保守党の党首選挙実施方法

新型コロナの拡大を防ぐため、法律で国民の厳しい行動規制が行われてきた。その中、首相官邸などでパーティなどの集まりがたびたび開かれており、法律を破っていた疑いが出てきた。ボリス・ジョンソン首相らは自分たちにはこれらの法律は当てはまらないと思っていたのか、と国民の批判が高まり、内閣府の第二事務次官スー・グレイの「パーティゲート」調査が始まった。この調査は、1月25日には完了したと伝えられる。ところが、まもなく発表されると見られていたこの調査報告書は、1月28日現在、発表されていない。ロンドン警視庁が、1月25日、グレイからの連絡を受け、この関連の犯罪調査を進めると発表した。ロンドン警視庁は、グレイの報告書の発表は進めてもらってよいとしていたようだが、突如、それは困ると言い出したようだ

グレイの報告書は、ジョンソン首相の将来に大きな影響を与えると見られている。すでにかなりの数の保守党下院議員がジョンソン首相の不信任投票実施を求める手紙を提出しているといわれるが、ここでは、もし保守党党首の不信任投票が行われればどうなるのか、確認しておきたい。

①保守党の党首不信任投票が行われるのは、保守党下院議員の15%(2022年1月28日現在、保守党下院議員の数は359人で、その15%は54人)が不信任投票を求める手紙を、保守党の無役下院議員の会「1922委員会」の会長に提出した場合である。1922委員会は、保守党の党首選を実施する機関である。

②党首不信任投票を求める保守党下院議員が54人以上になれば、保守党下院議員による秘密投票(誰がどう投票したかがわからない仕組み)が行われる。

ここで、党首への不信任が可決されれば(180票)、新しい党首を選ぶための党首選が実施される。なお、現党首は党首選に立候補できない。

もし、現党首への不信任が否決されれば、党首は続投し、それから1年間は再び不信任投票を実施できない(ただし、この制限を半年にしようとする動きが1922委員会内にあるようだ)。

③党首選に立候補するためには、8人の保守党下院議員の推薦(提案者1人、提案賛成者1人、それに支持者6人)が必要である。

党首選に投票できる人は、候補者の数が2人になるまでは保守党下院議員である。

第1投票では、5%以上の得票(18人以上)で次の段階に進むことができる。

第2投票では10%以上の得票(36人以上)で次の段階に進むことができる。

第3投票以降は、最低得票者が脱落していく。この作業は、候補者が2人に絞られるまで続く。なお、立候補者が2人だけの場合には、このプロセスは必要なくなる。

④保守党党員全体の投票で、最後の候補者2人のうち1人が選ばれる。

なお、マイケル・ハワードの選ばれた2003年保守党党首選(候補者が複数いなかった)やテレーザ・メイが選ばれた2016年保守党党首選(最後に残った2人のうちの1人が辞退した)には党員投票は実施されていない。

次々出てくるジョンソン首相の権力濫用と嘘

2022年1月26日、ジョンソン首相がその権力を不適切に使った話が出てきた。2021年夏のアフガニスタン撤退の際、人の撤退よりも、動物の撤退を優先したことである。

ことの次第はこうである。2021年夏、アフガニスタンでイスラム教過激組織タリバンが権力を掌握し、首都のカブールを実効支配していたアフガニスタン政府を支えてきたアメリカ軍や英国軍などが撤退した。それまでのアフガニスタン政府が急に崩壊したため、外国人や、西欧関係国やその機関で働いていたアフガン人などが逃げようと懸命になった。

その中、アフガニスタンに拠点を置く、元英国海兵隊員の営むチャリティが、多くの人が撤退・国外退去で必死になっていた混乱の中、約170匹の犬と猫をカブール空港から英国に飛行機で送った。その前、英国の国防相は、そのような目的を助ける余裕はないと明言していたが、その時、ジョンソン首相が、英国外務省に、その関係者と動物の飛行機での撤退を助けるようにと指示を出していたことが改めて政府のEメールで確認されたのである。

ジョンソン首相夫人は動物愛好家で、動物関係のチャリティで働いている上、多くのチャリティと関係がある。動物のカブール撤退を支援した人物が、首相夫人のカリーに連絡を取り、ジョンソン首相に働きかけたと証言している。また、外務省の当時の担当者の1人で、内部告発をして外務省を辞職した人物が、ジョンソン首相の指示があったと下院の外務委員会に証言している。しかし、ジョンソン首相は、そのような話は完全にナンセンスだと主張してきていた。今回のEメールは、英国のアフガン撤退にまつわる調査の資料に含まれており、外務委員会が公表したのである。

この問題は、パーティゲート同様、ジョンソン首相本人には、そう大きな問題ではないのだろう。しかし、ジョンソン首相が、「嘘」でその場しのぎをする体質は変わっていないといえる。国民の政治と政治家に対する不信は、英国の有権者にとって、コロナ問題の次に大きな問題となっていることが、世論調査でわかった。