パーティゲートの調査

内閣府の第二事務次官スー・グレイが、コロナ規制で集まりが厳しく規制されている中、首相官邸などで行われた集まりについての調査を進めており、その結果は1月末までに発表される予定だ。当初この調査の範囲には、特定の日に首相官邸と教育省で行われた集まりが挙げられていたが、次々に規制違反の疑いのある集まりが報道され、その範囲は拡大した。今ではこの一連の集まりは「パーティゲート(米国のウォーターゲートにちなんだ表現)」と一般に称されている。真夜中過ぎまでミュージックつきで行われていたものもあるようだ。なお、ここでいう規制違反には、コロナ拡大対策のために特に立法したものと必ずしも法的効力のないガイダンスなど様々なレベルのものがある。

ジョンソン首相は、この調査の結果が出るまで、自分や首相官邸のスタッフらがコロナ規制に違反する行動をしたかどうかの判断は待ってほしいと主張してきている。保守党内では、ジョンソン首相(保守党党首)への不信任の動きがあるが、グレイの調査の結果が出るまで判断を控えている保守党下院議員も多いようだ。

グレイの調査に対して、国家公務員の調査は当てにならないという見方もある。グレイの調査は、利害関係者の関与しない調査ではない。また、チームで行っているものの、基本的には一人の国家公務員の調査である。ただし、グレイがかつて行った同様の調査で大臣が更迭されたこともあり、グレイは普通の国家公務員ではないと恐れられている面もある。

この調査の結果がどのようなものとなるかについては、懐疑的なものが多い。特に、この「調査の範囲」の末尾にある「結果(findings)」は、すべての調査資料が公表されるのではなく、その概要に留まるのではないかと見られており、警戒する向きがある。また、この調査を命じたのは、ジョンソン首相であり、首相にこの報告書を提出することとなる。しかも自分も含めた閣僚の行動の可否を判断するのは首相であるため、グレイのできることには限界があるとする見方もある。

いずれにしても、ジョンソン首相の現在抱える問題は、「パーティゲート」だけではない。ジョンソン政権の他の政治倫理の問題もある。保守党下院議員を統制するために、選挙区への補助金をカットするぞとか、信用を失わせるような情報をばらまくなどと脅す、いわゆる脅迫の手段を使っていた疑いがある。この脅迫は、ジョンソン首相を保守党党首・首相にふさわしくないと公言している下院議員に対して特に強く行われているようだ。さらに、イスラム教徒の準大臣を更迭するのに、保守党院内幹事長が、イスラム教徒では他の大臣が不快だという理由も挙げていたという疑いが出てきている。イスラム教徒への差別問題である。ジョンソン首相のリーダーとしての人物を疑う話が、次から次に出てきている状況だ。

グレイの調査では、該当日の首相官邸の出入りのタイムカードを調べている、首相のアパートでの集まりも調べているなど、非常に細かな調査が行われているといわれている。結果がどのようなものとなるか注目される。ただし、どのような結果となろうとも、世論調査では、既に保守党並びにジョンソン首相への支持は急落しており、それを挽回できる可能性は極めて乏しいといえる。

ジョンソン政権の終焉

ボリス・ジョンソン首相の政権は既に終わったのも同然の状況となっている。

ジョンソン首相のトップアドバイザーだったドミニク・カミングスが、1月17日に衝撃的なブログ記事を発表した。2020年の5月20日に首相官邸の「パーティ」開催について警告を受けたにもかかわらず、それを無視して実施したと主張し、ジョンソン首相は、2022年1月12日の下院のこのパーティに関する声明で、嘘をついたと断言したのである。このパーティの開かれたのは、厳しいコロナ制限下で、ほとんどすべての集まりが禁止されていた時であった。

ジョンソン首相の、コロナ禍の一連の「パーティゲート」は、国民には厳しい制限を求めておきながら、自分たちはそのような厳しい制限お構いなしに、集まってパーティをしていたというモノだ。そのようなパーティは、エリザベス女王の夫フィリップ殿下の2021年4月の葬式の前日にも首相官邸で行われていた。

2022年1月18日のインタビューで、ジョンソン首相は、これらの件について質問を受けたが、これほど意気消沈したジョンソン首相は見たことがない。2020年5月20日の首相官邸での集まりがコロナのルール違反だとは「誰も言わなかった」と何度も弱い口調で繰り返した。ところが、1月19日の下院での恒例の首相への質問では、打って変わって生き生きとしており、強気の立場に変わった。かつて保守党のサッチャー元首相が保守党下院議員の支持を失い、下院で首相を辞任すると表明した時にも同じようなことが起きた。意気消沈して、これでは議場に立てないという状況だったが、ビタミンB12の注射をして議場に立ち、サッチャーはまだまだやれると思わせたことがある。ジョンソン首相もそれと同じようなことをしたのだろう。

いずれにしてもジョンソン首相の置かれた立場には変化はない。ジョンソン首相への国民の支持は大きく弱っている。世論調査では、ジョンソン首相がよくやっているという有権者は20〜25%に対し、よくやっていないとするのは56〜73%となっている。

また、政党支持の世論調査によると、1月11日から17日までの10の世論調査で、野党労働党の支持率が保守党を8〜14%上回った。特に労働党が14%上回った世論調査の結果は、ブレア労働党政権以来の大きなリードで、もし総選挙が行われれば、労働党が362議席、保守党が188議席と、2019年の前回総選挙での立場が逆転する状況となると出た。そのような結果となると、2019年に365議席を獲得した保守党の下院議員は半分近くが議席を失う羽目となる。特に2019年に労働党の議席を少ない得票差で獲得した議員たち(レッドウォール議員)たちにとっては、脅威だ。

「パーティゲート」をめぐっては、内閣府の第二事務次官が調査を進めているが、労働党の党首で、元公訴局長のキア・スタマーは、「ジョンソン首相は法律を破った」と言っている。ジョンソン首相の政権運営能力に疑問を持つ保守党下院議員も増えていることから、ジョンソン首相がたとえ自ら辞任しなくても、ジョンソン保守党党首への不信任投票が行われる可能性が高まっている。この投票は保守党下院議員の15%(54人)を超えれば実施される。保守党党首の信任投票は前職のメイ首相の時にも行われた。信任投票が否決されれば、1年間は再び信任投票ができないことになっている。メイ首相は一度は生き延びたが、それから半年ほどで辞任することとなった。保守党の党首信任投票が実施されてもジョンソン首相退任は、遅かれ早かれ起きるだろう。