの潜在可能性を自ら探知していたが、それが失われていき、成功する可能性の高いカスタマーを見逃しているのではないかという点だ。つまり、成功まちがいないと思われるもの(それがどこまで確実かは別の問題だが)にしか手を出さない傾向が出てきているのではないだろうか。

これは、英国の公務員にも当てはまるように感じる。英国の公務員の採用・評価のために政府の取り入れた「コンピテンシー・フレームワーク」も同じで、英国の大手銀行のようになってきているのではないだろうか。つまり、スタッフを類型的に判断し、それでリスクないしはポテンシャルを見る傾向である。その結果、全体のシステムを強くするという当初の意図に反し、実は弱体化させていっているのではないかと思われる点だ。

公務員の質の向上?(Improving the Civil Service Capabilities?)

政府は、公務員の能力向上のために、公務員改革プランを昨年6月に発表し、また、「コンピテンシー・フレームワーク」(Competency framework:参照http://www.civilservice.gov.uk/wp-content/uploads/2012/07/Civil-Service-Competency-Framework-July-2012.pdf)を導入した。しかし、このフレームワークに本当に効果があるかどうか大きな疑問がある。

最近、内務特別委員会が、歳入関税庁のチーフ・エグゼクティブで事務次官であるリン・ホーマーが、その能力に疑問があるにもかかわらず、内務省国境局のチーフ・エグゼクティブから運輸省の事務次官へ、そしてさらに格上の現在のポストへ昇進させられたことはおかしいとして、議会に事務次官人事の拒否権を与えるべきだと訴えた(詳細は、http://kikugawa.co.uk/?p=1465)。事務次官人事は、人事委員会(Civil Service Commission)の担当である(参照 http://kikugawa.co.uk/?p=629)。つまり、内務特別委員会は、この人事を担当した人事委員会の人物査定の能力に大きな疑問を投げかけた。さらに、重大不正捜査局(SFO)のトップ、前ダイレクターだったリチャード・オルドマンのお粗末な運営能力も明らかになっている(参照http://kikugawa.co.uk/?p=1081)。

このような重要な人事で査定が不十分、つまり、そのポストに就いてきちんとした仕事ができる能力の無い、もしくはその能力の乏しい人がトップのポストに就いているということは、それ以外の幹部の人事査定にも深刻な問題があることを示唆している。それでは、上記の「コンピテンシー・フレームワーク」を導入した結果、公務員の能力は向上するのだろうか。

なお、日本では公務員の人事は、通常人事部が行うが、英国では、自ら他のポストに応募し、インタビューを受けてポストに採用され、仕事を変わる制度を取っている。

この「コンピテンシー・フレームワーク」は、抽象的な「あるべき姿像」を想定して「効果的な行動」をする人とそうでない人を描き出そうとしている。そして、ここで取りあげられた10のコンピテンシーは、成功するパフォーマンスを導き出す技能、知識、そして行動であると規定する。しかしながら、このようなコンピテンシーのあることが、成功するパフォーマンスを生み出す十分条件では必ずしもないと思われる。つまり、もしそれぞれのコンピテンシーがあったとしても、それで成功するかどうかということは別の問題である。

また、このフレームワークでは、査定の上で新たなティック・ボックス・メンタリティを生む可能性が強い。つまり、それぞれのボックスにティックすればそれでことは済んだと考え、全体的に見ようとしない可能性がある。

ここでの問題は二つあるように思われる。一つは、選考する人の能力である。政府は政策の実施により力を入れ始めているが、これまで公務員の世界で政策の策定を中心に出世してきたいわゆるジェネラリストの人たちが、政策の実施を担当する人の選任にどの程度有効かという問題がある。

さらに、このフレームワークでは、リーダーシップのあり方が極めて一面的である点である。リーダーとして前面に立ち、最初から確信があり、自分が何をするかはっきりと理解しているという想定がある。しかし、これはかなり非現実的だと思われる。まず、大臣たちの能力の問題がある(参照 http://www.reform.co.uk/resources/0000/0607/Whitehall_reform_The_view_from_the_inside.pdf)。また、ステーキホルダーたちとの交渉の中で、立場を変えざるを得ないこともかなりある。最初から決まった政策や方針が提供されると想定しているように思われるが、それは現実的ではないだろう。

最大の問題は、こういうフレームワークを作ることで、同じようなタイプの人を量産し、平均的な幹部が増える一方、本当に物事を成し得る才能がこれまで以上に埋もれてしまうことだ。これまでの公務員の行動形態を考えるとその危険性はかなり高いと思われる。

メイ内相の英国国境局廃止は英断?(May’s Decision to Abolish UKBA)

3月26日、テリーザ・メイ内相が内務省の事業執行機関である国境局(UKBA)を廃止して、その仕事を査証部門と移民の法執行機関の二つに分割し、内務省直属とすることにした。新しく、事務次官をトップにした戦略的監視機関を設け、この機関で移民政策、パスポートサービス、国境フォース、それに新しい二つの部門の調整を図るという。この仕組みは、4月1日からスタートする。

この決定は、その当日の26日朝決まったという。英国ではこのような省庁の改変は法律で規定されていないので、比較的簡単にできる。

これまでは、大臣が政策を決め、それを国境局が実施するという大まかな役割分担があったが、実際は、政策と実施の関係にはかなりあいまいな部分があった。法律に関連して微妙な問題がかなりあり、そのため大臣の判断を仰ぐ必要があったためだ。

しかし、今後、移民関係の部局は、直接、大臣の管轄下に入る。しかし、これが、多くの課題を抱えるこの部門の問題を解決する決め手になるだろうか?26日に内務省の事務次官がスタッフに送ったメモでは、ほとんどのスタッフは、同じ職場で、同じ仕事をし、同じ同僚で、同じ上司だと説明があったという。つまり、事業執行機関では無くなるが、実際には人はほとんど変わらない。

メイ内相は、この組織改編で、これまでの「閉鎖的で、隠し立てし、防御的な行動様式」を終わらせると言う。3月25日に発表された、下院内務特別委員会の報告書でも指摘されたことだが、今なお、国境局は「その目的にふさわしくない」組織であり、委員会に不正確、もしくは欺いた数字を報告してきた。移民問題に関するケースの処理は遅く、31万2千件あり、とてもすぐに解決できる状況にはない。しかも不法滞在者を国外退去させても不法滞在者の数に追いついて行っていないという問題がある。

メイ内相は、昨年国境局から分離した、空港や港を日々管理している国境フォースがうまくいっており、大きな国境局(全体でフルタイム換算2万3500人。国内は1万3千人)を二つに分けて小さな部局にすることでより焦点が絞られ、効率が上がると考えている。

これは、キャメロン後の保守党党首の座を狙っていると言われるメイ内相にとっては、極めて大きなギャンブルだと言える。大臣が直接担当するからアカウンタビリティが向上すると言っても、問題が解決しない、もしくは、何か問題が起きると大臣が矢面になり、かえって難しい立場になる可能性がある。

一方では、もしメイ内相が、保守党がマニフェストで約束した、移民の数を年に10万人以下とし、この移民の問題を解決できれば、メイ内相の株が大きく上がるのは間違いない。保守党がUKIP(英国独立党)にその支持票を奪われている大きな原因はこの移民の問題だからである。メイは、2010年総選挙後、内相に就任した。EU内では、移動の自由が認められているが、それ以外の国からの人たちを対象にこれまで入国の基準を厳しくするなどの手を打ってきた。2月末に発表された、2012年6月までの過去1年間で、その前年の24万7千人から16万3千人と3分の1減少している。毎年の入国者数から出国者数を引いた正味の移民数はかなり減ってきたものの、それでもまだ目標にはかなり遠い。

メイ内相は、前のお労働党政権に責任があると主張する。その理由は次のようなものである

①前政権が入出国のコントロールを弱めた。

②人権法を制定したために、外国人犯罪者を国外退去させることが困難になった。

この②への対応としては、国外退去させやすくする法律案を年末までに提出する予定だ。

しかし歴史的に見ると、これは単に労働党の責任ばかりとは言えないだろう。実際に、移民が急激に増え出したのは1990年代である。その中で、コスト削減のために空港などの出国チェックを取りやめた。

2002年から2003年にかけては、亡命志願者が増え、当時のブレア首相がその数を半分にすると約束したことがある。2006年には、外国人で刑期を終えた人を千人余り釈放したが、その人たちの行方が辿れず、しかも深刻な罪を犯した者もいることがわかり、当時の内相チャールズ・クラークがその責任を問われ、ジョン・リードと交代させられた。リードは、「目的にふさわしくない」として、政治家から離れた立場で仕事が行えるよう事業執行機関とすることを決めた。移民申請を扱う部門とかつての歳入関税庁の法執行機関などを合わせ、国境を守り、移民違反を取り締まり、早く、公平な判断をするという役割を担って出発した。それが廃止される。

歴史は回る。世の状況によって、政策課題は大きく変わり、英国の移民の問題は、今そのあおりを受けている。そして、国境局は、内務省内の部局から事業執行機関に、そして再び、内務省に戻る。この効果には悲観的な見方が多いが、メイ内相は、これに賭けているようだ。

トップ公務員任命の難しさ(Not Easy to Select a Top Civil Servant)

英国の歳入関税庁(HMRC)のチーフ・エグゼキュティブで事務次官でもあるリン・ホーマーが、下院の内務特別委員会の報告書で非常に厳しく批判された。2005年から2010年までホーマーがチーフ・エグゼキュティブを務めた英国国境局の移民のケースのバックロッグの問題に近年改めて注目が集まっており、在任中の責任が問われたのである。

この報告書では、今でも31万2千のバックロッグがあると指摘しており、ホーマーの在任中、この数字と移民の確認の作業について、議会(内務特別委員会)を欺いていたとしている。ホーマーはその後、度重なる昇進をし、現在の重職に就いているが、マネージメントの能力に問題のある人物が現在の重職を務めていけるか疑問だと言う。

そして、なんと、このようなお粗末な業績の人物が昇進しないように、政府の省庁のトップを任命する際、議会は、拒否権を与えられるべきだと言うのである。

特別委員会が特定の公務員に対して、これほど厳しい批判をするのはそう多いことではない。ホーマーは、この批判に対して、自分が国境局のトップであったのは、もうかなり前の事で、それから起きたことを自分の責任にするのは不公平で事実に反するなどと反論している。また、歳入関税局を司る財務省は、ホーマーは、極めて有能だと弁護している。

この問題は、トップ公務員の任命の難しさを物語る一つの例だと思われる。

ホーマーは、1957年3月4日生まれで、もともと地方自治体の出身である。2003年から2005年まで、英国で最も大きな地方自治体のバーミンガム(特別な自治体であるロンドンを除く)のチーフ・エグゼキュティブを務めた。その後、内務省の移民国籍局の局長となり、2008年には事業執行機関となった国境局のチーフ・エグゼキュティブとなった。なお、ホーマーは、2010年時点で、20万ポンド(2900万円)以上の年収を得ていたが、これは、キャメロン首相の14万5千ポンド(2100万円)を大きく上回る。

2006年には、刑務所から出所した外国人で本国送還されず、国内に留まったものが千人以上いたことがわかり、しかもそのうちに性犯罪を含めて犯罪を重ねた者がいることがわかった。その責任を取らされ、内相が交代したが、新しい内相は内務省が「目的にふさわしくない」とし、内務省の近代化を打ち出し、その中で移民国籍局を事業執行機関とすることとした。新しく設けられた国境局では、事業執行機関としてそれにふさわしい仕事をするはずであった。ところが、上記の内務特別委員会の委員長は、「今でも目的にふさわしくない」とし、改善されていないと批判しているのである。

国境局の後、ホーマーは2011年1月、運輸省の事務次官となった。2012年1月にはさらに格上の歳入関税局のチーフ・エグゼキュティブ兼事務次官となった。

この間、運輸省事務次官として、少なくとも5千万ポンド(72億5千万円)の損害を出したといわれる2012年のウェストコースト本線入札キャンセル問題との関連も指摘されており、ヴァージン鉄道のリチャード・ブランソンは、ホーマーの責任を示唆している。なお、ホーマーは、歳入関税局のチーフ・エグゼキュティブとしてもカスタマーサービスの遅れを指摘されている。

ホーマーが運輸省の事務次官となった際には、当時の内閣書記官長であり、現在は上院議員のオードンネル卿が、女性の事務次官を増やそうと躍起になっていた。そのような背景があるにせよ、内務特別委員会の報告書は、事務次官人事を扱う人事委員会の、候補者の能力の査定をする能力にも疑問を投げかけている。もちろん内務特別委員会が望んでいるような議会の拒否権のようなものが認められる可能性はないだろうけれども。

SFO前ダイレクターのお粗末な能力(SFO Former Director’s Mismanagement)

3月7日の下院公会計委員会(Public Accounts Committee)にSFO(重大不正捜査局)の前職と現職の責任者、前ダイレクターのリチャード・オルドマンと現ダイレクター、デービッド・グリーンの二人が呼ばれた。オルドマンは2008年4月から2012年4月まで4年間その任にあった。

焦点となったのは、オルドマンのダイレクター当時に3人の幹部の解雇手当に計100万ポンド(1億4千万円)を支払ったことである。その支払いに必要な内閣府の許可を受けていたことを証明するものが何もなかったことから、会計検査院がその支払いは不正規だと指摘し、限定意見をつけた。さらに、SFO内での情実的人事やスタッフの低いモラールが指摘された上、捜査上の大失敗があったことからこの喚問は注目されていた。

この委員会での質疑で改めてわかったのは、オルドマンは内閣府から許可を受けたと主張するが、それを証明するものがないことである。内閣府はこのような許可をなかなか出さないので知られている。オルドマンは口頭でそのような示唆を受けたのかもしれないが、書面がなければ、その責任はオルドマンにあることになる。

また、3人の幹部の一人は、チーフ・エグゼクティブであったが、その昇進した際の記録が残っていないと言う。また、このチーフ・エグゼクティブは、ロンドンから離れた湖水地方に住み、週5日のうち2日は自宅勤務で、3日ロンドンに出てきていたが、ロンドンでのホテル宿泊費、交通費に2011年度は2万7600ポンド(400万円)公費から支出していたそうだ。

オルドマンは法廷弁護士だが、1975年から公務員として働き始め、2008年にSFOのダイレクターとなった。つまり公務員として30年以上の経験があったことになる。それにもかかわらず、きちんとした記録を残さず、適正手続きの必要性を十分に分かっていなかったようだ。このような人物がSFOのような、重要で、しかも一般からの信頼が要求される部門の責任者のポストに就いていたとは信じがたい。しかし、このような例は恐らくここだけにとどまるのではないだろう。特にSFOのような、英国政府の独立機関ではその可能性がより高いかもしれない。

行政の政治化?Politicisation of the Civil Service?

大臣が専門家アドバイザーを任命している。公務員を、変化に消極的で、能力や専門知識に欠けているとし、新しい血を行政に持ち込もうとしている。これを行政の政治化として捉える人が少なからずいるようだ。

例えば、何かと物議を醸しているマイケル・ゴヴ教育相率いる教育省では、昨年9月以来3人の専門家アドバイザーが任命されている。この3人は以下のような人物である。

・タイムズ紙のコラムニストのアリス・マイルズ(Alice Miles)
・LSEの経済歴史のリーダー(Reader)ティム・レオン(Tim Leunig)
・元歴史教師で、マッキンゼーのコンサルタントのトム・シナー(Tom Shinner)

これらの専門家アドバイザーは、臨時公務員として任期が2年ほど、職のランクは課長職もしくは部長職レベルのようだ。

もちろん大臣らにはすでにスペシャルアドバイザーという政治任用のスタッフがいるが、専門家アドバイザーは、それとは異なり、公務員として働くことになる。

この制度は、2012年6月に発表された公務員制度改革計画(Civil Service Reform Plan)の中で触れられたものである(p21参照)。

http://resources.civilservice.gov.uk/wp-content/uploads/2012/06/Civil-Service-Reform-Plan-acc-final.pdf

これらの人たちは、必要な専門知識を持った人材が公務員の中にいない、そして公募するのが適当ではない場合に、大臣が事務次官に依頼し、国家公務員任用委員会(Civil Service Commission)の許可を受け、ごく少数、期間を限って任命できる。公務員規範に従う必要があるため、政治的な行動は制限されることとなる。

この動きは、大臣が公務員の任命により大きな役割を果たそうとしていることに関係している。昨年12月、国家公務員任用委員会は、公務員制度改革計画の中で触れられた、大臣の事務次官人事への関わりについて説明した。

事務次官任命の手続きは以下のようである。
まず、この選任は、国家公務員任用委員会会長(First Civil Service Commissioner)もしくはその指名した人物を長とした独立委員会が担当する。
手順は、
①どのような技能が事務次官に必要か大臣に見解を問う。
②応募者の中から少人数の候補者を選び出し(ショートリストと呼ばれる)、それらの候補者に大臣が会う。そしてそのフィードバックを独立委員会に渡す。
③そして独立委員会の審査の結果、推薦する候補者を再び大臣に会わせることもできる。
④もし独立委員会が決められない場合には、最終的な候補者を大臣らに再び会わせることもできる。

そして独立委員会の推薦した候補者を任命するかどうかは最終的に首相が判断する。

以上の手続きは以下参照:

http://civilservicecommission.independent.gov.uk/wp-content/uploads/2012/12/EXPLANATORY-NOTE-PERM-SEC-COMPETITIONS-MINISTERIAL-INVOLVEMENT.pdf

いずれにしても、専門家アドバイザーは数が限られており、政治的な活動にも制限があることから、この任命をもって直ちに行政の政治化とまでは言えないように思われる。

一方、前述のゴブ教育相は、教育省の予算をゼロベースで見直し、2015年までに2010年就任時の予算を42%、そして2016年までには50%減らそうという計画だ。そのため、4000人のスタッフを1000人減らす必要があると言われる。

教育省は、アカデミーと呼ばれる中央直轄の学校を急激に増やしており、また、フリースクールもさらに増える状況だ。仕事量が増える中、予算を減らし、しかもスタッフの数を減らしていくのはかなり大変な課題である。

これに対し、中堅以下のスタッフの労働組合であるPCSは教育省の組合員のストライキに関する投票を行い、ストライキへの賛成が2対1であった。そのため、近日中にストライキが行われる可能性が高い。

キャメロン政権の中でも最も改革派の大臣と呼ばれるゴブは、方針を全く変えないと思われるがこれにどのように対応するか注目される。ゴブの専門家アドバイザーで一つ気になったのは、昨年9月に任命した二人はいずれも机で仕事をする人たちだ。コンサルタントが後から加わったにせよ、理論優先で実施後回しの感がぬぐいきれない。

警察の採用改善案(Police Recruitment Change Plan)

今日、公共サービスのほとんどすべてが変わらねばならない時代である。それは警察の世界でも同じで、政府の発表した採用改善案は、警察にも変化を強いる一つの手段だ。

警察は2010年から2015年の間に実質20%の財政カットを求められており、それに対応するよう動いている。警察官・スタッフの数の大幅削減、警察の地区駐在所などの移動、廃止さらには、警察の仕事をできるだけ外注するなど多様な動きがある。

その中で、警察官の採用方法の変更も発表された。この変更は、警察の人種的多様化を進め、多くの異なった能力・技術を警察に導入することを念頭に置かれている。

具体的には、以下の三つの制度の導入である。

①大学卒業者や警察内部の優秀な人たち80名程度の特急昇進制度
これまで、警察官は採用されると、巡査レベルで2年間過ごすことになっていた。これは、ロンドン警視庁など大卒採用制度のあるところでも同様であった。この制度を変えて、採用後3年で警部(Inspector)に昇進する仕組みとする。この制度の導入で、それぞれの警察管区のトップである本部長クラス(Chief Constable)に到達するのにこれまで25年間程度かかっていたのを10年から15年で可能にしたい考えだ。

②警察管区トップへ外国人の任命を可能とする
警察官には英国籍を持つ者しかなれないことになっていたが、これを変更し、本部長に外国人を任命できるようにする。しかし、その対象者は、英国警察の伝統である「住民の合意」による警察の考え方に基づいた警察制度を持つオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカに限られる。

③特に能力のあると判断された人たちを警視レベルに採用する制度
軍や諜報機関、さらにはそれ以外の分野で特に優秀とされる人を採用し、15か月のトレーニングの後に警視(Superintendent)とする仕組み。

多くの不祥事が起きている警察内部の文化を変えることは必要だろう。しかし警察の幹部に経験の乏しい人が就くということになれば、かえって逆効果になる可能性もあるように思われる。特に危機的な状況に対応するにはかなりの経験が必要だろうからだ。

お役所仕事?(A Tick Box Mentality Misses a Point)

ケインズ経済学で有名な英国人ジョン・メイナード・ケインズはかつて英国の国家公務員だったことがある。1906年に英国のインド省に入省したが、その国家公務員試験の結果を受け取って、ケインズは怒った。友人への手紙で、ケインズの受けた試験の中で最悪のものは、ケインズが最もしっかりした知識のある数学と経済学だったと怒りを打ち明けた。

ケインズの伝記を書いたスキデルスキー卿(英国上院議員でウォリック大学政治経済学名誉教授)は、そのケインズの話を思い出して、自分を慰めたことがあるという。

スキデルスキー卿はもともとロシア人の家系で、50代になってからロシア語の勉強を始めた。そして2003年にAレベル(大学入学レベル)のロシア語の試験を受けた。6科目の試験があり、その科目の一つは、所定のテーマについてのものだった。スキデルスキー卿は、そのテーマについて徹底的に準備し、他の科目はともかく、このテーマについての試験は大丈夫と自信を持って臨んだ。その試験に出たのは、課題文学書に登場した人の人物像とロシアの失業についてであった。スキデルスキー卿は、政治経済学者として大学でも教え、ロシア人とも数限りないほどの議論をしており、ハイパーインフレや法の支配の欠如などについて書いたと言う。ところが、他の科目はよくできていたが、この科目は、90点満点中わずか26点しか獲得できなかった。「知識不足、テーマの理解不足、そして首尾一貫した主張ができていない」との評価だったそうだ。

おそらく、おざなりの知識しかない人にとって、ほんとうの専門家の見解を理解するのは難しいモノなのだろう。

ホワイトホールの冷戦(Cold War at Whitehall)

ホワイトホールとは、日本の霞が関にあたる、英国の行政の中枢の地域を指す。ある大臣が国家公務員と政治家は「冷戦状態」にあるとタイムズ紙に語った。また、過去40年間、行政と政治を見てきた、「ホワイトホール」などの著書のあるヘネシー卿は、政治家と国家公務員との関係を結婚に例えて、「こんなに関係が悪いのを見たことがない」と言う。

政治家は、国家公務員たちが自分たちの論理で働いているとし、政治家の指示や目標に従わない、また、能力に欠けるなどと批判する。一方、国家公務員側は、政治家側があまりにも多くを求めると主張し、政治家の能力を疑問視し、言うことが頻繁に変わる、実際の適用を考えずにアイデアを出してくるという不満を持っている。

お互いの不信感はかなり高まっているようだが、恐らく多くの結婚関係の問題のように、一方が完全に悪いと言うことではないように思われる。

背景

①2010年総選挙後に保守党のキャメロン首相の相率いる連立政権が誕生した。国家公務員トップらは、イートン校出身の首相を迎えて、これで普通の関係が復活できると歓迎したと言われる。1997年以来政権を担当してきた労働党の政治家、特に2007年から首相を務めたゴードン・ブラウン率いる政治家たちにはうんざりしていたようだ。
②しかし、保守党・自民党には政府の財政赤字を減らし、政府債務の拡大をできるだけ抑えるために財政削減をするという目的があった。特に保守党には「小さな政府」というイデオロギーがあった。
③キャメロン政権が目指したのは、財政削減をしながらもより良い行政を行うことである。つまり、人を減らしながら行政効率を上げることであった。
④1997年からの労働党政権下ではプレゼンテーションが重んじられた。しかも好調だった景気で、政府の税収が拡張するなどした結果、外部のコンサルタントの使用が急速に拡大した。2006年には会計検査院がそれに30億ポンド(4300億円)使われたと推定している。その後、その額は減少したが、コンサルタントに頼っていた行政の能力維持・アップが滞った。
⑤キャメロン政権では、財政削減のため、コンサルタントの使用を大幅に制限し、その仕事を既存の国家公務員に行わせようしている。

なお、英国の行政を見る場合、以下の点に留意しておく必要がある。

①労働党政権下でも既存の国家公務員の制度は柔軟性に欠けるとして外部からの人材導入に努力してきていたが、公共セクターと民間セクターでは仕事の仕方に違いがあり、必ずしもうまくいっていない。
②英国は、日本のように人事部門が個々のスタッフの業績などの情報を集め、人員配置を担当するという仕組みではない。上司はすべてのスタッフの評価を行うが、基本的にそれぞれのスタッフが仕事に応募する仕組みとなっている。
③英国の行政は政治的に中立であることが求められる。

現状

①キャメロン政権が誕生して以来、SCS(Senior Civil Servants)と呼ばれる、課長級以上の上級国家公務員の4分の1が辞任した。
②財政削減で人員削減が必要となったが、その削減は比較的取り組みやすい下のレベルのスタッフが中心となった。その結果、フロントラインの運営に影響が出た。端的な例は、国境局の移民審査官の数が減った結果、入国管理に長い行列ができるなど大きな問題となった。退職したスタッフの再雇用などが行われたと言われる。
③ウェスト・コースト本線の鉄道営業権の入札で、国家公務員が大きなミスを犯していたことがわかった。そのため、その入札決定が破棄され、政府が4千万ポンド(55億円)以上の多額の補償をしなければならなくなった。内部の調査の結果、専門知識に欠け、しかも責任が不明確な体制となっていたことがわかった。
④アッシュ(トネリコ属)という英国で広くみられる樹木の立枯病への対応が遅れたことやアナグマの間引き方針が延期されたように政府の能力への疑問を示す事件が相次いだ。
⑤2010年に教育相が、学校建て替えなどのプロジェクトを中止し、その影響を受ける学校のリストを発表したが、このリストには多くの誤りがあった。
⑥警察・犯罪コミッショナーの制度制定で、立候補資格や、当選後コミッショナーが任命できる人などの問題で制度上の不備が目立った。

上記で上げたような事件はどんな政権にも起きうることだろうが、問題は、現政権が財政削減を行いながらも、政府を有能に運営していることを示す努力に打撃を与えたことだ。

この点で特に大きな問題だったのは、2012年3月の予算での税制の失敗である。これは「オムニシャンブルズ」と呼ばれ、政府は政策の撤回や変更に迫られ、その運営能力に大きなマイナスのイメージを与えた。政治家側は、国家公務員がそれらの税政の結果をきちんと見通せなかったと批判したと伝えられる。

対応策

昨年、国家公務員改革計画が発表された。これでは、特に評価の低いスタッフへの指導、さらには解雇の方針が含まれている。さらには、国家公務員で特に弱い部門、例えば、商売的な対応能力、財政マネージメント能力、業績マネージメント能力、プロジェクトマネージメント能力の向上に力を入れているが、これらには時間がかかる。

昨年5月までキャメロン首相のストラテジストであったスティーブ・ヒルトンは、一つの省庁のスタッフの9割を実験的に削減してみる案を出したが、国家公務員のトップであるカースレイク卿から断られた。担当大臣のフランシス・モードは人員の半減を想定していると言われる。また政策の外注を進めていく考えで、その動きは既に始まっている。

モードは、大臣が事務次官を選択できる体制としたい意向だが、国家公務員側は、「行政の中立」を盾に反対している。モードは、かつてニュージーランド型の、事務次官の代わりに省庁のトップをチーフエグゼクティブとする体制を望んでいると伝えられていたが、現在では、オーストラリア方式の、大臣が多くの政治任用スタッフを抱える仕組みに関心があると言われる。このオーストラリア型の仕組みには、政治家の中にも賛否両方がある。

分析

優れた政治家・大臣はそれぞれの省庁をうまく運営できるが、能力の乏しい大臣は問題を国家公務員の責任とする傾向があると言われる。かつてブレア政権で数々の大臣職をこなし、有能な政治家と見なされたリード卿は、政治家が正しいリーダーシップを揮えば十分だとし、オーストラリア型の仕組みには反対する。

メージャー保守党政権で副首相を務めたヘーゼルタイン卿は、ヘイマーケットという大手出版会社の創設経営者であるが、ほとんどの政治家は、大臣となるまで大きな組織を運営した経験がない人たちであると指摘する。そのような政治家たちに人を使いこなし、先を見通した政策判断がきちんとできるかどうか、という問題がある。

一方では、国家公務員の能力を高める必要があると思われる。労働党政権下で有能と高い評価を受けたアドニス卿は、国家公務員は十分なトレーニングを受けていない非専門家だと指摘する。時代のニーズを担える国家公務員像の再検討が必要なようだ。

国家公務員改革を実行する人(The Person who was selected to do Civil Service Reform)

国家公務員改革計画の実施を担当する内閣府局長ポストに就いたのは、公募で選ばれた、キャサリン・カースウェル(Katherine Kerswell)という地方自治体出身の女性である。

まず、この背景を見てみよう。現在の連立政権は、国家公務員改革に力を入れている。その目的は、大きく分けて以下の4つである。

① より小さな政府。内閣府大臣フランシス・モウドが、政府のスタッフの数は44万4千人で、第二次世界大戦以降最低だと今年2月に発表したが、それよりさらに小さな政府を求めている。
② より統合された政府。特に二つ以上の省庁が関わる問題では、処理に非常に長い時間がかかる。同じ省庁内でも同様の問題がある。これらの改善。
③ 問題により迅速に対応できるようにする。プロセス重視から結果重視への移行。
④ 大きなプロジェクトの運営能力の向上。

要は、効率化とスタッフの質の向上で、恒常的な財政削減を可能にしようとしているのである。この計画は、モウド内閣府大臣と公務員トップ(Head of the Home Civil Service)のボブ・カースレイクが共同して今年6月に発表したものである。

さて、カースウェルは、地方自治体に25年間勤め、そのうちの14年間、4つのカウンシルでチーフ・エグゼクティブ職を務めてきた。なお、このチーフ・エグゼクティブはそれぞれの地方自治体の事務方のトップである。

地方自治体の関係者がなぜ、中央政府の、しかも政府全体を統括していく立場の内閣府の局長に任用されるのだろうか?

これまで行政にも外部からの人材が必要だとして民間などからの人材登用を試みてきた経緯がある。しかし、特に民間から来た人たちには、行政の中での働き方になじむことができなかった人が多い。しかし、地方自治体出身者やNHS関係出身者は、比較的それに適合しやすいといわれている。カースウェルは、カースレイクに引き続き、地方自治体出身で政府の重要な仕事に就いた人物である。

ただし、地方自治体出身者が必ずしも優れた仕事をするとは限らないようだ。例えば、現在の歳入税関庁(HMRC)のチーフ・エグゼクティブの例だ。地方自治体出身者で、幾つかの地方自治体のチーフ・エグゼクティブ職を経験し、全国でロンドンを除いて最も大きな地方自治体であるバーミンガムのチーフ・エグゼクティブとなった。その後、2005年に内務省の移民などを担当する局長職に就き、そして、その分野の業務をより専門的に独自性を持って執行するUKBAのチーフ・エグゼクティブに就いた。その後、運輸省の事務次官に応募して2010年に就任し、その後HMRCのチーフ・エグゼクティブとなった。このポストも事務次官のポストであるが、その前の運輸省の事務次官より格上である。ここまではサクセスストーリーと言えるかもしれない。ところが、その後、UKBAでこの人のリーダーシップの下、多くの問題があったことが発覚した。

確かに大きな地方自治体と中央政府は似通った面があるが、中央政府の方が扱う範囲が広く、より専門的だ。さらに、組織文化が異なる。地方自治体の運営責任者をしていたといってもそれだけでは足りないだろう。それにプラスαが必要だ。カースウェルの仕事ぶりが注目される。