首相官邸の「パーティ」問題とロンドン警視庁

ロンドン警視庁は、昨年、新型コロナでパーティなどの集まりが禁止されていた時に首相官邸でパーティが開かれていた疑いに関して、警察監督機関に、ロンドン警視庁の行動の当否を判断するよう依頼した

これは、昨年、新型コロナの流行拡大を抑えるため、国民に行動制限を課し、パーティなどの集まりを禁止していた時に、首相官邸でパーティなどの集まりが開かれていた疑いが持ち上がったことに関連している。それを裏付けると思われる様々な情報が出てきたことが、12月16日に行われた、保守党が圧倒的に強いと思われていた選挙区の下院補欠選挙で保守党が議席を失った直接の原因だと見られている。

ジョンソン首相は、この疑いを当初否定した。しかし、次から次に情報が出てきたため、内閣書記官長(官僚のトップ、Cabinet Secretary)に調査を依頼した。ところが当の内閣書記官長のオフィスでも「クリスマスパーティ」が開かれていたことがわかり、内閣書記官長がその調査を辞退し、今年4月に内閣府の第二事務次官に就いたスー・グレイが担当することとなった。まだ結果は明らかになっていない。

このパーティにまつわる疑いで、野党らがロンドン警視庁に調査を求めたが、ロンドン警察庁は、十分な証拠がない、このような件では、過去に逆もどって調査を行わないなどの理由で、調査を拒んだ。ところが、これに対して疑問が出た。そもそも首相官邸ではロンドン警視庁の警官が四六時中警備し、人の出入りを管理している。これらの警官が、違法なパーティが開かれ、時には深夜まで続いていたのを知らないはずがないというのだ。また、そのような催しの開催にあたって、警官が準備などに関与していた疑いがあるという。

緑の党に所属する英国の上院議員が、それを「警察行動に対する独立機関」(IOPC、Independent Office for Police Conduct)に調査するよう求めた。

IOPCは、イングランドとウェールズの所轄警察の苦情を監督する機関である。その判断で、直接調査を実施する権限があり、ロンドン警視庁も、この件でIOPCに調査の必要の有無の判断を委ねたのである。

IOPCは、即座に返答し、苦情を提出した人(もしくはその代理人)が直接害を被ったわけではないため、この苦情を無効とした。ただし、もし、警官に何らかの咎があった証拠があれば、苦情の提出がなくても、ロンドン警視庁は、それをIOPCに付託する義務があると念押しした。そのような証拠をメディアが探し始める可能性がある。

ジョンソン首相の終わりの始まり

ジョンソン首相の保守党が再び補欠選挙で敗れた。様々なあきれたニュースが続いた後、昨年末にコロナパンデミックのため国民にはパーティなどの集まりを禁止しておきながら、首相官邸などでパーティを催していたという暴露ニュースが出て、「自分たちのルールと他の人たちにあてはまるルールが異なる」と強く批判された挙句であった。世論調査の政党支持率とジョンソン首相への評価が大きく低下し、最大野党の労働党の支持率の方が上回っている。ジョンソン首相はオミクロン株が急速に広がる中、対策を懸命に講じようとしているが、厳しい局面となっている。コメンテーターの中には、ジョンソン首相には「驚くべき回復力がある」などとして今後の行方を慎重にみるべきだという見方もあるが、既に来夏に党首選挙を考える人もいるなどとされる。ジョンソン政権の終わりが始まったとも言える。

さて、英国の選挙区の境界は、一定の期間を経て継続的に見直されているために全く同じ選挙区ではないが、この選挙区は19世紀前半から200年近く、ほとんど継続して保守党支持の地域である。ただし、この補欠選挙は、現職がロビーイングのルールの違反で、議員の行動基準コミッショナーから30日間の登院停止を勧告されたのに、ジョンソン首相が「厳重投票指示(Three Line Whip)」を出し、下院がその勧告を受け入れなかった。さらに、議員の行動基準制度そのものを変更する動きに出た。それらに世論が反発したため、ジョンソン首相は1晩で方針を変え、その結果、当の現職議員が辞職したために行われた補欠選挙である。

2021年12月16日に行われた下院議員補欠選挙得票結果(North Shropshire

自由民主党 17,957 当選
保守党 12,032 次点
労働党 3,686

(自民党のマジョリティ((第2位との差))は5,925。投票率46.28%)

この選挙区では、2年前、2019年の総選挙で、現職の保守党下院議員が次点の候補者に圧倒的な差をつけて勝利している。

2019年総選挙得票結果(North Shropshire

保守党 35,444 当選
労働党 12,495 次点
自由民主党 5,643

(保守党のマジョリティは22,949。投票率は67.9%)

なお、今回の補欠選挙では、2019年総選挙で第3位の自民党が勝った。2016年のEU離脱国民投票では、この選挙区では60%が離脱に賛成した。離脱選挙区と言える。自由民主党はEU残留政党だったが、その過去は今回の補欠選挙にはあまり影響していないようだ。

なお、自由民主党は、その政策的立場が保守党(右)と労働党(左)の中間にあると考えられており、保守党支持者には比較的投票しやすい政党である。また、労働党支持者には、自由民主党が保守党に勝てる見込みがあれば、自由民主党に投票する傾向もある。そのため、今回は、保守党支持の有権者が投票しない、もしくは自由民主党に投票するという選択肢を選んだことを背景に、自由民主党の勝利となった。

なお、自由民主党は、他の選挙区の6月の補欠選挙でも勝利を収めている。現職保守党議員が死亡したために行われた補欠選挙である。この選挙区(Chesham and Amersham)では、2016年のEU離脱国民投票で55%が残留支持だった。この6月の補欠選挙の結果、今回(North Shropshire)は、自由民主党は党首が何度も応援に駆け付けたのに、労働党党首は一度も足を運ばなかった。英国の賭け屋は、自由民主党勝利と予測していたが、まったくその通りとなった。それでも、選挙区の性格や票のスイング(政党間の票の動き)のため、6月の補欠選挙よりもはるかに大きなショックだった。

この結果は、保守党にとって激震といえる。

保守党下院議員のジョンソン首相に対する不満は大きく高まっており、この補欠選挙前には、保守党下院議員の中に、今回の補欠選挙でジョンソン首相はお灸をすえられる必要があると言う議員もいた。しかし、今回の結果は、その範疇を大きく超え、ジョンソン首相のみではなく、保守党にも大きなダメージとなった。